物語る亀

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物語愛好者の雑文

映画『サニー/32』『RAW少女のめざめ』ネタバレなし感想 どちらも特徴的な演出で辛くなってくる……

カエルくん(以下カエル) 

「えー、今回も2作同時レビューになりますが……どちらも極端に癖が強い作品なので、人を選ぶだろうということは先に言っておきます」

 

「好きか嫌いか、合うか合わないかは実際に観ないと全くわかりません」

 

カエル「絶賛する人の気持ちもわかるし、酷評する人の気持ちもわかるという不思議な体験をしたよね。どちらもバイオレンスな描写が多く、しかも過激なためにかなり覚悟をしてください。

 ちなみに、主は途中のシーンで何度も目も手で隠しながら鑑賞していたものの、音だけで嫌になるほどの衝撃がありました

主「もう嫌だよ……お金もらっても次は観にいかない。

 ただ、悪い映画ではないけれど……今作ほどのバイオレンス描写はもうきつくてさ、ちょっとご免こうむるというのが本音です」

 

カエル「なので、バイオレンスな描写や痛い描写に耐性がある方は是非ご鑑賞リストに入れていてください。

 では、記事のスタートです!」

 

 

 サニー/32

 

映画チラシ サニー/32 北原里英

 

作品紹介・あらすじ

 

 『凶悪』や『日本で一番悪い奴ら』などの白石和彌監督が脚本家の高橋泉と再びコンビを組み、殺人犯の『サニー』を神格化する信奉者たちとの魂のぶつかり合いを描く。

 NGT48の北原里英が映画初主演を果たし、脇を固めるのはピエール瀧とリリー・フランキーをはじめとして豪華共演陣が個性豊かな登場人物たちを演じている。

 

 ストーカー被害に遭っていた女性教師の藤井赤理は、かつて小学生で同級生を殺害した『サニー』を信奉する男たちに拉致されてしまい、人里離れた小屋の中へと監禁されてしまう。

 なんとか脱出しようともがくのだが、事態は次々と予期せぬ方向へと転がっていってしまい、やがて衝撃的な事態をへと至ってしまう……

 


NGT48北原里英出演の衝撃作/映画『サニー/32』本編映像

 

 

 

 

感想

 

カエル「まずはTwitterの短評からスタートですが……」

 

 

カエル「えー、このレビューでもわかるように、実は白石監督との相性がとても悪くて……どれを見ても真顔になってしまうというものでもあります

主「もしかしたら暴力的な要素が多いのが受け付けないのかな?

 それでも『彼女がその名を知らない鳥たち』は自分には合わなかったけれど、評価されるのも良く分かる作品ではあった。

 ただ、やはり相性が悪い。つまり見ていて辛くなってきて、何が面白いのかわからなくなってくるという……決して悪い監督ではないけれどね」

 

映画『彼女がその名を知らない鳥たち』感想 

 

カエル「そもそも『ぼくの名前はズッキーニ』みたいな少年少女の過酷な現実からの救いを描いた作品が好きだ! と公言している人だと相性は悪くて当然なのかもしれないね」

 

映画『ぼくの名前はズッキーニ』感想 

 

主「で、今作は何というか……歪みが多い作品のように感じられた。

 前も言ったけれどブサイク(出来が悪い)ってわけじゃないんだよ。

 ただ、歪んでいてそこが味になる前にノイズになってしまう。多分、白石監督ってこの歪みが売りでもあるんだろうけれど、自分にはそれがノイズのように感じられるのかもしれない」

 

 

今作品の『歪み』

 

カエル「その歪みというのを具体的に説明すると?」

主「簡単に言えば『なんでこんな構成になっているのかよく分からない』というものだ。本作はまるでジェットコースターのようにコロコロと展開が変わるんだけれど、それによって先読みが出来ない。

 それが魅力と言えば魅力なんだけれど……自分にはよくわからなかった。本作は密室ものになり得るんだけれど、結局は密室ものにならない。ただし、狭い世界の物語であるけれど、ネットも使って外の世界との交信もできるようになっている。なんか1つ1つの設定がちぐはぐしているように見えてきてしまった」

 

カエル「多分、それって狙いの1つなんだろうけれど……最近だと『スリービルボード』が歪みが多い作品というレビューをしたけれど、それが生きている作品だったわけでしょ?」

 

映画『スリービルボード』感想&考察 

 

主「歪みの使い方ってとても難しいものでもあって、王道とは違う一風変わった魅力を提供できるけれど、それがうまく構成されているように見えないければ物語が崩壊してしまう。

 あとは1つ気になると、トコトン気になって……リアリティの皆無がとても気になってしまった

 

彼女がその名を知らない鳥たち 特別版 [Blu-ray]

白石監督作品で昨年高く評価されています

  

リアリティに対する疑問

 

カエル「笑いどころも用意されていて、どんなテンションで見ればいいのかわからないというのもあるのかもね」

主「今作に限らないけれど、邦画のネット描写って違和感があってさ……

 ニコニコのコメントを描写しているけれど、今ニコニコが下火だというのは置いておくとしても、その言葉使いなどがどこか違和感を生じるさせるもので……

 まあ、ネットにずっと接続して1日中見ているようなネット中毒者だからかもしれないけれど、ネットスラングの使い方や言葉使いがネットぽく感じなかったんだよね

 

カエル「youtuberみたいな描写もあったけれど、あのネット描写も見たことがなくて違和感があったんだよね……それが可愛らしくていい味を出しているという人もいるんだろうけれど」

主「で、そうなってくると何もかもが気になってきて……

 例えば学校のシーンでもどこか作り物感が強いし、物語が進行していくにつれて無理のある展開が多くなっていき、より違和感が生じてくる。

 他にも警察が銃を撃つシーンがあったけれど、みんな射撃がうますぎるんだよね。そんなバンバン当たるものではありません。それから殺傷能力がバラバラだったり……ある人は1発で倒れて、ある人は何発でも耐えられるとなってくると、もちろん当たりどころもあるにしろ疑問が生じてくる」

 

カエル「細かいところかもしれないけれど、それが澱のように重なると大きな違和感として映画全体に影響が出てしまうということだね……」

主「多分、計算した部分もあると思う。

 だけれど、それが重なると他の部分も気になってしまって、役者の演技やその人の役割、存在意義なども疑問になってきて……もうどうしようもなくなってしまった部分もある」

 

映画『サニー/32』オリジナル・サウンドトラック

サニ−32の音楽と手がけたのは牛尾さんだったんだ……

アニメから実写まで幅広く手がける人だなぁ

 

本作の元になった事件について

 

カエル「本作は2つの事件の影響が強く出ているよね。

 1つは長崎の女子小学生が同級生を殺害した事件で、ネットに流失してしまった被告の女の子が非常にかわいくて、しかもイラストなども病んだ女子小学生らしいもので、熱狂的なファンが生まれてしまった事件だね」

 

主「当時騒がれていたこともあって、この事件はよく覚えていて……自分も興味を強く持った事件なんだよね。

 ただ、それは『女子小学生が同級生を殺害した!』というセンセーショナルな部分ではなかった。

 事件自体は……こういうとちょっと問題あるかもしれないけれど、女子小学生が人を殺めるということに対する驚きはそんなになくて、社会全体がなぜ騒いでいるのかよくわからなかったというのが本音で。

 ただ、その心理状態だったり、被害者との関係性などが……文学的な雰囲気がして興味深かったんだけれどね

 

カエル「そしてもう1つというのが、日本中を騒がせた神戸の少年Aのネット騒動で、沈黙していたはずの彼が突如として本を出版したり、ブログを開始したりして表舞台にで始めたんだよね。しかも、彼を信奉するようなファンもそこそこいたりして……

 この2つの出来事が根底にある作品だろうね」

主「そのテーマや社会性はとてもいい。

 だからこそ、この作り込みの甘さであったり……まあ、そこはコメディのように狙ったのだろうけれど、特殊な構成が非常に気になってしまった。

 暴力の中にある愛だったり、暴力を超えた関係性を提示している監督ではあるけれど……今作はファンタジーのように見えてしまったかなぁ

 

 

 

 

 

RAW 少女のめざめ

 

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(C)2016 Petit Film, Rouge International, FraKas Productions. ALL RIGHTS RESERVED.
 
作品紹介・あらすじ

 

 2016年に開催されたカンヌ国際映画祭で批評家連盟賞を受賞したフランスの女性監督、ジュリア・ヂュクルノーの初長編作品。フランスとベルギーの合作作品。

 

 ベジタリアンとして育てられたジュスティーヌは獣医学校へと進学することになる、寮生活がはじまる。しかしその学校では新入生歓迎と称してパーティへ誘ったりなどの通過儀礼が多く存在していた。

 その中の1つであるウサギの肝臓を食べることを強要されてしまい、それを口に含んでしまう。それから肉を食べることに執着を抱いたジュスティーヌは大きな変化を遂げていくことになる……

 

 


ベジタリアン少女は如何にして“食人”に目覚めたか? 話題作『raw~少女のめざめ~』2018年2月に日本公開[ホラー通信]

 

 

感想

 

カエル「こちらはかなり特殊な感想になっていて……まずはTwitterの短評がこちらです」

 

 

カエル「はい、わかりやすいですね。

 でも酷評というわけではないです

主「本作はこのグロテスクに描く意義が確かにあるし、うまい作品であることは間違いない。ただ過激な描写ゆえに観客にエチケット袋が配られたというのはよくわかる話で、自分も何度席を立とうと迷ったことか……」

カエル「グロテスクに対する耐性がないと辛い作品だよね……

 いろいろなバイオレンスな映画を見てきたけれど、今作ほどにきつい映画はそうそうなかったような気もしてくるよ」

 

主「でもね、本作はやはり賞賛するべき映画でもあるよ。

 少女が女の子になるという性の目覚めを描くのにカニバリズムを用いたことは発想の勝利であるし、この描き方も観客をグロテスクな描写で引き込むこともあるだろうけれど、決してそれだけではない。もっと底に深い意味だってある。

 今作はカニバリズムでないと撮れないテーマを内包しているし、その演出を最大限生かしながら表現しきったものが多いにある映画でもある。

 だから、生理的に無理だし、もう2度と観ることもない、嫌悪する映画かもしれないけれど、でも自分は褒める。上手いし、表現としての意義に溢れていると言えるね」

カエル「う〜ん……これはかつてなかった評価かもしれないね」

 

 

 

生と成長と死

 

カエル「まずは今作で特徴的なのは『食べる』ことと『性』に関する描写だよね」

主「この食と性というのは人間の持つ3大欲求の2つでもある。そして当然のように生きることや種の保存に直結していて、決して欠かすことのできない欲でもある。

 それが魅力的に、力強く描かれるからこそ、その奥にある死がより強調される。

 この死というのはカニバリズムだからではない。我々が食事をするということは、何らかの命をいただくということであり、それは生と死のサイクルを抜きにして語ることはできない。それをより生々しく描写したにすぎないんだ」

 

カエル「かといってやりすぎな気もするけれどね」

主「で、本作を観ていて思い出した映画がこちらの作品です」

 

海街diary

 

カエル「え? 是枝監督の海街ダイアリーなの?」

 

映画『海街diary』感想

 

主「意外かもしれないけれど、共通しているような描写も多々あるんだよ。

 海街ダイアリーって広瀬すずのデビュー作でもあり、女性陣の美しさが話題になることも多いけれど、同時にこの『死』について語っている映画でもある。

 本作って劇中で3回も葬式や法事のシーンがあり、喪服で登場することがかなり多い。実は死の匂いが濃密に漂っている映画だ」

 

カエル「でもさ、4姉妹の生き生きとした様子がしっかりと描かれていたじゃない?」

主「その死に対抗するために食事シーンや性に関する描写を増やしたんだよ。

 広瀬すずの名場面で、外に向かってバスタオルを広げてはだけるシーンがあるけれど、生きている実感の強い瑞々しい演出が非常に多い。

 この生と死のバランスが見事であり、だからこそ彼女たちの魅力が一気に引き立った作品だということができるんだ

 

ネオン・デーモン(字幕版)

昨年公開のネオンデーモンにも近い印象を受ける……

 

カニバリズムだから表現できること

 

カエル「では話をRAWに戻して……本作はなぜカニバリズムの物語にしたのかな?」

主「カニバリズムだからこそ表現できることってあるんだよ。

 この年代の……いや、ちょっと遅めだけれど、初めて性に目覚めた時ってドキドキとともに罪悪感がなかった? まあ、人によるけれど……例えばエヴァンゲリオンで碇シンジが自慰行為をした後に『自分って最低だなぁ』と思うような仕草がある。

 あれは状況が特殊だけれど、性が目覚めた時は賢者タイムなどのように、性に対する禁忌の感覚が強く出てくる

 

カエル「特に日本人よりも宗教的戒律の多い外国ではそうかもね。宗教によっては酒や自慰行為すらも戒律違反になってしまうこともあって……日本人はお酒を飲むときに宗教的、倫理的な問題意識はないけれど、海外ではそこに罪の意識を感じる人もいるわけでさ」

主「だから、本作のカニバリズムって『やってしまった悪いこと』を観客にも的確に伝えるための手法でもあり、そしてその『死』が彼女たちの体に入ることにより『生』になるということを描いている。

 ということは、この作品を魅力あるものにするためには、生々しくカニバリズムを描き、同時に性と食と死について濃密に描写する必要がある。

 そう考えると本作は非常にうまくできていて、確かに評価されてしかるべき作品にはなっている……

 けれど、それがきつすぎたねぇ」

 

カエル「中盤以降は手で目を押さえながら鑑賞しているような状況だったもんね……」

主「本作、本当にきついです。

 グログロな映画がダメな人は避けたほうがいいでしょう。

 ただ耐性がある人にはたまらない経験になるかもしれないので、鑑賞してみてはいかがでしょうか?」

 

 

 

最後に〜2作品を通じて感じた事〜

 

カエル「では最後に、この2作品レビューなので感じた事などを語っていこうか」

主「この2作品って似ているところもあると思う。それはバイオレンスもそうだけれど、誰かの思いが誰かを止めたり、逆に他の人を極端な道に走らせてしまう部分もあって……

 あと、かなり痛々しい描写とともに、百合百合しいものが多い作品だね」

 

カエル「RAWはあの2人の女性の関係性が『分かり合っている』感があって、ちょっと特殊な関係に見えたね」

主「どちらも犯罪的な行動をしてしまうけれど、その奥には強い生存本能があり罪と罰の意識がある。その意識とどう立ち向かいながら、自分の欲求や思いと対立していくのか? ということを描いている。

 バイオレンスな描写が多いけれど、自分はその奥底には他者への強い思いも感じられた

 

カエル「観る人は選ぶでしょうが、興味があればぜひ劇場へ向かったください!」

 

 

 

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