物語る亀

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ネタバレありの物語批評

映画『ぼくの名前はズッキーニ』感想 世界中の子供達に向けられた真摯な思いが胸を熱くする、今年1番の感動作! ネタバレなし

カエルくん(以下カエル)

「今回語る『ぼくの名前はズッキーニ』は、実は1年前から気になっていた作品なんだよね。昨年も行われたTAAF(東京アニメアワードフェスティバル)の長編部門コンペションに出ていた作品だった時から気になっていて……」

 

ブログ主(以下主)

「残念ながら仕事の状況などから行くことはできなかったんだけれど、是非とも鑑賞したい1作の1つだったね。結局グランプリは逃したけれど……評判はかなり良かったから気になっていたんだ」

 

 

カエル「その時は『ズッキーニと呼ばれて』というタイトルで、今でもこっちで覚えているから最初の感想tweetでもタイトルを間違えてしまったというね。

 僕は『ズッキーニと呼ばれて』の方が情緒もあるような気がして好きだけれど『ぼくの名前はズッキーニ』だと子供も簡単に覚えられそうで、こちらの方が広く多くの人に見てもらう興行向きの名前なのかもね」

主「この手の作品はどうしても宣伝の関係もあるのか、あまり話題にならないで終わってしまいがちだからなぁ。

 なんとか工夫は凝らしているだろうし、名前の変更もその一環だろうけれどアニメーション映画好きとしてももっと注目を集めてほしい! と心から思う作品だね

 

カエル「というわけで、そんな以前から注目していたズッキーニがようやく公開されたので、感想記事の始まりです!」

 

 

 

 

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(C)RITA PRODUCTIONS / BLUE SPIRIT PRODUCTIONS / GEBEKA FILMS / KNM / RTS SSR / FRANCE 3 CINEMA / RHONES-ALPES CINEMA / HELIUM FILMS / 2016

 

作品紹介・あらすじ

 

 第89回アカデミー賞の長編アニメーション部門にノミネートされ、アヌシー国際映画祭で最高賞のクリスタル賞と観客賞を受賞、また日本のTAAFにて長編コンペディションで優秀賞を獲得している、世界的に評価の高いパペットアニメーション作品。

 監督は今作が初長編作品となるクロード・バラス。

 また日本語吹き替え版には峯田和伸、麻生久美子、リリーフランキーなども参加している。

 

 

 とある事情によって母親を亡くしたズッキーニは施設へと入所することになる。持ってきたものは父親の描かれた凧と、母親の形見である空き缶だけ。そこで待っていたのはそれぞれ特別な事情を抱える子供たちだった。

 彼らとの衝突や交流を繰り返していたある日、カミーユという女の子が施設に入所してくる……

 


ぼくの名前はズッキーニ - 映画予告編

 

 

 

 

1 感想

 

カエル「では、いつものようにTwitterの短評からスタート!」

 

 

主「今年1番の感動作といっても過言ではないでしょう!

 本作は今年『夜明け告げるルーのうた』がグランプリにあたるクリスタル賞を獲得した世界最大規模のアニメーション映画の祭典であるアヌシー国際映画祭にて、クリスタル賞と観客賞のダブル受賞が世界中で話題となった作品だけれど、その理由がよく分かる。

 つまり、アニメーション映画としてのレベルもとても高く、そして観客の心をグッと掴み取る力も大いに備えたアニメーション映画なんだ

 

カエル「しかもフランスのアカデミー賞といわれているセザール賞では最優秀アニメーション賞だけでなく、数ある実写映画を抑えての脚色賞(原作をうまくアレンジした作品に贈られる賞)にも輝いていて……そこいらの実写映画にも負けない骨太なストーリーが世界各地で絶賛されているというね」

主「この作品のキャラクターデザインはとても可愛らしいもののように見えるかもしれないけれど、そこから紡ぎ出される物語はとてもハードなものであって……

 これはツイッターでも書いたけれど、子供が過酷な現実と向き合って友情や愛情を深め合うお話が……『スタンド・バイ・ミー』『ショート・ターム』のような物語が好きな人は必見となっています」

 

ショート・ターム(字幕版)

施設に暮らす子どもたちを扱った名作映画

 

パペットアニメーションの味

 

カエル「今作はアニメーションといってもパペットアニメーションで製作されていて、何回か過去にも説明したけれど、改めて説明すると『人形を用いたアニメーション』なんだよね。

 昨年公開された『KUBO クボ〜二本の弦の秘密〜』が記憶に新しいけれど、日本人には『チェブラーシュカ』などが特に印象に残るのかな?」

 

オリジナル・サウンドトラック「KUBO クボ二本の弦の秘密」

 

主「アニメーションの語源は『anima』つまりラテン語で魂を意味する言葉から来ているけれど、動かないものに魂を吹き込むのがアニメーションなんだ。日本で一般的に用いられる絵が動く、というのはアニメーションの1つの技法でしかなくて、経済的で作るのが比較的容易だから、という理由で流行っているにすぎない。

 でも他にも『ピングー』『ニャッキ』などのような粘土を用いたクレイアニメもあれば、最近では落ち葉やお弁当を用いたアニメーションもある」

 

カエル「日本だと手間暇がかかりすぎてそこまで多く製作されていない分野だけれど、近年はデジタル化やCGの導入によって世界的に注目を集めている分野でもあるね」

主「やっていることはCG映画と似たようなことだと思うんだよ。

 そのパペットにあたるキャラクターのモデルを手で作るか、パソコンの画面で作るかの違いでさ……まあ、これがとても大きいわけだけれどね」

 

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子供達との交流を経て大きく成長していく物語

特にシモン……彼が深く印象に残る

(C)RITA PRODUCTIONS / BLUE SPIRIT PRODUCTIONS / GEBEKA FILMS / KNM / RTS SSR / FRANCE 3 CINEMA / RHONES-ALPES CINEMA / HELIUM FILMS / 2016

 

実際に作られたものの味

 

主「そして本作はCGなどは使われていない。

 手で作られたパペットアニメーションであり、昨年公開の『KUBO』などに比べると若干技術的に劣るように見えるかもしれないけれど……でも、そんなことはないんだよ」

カエル「『KUBO』はCGも多く用いてより派手な作品を作っていたけれど、こちらはしっとりとした作品だったね」

 

主「これって日本の絵で描くアニメでもそうだけれど、今は全ての作品がデジタルで作られているけれど『セル画で書いた方が絵に暖かみがある』という人もいる。

 アナログ信仰かもしれないけれど、でもどの業界でもあるよね。

 漫画家でもデジタル派とアナログ派がいるし、映画でもデジカメVSフィルム論争がある。

 そしてこれは自分の感覚でもあるけれど、CGアニメーションと違い実際に作られたパペットなどを動かすと、やはり暖かみがある。

 この暖かみとは何か? と言うと、それはノイズだと思うんだよ

カエル「ノイズだと音だと思う人がいるかもしれないけれど、ここでは手のブレによる線の揺れとか、ちょっとした目立たない汚れとか、そういう制御の難しい部分とでもいうのかなぁ」

 

主「CGだと綺麗過ぎてしまうところがあるんじゃないかな?

 一方、手作業でセッティングされたものはどうしても若干のブレは生じてしまう。もちろん、観客が気がつかないほどの無意識レベルでね。

 そのブレが暖かみにつながっているのだろう。

 アニメーションとは『物に魂を込める』というならば、この作品は間違いなく人形に魂がこもっている。

 アニメーションには身体性がない、とかいう意見が如何にアニメーションを知らないか、ということがよく分かる作品だよ」

カエル「……えー、ちょっと前に話題になった案件の怒りが唐突に湧いてきたようなので気にしないでください」

 

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光と影の演出もまた見事! 作品全体にパペット以外の工夫も凝らされている

(C)RITA PRODUCTIONS / BLUE SPIRIT PRODUCTIONS / GEBEKA FILMS / KNM / RTS SSR / FRANCE 3 CINEMA / RHONES-ALPES CINEMA / HELIUM FILMS / 2016

 

 

生きて動くズッキーニたち

 

カエル「でもさ、実際にはパペットのアニメーションなのに、そこに人生というか実際に動きている子供たちの姿が思い浮かぶんだよね。

 だからこそ、この可愛らしい姿がより愛おしく、そして抱きしめてあげたくなってくるわけでもあって」

主「かわいいだけじゃない、この作品は子供達がそれぞれの抱える事情などにスポットライトを当てているけれど、それが現代社会を見事に反映している。

 この作品はオリジナル音声だと子供が声を当てているんだけれど、日本でよくあるアフレコ(映像に声をあてる形式、アフターレコーディング)ではなくて、プレスコ方式(先に声の演技を撮り、そこに映像を合わせていく)を採用している。

 だから子供たちの声が『絵に合わせよう』としていないこともあるのだろうけれど、すごく生き生きとしているんだよね

 

カエル「なんていうか、子供特有の会話の間ってあるもんね。相手の話が終わる前に被せるように話し始めたりとかさ、急に脈略もなくふざけ始めたり……」

主「自分は基本的に子役は嫌いだけれど、その多くが子供らしくないからなんだよね。だけれど、本作は子供がすごく生き生きと動いているし、その実感がある。

 本当に子供がそこにいて、そして目の前で悩んでいるような思いが伝わってきて、序盤から涙が止まらなくなってくる。何度目頭を抑えたことか……

 

カエル「あの独特の大きな目がこちらを観るときに、ちょっとどきりとするんだよね……」

主「画面を通して観客を観ているような気もしてくるし、その瞳が訴えかけてくる思いがダイレクトに伝わってくる。今作は頭と目が不自然に大きいけれど、それは感情表現を訴えるためのものでもあって、その効果はすごく大きかったよ」

 

 

 

 

2 彼らのおかれた境遇

 

カエル「今回は直接的なネタバレなしで語っていこうと思うけれど……まずは何よりも、スタートから辛いお話だよね……」

主「いきなりこの映画は我々観客に訴えるものがある。

 ズッキーニが抱える孤独と絶望、その愛などが凝縮されたスタートであり、この段階で他のアニメーションとはまた違うということがよくわかる

 

カエル「子供時代に過酷な環境を生きてきた……自分は『サバイバー』と呼んでいるけれど、決して順風満帆な人生を歩むことを許されなかった子供たちの物語なんだよね。

 でも、じゃあこの子たちは悪いの? というとそんなことは全くない。

 ただ、親を選んで生まれることができないという、どうしようもない現実を描いている

主「……ここがさ、本当にうまいんだよ。ズッキーニの環境もそんなに良くないんだけれど、でもお母さんがああなってしまうのも良く分かる話でさ。絶望感を子供に押し付けてはいけないんだけれど……

 あの家族は一種の共依存関係のようにも見えて、母親も母親でズッキーニを必要としているし、ズッキーニも当然母親を求めている。

 それがどうしようもなく歪んでいるというのが……胸にグッと来るんだよね」

 

カエル「そしてある出来事が起きてズッキーニも施設に送られてくるだけれど、ここから涙が溢れ出してとまらなくなるんだよ。

 ここで出てくる子供達は確かにちょっとおかしくて……おかしいというのは頭がおかしいとかではなくて、どこかで根本的な安心感が欠けているような子達で、一挙手一投足から、彼らの抱える孤独や闇が垣間見える。

 そしてその事情を知った時には、もう涙腺が決壊していてさ」

 

主「この作品が真に褒められるべきは、彼らが何でここにいるのか? ということに対して全く逃げなかったことにあると思っている。この事情が本当に重くて……中には『嘘でしょ?』と思うような理由で入所している子供もいる。

 久々に世界的に、しかもアニメーションではあまりお目にかかることのない、映像業界でもタブー視されている理由でここに入所している子供を見たような気がする。

 その事情を知る前と後では、全く印象が違う。それぞれが力を持って生き始めるんだよ

 

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彼らの瞳が見つめるもの……

それぞれの事情に心がキュッとなる

(C)RITA PRODUCTIONS / BLUE SPIRIT PRODUCTIONS / GEBEKA FILMS / KNM / RTS SSR / FRANCE 3 CINEMA / RHONES-ALPES CINEMA / HELIUM FILMS / 2016

 

 

子供らしさが溢れる暖かい作品

 

カエル「でもさ、むやみやたらに重い、辛い作品ではないんだよね。

 子供らしい下ネタ発言があったり、その交流やイタズラなども笑える部分が多くて、しかも友情も初恋も兼ね添えているし。

 特に10歳前後の子供だったら、性に対する知識が少しずつつき始めてくるぐらいの年頃だと思うけれど、そのばかばかしさとこちらが答えに窮するような質問もあったりして!

 あの集合写真が良かったなぁ……ああいう馬鹿ってできるのは子供時代だけだけれど、それがよく表現されていたよね」

 

主「そしてその子達を支える大人たちの対応もまた見事なんだ。

 警察官のおじさんの対応だって、簡単にできるものじゃない。

 この作品の素晴らしいところは、それぞれの人生が思い浮かぶところなんだよ。アニメーションのキャラクターは所詮虚構の存在だし、そんな人物はどこにもいない。だけれど、この映画は『ズッキーニ達が生きている』と思わせるほどの魂がある。

 それぞれの人たちが……それこそ警察官のおじさんとかさ、大人や脇役ですらどのような人生を生きてきたのか、考えさせられるようにできている」

 

カエル「見終わった後に『彼らはこの先どのように生きるのだろうか?』ということに思いを馳せるよね」

主「でも、それも重いだけの陰鬱とした物語ではないからなんだよ。確かに複雑な境遇の子供達だけれど、でもその中には色々な感情がある。絶望もあれば希望もあり、悲しみもあれば喜びもある。

 その当たり前に存在する『喜怒哀楽』を描くことというのは、とても当たり前で簡単なことのように思うかもしれない。だけれど、これは非常に難しい。実在の人間が演じている実写映画でもそれはできないことが多い。

 本作は『キャラクター』ではなく『人間』を描き出すことに成功した、稀有なアニメーションの1つなんだ

 

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深く印象に残るキーアイテムの凧

(C)RITA PRODUCTIONS / BLUE SPIRIT PRODUCTIONS / GEBEKA FILMS / KNM / RTS SSR / FRANCE 3 CINEMA / RHONES-ALPES CINEMA / HELIUM FILMS / 2016

 

 

逃げない物語

 

カエル「最大の評価したいポイントというとここかもね」

主「この作品は全く逃げていません。

 例えば、子供向けのアニメーションだからともっとマイルドに描くこともできるでしょう。ここまで過酷な現実を描かないこともできるかもしれない。

 だけれど、世界中にはこういう境遇の子供達がたくさんいる。

 その子達の多くは、本人は何も悪くないのにも関わらず、辛い生活を送ることになってしまっている。

 そういった子供達に目を向けて、しっかりと向き合い、そして見事に描ききった本作が絶賛されないで、何を評価すべきなのか? というのが自分の率直な思いでもある

 

カエル「もちろん色々な評価のやり方はあるにしろ、最大の弱者に対する救済をパペットアニメーションで描いているし、しかも60分台と非常に短いから子供達にも飽きずに見てもらえる時間に抑えているし」

 

主「実はとても残酷な物語でもあって、母親に呼ばれていた『ズッキーニ』という名前にこだわりを持っているけれど、この名前の意味は日本語にすれば『ヘチマ』だと考えていいらしい。

 多分、この愛称ってバカにしている部分もあると思うんだよね。

 だけれど、そこにズッキーニはこだわりを持っている。それほどまでに強く母を求めている子供だということもできる。

 しかし、考えてみれば彼はその思いを抱えながらも、自分の起こしてしまった行為と向き合っていかなければいけない。

 しかも10歳の少年がこれから先、一生その思いを抱えて生きなければいけないんだ。

 でもさ、そういう子供ってどこにでもいるんだよ。社会が、大人が目を向けないだけで、それぞれの事情を抱えている子供たちってたくさんいる」

 

カエル「本当に直視しないといけない子供達だよね……」

主「今年だけで何度も語っているけれど、自分は物語の意義は『祈りと願い』だと思っている。じゃあ、今作は誰に対する祈りと願いなのか?

 それは辛い境遇にいる子供への祈りと願いなんだよ。

 そして同時に、全世界の子供達への祈りと願いである。

 その小さな手のひらに抱えきれないほどの絶望と苦難を味わいながらも、精一杯未来に向けて生きて欲しいという、そういう願いに溢れている。

 それを実写映画ではなく、子供も楽しんで観ることのできるアニメーションという形態で、逃げずに描ききったこと……そして生まれたこの大傑作を評価しないで、何を評価するんだって話なの!

 

 

 

 

最後に

 

カエル「では、熱い感想の最後といきましょう」

主「この作品では凧がとても印象的で、監督はインタビューで『彼らが高く飛び上がってほしい。だけれど、その根っこには地上と紐で繋がっていることを表現した』みたいなことを語っていたけれど、もうこの発言だけで監督がどんな思いで撮ったのか、ということも伝わってくるでしょ?

 技術的にも素晴らしいものがたくさんあるけれど、それ以上に今作はその精神性を受け取ってほしい。

 本当に誠実な作品で、今年でもかなりの上位に来ることは間違い無く、しかもこれだけ感動した作品はもしかしたらこれが1番になるかもしれない……そう強く思わせるほどの作品です。

 ぜひ鑑賞してください!

 

 

ぼくの名前はズッキーニ

ぼくの名前はズッキーニ

 

 

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