それでは、2019年に最も注目する映画として名前を挙げていた『きみと、波にのれたら』の感想記事といきましょう!
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この時が来るのをどれほど待ちわびたことか……
カエルくん(以下カエル)
「2019年始まってすぐに発表した”注目する映画”としても紹介していたもんね。
個人的な注目度もマックスを記録していました」
主
「湯浅政明は最も注目するアニメ監督の1人である。
特に近年は『夜明け告げるルーのうた』が世界最大のアニメーション映画祭とも言われるアヌシー国際映画祭にてグランプリにあたるクリスタル賞を受賞。この年は日本勢では『この世界の片隅に』や『聲の形』もノミネートされていながら、それらを抑えての最優秀賞受賞という結果となっている。
他にもテレビアニメでは『四畳半神話大系』『ピンポン』で確かな評価を得ているし、特に2018年はすべての映像表現、物語表現の中でも1番と評価した『デビルマン crybaby』をNetflixにて配信するなど、精力的に活動している」
カエル「毎年これだけの規模の作品を監督できるのだから、素晴らしい才能だよね。
湯浅ファンからするととても嬉しいことではないでしょうか?」
主「今回は試写会に参加させていただき、一足お先に鑑賞してきたので、その内容についてネタバレなしでは魅力について語り、ネタバレありパートではより詳しく論じていきたいと思います。
では、感想記事のスタートです!」
作品紹介・あらすじ
世界的に高い評価を受ける湯浅政明監督のオリジナル長編アニメーション映画作品。今作では脚本家に『夜明け告げるルーのうた』の吉田玲子と再びタッグを組み、物語を盛り上げていく。音楽は『夜は短し歩けよ乙女』などの大島ミチルが担当するほか、キャラクターデザイン・総作画監督に『デビルマンcrybaby』でもメインスタッフを務めた小島崇史が起用されている。
ボイスキャストには声優初挑戦のGENERATIONS from EXILE TRIBEの片寄涼太と川栄李奈がW主演として共演するほか、松本穂香、伊藤健太郎などが物語を盛り上げている。
サーフィンを趣味として愛する女性、向水ひな子(CV川栄李奈)は自宅のマンションで発生した火災をきっかけとして消防士である雛罌粟港(ひなげし・みなと CV片寄涼太)と知り合い、恋に落ちる。順調に恋を深めていく2人であったが、そんなある日一人でサーフィンをするために海へと向かった港は溺れている人を救うために救助に向かうのだが……
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感想
では、Twitterの短評からスタートです!
#きみと波にのれたら
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2019年6月13日
湯浅政明監督が表現してきたテーマがギュギュッと詰まったどストレートなラブストーリー
作画や動きの独特な美しさは健在であり、いまこの作品を制作する意義をよく感じた
とてもわかりやすいので多くの観客に届きやすいのではないだろうか pic.twitter.com/n0ZFNFoEfS
印象としてはプロメアの熱さやシンプルで幾何学的なアニメの魅力と海獣の子供の精緻で密度の高い作画のちょうど中間くらい
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2019年6月13日
この2者が極端な方向にあったからちょうどいい、見やすい塩梅になっていた
キャラクターの可愛らしさもあり劇場内ではちょいちょい笑い声が上がるシーンも
欠点は物語がストレートすぎるがゆえに弱く感じることが
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2019年6月13日
テーマやメッセージ性はいいだけにストレートすぎるのが気になった
(まぁ、最近ひねった作品が多かったから反動かな?)
あとは…声優かなぁ
悪いとは言わんが…うむ
ただ自分はラブストーリー音痴なのでこのくらいストレートな方が一般の方(特に主題歌や役者目当てで来た若い観客)に届く気がする
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2019年6月13日
マインドゲームとかはやりすぎなぐらいゴリゴリやっていたし
今回は期待値も大きかっただけに、連続したツイートをしました
カエル「えっと……結局は、良かったの? 悪かったの?」
主「それはとても難しい問題だろう。
というのも、湯浅政明監督作品としてはそれなりに異例の作品と言えるかもしれない。近年は様々な作品を作ってきたけれど、実はここまで全うでストレートな恋愛作品というのは、今までなかったのではないだろうか?
もちろん色々な作品で恋愛要素はあるものの、それはあくまでも添え物に過ぎなかった印象がある。
今作はそれをどストレートに発揮してきたために、大きな違和感をなってしまった部分もあるし……何よりも、自分が恋愛物語が苦手というのもあるかもしれない」
カエル「もちろん『四畳半神話大系』や『夜は短し歩けよ乙女』などもあったけれど、あれは恋愛作品の要素もあるけれど、それ以上にコメディや人間賛歌の要素もあったよね?」
主「それで考えると、今作はかなり異例の作品となっている。
だけれど、逆に言えばかなり”見やすい”作品となっており、湯浅作品入門編としてはうってつけなのではないだろうか?
それで湯浅監督の売りや魅力が伝わるかというと、自分にはなんとも言えない部分もあるけれど……でも、決して悪い作品ではないだけに、言葉が難しくなる部分もあるかな」
魅力① 映像表現
では、今作の魅力について語っていきましょう!
何と言っても映像表現が第一の魅力となるでしょう
カエル「湯浅監督といえば通称”ドラッグ作画”と呼ばれるように、他とは違う独特のアニメとなっています。
これは言葉では説明しづらいのだけれど……輪郭がグニグニと動いたりしながら、崩れているようにも見えるんだけれど、しっかりと計算の上でに成り立っている表現とでも言うのかな?
かなり独特であり、もしかしたらあまりの奇抜な動きに面を喰らうかもしれませんが初期の『クレヨンしんちゃん』や『ちびまる子ちゃん』などの特徴的な映像は湯浅政明によるものが多いです」
主「特に自分の中では湯浅監督と、その盟友である伊東伸高の印象が強いかな。
今作でもその魅力は健在であり、水の表現などは特に見事。
動くシーンに関してはうっとりするほどの快楽性に満ちており、音楽と合わさってダンスをするようなシーンもあるけれど、そこはアニメでしかできない味に満ちています。
また予告編でもありますが、イルカのようなクジラのような存在とデートをするシーンでは、その流動的な動きが可愛らしく見えるなどの多くの工夫が凝らされており、驚くほど!」
そういう表現の良さがわからない! という方には……やっぱり海の描写が1番わかりやすいかな?
今作でも普通の海の描写と、そうではない描写があり『夜明け告げるルーのうた』にも見られた真四角のように海の水を描写するなどの面白い試みがあります!
主「2019年のアニメ映画では『プロメア』がとにかくシンプルに、幾何学的な模様で炎を表現し『海獣の子供』はその逆にとにかく聖地で密度の濃い描写が目立った。
今作はそのちょうど中間ほどで、多くの人に受け入られやすいバランスになっているのではないだろうか?」
魅力② 多くの人を意識したストレートな物語!
今作はとてもわかりやすい恋愛物語になっているね
湯浅作品の魅力でもあり欠点でもあった”分かりづらさ”が減った印象だな
カエル「先ほどから語っているドラッグ作画の素晴らしさもありますが、もしかしたら普段アニメに見慣れていない方には、この映像表現がダメ! という方もいるかもしれません。
また、物語もちょっと癖のある作品もあって……『デビルマンcrybaby』などは原作を現代劇として描いていますが、結構苛烈な描写も多くて人を選びそうかも……」
主「その点、今作はとてもわかりやすいです!
自分が見終わった後に『……なんてストレートな作品だ!』と思うほどのドスレートな作品を投げてきた。だから、もしかしたら目の肥えたアニメや映画ファンよりも、普段アニメを見ない人、あるいは声優目当てできた若い人の方が受けるかもしれない」
カエル「以前、インタビューでも湯浅監督は『今後は多くの人に見てもらえる作品を作りたい』『ファミリー層を意識して作りたい』というようなことを語っていました。
確かに前作の『夜明け告げるルーのうた』はファミリー向けの要素も強くて、できれば子供さんと一緒に見て楽しんでほしい、現代のトトロのような人気も獲得できそうな作品だったかな」
主「多くの人に届けようとしすぎて、自分のような湯浅監督に大きな期待をしていた人間には物足りないと思う部分もわずかにはありますが、複雑さを増していくだけでなくシンプルでありながらも、監督の作家性も感じられる作品を作り上げたというのは、純粋に賞賛すべきだと思います。
それに現代の名脚本家である吉田玲子らしさを感じさせる見事な描写や対比などもあるので、コアなアニメファンも物語の奥にあるものを感じることでより楽しめるのではないでしょうか?」
欠点として……ストレート”すぎる”物語
一方の欠点として上がるのは、今度はストレートすぎる物語ということだけれど…
ここはバランスの難しさを感じたかなぁ
カエル「魅力としてもストレートな物語というのを挙げておいて語るのもなんだけれど、ストレートすぎる物語もダメなんだ?」
主「ダメというか……物語が致命的にどうのこうのというものでもない。
むしろ、このようなバランスにしたのは大いに理解できる。恋愛物語としてラブラブなシーンもあり、そしてドラマが盛り上がるシーンもある。
だけれど、もう1つ何か大きな物語を感じさせて欲しかった」
カエル「大きな物語?」
主「例えば『夜明け告げるルーのうた』では、”夢を追うこと”に対してどのように向き合うのか、というのが主題となっている。
もう一方で人間と人魚の間に無意識の差別があり、それが融和の物語となり現代につながっている。
だけれど本作は恋愛物語が主題としてある一方で……もう1つの物語もあるんだけれど、その魅せ方が弱いように感じてしまった」
う〜ん……弱いんだぁ……でも、それが弱いからこそ恋愛物語が強調されてストレートに響くようになったんじゃないの?
そうなんだよなぁ……多くの人に届けようというバランスの上には成立している。
主「湯浅監督ってものすごくいい人なんだよ。
それは作品を見ていても伝わってきて、底抜けに優しい視点を持っている。
だけれど、優しすぎるからこそ『デビルマン』『ピンポン』のような人間の罪深さや才能の壁を感じさせる物語の方が、向いているのではないだろうか?
ただし『マインドゲーム』『カイバ』のような尖った作品を制作されても、それが届くとは思えないので、ストレートな物語を作ったこと自体は否定できない。
今作ではその壁の作り方が甘いのと……あとは、単純に予告編で見せすぎだよなぁ。
あの展開を見せなければ、また観客が受ける印象は大きく変わっただろうに……もったいないなぁ」
声優について
今作の声優についてはどうだったの?
……多分、賛否は割れる
カエル「あら〜……ということは、あんまりよくないんだ」
主「湯浅作品の声優起用って独特なところがあって難しいんだよねぇ。
それこそ『マインドゲーム』なんて吉本芸人を起用しているし、それだけ聞くとどう考えてもダメダメな作品のようなのに、実はそれが見事にハマって面白い演技になっていたりもする。
このあたりは半分ギャンブルのような部分もあるけれど……今回は……う〜ん、個人的には外した感がある」
カエル「でもさ、うちとしたら川栄李奈なんてとても高く評価している女優さんじゃない?
それでもダメなの?」
主「ダメ、というほどではない。
歌のシーンなどはとても自然だったけれど、やっぱり声だけの演技の表現が足りてない印象はどうしてもあった。
また片寄涼太の声がずっと同じように聞こえてしまったのもなぁ……大きな変化を遂げる役ではないから、それはそれで合っていることはあっているんだけれど、でもやっぱりアニメに見慣れていると違和感につながってしまうところもあった。
ここは多分賛否が割れるかなぁ……自分は正直、慣れたアニメ声優の演技で聞きたかったという思いが強かったね」
以下ネタバレあり
作品考察
本作の問題点① 参考になった作品と比較して問題点を挙げる
では、ここからはネタバレありで語りますが、まずは問題点に触れておきましょう
先ほどから語る”ストレートすぎる”という点についてさらに踏み込んで語ろうか
カエル「えっと……どういうところがストレートすぎるの?」
主「まずは、湯浅監督が多くのインタビューであげている、今作の参考になったこの作品を引き合いに出そう」
カエル「『ゴースト ニューヨークの幻』だね。
基本的に4人の物語であったり、恋人が亡くなってしまい幽霊になっても守り続けるという設定でなるなど、本作に大きな影響を与えたことをうかがえる恋愛映画の名作です」
主「ただし、このゴーストと大きく変わっている点がある。
ゴーストって恋愛映画でもあるんだけれど、同時にサスペンス映画でもあるんだ。
主人公が事件に巻き込まれてしまうけれど、その謎を追う物語でもあり、恋愛描写とはまた違う魅力がある作品でもある。
ちなみにゴーストはテーマソングも非常に有名なんだけれど、陶芸を作るヒロインの後ろから手を重ねる男のシーンなどはSEX以上に官能的なシーンとなっている。
これは今作でも踏襲されていると思われる部分もあって……ダンスのシーンやイルカに入った港とのデートシーンなどは、とても官能的だった。拙いようにも聞こえる楽曲を歌い合うシーで、さらに二人が惹かれあっていることがうかがえる名シーンだろう」
……あれ? 褒めているんじゃん
だから悪い映画ではないの!
主「ただし、本作では作中の物語において大きなことがあまり起こらない……というか、最大の出来事であるはずの死を予告編でバラしている。
正直、それ以降は物語が弱いと感じてしまった。
ゴーストのような展開をすると誰か悪役を出す必要があるけれど、そうはしなかったのは湯浅監督らしい優しさだとも思うけれど、ただしそれが物語としてパンチを弱めてしまう結果となってしまった感もあるかな」
本作の問題点② 楽曲の使い方
え、これはファンの人に怒られるんじゃ……
いや、楽曲そのものが悪いというわけではないです!
カエル「そうだよね、片寄涼太などが好きな人が見にくるような映画に仕上がっていたし、結構耳に残る音楽になっていたよね」
主「その音楽そのものが悪いわけではない。
これはもちろん大島ミチルの劇伴だって悪くないどころか、とても良いものです。
また、湯浅監督自身は音楽と絵の合わせ方はうまい人で……『ちびまる子ちゃん わたしの好きな歌』の中でも特徴的な映像と音楽の合わせ方をしているけれど、これは今でも伝説のように語られているし『夜明け告げるルーのうた』は音楽との合わせ方が最大の注目ポイントだったと言っても過言ではない。
だけれど、今作は……場面場面ではいいんだけれど、使い方があまりうまくないように感じられた」
楽曲の使い方ねぇ
単純に同じ楽曲を使いすぎなんだよ
主「これって最近他の映画でも……言ってしまえば『小さな恋のうた』や『プロメア』でも気になったポイントでね。音楽自体は非常にいいのだけれど、でも同じ音楽を何度も使われると飽きることもがある。
湯浅監督が”1つの音楽や少ないキャラクターを深掘りしたかった”という意図はよく分かるし、それはそれで間違っていない。ただ、キーとなる音楽を何度も……しかも1種類しかないのに、何回も何回も使うのはどうなのだろうか?
自分が比較としてあげてしまうのは新海誠なんだけれど、あの人はキーとなる楽曲は1回しか使わない。だからこそ名場面と音楽がバッチリとかみ合い、印象に強く残る。
せっかくの楽曲を少し使いすぎなのではないか? という違和感は抱いてしまったかな」
褒めるポイント① オムライスに代表されるキャラクターの見せ方
……なんかダメな作品みたいになっているけれど
いや、でもキャラクター描写なんて非常にうまかったよ
カエル「小タイトルでは『オムライスの見せ方』とあるけれど……」
主「湯浅政明の1つの特徴としてあげられるのが『不完全な人間の人生賛歌』ということだ。
簡単に以下に書くと……
- マインドゲーム→未練たっぷりの不甲斐ない男の人生賛歌
- 夜は短し〜→好きな女性にアタックできない男の人生賛歌
- 夜明け告げる〜→夢を終えない若者の応援
とりあえず映画作品だけで見ても、このように何らかの不完全な人たちを温かく見守るような作品になっている。
他にもテレビアニメでも『四畳半神話大系』などの森見登美彦作品がそもそもそういった構図になっていることもあるけれど『ピンポン』でも原作と比べるとチャイナなどのサブキャラクターの描写が非常に厚くなっているのが印象に残る」
カエル「他にも短編だと『Kick-Heart』も決してかっこいいと呼べる主人公像ではないよね」
主「このように湯浅監督作品は”自信がない人、挫折した人”を温かく描くという特徴がある監督でもある」
そして今作でもそれが健在であり、その象徴となるのがオムライスである
カエル「ひな子はオムライス作りが苦手なんだよね」
主「お母さんと港はオムライス作りがとてもうまい。さらに言えば、港は何でもそつなくこなしてしまう完璧超人でもあり……序盤で今作で友人の役割である山葵が必死に下から登っていくのに、港が上からレスキューカーのハシゴに乗ってひな子を救出したシーンに関しては、絶望的な違いすらも表現していた。
誰もが認める完璧な存在である港に少しでも近づきたい、あるいは尊敬するという中で、その存在がいなくなった時にどのように受け止めるのか……それを描いた作品でもあるわけだ。
最後にオムライスがうまく作れる→人間としての成長を表している。
最初は倒れかけの段ボールをなんとか支える→自分のことでも精一杯だったひな子が、他の人を救うことができるようになるという点を見ても本作が伝えたい思いに非常に溢れていると言えるのではないだろうか?」
吉田玲子作品という観点から見て
うちでは現在日本で最高の脚本家であると考える吉田玲子の視点から語っていきましょう
ただし脚本家の功績がどこまであるかは考慮する必要があるだろう
カエル「脚本家の提出した本に対して、監督など多くの人が手直しすることが多いので、その物語の全てを脚本家の意図通りになっているわけではない、ということだね」
主「まあ、当然といえば当然のことなのかもしれないけれど……
まず、吉田玲子の特徴の1つとして”見せ場を言葉で語らない”ということがあるだろう。
これは『ガルパン』にしろ、あるいはよくコンビを組む山田尚子作品もそうだけれど、見せ場はシュチュエーションと映像で魅せることを重視しており、会話などで説明することが少ない。
これは言葉を担当することが多い脚本家としては、勇気のあることではないだろうか?」
カエル「監督などのクリエイターの力と観客を信じていないとできないよね。
多くの大作邦画が目玉シーンでも説明してしまうものだし……」
主「そして今作は『若おかみは小学生』と重なるところがある。
愛する人においていかれた女性が、どのように立ち直り自立するのか……その過程で幽霊のような存在と出会うという点でも共通している」
もちろん『若おかみ〜』は原作付きの作品でもあるので、ここも単純な比較はできません。この手の作品では王道の設定と物語と言えるかもしれません
どちらも”愛する人の死を受け入れて自立して、自分の道を見つける”という結果は同じである
主「ただし、そのラストの過程が異なるのに注目したい。
今作の場合は大泣きするんだよね。
そこは感動ポイントでもあるけれど……”愛する人の死”というものに本当に向き合って、正しい意味で前に進むためのお別れの儀式として描いている。
自分は今作の描き方の方が好みかなぁ……
この死と向き合い方というのは重要な儀式だからさ、自発的なものであってほしいという思いがある。
ちなみに近年の吉田が脚本を務めた作品では『かいけつゾロリ ZZのひみつ』も最愛の母との再会と別れをテーマにしており、非常に感動する隠れた傑作となっている。
死やあるいは卒業などと言った別れなどについて誠実に向き合っており、その過程とラストをしっかりと描くことで感動を呼ぶ脚本家ということがわかる」
今作のもう1つのテーマとは?
じゃあさ、今作が表現したものって何なの?
おそらくは……結果的になるかもしれないけれど”東日本大震災で生き残った人”に対する癒しの視点ではないだろうか?
カエル「これは『夜明け告げるルーのうた』でも語っていたよね」
主「今作では津波ではないものの、より直接的な理由で海の事故により港は亡くなっている。
そして生き残ってしまったひな子はその喪失感を戦いながら、ある種の妄想のような思いを抱き港を追いかけ続ける。
だけれど、その港は奇跡を起こして去ってしまう……多くの人の命を助けながらね。
今作は”波”や”海”というワードが非常に重要だけれど、波というのは時に人の命も奪うものだ。それこそ津波なんてその象徴的なものだろう。
今作ではその波や海というものによって奪われる命を描きつつ、ファンタジーを交えながらその波が守る命も描き抜いた」
湯浅監督はインタビュー等で『海は重要な登場人物だ』と答えているね
海や波を描きたかったというのはあるだろうけれど、結果的に”荒々しいだけではない海”を描き、それによって救われる命も描いている
主「そして波によって亡くなってしまった人たちの癒し、残されてしまった人たちの後悔なども救うように描写に満ちている。
自分はいつも語るけれど『物語とは願いであり祈りである』という文脈を当てはめるならば、湯浅監督はいつもそのような表現をしてきた……特に『デビルマンcrybaby』の願いはとても重く、世界に投げかけるに足る重要なものだった。
今作もそれは同じであり……確かにストレートすぎる面はあるものの、恋愛描写とともに東日本大震災にも言及する物語とも受け取れる。
そこには願いも祈りも込められており、やはり表現者としてとても重要な事を正面から描いていたる感じさせてくれたね」
まとめ
では、この記事のまとめです!
- 恋愛描写などがストレートすぎるきらいはあるものの多くの人に届きそうな作品に!
- 映像表現は特に見事! 海や水の表現が多くの感情を呼び起こさせる!
- ただし楽曲の使い方や声優に関しては賛否が割れる予感が……
- 湯浅監督らしい優しい視点に満ちた物語に!
いろいろ語りましたが、意義のある作品だと思います
カエル「まあ、うちはちょっとハードルを高く設定しすぎた感もあるからね……」