物語る亀

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<傑作‼️>『アリスとテレスのまぼろし工場』感想&評価! 岡田麿里監督・脚本の魅力が200%発揮された作品に!

今回は『アリスとテレスのまぼろし工場』の感想・紹介記事になります!

 

作品の詳細に触れるようなネタバレ要素はないように配慮しています

 

(C)新見伏製鐵保存会

 

カエルくん(以下カエル)

今回はご縁があって試写会で見させていただいたので、その時の感想と紹介を中心に語っていきます

 

もちろん詳細なネタバレはないですが、少しの情報も入れたくない方はお帰り下さい

 

カエル「2023年のアニメ映画の中でも、注目度の高い作品というだけあって、試写会も多く企画されているし、どのような反応が出るか楽しみだね‼️」

 

主「また後ほど語っていくけれど、この作品は2023年のアニメ映画を語る上ではかなり重要な作品になる予感がしている。

 なので、是非とも鑑賞してほしい作品となっているので、紹介記事を書きました。

 それでは、記事のスタートです!」

 

 

 

ネタバレありの考察記事はこちら

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抽象的に作品の本質に迫った記事はこちら

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感想

 

それでは、X(旧 Twitter)の短評からスタートです!

 

 

自分はこの映画、とても好きだなぁ

 

カエル「岡田麿里監督の新作ということもあって、アニメ映画ファンからは注目度も高い作品ですね。

 今回我々は最速上映試写会に呼んでいただき、鑑賞したのですが……いやー、とても素晴らしい作品だったね!」

 

主「もちろんさ、うちもいい大人だから、特別なことがない限りは公開前の作品に対してバッシングはしないよ。

 イマイチだと思っても紹介として褒めるポイントを探すし、どうしても褒められないと思ったら公開後まで寝かせるかな……さすがに悪い作品を良いとは言えないしね。

 特に試写に呼んでいただいた作品ってだけで好意的にはなるし、元々注目している作品&作家だから、評価が甘くなるかもしれない。

 それでも……この作品は、とても『語りたい』と思うことが溢れてくるような作品なんだ

 

うちでは”面白いorつまらない””上手いor下手”"語りたいor語りづらい"で評価を考えているけれど、今作は『語りたい』がとても強いんだね

 

それだけ、琴線に触れたものが大きいのだろう

 

主「その意味では役得ではあるけれど、先行して試写で観させていただいて、本当に良かった。誰の評価もない中で、自分で評価を見つける必要があるから……だからこそ、深まるものもある。

 『語りたい』って自分にとってはとても重要で、そういう気持ちになるほどに……この映画には強い力があると思うんだ

 

 

 

 

岡田麿里の作風と過去作について

 

岡田麿里監督・脚本について

 

まずは、監督・脚本を務めた岡田麿里について知らない方もいると思うので、簡単に説明していきましょう!

 

2010年代前後から2023年現在にかけて、日本アニメの脚本を語る上では外せない脚本家だよね

 

カエル「2000年ごろからVシネマの脚本などから活動を開始しており、その後にアニメ業界に行き、TVアニメのシリーズ構成・全話脚本も多数手掛けている脚本家です。

 特に注目を集めたのは2008年の『true tears』『トラどら!』が高い評価を獲得し、その後も『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』などヒット作品を多く発表しています」

 

 

アニメ監督の長井龍雪と作画監督の田中将賀の、通称あの花トリオで語られることも多いね

 

その作風はとても特徴的なものがある

 

主「岡田麿里を語る際に1つ特徴としてあがるのが”代表作にオリジナル作品が多い”と言うことだろうか。もしくは、原作も担当している……つまり物語の根幹を、自身で製作している作品がしっかりと評価されているという点だ。

 岡田麿里の代表作としてあがりやすい『あの花』『花咲くいろは』『心が叫びたがってるんだ。』だったり、最近だったらあの花トリオの『空の青さを知る人よ』や、原作を務めた『荒ぶる季節の乙女どもよ。』などもその例だろう。

 アニメは特に漫画原作作品が多いし、岡田麿里ももちろん漫画原作アニメ作品も手掛けているけれど、どちらかといえば1を10にするタイプというよりは、0から1を生み出すタイプと言えるのかもしれない」

 

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岡田麿里の作風・作家性

 

その作家性についても簡単に紹介しておきましょう

 

やはり、なんといってもドロドロの人間関係の描き方にあるのではないかな

 

カエル「岡田麿里作品といえば現代劇、特に恋愛だったり、家族間の不仲を扱うような作品という印象が強いよね。上記に挙げた代表作と言われることも多い作品も、青春期の少年少女を扱った現代劇となっています。

 その思春期のドロドロ感を表現すると、多分日本でも最もうまいアニメ脚本家といっても過言ではないかもしれません

 

主「個人的は岡田麿里の最高傑作は、原作漫画があるテレビアニメだけれど『放浪息子』だと思っていて……というか、自分が『放浪息子』が好きすぎて、2010年代ベストアニメだと思っているくらいだけれど。

 思春期のドロドロ感や、下ネタ表現も含めた性差も含めて……一種の妖しさとでもいうのだろうか。それを表現することに長けている作家でもあるわけだ」

 

 

それから、自伝を書いている脚本家でもあるんだよね

 

本人も思春期に引きこもりなどを経験していることを、公言している脚本家でもあるんだ

 

カエル「『学校へ行けなかった私が「あの花」「ここさけ」を書くまで』という書籍がありますが、こちらも自身の過去について語っており、作家性の元となった体験について、色々と考察できる内容となっています」

 

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それだけ作家性・人間性に興味が湧きやすい脚本家ということだろうね

 

主「個人的には岡田麿里という脚本家は、器用なタイプではないと思っている。

 例えばSFとか、あるいはファンタジーとか、そういった特殊な……日常や現代と離れれば離れるほどに、その魅力は薄くなっていくタイプだと感じている。

 だけれど現代劇……とりわけ思春期の関係性を描かせると、ピカイチに魅力を発揮する。

 その意味では……世間評判は良いけれど、自分としては監督として前作の『さよならの朝に約束の花をかざろう』はピンときていない部分もあるんだ。

 今作は現代劇の要素が多い作品だから『さよ朝』とは違う……最も強い岡田麿里の個性・作家性を楽しめると感じている」

 

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賛否の大きい岡田作品

 

岡田麿里の脚本作品って、賛否が大きく割れる印象があるよね

 

特にマリー要素が強くなればなるほど、拒絶する人は多くなる印象だな

 

カエル「その点では、今作ってマリー要素って薄まっていて、そんなにないの?」

 

主「いや、真逆。

 岡田印が120%。

 MAPPAの大塚社長も以下のインタビューでこのように語っている」

 

 

◆インタビュー記事より抜粋◆

「スタジオ初のオリジナル作品だという構えは一切なく、とにかく岡田さんに監督として新たな作品を生みだしてほしいという願いのシンプルな結果です」

以下の記事より抜粋

moviewalker.jp

 

大塚社長が語ったとされる「岡田麿里の魅力を200%出す」という言葉は、まさにその通りだよね

 

今作はエンタメ作品というよりは、岡田麿里という監督・脚本家の文芸作品という印象が強い

 

カエル「そのあたりはとても線引きが難しいけれど……監督の作家性がそれだけ強い、ということなんだね」

 

主「でもさ、考えてみたら2023年にこれだけ監督の作家性が強いアニメ映画って、他にあったのだろうか?

 もちろん宮さんの『君たちはどう生きるか』とかもあるけれど、あれはみんな宮さんを観にきているから別格として……普通は原作だったり、シリーズだったりの要素を重要視してしまうよね。エンタメとしてのわかりやすさとかを優先して、作家性とかは削っていってしまう部分もあるでしょう。

 だけれど、今作はオリジナルということもあって、岡田麿里が100%、200%出ている作品になっている。

 そして……1番怖いのは、やっぱりそこかな」

 

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岡田麿里作品って、結構賛否が割れるからねぇ

 

自分も一般試写や公開後に、どのような反応になるのか、全く予想がつかないかな

 

主「アニメが好きな人だったら……あるいは岡田麿里が好きな人ならば、この映画を理解できる人は多いと思う。だけれど、普段アニメを見ない人、岡田麿里の名前も知らない層がこの映画を観た時に、どんな反応をするのだろうか?

 もしかしたら嫌悪感で叩かれるかもしれない。

 もしかしたら絶賛の嵐かもしれない。

 ただ1つ言えるのは、この作品が興行的な成功を収めたら……もちろん100億とかいくとは思わないけれど、20億ぐらいの大成功を収めたその時は、アニメ映画業界が変化する。

 革命的な、エポックメイキングなことになりうる可能性がある」

 

カエル「それこそ、公式ビジュアルにある『アニメーション映画の新時代』という言葉が、誇張じゃなくなるってことだね」

 

主「作り手側としたら『これだけ作家性が強くてもいいんだ』となる。

 観客としたら『こういうアニメがあってもいいんだ』となる。

 アニメ映画の幅が、とても大きく広がる可能性を感じている。

 それだけ岡田麿里が得意とする情動・感情を描いた作品だから……この映画がどのような結果を収めるか、自分はとてもワクワクするし、この作品の可能性にベットしたい気持ちが強いかな」

 

 

 

 

作品評価

 

映像について

 

映像表現に関してはどうだったでしょうか?

 

やはり、2023年屈指の作品と言えるのではないかな

 

カエル「そこはMAPPAだよねぇ……ここ最近は『呪術廻戦』『チェンソーマン』のヒットもあって、飛ぶ鳥をおとす勢いだけれど、今回もそれは健在なのかな」

 

主「賛否はあるスタジオだけれど、やはり一定以上のクオリティを発揮してくるし、今作が初のオリジナルアニメーション映画ということもあって、かなり力が入っているのが伝わってくるよ。

 全編にわたって動き回るし、アニメーションの映像面ではあまり経験のない監督をサポートすることができるメンバーが揃っている」

 

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どのようなところが上手かったか、ネタバレしない程度に語るとするとどうなるの?

 

やっぱり、情動・感情表現が素晴らしい

 

主「自分が感銘を受けたのは……割と序盤の方で、ヒロインの睦実が登場するシーンがある。そこが……なんというのだろうか、ファムファタル的な妖しい魅力が漂っていて、完璧に心を鷲掴みにされてしまった。

 完璧な美少女だったらたくさん観てきたれけれど、アニメにおいてこの妖艶さをもつファムファタル的なヒロインって、最近では珍しい気がする……と感じていたかな。

 ただ、どうだろう……一般の方はともかく、コアなアニメファンからは『こんなもんじゃない?』とかは言われる可能性は感じるかな。

 もちろん語りたいシーンはたくさんあるけれど、ネタバレになるのでこの辺りにしましょう」

 

(C)新見伏製鐵保存会

 

やっぱり、キャラクター描写ということだね

 

あとは背景を含めて美術も素晴らしい

 

カエル「今作は田舎の町が舞台だけれど、錆びとかも含めて、実存感があったよね」

 

主「この背景描写があるからこそ、町に対する思いとか、物語への没入感がかなり増していったと感じている。

 今作においては背景も1つの登場人物というか、注目するべきポイントだったし、作品を活かしつつ背景も活きる物語だったのではないだろうか

 

(C)新見伏製鐵保存会

 

声優・音響について

 

声優・音響についてはどうだったのでしょうか?

 

声優陣の演技が合っていたよ

 

主「今回絶賛したいのは、ヒロインの睦実役の上田麗奈!

 自分は『ハーモニー』という映画が好きなんだけれど、退廃的な色気すら漂う妖艶な演技に関しては、今の若手では右に出る者はいないのではないだろうか?

 アニメ映画では『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』のギギの役も好演しているし、今期では『わたしの幸せな結婚』も素晴らしい演技を披露していて、2023年を代表する役者さんであることは疑いようがないのではないかな。

 2023年ベストヒロイン級の活躍でした」

 

(C)新見伏製鐵保存会

 

他の役者さんに関してはどうでしょうか?

 

もちろん、文句はほぼないよ

 

カエル「今回はアニメを主に主戦場とする役者さんが多かったですね。

 主演の榎木淳弥はもちろんのこと、難しい役だった五実役の久野美咲も、とても良い演技をしていました」

 

(C)新見伏製鐵保存会

 

主「今回は芸能人声優で林遣都、瀬戸康史も参加しているけれど、作品をより深めてくれるし全く気にならない演技を披露していましたので、声に関してはそこまで心配することはないです。

 ただ、一部で……これは演技だから誰が悪いというわけではないですが、あるキャラクターがうるさいとは感じたかなぁ……そういうバランスで描くのは、とてもよく理解できるけれど、そこだけが心配。

 音響・音楽に関しても文句なしで作品を深めてくれていたし、この部分に関しても褒めが続きますね

 

 

 

以下ポエム

 

2010年前後の若者感情を拾い上げていた岡田麿里

 

ここから先はネタバレなしですが、ちょっと語りたいことを語っていきます

 

ほぼほぼ作品の話はしないけれど、ある意味では強烈なネタバレだと感じるかもしれないから、もしかしたら読まない方がいいかもしれない

 

カエル「内容としては、ほぼ自分語りの、ポエムみたいなものだということだけれど……」

 

主「ほぼほぼポエムなんで、読む価値はないかも。

 ただ語りたいだけ。

 どう語ろうかなぁ……2000年代から2010年代に漂っていた、若者の閉塞感ってあるわけじゃない。その時代を生きていた身としては……もちろん若者全員とは言わないけれど、ごく一部の人々が抱えてきた閉塞感を表現してきたアーティストがいた。

 少なくとも自分の場合は音楽ではBUMP OF CHICKENのフジくんがそうだったし、2010年くらいにはamazarashiの秋田ひろむにどハマりした。

 小説だったら……今は意外に思われるかもしれないけれど、西尾維新の戯言シリーズだったり、漫画なら浅野いにおが『おやすみプンプン』でその閉塞感を捉えた。もちろん、人によっては色々なアーティストの名前が上がるだろう」

 

 

 

 

その意味では、今作の主題歌の中島みゆきも時代こそ違えど、社会の閉塞感や孤独感を捉えたアーティストの代表格だよね

 

ある種、太宰治がそうであるように、その閉塞感っていうのはいつの時代もあって、その表現方法が異なるだけなのかもしれないけれどな

 

主「その意味では、今作の主題歌が中島みゆきというのは、理にかなっている。

 じゃあ、アニメの場合は?」

 

 

アニメは……多人数が関わる総合芸術というのもあるけれど『閉塞感を捉えた』と言える作品は少ないかも?

 

その中では、実は最も閉塞感を捉えたのは岡田麿里だったのではないか?

 

カエル「もちろん2010年前後に大ヒット作を生み出したという意味では虚淵玄などもいますが、岡田麿里の……賛否は分かれるかもしれないけれど、現代劇を扱った時の叫びというのは、とても強いものがあるよね

 

主「もちろん、作品における脚本家の影響ってどれだけあるのかは、考慮しなければいけない。監督やプロデューサーの要望もあるし、脚本家の思い通りの物語になる場合ばかりではない。観客は完成した作品=結果しか見れないから、経過についてはわからないからね。

 だけれど岡田麿里の場合は……少なくとも自分が観ている中では、ちょっとしたセリフ回しとか展開でも『あ、これは岡田麿里だな』と感じるくらい、強烈な作家性を感じられた。

 そしてそれを感じる作品……原作付きだと『放浪息子』とか、オリジナルだと『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』『心が叫びたがってるんだ。』などもそうだけれど、社会の閉塞感に悩む学生たちが主人公だった。

 そして、それが一部の人には極端に受けたし、同時に拒否反応も巻き起こした」

 

 

 

寄り添った青年はどのように成長するのか?

 

孤独感というか、閉塞感というのか……それをアニメで表現してきた作家だったわけだね

 

だけれど、それはいつまでも続かない

 

カエル「いつまでもずっと孤独でいるわけではない、と」

 

主「そもそも2000年代中盤くらいから2010年代中盤くらいの閉塞感って、絶対2023年の今とは違うと思うんだよね。

 そして人間はいつまでも閉塞感の中ではいられない。

 むしろアーティストとして、表現者として成功すればするほど、孤独感や閉塞感とは真逆の存在になっていく」

 

カエル「これは余談だけれど、確かに『ぼっち・ざ・ろっく!』の後藤ひとりって、背景はとても複雑な閉塞感を抱えているのに、きらら作品ということもあってカジュアルに扱われているよね。

 あれが現代の閉塞感を打破する表現の1つなのかなぁ」

 

 

主「ぼっちに関しては今回は別とするけれど、表現者として成功すると同時に、受け手側も変化する。かつての学生は悩める青年になったとしても、いづれは結婚したり、家庭を持ったり、就職したりして、また別の悩みを抱き続ける。

 自分自身の話をすれば、仕事があって、それなりにお金があって、変わらない日常があって……そんな一定の満たされた感情の中では、思春期・若者時代に抱いたような悩みは綺麗さっぱり無くなってしまった。

 人は成長するから、いつまでも思春期や若者時代と同様の存在で居続けることはできないんだよ

 

思春期の悩みを中年になっても持ち続けることは、難しいということだね

 

アーティストも受け手も、成長と共に変化していくんだ

 

主「多くの人にはどうでもいい話かもしれないけれど、自分は今、ここがとても気になっている。

 かつての閉塞感を抱いたアーティストと受け手は、それが別物に変化してしまった場合、どのように振る舞うべきなのか?

 かつての閉塞感を再び扱って表現するのも、また違うのではないか、とね」

 

 

2020年代に突入した岡田麿里

 

ふむふむ……それが岡田麿里とどう繋がるの?

 

変な話に聞こえるかもしれないけれど、今作で岡田麿里は『自分の過去の作品にケリをつけた』んだよ

 

カエル「……自分の作品のケリ?」

 

主「汚くて暴力的に聞こえる言葉を使えば『自分のケツを自分で拭いた』というかさ。

 過去の自分の作家性と向き合って……同時に過去の自分の人生と向き合って、そこで捉えた感情を発露しながら、さらなる先にいった。

 令和の……2020年代の世界へと、観客を、あるいはファンを、そして自分自身を連れ出していったんだ

 

……どういうこと?

 

かつての表現の、その先へと行こうという意志を強く感じた

 

主「自分が大好きな坂口安吾はこのように語っている」

 

 

◆坂口安吾『堕落論』より◆

『人間は堕落する。義士も聖女も堕落する。それを防ぐことはできないし、防ぐことによって人を救うことはできない。人間は生き、人間は堕ちる。そのこと以外の中に人間を救う便利な近道はない。

 戦争に負けたから堕ちるのではないのだ。人間だから堕ちるのであり、生きているから堕ちるだけだ。だが人間は永遠に堕ちぬくことはできないだろう。なぜなら人間の心は苦難に対して鋼鉄の如くでは有り得ない。人間は可憐であり脆弱ぜいじゃくであり、それ故愚かなものであるが、堕ちぬくためには弱すぎる。』

www.aozora.gr.jp

 

自分はこの言葉に賛同する。だけれど同時に、人間はいつまでも閉塞感にまみれて、孤独に生きることはできないんだ

 

主「人間は前を向いて、生きてしまう……そう、生きてしまうんだよ。

 ずっと閉じこもっていることはできない……社会に出たら変化してしまう。

 成長してしまう。

 老化してしまう。

 岡田麿里のこの作品は、自身が捉えた2000年代から2010年代の孤独感や閉塞感を、完全にアップデートしてしまった

 

その意味も含めて、自分はこの作品を語らなければいけない

 

主「先の『上手い・下手』の基準で言うと、自分はこの映画を『上手い』とは言わない。もちろん、映像面で素晴らしい面はたくさんあるけれど、でも映画として上手いとは思わない。

 だけれど、その上手さがなんだっていうのさ?

 もっと重要なもの……個性とか、作家性とか、そういうものが発揮されて、小さな力でも社会を、個人を、自身を変革しようという意思が込められている。

 自分はそれを『語りたい』と思った。

 そしてこの作品でケリをつけてしまった岡田麿里のこの先を……オリジナル脚本でも監督でもいいから、観てみたいと強烈に感じた。

 そんな作品だったね」

 

 

 

 

最後に

 

後半は本当に、ただの1人語りだったね

 

ネタバレありならばもっと語りたいこともあるんだけれどね

 

カエル「もちろん、どの映画にも言えるけれど、特にこの映画がヒットするといいね」

 

主「人によっては年ベスになるだろうし、若い人や一定の世代にとっては生涯に残る作品になる可能性も秘めていると感じた。

 これが過大評価なのか否かは、正直に、他者の評価が少ない今の状態じゃ、全くわからない。

 でもこの可能性を見せてくれたという点だけでも……岡田麿里監督とこの作品にはとても感謝したいかな」

 

 

ネタバレありの考察記事はこちら

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抽象的に作品の本質に迫った記事はこちら

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