カエルくん(以下カエル)
「今回は昨年(2015年)に公開された、名作アニメ映画のレビューだね」
ブログ主(以下主)
「もう、いきなり感想を語るようだけどさ、2015年のアニメ映画ではNo.1だった」
カエル「2015年アニメランキングでも2位にランクイン、1位は『蒼穹のファフナー EXODUS 』だったけれど、これは10年以上待ったっていう、ファン補正込みだからね。2015年に公開された作品だけなら、No.1の評価だよ」
主「これほどのアニメって中々ないね。さすがは現代のヒットメーカー長井龍雪だよ」
カエル「じゃあ、この作品の感想と評論を書いていこうか」
主「……今回もそこそこ長くなりそうだぁ」
1 完璧なスタート
カエル「で、いつも言うけれど主は開始何分で名作認定したの?」
主「これは……多分5分くらいで名作認定したかな」
カエル「いつも通り早いね! で、そう思った要因ってなんなの?」
主「丘の上のお城、かなぁ。あれってさ、大人からするとあるある話で笑いどころでもあるんだよ。実際に映画館では笑いが起きていたし。
だけど、これは子供からすると確かに夢のお城と思うかもしれない。脚本の岡田麿里の代表作として『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』は当然上がるけれど、あれも似たような巧さがあったんだよね。
アナルってあだ名の女の子が出てくるけれど、確かに大人からすると眉をひそめる、ありえないあだ名なんだけど、子供からするとあだ名としてあり得るレベルの下ネタ。これがうまく効いているよね」
カエル「しかもお城が原因で両親が離婚しちゃうからね」
主「悪いのは親父だし、あの子は何も悪くないからね。母親もほとんど八つ当たりだし、あんな家庭なんだから、遅かれ早かれ離婚をしていたと思うんだよ。だけどトラウマになって話せなくなる原因として練られた出だしだよね。こういう作品は大体コケない」
岡田麿里の脚本について
カエル「賛否のある岡田麿里の脚本だけど、主はどんな印象を持っているの?」
主「癖は強いけれど、やっぱり腕のある脚本家だと思う。昼ドラ、なんて言われているけれど、男の脚本家や今までアニメ界ではあまりなかった、女の情念の籠ったドロリとした脚本はやっぱりうまいよね。
あとは下ネタの使い方に特長がある。さっきもあげた通り、絶妙な下ネタを使うときもあれば、場合によっては……個人的に下ネタが苦手というのもあるけれど、こちらが引くような下ネタを使うときもある」
カエル「今作でいうと『脇が臭い』という台詞は中々出てこないよね」
主「特に女子高生が男子高校生に言う、罵倒としては中々出てこない。これが娘が親父にいうならわかるけれどさ。
ここが賛否が分かれる要因でもあるんだろうね。生々しさが求められる作品だったら抜群にうまい。個人的に大好きな『放浪息子』もそういうところが刺さったわけだし。
ただ、じゃあロボット系SFとかになるとあまり売りが見いだせないかなぁっていう思いもある。脚本家が物語の流れを全て決めるわけではないから難しいけれど、今のところ岡田麿里の脚本で感心したロボットやアクションは……ないかなぁ」
カエル「もちろん、主も全てのアニメを見ているわけではないからね。
あとは、代表作に上がるのも『true tears』『とらドラ!』『花咲くいろは』とかの恋愛系だったり、現代劇が多い印象があるね。その意味では今作にピッタリな脚本家でもあるんだ」
主「特に長井龍雪と組むとより力を発揮するな。長井龍雪監督、岡田麿里脚本、田中将賀作画監督だったら、外れた印象がない。いい関係だよね、本当さ」
カエル「それだけ力のある人達だからね」
2 個々のパートについて
作画の素晴らしさ
カエル「ここは今更何かを言う必要もないだろうけれど、劇場版ということもあってヌルヌル動くいていたし、途中のシーンでは絵本のような印象的な作画法をとられていたね」
主「あのCMでも使われた夜のシーンで、成瀬が叫びたがっているシーンとかは、一気に引きこまれたね。あとは何と言ってもミュージュカルシーンがヌルヌル動くし、トンデモナイなぁ、なんて思いながら観ていたよ。
あの絵本のような作画もすごく好きだったし、新しい表現を模索しているのが面白かったよ」
カエル「特に本作は成瀬があまりしゃべらないわけじゃない? そこの表現がよかったよね」
主「この年の声優アワード主演女優賞を獲得したのは水瀬いのりだったけれど、本作のが認められたこともあると思う。もちろん、彼女は彼女で、喋れないヒロインの感情を息で表現した素晴らしい役者でもあるんだけど、『言葉を発さない』となると、やはり大きいのは作画の力だよ。
実写なら体の演技でどうにかするしかないけれどさ、アニメじゃ声優の演技だけじゃどうにもならないし、ここが崩壊すると一気にヒロインとしての魅力がなくなってしまう。
それをこの作画で描き切ったのは、素晴らしい」
声優陣について
カエル「水瀬いのりの名前が出たから、このまま声優陣の話をするけれど、若手声優陣をうまく使った深夜アニメのような役者陣だったね。もっとオリジナルアニメ映画となると、有名どころのベテランを連れてきたりするものだけど、今回はベテランだと藤原啓治くらいじゃない?」
主「それぞれがそれぞれの持ち味を生かしていて、深夜アニメをそのまま見ているような気分だった。特に藤原啓治もさ、いつもの癖の強い演技じゃなくて、結構ノホホンとした癖の少ない演技をしているから、他の役者とも浮かないし。さすがだわ」
カエル「今回のゲスト声優の吉田羊は……少し浮いていたけれど悪くはなかったんじゃない?」
主「これが極端にアニメ的な演技を強いられるような作品だとしたら、相当に浮いていたと思う。だけど、今回はみんな自然な演技を求められていたからさ、なんというか……演技のバランスが一致していたんだよね。そこのあたりもうまく調整されていたたよ」
歌について
カエル「歌とかはどうだった?」
主「これが中々評価が難しんだよね……いや、下手とかいう意味じゃなくてさ、むしろ逆なんだよ。個人的に細谷是正って結構好きな声優なんだけれど、『太陽と月』を聴くと相当うまいわけじゃない。
だけど今回は演技が苦手な男子生徒役だからさ、あえて下手くそに演じているんだよね。もっと上手く歌おうとすれば、できるはずなんだよ。
今回はさ、高校生の……しかも部活で全国トップをとるような生徒たちじゃなくて、地元のお年寄りに向けてやる、たった1回のコンサートなわけじゃない? そんな上手いはずがないんだよ。だから、そのバランスをとるためにわざと下手にしている部分もあってさ、意図が読みづらいんだよね」
カエル「映画としての公開するからある程度うまくしないといけないけれど、上手すぎたらおかしいもんね」
主「そのバランスの取り方が絶妙だと思ったけれどね」
3 後半について
走り出す『感情』
カエル「後半は一気にテンションが上がったよねぇ。もうさ、涙が出てくるんだよね、興奮しすぎて」
主「その前で4人それぞれドラマが一段落してさ、クラスもまとまってきた中での崩壊があって。好きな男とその彼女の修羅場を目撃して、成瀬順が『走り出す』んだよね。
走るっていうことは非常に大事で、ラストシーンに向けての助走の意味があるんだよ。そこをうまく撮ることによって、観客に対する『タメ』と『高揚感』を与えるえることができる」
カエル「そのあとに成瀬を探しに行くよね」
主「そこでさ、観客としてはかなり高揚しているわけじゃない。そこでミュージカルが始まって、そこであの感情の発露があるわけだ。そこで一気に……引き込まれるんだよね」
音楽と絵の融合
カエル「ミュージカルパートというといつも語っている気がするけれど、音楽と絵の調和ってすごく大事だよね。特に今作の場合、そこが全てなわけじゃない。1番の見せ場であり、ここがおしゃかになると全てがダメになるわけで」
主「特に今回は音楽を担当したのがミトという名作曲家なわけでさ、その力に負けないような絵を作っているわけだ。
さらに言うとさ、普通は『音楽と絵の融合』というと、例えばライブパートの楽器を弾くとか、ダンスと音楽がどれだけ一致しているかということを重視するんだよね。
例えばさ、現代アニメに革命をもたらしたのが『涼宮ハルヒの憂鬱』の『God Knows』だと思っているけれど、それも楽曲の良さに加えて『アニメなのに楽器を弾いている』という点でも一気に注目を集めたわけじゃない。
そしてその後で『らき☆すた』『けいおん!!』によって一気にその流れが決定的になったわけだよね」
カエル「今の『アイドルマスター』シリーズや『ラブライブ!』『うたの☆プリンスさまっ♪』などのアイドル系アニメもこの流れにあるのは間違いないもんね」
主「そして今作はそれだけではなくてさ、やはりミュージカルということもあってか、その歌の内容と話の内容がマッチし始めるんだよ」
高揚感の先にあるもの
カエル「ミュージカルシーンもメリハリがあってさ、ここでアップテンポな曲のあとに、ゆっくりとした曲を挟んだりとかして、きっちりと作品全体にリズムを作っているんだよね」
主「そして、全ての元凶であるホテルでの感情の叫びがあるわけだ。
そこの言葉が正直『こんなこと言う?』って思ったんだけど、そこが岡田麿里の脚本だよね。ここでああいう言葉を使うことで……なんというか『物語のためのセリフ』じゃなくて、リアルなセリフにしているんだろうね」
カエル「でも、この高揚感の先にあるのが……」
主「そう、失恋なんだよね。ここがさ、個人的にはどハマりした。『ああ、さすがだなぁ』って。
先にあげた岡田麿里作品だと、『あれ、そっちとくっつくの?』っていう作品もあるわけじゃない。そこが妙にリアルで、なんかこう、感情をえぐられるというか。
だからさ、変な話だけどこの作品も見ている時に、途中から『これ、たぶん成瀬ルートだけど成瀬振ったら個人的トップクラスの名作になるだろうなぁ』って思って見ていたの。
それで、あの告白のシーンは『振れ! 振れ!』って思いながら見ていたらさ、ちゃんと振ったから、一気にテンションが上がったよねぇ」
カエル「……すごく個人的感情で話をしていない?」
主「いやいやいや、でもさ、ここで振った方が物語としての意外性もあるし、リアルだと思わない?
ここで振らずに『うん』と言ったら、これまでのドラマが一気に壊れるでしょう」
ラストの展開
カエル「それで最後のミュージカルシーンになるわけだけど、ここで全てが昇華されて、一気に高揚感が増すよね」
主「素晴らしいよね、すべての物語がここに集約して、二人の歌声と二つの曲が合わさるわけだ。
『心が叫び出す』を歌うのがメインキャラクターだと成瀬と田崎であり、
『あなたの名前呼ぶよ』を歌うのが仁藤と坂上だけどさ。
『心が叫び出す』は悲しい過去も全てを受け入れて、この世界を愛するという歌なのよ。
『あなたの名前呼ぶよ』の方は愛する相手に向ける愛の歌なんだよね。
ここでもこの2組の恋の行方が明示されていたんだな。」
カエル「それであのラストに行くわけだけど……」
主「あの『成瀬に告白しに行くわ』のセリフね。まあ、個人的には『そりゃねぇだろ』って笑ったけれどさ、まあ、うん、あれくらいは許されるべきかな? まあ、物語の中のちょっとしたご褒美……といっていいのかわからないけれどさ。そんなもんじゃない?」
4 テーマについて
カエル「じゃあ、ラストにこの作品のテーマってなんだったと思う?」
主「ズバリそのまま『自分の中に押し込めていたものを、全て吐き出す』までの物語だよね。
気になっていたのがさ、なんで王子(坂上)と玉子が同じ声優なんだろ? ってところなんだよね。しかも表記が卵じゃなくて、玉子表記だし。でも、ここも『吐き出す』というテーマについて考えたら、なんとなくわかった気がした」
カエル「じゃあ、それを言葉にすると?」
主「成瀬が生み出した自分を抑制するためのキャラクターが玉子なわけじゃない? これはさ、自分の世界に閉じこもることを強制する存在だよね。それこそ『殻の中にこもった自分』ってやつ。
一方の王子はその自分の殻を破る存在なわけだ。だけどさ、その結果がどうなるかというと、実は成瀬にとっては同じなんだよね」
カエル「同じ?」
主「そう。同じなんだよ。どちらもその結果、拒絶して成瀬を傷つけるという意味では同じ。だから声優が一緒なのかな。
だけど、その受け入れ方が全然違うんだよ。すごく傷ついて自分の殻に閉じこもるか、それでも前を向いて歩きだすか……
草食系男子とか言われているけれど『振られるのが怖い』っていう前に、一回振られてみたら? ってこと。確かにすごく傷ついて自分の殻に閉じこもるかもしれないけれど、意外とあっさりと『こんなもんかぁ』って楽になるかもしれない。特にさ、振られるかもしれないって思っているんだから、心にひとつ防御壁を持っているはずなんだよ。
案外、1回傷ついたら耐性が付くかもよ」
カエル「……他人事だからって簡単に言うね」
主「だけど、この作品のテーマってそういうことでしょ? 心が叫びたがっているなら、そんな思いを抱えているならば、それをはっきりと言っちゃってさ、そして叫び出しちゃえ。
その先に『Over the Rainbow』があるかもよ? ってことだろうね」
最後に
カエル「ということで約1年前に公開された作品レビューを今更してみたけれど……」
主「あの当時ブログをやっていたら、結構アクセス数稼げたんだろうなぁ……」
カエル「そこ!? 最後のまとめがそれでいいの!?」
主「いやぁ、だってさぁ……こんな青春はほら、フィクションじゃん? もっとこう、ドロドロとしてさ、なんとも言えない腐っているのもまた青春時代じゃない? 多分ブログ書いている今の方が、よっぽど輝いているような気がするよ。
だからこそこういう青春劇がより映えるけれどね」
カエル「……なんか、少しだけ闇を見たような気がする。まあ、主みたいな人がまともな青春時代を送れているわけがないけれどね」
主「そうそう。まともな青春時代を送れていたら、毎日映画や小説、アニメのレビューをブログに書かないって。しかもこの記事だけで6000字近くあるしね。大変なんだよ、これでも。
あ、同情するならTwitterとかで拡散するか、下のアマゾンさんで何か買うか、広告クリックしてね。するとWin-WInの関係だからさ……」
カエル「知ったことか!! 勝手にやっていることだろうが!!」
サントラはすぐに買いました。すごくいい……!
- アーティスト: サントラ,コトリンゴ,仁藤菜月(雨宮天),相沢基紀(大山鎬則),成瀬順(水瀬いのり),坂上拓実(内山昴輝),清浦夏実,ミト,横山克,岡田麿里,岩木寿則(古川慎)
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