カエルくん(以下カエル)
「よ〜し!! 映画感想の記事に行ってみよう!」
ブログ主(以下主)
「今週は公開規模や注目度でいうと目玉というほどのものもそんなに多くないけれど、良作が揃ったという感じかな」
カエル「アカデミー賞受賞作の『ムーンライト』はもちろん、レゴシリーズの最新作『レゴバットマン』も結構良かったよね」
主「意欲作が多いという印象かな?
そんな中で邦画でいうとやはりこの映画になるんだろうけれど……」
カエル「まあ、公開前から色々と話題にはなっているけれど……清水富美加の名前は売れたとしても、この映画の宣伝にはならないという案件で……担当者も頭を抱えたんじゃないかな?」
主「いっその事『清水富美加も嫌がったほどの衝撃のラスト!』とかって広告を打ったら……ダメか。また面倒なことになるか」
カエル「あんまり遊びすぎてもねぇ……
ここ最近広告と映画について色々と言われているけれど、1年に1回しか映画を見ない人を映画館にどうすれば呼べるか? というのが問題で……じゃあ、この映画をその1回の機会に観に行きますか? と言われると……いかないよねぇ」
主「それっていい映画とかあんまり関係ないからなぁ。この映画も自分みたいな映画館に行くことが日常的だという人向けであって、あんまり映画に行かない人にとっては興味もなく終わるんだろうし」
カエル「そういう人をどうやって映画館に送り込むかというのは、多くの人が考えなければいけないね。
それじゃ、感想記事を始めるよ」
(C)2017「暗黒女子」製作委員会 (C)秋吉理香子/双葉社
1 ネタバレなしの感想
カエル「じゃあ、ざっくりとした感想だけど……良作と言っていいんじゃない?」
主「自分はミステリー作品を見るときに『自分だったらどうするか?』ということを考えている。そうすると、大体の展開予想を伏線を理解することができるんだよ。
で、今作はミステリー部分についてはほぼ100パーセント自分の予想通りでした。やっぱりトリックというか、お話としてはそうするしかないし……そうなるよね、という内容で。
だから驚きというものもそんなになかったけれどね」
カエル「えー? じゃあ外れ?」
主「いや、好きだよ、この作品!
自分のツボに見事にハマり込んできた! だってさ、ミッション系お嬢様学校の文芸部だぜ?
この設定だけで最高じゃんかよ!
しかもさ、女子高生が谷崎潤一郎読んで、その論評をしているんだよ!? これほど美しくて官能的な物語って他にないでしょ!」
カエル「あー、はまる人はハマるかもねぇ」
主「特に自分みたいな本好きだと、よくわかっているなぁ……というツボを押さえている描写もあって、あとは作中に出てくる作品とお話の関連性だとか、それからちょっとした小技も効いていて、うまいなぁ、と感心した。
ちょっとグロテスクな描写もあったりして、人を選ぶ作品かもしれないけれど、こういう作品は大好きだよ」
この6人のお話である。全員個性があって美しい!
(C)2017「暗黒女子」製作委員会 (C)秋吉理香子/双葉社
脚本家、岡田麿里について
カエル「本作は脚本家が岡田麿里ということでも注目を集めているよね」
主「あんまり脚本家に注目する人はそこまで多くないかもしれないけれど、今作の脚本を務める岡田麿里はアニメで有名な人でさ、その独特の作風で賛否は分かれるけれど、今最も注目を集めるアニメ脚本家の1人であることは間違いない」
カエル「代表作をあげると、今やっている『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』とか『とらドラ』『あの日みた花の名前を僕はまだ知らない』『心が叫びたがっているんだ。』などがある。
上記の作品はどれも結構高評価を受けているよね」
主「その最大の特徴は『女性目線の生々しい描写』とでもいうべき、抉ってくる脚本というか……
女性同士のドロドロとした描写がすごくうまい。多くのアニメが男性にとって理想の少女像を描き、言葉があれだけど『男性にとって都合のいい女』を描いている。だけど、岡田麿里の場合はもっと……エグってくる、昼ドラのような女性像をしっかりと描く。
そういう脚本やキャラクターを描ける人ってアニメ界では少ないから、結構重用されている印象かな」
カエル「もちろん脚本は脚本家の一存だけでなく、監督など多くの人のチェックが入るけれど……岡田麿里の脚本は個性があってすごくわかりやすいよね」
主「まず女性特有のさりげないけれどエゲツない下ネタを入れてくるんだよ。例えば『あの花』だとアナルというあだ名だったり『ここさけ』だと冒頭の主人公のトラウマの理由などが子供だと理解が難しい絶妙なラインの下ネタで……
本作でもそれは健在だよ。
例えば冒頭の谷崎潤一郎ネタは映画オリジナルという話だけど、ここがまた素晴らしい! 男子禁制の秘密の花園であり、そこを破るものは女性の本性を知ってしまうというさ。
女子校って男性が思うような優雅な場所ではない。むしろ男性以上に生々しい会話をしていたりさ……そういう雰囲気がよく出ていたんじゃない?」
カエル「この手の作品にぴったりだよね」
2 キャストについて
カエル「さて、本作では最も話題を集めておるキャストについて語るとしようか」
主「全体的にはみんな良かったよ。若手キャストは演技力は度外視、といつも言っているけれど、本作に関して言えば全員良かった。
いつも言うように、若手俳優って演技が派手すぎるんだよね。自然な演技ではない場合が多い」
カエル「この瞬間にこの反応はないよねぇ、ということは多いよね」
主「何でもかんでも言葉で説明して、さらに派手な演技で感情表現をして……という誰もがわかるような演技が多い。そういう演技って逆に浮くし、脚本や演出が自然なものを作っているのに、役者が派手な演技をしてしまって台無しにすることもある。
だけど本作は初めから自然にしようとしていないんだよ。全てが過剰な演出、豪華な美術だからこそ、過剰な演技が違和感として働かない」
カエル「まあ、リアリティはないよね。リアリティがある話でもないし……それこそ舞台がリアリティのないお嬢様学校だからね」
主「逆に普通の女子高生のような自然さがあったら、却って違和感になってしまう。だから派手な演技だったけれど、これが合致した形なんだよね。自分は若手俳優がたくさん出るような映画は過剰な演出でいい……というか、そうじゃないと作品のノイズになってしまうと思うけれど、今作はそれが作品の舞台、テーマにも合致していたんじゃないかな」
今作のMVPの清水富美加。素晴らしい才能なのに……
(C)2017「暗黒女子」製作委員会 (C)秋吉理香子/双葉社
清水富美加について
カエル「今作で1番の問題児であることは間違いない、清水富美加についてだけど……」
主「今作のような役が嫌だったらしいけれど……自分はすごく勿体ないなぁと思うよ。
というかさ、この手の演技がこのレベルで出来る若手女優が何人いるの? って話で……そこまで女優に詳しくないけれど、清水富美加を多くの監督やプロデューサーが起用したのも納得の演技であり、間違いなく今作のMVPだよ!」
カエル「雰囲気あったよねぇ、他の役者だったらこの作品全体の評価に関わるものだったんじゃないの?」
主「この作品の雰囲気を締めたのは間違いなく清水富美加だよ! 特に最近人気になる女優は元気いっぱいの明るい女の子が多いけれど、雰囲気が暗い女の子はあんまり多いと思わなくて……どうだろう、橋本愛とかくらいかな? 雰囲気あるなぁと思ったのは。
何年も前の栗山千明のような雰囲気があって、これは天性のものだからね。出家によって半ば芸能界引退のような状況になるらしいけれど……本当にもったいない」
今作に似た雰囲気だとこちらもオススメ!
他の役者について
カエル「他の役者で目に付いた人というと……誰だろう?」
主「う〜ん……みんな良かっただけに、取り立てて良かった人というと難しいかな?
ちょっと微妙かな? と思ったのは白石いつみ役の飯豊まりえだけれど、この役自体が結構難しいだろうしね。この子と小南あかね役の小島梨里杏が大人っぽすぎて女子高生には見えなかったけれど……それはまあ、別にいいや」
カエル「みんな役者のカラーに合っていて、明るいいい表情をしていたよね。
高岡役の清野菜名なんかは明るくて、いかにも学生らしくて魅力的だったよ!」
主「先生役の千葉雄大も色々な表情が見えて良かったよ。あんな人に惹かれてしまう理由もよく分かるしね」
カエル「じゃあ、本作の役者については特に文句無しなんだね」
主「う〜ん……まあ、そうだね。色々な面を見せなければいけない役ばかりだったけれど、演出とのバランスも良かったし、自分はあんまり文句ないかな?」
カエル「では、ここからはこの作品のラスト、トリックはあまり触れずに物語について語っていくよ!」
主「構造やミステリーとして構成についてのお話はしようかな? と思っているので、このレベルのネタバレも嫌な人はここで引き返してください」
核心部分に触れずにネタバレあり
3 本作の構造
カエル「さて、本作は数人の作文による物語という形式だけど……」
主「これはなかなか良かったんじゃないかな?
ミステリーとしては『信用の出来ない語り部』に分類されると思う。まあ叙述トリックの一種なんだろうけれど……ただ、映画とするにはもう1つ、2つ工夫が欲しかったかな?
この構造が明らかになった瞬間に自分みたいなタイプは『あ、この作品のトリックが分かった』ということになってしまった」
カエル「ただミステリーとしてはフェアだったよね。もっと驚かせるためにハチャメチャにすることもできたかもしれないけれど、そこはしっかりとしていて」
主「だから今作は冒頭の評価になるんだよ。
『ミステリーとしてはケチがつくけれど、映画としてはいい』
驚きの答えはないけれど、その答えのために映画であることを放棄してしまっては問題だよ。今作は驚きの答えを用意しない代わりに、映画としての完成度を高めていったんだろうね」
カエル「それが結構うまくいったと?」
主「いったんじゃないかな? 自分はこの手のミステリーが好き……というか『自分だったらこうする』がそのまま来たからミステリーとしての満足度は高くないけれど、このトリックがわからない人からすると圧倒されるかも。
特に最近エゲツない映画をたくさん見ていたから耐性がついてしまったけれど……多くの、あまり映画を見ない人などにしてみれば驚きのラストにもなっているんじゃないかな?」
この2人の関係性も大好き!
(C)2017「暗黒女子」製作委員会 (C)秋吉理香子/双葉社
小技が冴える!
カエル「ここでいう小技って、主が最初に絶賛した『谷崎潤一郎を読む女子高生』みたいなものだよね?」
主「そうそう。小説を読まない人にはあまり通じないかもしれないけれど、谷崎潤一郎って結構耽美な作家で……変態的な作家でもある。奥さんを寝取られるのが好き、とかさ。
だけどただの変態ではなくて、それを美しい文章などで修飾するからこそ、独特の美学が出ている。それを理解して話している女子高生だよ?
こんなの惹かれるに決まっているんじゃない!」
カエル「他にもスズランの花だったり、アマデウスという選択などもよかったよねぇ。結構花関連のミステリーって王道だから気づきやすいけれど、それが複合的な意味があったりしていたし……」
主「それから、高岡の小説の設定もうまかったなぁ。高岡は1人だけ女子高生作家としてデビューした部員なんだけれど、ではそこで発表する小説の文章はどうかというと……ひとりだけやっぱり違うんだよね。
他の生徒たちと文体などが違う。そこがこの作品のミソであり、小技なんだよね」
カエル「あとは各小説によってジャンルが若干違うこととかね。今作って大きな括りだとミステリーということになるだろうけれど、純愛、百合、ホラー、その他いろいろな要素があって……それが各小説1つ1つ味わいが若干違うから、飽きることがないんだよ」
主「それから演出もいいよ。
光の加減もいいし、あとは玉城ティナが演じるディアナの小説で魅せた演出も面白くて……それが一層『外の世界』というのが出ていた。色々な面で評価できる作品じゃないかな?
この週に公開された『ムーンライト』などほどではないにしろ、立派な1つの武器となっている」
カエル「名作! というほどでもないけれど、じっくりと練られた良作だったよね」
最後に
カエル「今回のようなミステリー作品をネタバレ抜きで語るのは難しいよねぇ……」
主「さすがにミステリー作品のトリックやラストをネタバレするのはダメだしな。
そうなると語ることも難しくなっていくけれど……そこ以外の面でも優れた1作だったと思うよ。ただ、個人的にはもっとエグッて欲しかったという思いもあるけれど……」
カエル「えー? それは主がこの手の映画に慣れすぎているんじゃないの?」
主「それもあるかもしれないけれど、岡田麿里ならもっとやってくれると思ったんだけどね。
まあ、原作もあるからさ、仕方ないと思うけれどね」
カエル「う〜ん……このレベルで良かったと思うけれどなぁ」