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物語る亀

ネタバレありの物語批評

機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ 全50話(最終回)の感想 一味違ったカタルシスを持ったガンダム!

カエルくん(以下カエル)

「今回のガンダムって結構賛否両論みたいんだね」

 

ブログ主(以下主)

「まあ、毎度のことだけどね。絶賛だけで終わったガンダムって、1stを除くと……どうだろ、ビルドファイターズだけじゃない? あれは絶賛の声が大きかったような気がするけれど」

 

カエル「今回は途中から色々と忙しくて、後半10話、全体で……35話くらいから一気見したんだよね……だからガンダム関連については沈黙していたけれど」

主「いやー、本当に見てこなかったことを後悔した! あのラフタの流れもみんなと一緒に乗りたかったなぁ」

カエル「ガンダムほどの大きなネタだと色々な意見があると思うけれど、間違いなく1つ言えるのは他のガンダムと違うガンダムにはなったよね」

主「個人的な話をするとガンダムとかアニメが好きな人って『自分ならどんなガンダムを作るか?』という妄想をすると思うけれど、オルフェンズは結構自分が妄想したガンダム像に近いのよ。

 自分が妄想したのは『傭兵団が主人公。第1部(前半26話)は成りあがりの物語で、第2部は成り上がったものの苦悩を描く』というものだけど、結構似ているんだよね。その意味で見たかったガンダムに近いものではあったと思う」

 

カエル「今作の魅力はどちらかというと政治劇だよね」

主「自分はロボット系のバトルがあまりわからないタチで……実はそこにあまり興味がない。だからロボットどうのこうのよりも『コードギアス』などの政治劇や人生劇の方が好き。

 そういう人間の感想だからガンダムの感想ということを考えると異端のものになるかも。あと一気見したし」

カエル「……じゃあ、感想記事を始めようか」

 

 

 

 

 

TVアニメ「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」Original Sound Tracks

 

 

1 簡単な感想 

 

カエル「で……まず最初に語ってしまうけれど、この作品を主はどう評価するの?」

主「絶賛だよ!

 自分はこのガンダム、大好き! 過去のテレビシリーズを含めてもトップクラスに好きかも!

カエル「え? ……割と珍しいかもね」

主「いや、でもガンダムか? と言われるとちょっと疑問があるし、ガンダムが好きな人ほど否定するのもわかる。自分が1番好きなガンダムは『ガンダム0080~ポケットの中の戦争~』や『ガンダムUC』のような作品でさ、モビルスーツの戦闘とかよりも、小難しい政治劇やテーマに沿った脚本のほうが好きなんだよ。

 テレビシリーズだと『ZZ』と『X』かなぁ」

カエル「……なんか、また一貫性がないような」

 

主「今回のガンダムは多くの人に言われるだろうけれど『任侠モノ』や『マフィアもの』なんだよ。1番近いロボットアニメをあげろと言われたら『コードギアス』であって……あれもピカレスクロマン(悪党の美を描く作品)じゃない?

 今作ももちろんそう!

 鉄華団は悪党なんだよ! マフィアなの! 

 それは最初の戦闘でも明示されていてさ、相手の最期の言葉も聞かずにすぐに撃ってしまった。これって軍人の戦い方ではないよね。

 じゃあ名作マフィア映画などのお約束は? っていう話でさ! ラフタの部分なんかは『仁義なき戦い』オマージュみたいだし!」

カエル「主は夏アニメでも『91Days』を大絶賛したもんね」

主「さらにいうと人生で1番好きなアニメは『GUNGRAVE』であって……この作品はマイナーアニメの中では有名みたいな扱いを受けているけれど、15年くらい前に放映されていたマフィアアニメなんだよ」

 

 

主「自分は何をおいてもオススメしたいアニメなんだけれど……見たことない人は見て! 本当にかっこいいから! マフィアという意味では『GANGSTA.』などが好きな人にオススメだよ!

 で、本作もそういう系譜にある作品なんだよ。だから他のアニメやガンダムのように、主人公サイドに感情移入するときは正義の味方としてみるのではなく、悪党の矜持、死に花の美としてみるべきなんだよ!

 

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今作のガンダムを象徴するシーンはここだろう

©創通・サンライズ・MBS

 

 

他のガンダムと違うところ

 

カエル「例えばSEEDなどは『それでも守りたい世界があるんだ!』とかいう言葉にも象徴されるように、絶対コックピット以外を狙うという殺さず主義がある。他の多くのガンダムも最後は平和を望んで少年たちは戦うことをやめるわけだよね」

主「だけど本作はそうじゃない。最後まで戦うことをやめなかったし、それ以外の道を知らなかった。平和なんて欠片も望んでいなくて、ただ戦うことだけしかなかったんだよ。

 よくSEEDアンチが言うけれど『戦争なんだから殺さずなんかありえないよね』という意見もある。

 それをやったのがこの作品だよ

 

カエル「ここが賛否が分かれる理由だろうね……

 もしかしたら『正義の味方』であるガンダムを望んだのかもしれないけれど、今回悪魔の名を冠したガンダムが悪であることは間違いなかった。最後だけでもお決まりのハッピーエンドを望んでいた人からしたら、そりゃ賛否が荒れるよね」

主「それがいいんだよ!

 この作品で最後に生き残ったのは『戦うこと以外を知った人』『戦わない道を選択した人』なんだよね。戦うことを望んだ人は戦場で散ったし、戦場で散れなかったものは違う戦いの道を選ぶ。

 これまでの多くのガンダムが示したのは『戦いを望む者の否定』であり、そういう存在を排除することで平和になっていた。だけどさ……それしか生きる道がない者もたくさんいるわけだよ」

 

カエル「ハッピーエンドかバットエンドかというと……」

 主「う〜ん……そういう話じゃないんだよね。もはや、この終着点しかないから。

 むしろ、ラストでオルガと三日月が生きて笑っていたら、自分は鉄血1期みたいに批判したと思うよ」

 

 

 

2 被差別民たちの行く末

 

カエル「これは現実の反社会的な組織がなぜ発生するのか、ということにも繋がってくるよね」

主「一部では『在日韓国人が多い』なんてヘイトスピーチに繋がったりもする。そういうデータもあるし、それは事実としてある。

 だけど、じゃあなぜそういう人達が反社会的な行動に走ってしまうのかというと、簡単だよ。

 社会が元々受け入れていないから。

 もちろん、今はだいぶ改善されたけれど……昔は生まれによって差別を受ける人がたくさんいた。今でも『あの地域一帯はガラが悪い』とかはある。

 そういう人は社会自体が拒絶をしていたから、まともな職業に有り付けないことがあった。いまだに一部の職業……食肉加工、とりわけ屠殺場の職員に対して差別意識を持つ人もいるんだよ」 

 

カエル「今でこそ色々な道もあるし、教育の機会は平等だけど、昔はもっと教育すらまともに受け入れらなかったりね……」

主「それは世界各国で似たようなことがあって、今年アカデミー賞作品賞を受賞した『ムーンライト』という作品は黒人の貧困問題も扱っているけれど、監督も似たような体験をしていると語っている。今では人種問題、差別問題というのはアメリカやハリウッドが全力を挙げて解決しようとしているけれど、やっぱりそれは簡単にはいかない。

 犯罪率も有色人種は高かったりするけれど、そもそも貧困家庭の割合なども有色人種の方が高いしね」

 

カエル「犯罪をしないと生きられないという人もいるんだよね

主「最近は日本でも……例えば清原の覚せい剤事件などで復帰についての話があるけれど『犯罪者は隔離だ!』なんてことを主張して一般社会から遠ざけると、当然生活できなくなる。そうなると、生活が困窮してしまい、さらに犯罪に手を染めるしかなくなる。

 そしてそのまま犯罪をして生活することが続き……いつの間にかそれ以外の生活ができなくなる

カエル「犯罪をした自己責任だという人もいるけれど……」

主「そうとも言い切れないんだよね。例えば今の医者って『親が医者でした』という人も多いし、教育熱心な親だからその道を選べたということもある。

 塾どころか、その日の食事にも困るような家庭の子が医者になれるだろか?

 弁護士に、一流企業の総合職に就職できるだろうか? と言われると……できないとまでは言わないけれど、レアケースだろうね」

 

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この2人の関係に涙……

©創通・サンライズ・MBS

 

 

 

戦いしかない少年たち

 

カエル「そして、それは当然三日月たちの状況にも繋がっていく」

主「ラスタやオルガの最期に納得が行かない人もいるかもしれないけれど、自分はあれが最高だった!

 戦場でモビルスーツに乗ってカッコよく散っていく……それが物語としてのカタルシスかもしれないけれどさ、でもそれは『軍人』としてはそうかもしれないけれど、彼らは軍人ではない。『マフィア』なんだよ。

 だからこそ『家族だ』と何度も連呼してきた。ファミリーなんだよ、仲間じゃないんだ。

 彼らは、鉄華団という場しか生き残ることができない存在だよ

 

カエル「作中では北野武が監督を務めた『BROTHER』を思い出したなぁ……『ファッキンジャップくらいわかるんだよ馬鹿野郎』という名シーンが有名なやつだけど、あれもそんなにカッコよく散らないんだよね」

主「仲間や家族を守って特攻して『後の連中、生き残れよ!』というのは、華々しい、物語としてのカタルシスも最高潮になる。だけど、マフィア映画やヤクザ映画というのは手段を選ばずに排除していく。だから『え?』と思うくらいあっけなく重要人物が退場になる作品もあるし、上記の『BROTHER』なんて下手したらシリアスなコメディに思えるシーンもある。

 だけど、それがマフィアのような反社会的組織の抗争というものなんだ。

 そこの文脈を理解しているかいないかによって、評価はぜんぜん違う」

 

カエル「特にラフタの場面は絶賛していたもんね」

 

 

主「さすが『GUNGRAVE』の脚本を書いた黒田洋介、完璧だった……ここの流れも含めてあまりの見事さに涙が出てくる。

 最期の瞬間って華々しいものではないんだよ。むしろ、もっとあっけなくて、一瞬で終わってしまうものでさ。だけどガンダム作品の多くは美しく、華々しく描いてきた。そこをわざと抜くように作るという覚悟……素晴らしかったね」

 

 

 

 

路傍の花

 

カエル「それを象徴するのが『路肩の花』という言葉かもしれないね」

主「路肩の花という言葉が象徴するものがすごく大きくて……初めは単なる子供でしかなくて、しかも誰にも気にもされない、それどころか活用する方法もないような……まさしく『路傍の石』だったわけだ。

 だけど、それが最後に花になることができた、花を咲かせることができた。

 石が花になったんだよ! これは最高のカタルシスじゃない!」

 

カエル「鋼鉄の華を咲かせるために、真っ赤な大輪を咲かせるためにあれだけの犠牲を尽くしたんだね

主「彼らにはそれしかない。暴力以外の手法を知らない子供たちが、それでも次世代につないだ希望こそが『次の世代の子供達』であり『子供を守る理想の政権』なんだよ。

 これが実際に子供産むというのも女性脚本家の岡田麿里らしくていいよね! 男性ならあそこまで直接的に次世代を描けなかったかもしれない。ヒロインが妊娠したガンダムって……他に何かあったかな?

 カタルシスがないという意見もあるみたいだけど、わかりづらいかもしれないけれど、これも1つのカタルシスなんだよ!

カエル「最近のアニメだとマフィアものなど、この手の作品ってあんまりないから受け入れられないのもわかるけれどね」

 

 

 

3 鉄華団以外について

 

カエル「じゃあ、ここでマクギリスなどについて語っていくけれど……マッキーとかのラストってあれでよかったの?」

主「最っっっっ高だった! 

 この作品はマフィアものの王道を行くものであってさ……前述の『GUNGRAVE』もそうだけど、マクギリスとガエリオの関係もまたピカレスクロマンの王道であって……例えば『コードギアス』もそうじゃない? あのラストを描くには親友の2人でなくちゃいけないわけだ」

カエル「『GUNGRAVE』のラストも間違ってしまった友を……という作品だもんね

 

主「あの『許してしまうかもしれない!』というガエリオの言葉もそうで……というかさ、これって『GUNGRAVE』じゃん! って何度も思った。

 そのためには他者を活用し、邪魔者は消し、女性を騙してでものし上がる……大きすぎる野望を抱いてしまった男はそれを成し遂げて、そして失墜していく……これは美しいよね。

 その最後に2人の銃がカチンとぶつかる……それまでの暴力性の象徴だったものがぶつかり合うというのは、自分にとってはハグとかキスとか、そういうもの以上の愛情表現だと思うんだよ

 

カエル「マクギリスは単純に力を欲していたわけだしね」

主「そしてその計画はある程度までうまくいくけれど、結局は潰えてしまう。最初は今作のライバルポジションになるのがマクギリスかと思ったけれど、そうじゃなかった。だって……マクギリスが悪等の鉄華団と手を組んだ時点でこの両者が落ちぶれていくことは決まっていたんだよ」

 

カエル「今作で唯一幸せになったと言えるのは……ガエリオたちくらいかな?」

主「本作における主人公らしい主人公というのは、実はガエリオだから。で、ヒロインはジュリエッタ。

 そう考えると判りやすい話だよね。

 視聴者は本来悪党として断罪される者たちの物語をずっと観てきたから、感情移入する相手が普通の物語と入れ替わってしまったわけだ

 

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この演出が最高の後味を生む

©創通・サンライズ・MBS

 

 

 

ギャラルホルンについて

 

カエル「え〜、でもさぁ、ギャラルホルンにしろテイワズにしろ、汚い大人や権力者が勝ったというのはどうなの?」

主「これはガンダムだぞ!?

 じゃあ連邦とジオン、どっちが正義なんだよ!? どっちが綺麗なんだよ!?

 どっちも等しく汚いんだよ! そういう白黒つけられないものを描いてきたのがガンダムじゃないの?

 勝つためには大量破壊兵器やコロニー落としまでするのがガンダムでしょ? だったら禁止兵器を使うくらい、なんてことないよねぇ」

 

カエル「でも、敵側が勝つというのがなんとも……」

主「社会秩序を守る者が正義だというならば、むしろ正義はギャラルホルンだよ。

 マフィアを国が退治したんだからさ。

 クーデリアだって結果的には火星の議長に就任して、子供達の解放という奴隷解放宣言をしたけれどさ、そのためには鉄華団という反社会的勢力とつるんでいたわけだからさ、最高に真っ黒だよねぇ」

カエル「うわ〜……なんかキナ臭いなぁ」

主「だけど清濁併せ呑む政治家ってそういうことだから。最初の理想だけに燃えていたクーデリアはもういなくて、例え悪党だろうが、憎い敵だろうが笑って利用して成し遂げたい未来を目指す。それこそが政治家としての使命だから。

 過去のガンダムには綺麗事すぎた作品もあったと思うよ。

 ガンダムの魅力の1つがこの政治劇だと思うけれど、単純に正義とか悪とかで測れないものを描いてきた。それがモビルスーツの戦闘ばかりに目が向くようになったけれど……それはガンダムの一要素でしかないと思うんだよね。

 もっとドロドロとした政治劇もあってのガンダムだと思うけれどね

カエル「う〜ん……それでいいのかなぁ」

 

 

blog.monogatarukame.net

 

 

イオクについて

 

カエル「じゃあ、最後にイオクさまについて少しだけ!」

主「自分はそんなに嫌いじゃないけれどね。あれ? これ最後に生き残るのかな? と思ったら、結局散ってしまった。

 あの人の失敗は『なぜ部下が自分を生き残らせたのか?』ということを理解していなかったこと。だから突っ込んだらダメだよね、指導者は生き残ることにのみ意味があるんだから」

 

カエル「結構ヘイトを集めたキャラクターだよね」

主「確かにやり方などが卑劣なように見えるかもしれないけれど、鉄華団だって似たようなものじゃない? あれだけギャラルホルンの兵士を撃っておいて、そちらは問題なしとはならないよね?

 オルガが復讐に燃えたのも、イオクが復讐に走ったのも同じなんだよ。敵と味方が全く同じ行動原理で動いている。

 アラヤシキなんて人を人とも思わないと言われる装置を使っているのと、大量破壊兵器を使うこと……実はそこにそんなに差がないんだよ。ただ、分かりやすい道化になっただけでさ」

 

 

 

 

4 以下追記 賛否両論について

 

カエル「これを書き上げてから数日経っているけれど……いやー、びっくりするくらい賛否両論だね!

主「というよりも否が目立つ? やっぱりずっと追い続けてきた人と一気見した人では見方が違うのかな? ガンダムっていつも荒れるイメージがあるけれど、今回は過去でもあまりないくらい荒れている気がする……ガンダムらしさってなんだ? という話でもあって、じゃあGガンダムやXがガンダムらしいかと言われると微妙だけどね。

 でもそれが作品の味じゃない?

 ガンダムに望んでいるものがこの手の悪の美学ではなくて、戦闘描写だったりスカッとしたラストだったり……という人がどれだけ多いのかというのはわかったけれど。ここら辺はやっぱりバランスが難しくて、圧倒的な戦闘描写が見たい、カッコイイモビルスーツが見たい層には受け入れらなかったのはわかるかな

 

カエル「というわけで、ここからは擁護タイムです。

 多く見かけた意見を考察し、こういう解釈で捉えたよ、ということを書いていこうと思ういます」

主「この解釈なら楽しめる! ということで」

 

 

 

ダインスレイブについて

 

カエル「よく見かけるのがこの『ダインスレイブの乱用によって面白みが減る』というものだけど……」

主「この作品って自分が何度も言っているように『悪党の話』なんだよ。Zガンダムで言うところのティターンズのお話でもある。現実で考えるとギャングやマフィアのお話で、映画でいうと『明日に向かって撃て』などに分類する。

 ギャラルホルンに喧嘩を売るということは、警察や軍隊に喧嘩を売ることと同義であって、例え強力なマシンガンを持っていても、相手は国家権力だから戦車などを出してきたら一たまりもないわけだ。

 どれだけモビルスーツが強かろうが、相手があれだけ強力な兵器を出してきたらひとたまりもない

 

カエル「このお話は『勝つための物語ではない』もんね」

主「その圧倒的な戦力差を示すための武器がダインスレイブであって……確かにモビルスーツの戦闘描写を望む層には需要がないのもわかるけれどさ、作品テーマに合致していたと思うよ」

 

 

理念なき鉄華団とマクギリス

 

カエル「マッキーとかの扱いに対する文句も多く見かけたかなぁ」

主「マクギリスに関して言えば、確かに策がないようにも見えたかもしれないけれど……というか、実際ない。彼がやりたかったことは『権力の掌握』であり『力の確保』であって、それ以上でもそれ以下でもない。

 実はその力の使い方、理念があったのはギャラルホルンの方なんだよ。

 で、その理念なき力という意味では鉄華団も同じ。お金を稼いでも使い方を知らず、ただただ言われたことを言われた通りにこなすだけの力。生き残るためにガムシャラに戦うしか知らない力なんだよ。

 アニメに限らず、物語の主人公サイドというのは『理念、叶えたい未来』の手段として暴力があることは当然だけど……彼らは漠然としたものしかなかった

 

カエル「『正義なき力はただの暴力』なんて言うけれど、彼らは生き残るために暴力を振るうことしか知らなかったわけだし……」

主「この作品は鉄華団視点だからおかしく見えるけれど、ラスタルは他の作品だと……そうだな、ブライトとかヘンケンとかの現場指導者、あるいはもっと上の存在になる。だから最後に彼が指導者になったのは、見方を変えるとブライトなどが指導者になったようなものなんだよ。

 理念があるのも、正義も、社会秩序を守ろうとしているのもギャラルホルンだった

 

 

 

5 対の存在の2人 

 

カエル「ここでいう対の存在というのは、三日月とマクギリスのことだね」

主「自分がこの作品で感じたのは『マクギリスの可能性』なんだよ。三日月は幼い頃にオルガと出会い、アトラという……愛する者というと三日月のキャラクターとそこまで合致しないけれど、でもそういう存在がいるわけだ。

 それはマクギリスにもそれに近い存在はちゃんといる」

カエル「ガエリオとカルタだよね」

 

主「だけどマクギリスはその2人を信用しなかった。だから結局はガエリオに撃たれることになる。この関係性というのは変わる可能性も確かにあって、もっとうまくいけばギャラルホルンを変革できたかもしれない。

 よく言われるけれど、マクギリスとガエリオとカルタがうまく連携していれば、もっと穏健にギャラルホルンは変わった可能性は大きくあったわけだ。だけどそれができなかった。だからこそドラマになったと言えるけれど、この差はすごく大きい」

カエル「マクギリスは三日月みたいになれたら、世界はもっと簡単に変わったかもしれない……」

 

主「だから、この2人って鏡面性の存在でもあってさ、マクギリスにとって三日月はありえたかもしれない3人、ないしはもっと多数の人と協力して戦えたかもしれない可能性である。

 一方の三日月にとってはオルガの手を取っていなければ、信用していなければマクギリスのようになってしまったかもしれない。2人ともモビルスーツの扱いには長けているという共通点もあるしね」

 

 

 

三日月と昭弘

 

カエル「もう1つの関係性が三日月と昭弘なんだ」

主「関係性というか……この手のマフィアやアウトロー系のラストって色々あるけれど、最も多いのが昭弘パターンで……ラストについて言及することになるから作品名は濁す言い方になるけれど、山寺宏一が主人公の名作SFハードボイルドアニメがこれに近い」

カエル「ああ、あの作品か」

主「この作品も死んでいった女のために男が相手に復讐して、最後は……というものだった。

『死んでいった女(友)のために復讐を果たし、自分は散る』というのも1つの美学としてあるんだよね。その意味では本作は3つの滅びの美学が詰め込まれていることになる」

 

 

三日月=次世代のために奮闘し、その種をまく

昭弘=死した女(友)のために奮闘し散る

マクギリス=堕ちた者として死したはずの友人に討たれる

 

 

主「これだけたくさんの『滅びの美学』が詰まった作品だからね。その分、三日月のドラマが弱くなったかもしれないけれど、それぞれのドラマには決着がついたんじゃないかな?」

カエル「本来ならばイオクって味方サイドだと『みんなの協力によって生き残り、最後に大きな成長を遂げる』というタイプだもんね」

主「最後で一気に成長の機会が与えられたけれど、結局は昭弘に討たれてしまう……それって、悪の存在が最後にみせた意地なんだよ

 

 

 

 

6 ガンダムでこの作品を作られた意義

 

カエル「でもさ、この悪の話がガンダムで作られた意義ってあるのかな?

主「メチャクチャあるよ! 

 今作ではあまり語られないけれど、ニュータイプのような存在が出てこない。主人公たちは『人を人とも思わない』技術であるアラヤシキによって強い力を獲得した。

 いつものニュータイプなどの主人公というのは、生まれながらにしてとか、特殊な事情によって育てられたが故に手に入れることができた能力を持つ者たちなんだよ。もちろん、そういう能力がない、ガロードとかもいるけれどね」

 

カエル「基本的には天才だったり、ズブの素人が強い理由がある程度納得出来る設定があるよね」

主「だけど、本作はそうじゃない。

 アラヤシキという強力だけどリスクが非常に高い技術によって三日月たちはその力を得ている。ガンダムで言うならば『強化人間』たちなんだよね。だから今作は強化人間が主人公の映画だということもできる。

 彼らは決して選ばれし者なんかじゃない。先にも挙げた通り生まれは最悪、しかもその力は偶然の産物によって、ギャンブルの果てに手に入れたものだ」

 

カエル「選ばれし者というと初めから裕福な家庭に生まれて、しかも教育もしっかりと受けた上に実力もあるガエリオの方が選ばれし者っぽいよね」

主「本作は『選ばれなかった者』の物語なんだよ。

 いつもならば主人公たちに淘汰される『理念もない、悪党たち』の物語なんだよ。

 いつもなら倒されて溜飲を下げる存在である……黒い三連星とかランバ・ラルなどの物語なんだよ。

 それは今までのガンダムであまりなかったじゃない? 

 ニュータイプなどの存在ばかりに目が行きがちだけど『選ばれなかった者たち』が起こした、運命に対する反抗。

 だけど決して徒花とならずして、路肩の死に花が咲き、そして次世代への実を結ぶ……それこそがこのオルフェンズの作品テーマだよ」

 

 

 

 

最後に

 

カエル「もともと『MSイグルー』とか『ポケ戦』のような敗者の美学を扱った作品が好きだから、ハマったものも納得といえば納得なんだだけれど……」 

主「なんか自分が好きなガンダムは賛否が荒れる気がする……特にテレビシリーズは。

 すっきりしないという人も多いけれど、自分は大満足! むしろ今までの他のガンダムの……なんというか、予定調和のようなラストが多かったから、そういがすべて吹き飛んだ。

 賛否はあると思うけれど『暴力からの解放』『次世代への継承』『平和への願い』いう意味ではまさしくガンダムという作品のテーマに沿っていると思うし、やる意義があったと思う」

 

カエル「色々と思うところはあるでしょ?」

主「そりゃ、少しはね。あのモビルアーマーの設定は必要だったか? とかさ。そういうのはあった。

 だけど……もうなんでもいいや。これだけ面白い物語だったんだもの、自分はこれで完結して次の長井監督作品を見たい!

 自分の中では次世代の名監督の1人だから! 映画でもテレビシリーズでもいいから、また次の作品を待っています!」