物語る亀

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物語愛好者の雑文

『カメラを止めるな!』何が良くて何がダメ? ネタバレ考察&解説と本作に映画業界関係者が熱狂する理由とは?

 

 

ではカメ止めの記事の2つ目になります

 

前回はノリと勢いでネタバレなしを乗り切ったからね

 

カエルくん(以下カエル)

 「今作品はネタバレ厳禁なので、語り方がとても難しかったというのもあります」

 

「もう公開から2カ月過ぎたし、そろそろ言いたいこといっぱいあるんで……ということで、ある程度はネタバレしながら語っていきます。

 なお、本作はネタバレなしの方が絶対に面白いので、これから鑑賞する人はこの先は読まない方が絶対いいですよ!」

 

カエル「じゃあ、冷静にね? 冷静になりながら語っていこうか」

主「この記事は長所と欠点の両論表記をしています。

 まあ、なんだかんだ褒めが多いのかな?

 あと長いので、そこのところよろしく!」

カエル「またざっくりと……

 では記事を始めます!」

 

 

 

 

 

 

 

記事を始める前に

 

本作の評価として

 

記事を始めていきますが、その前に語りたいことがあります!

 

今作はやっぱり『上手い』映画ですよ

 

カエル「う~ん……あれだけ感想記事でも色々語ったけれど、やっぱりその評価は変わらないの?」

主「変わらない。

 確かに自分は特別好きな映画じゃないし、色々と言いたいこともある。

 だけれど、本作は売れるべくして売れているし、その理由もとてもよくわかるくらいに上手い映画でもある。

 そして……上手さの中に、ほんのわずかな汚いと思わせる部分もある

 

カエル「……汚い?」

主「この汚いというのは『卑怯、ずるい』というよりは『強か』だという意味に捉えて欲しい。

 これはもしかしたら結果論かもしれないけれど、もしもこの状況を監督やプロデューサー、企画者が狙っていたとしたら、相当用意周到であり、天才的な読みをしているといってもいいほど」

 

カエル「……それは褒めているの?」

主「少なくとも賛辞のつもりだよ、自分は。

 映画監督に限らないけれど、表現者とは時には政治力や計算高さも必要な時もある。色々な人の思惑がありつつもその妥協点を探りながら、作品をより魅力的なものにする必要がある。

『いい映画やいい作品ができればそれでいい』とはいかないのがプロであり、例えば原作や作者の意向、プロデューサーやスポンサー、役者や脚本家の言い分や作家性、撮影条件、そして何よりも予算の範囲内で収めることも計算しながら、いい作品を作ることも求められる。

 特に本作は圧倒的に資金が足りない中でできることを最大限に考え、そして批判ポイントを見事にカバーしているという点において、強かであり、レビュアーとしては上手い分、歯がゆくなるときもあるね

 

カエル「……よくわからないので、より詳しく語ってもらいましょうか」

 

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カメラを止めるな!

(C)ENBUゼミナール

 

作品を取り巻く環境について

 

作品を取り巻く状況の変化がすごいよね

 

まず、この状況の変化を理解して欲しい

 

カエル「多くの批評家やライター、ブロガーやTwitter上での有名レビュアーが絶賛した時の状況と、今の状況は全く違うということだけれど……」

主「これは自分の話だけれどさ、小規模公開映画はあまり悪く言えないんですよ。

 自分も少し前は小規模映画でも手厳しいことを語ったりもしていたけれど、最近は小規模公開映画は相当評価基準を緩めにしています。

 あ、アニメは別ですが」

カエル「まあ、そりゃ大規模公開のお金がある映画とはまた違うわけだし……」

 

主「これは小規模公開とか関係ないけれど、自分は褒めるときはオーバーなくらいに褒めます。

 今年1番の出来! なんて何回も使うし、傑作! くらいだったら週1くらいで言っているかもしれない。でも、映画館に足を運んでもらうためには、好きな作品への賞賛くらいいくらでもしますよ。

 小規模公開映画ならばそれはより過剰なものになり、普通の出来栄えの、ともすればちょっと退屈な作品でも『欠点はあるけれど、ここはいい!』というオススメの仕方になる

 

カエル「カメラを止めるな! は元々全国2館という小規模上映だったわけだけれど、今は全国200館以上での上映にまで拡大しているわけで……」

主「その違いって実はとても大きい。

 最初に映画を絶賛した人たちは『小規模映画だ』という意識で見ているし、ものすごく褒めたくなる。そういう構造を獲得している映画だからだ。

 でも、今映画館に向かう人々は『いま流行っている映画だから行こう』という思いで行く。もしかしたら『ジュラシックワールド 』や『検察側の罪人』などのような大規模上映映画と、意識は変わらないかもね。

 この違いの大きさを理解してほしいかな」

 

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ゾンビ映画描写もありますので、グロが苦手な人は心して行った方がいいかも?

(C)ENBUゼミナール

 

映画館で鑑賞した際の変化

 

カエル「この作品を鑑賞したのは2回ですが、最初は上映5日目くらいかなぁ? そのくらいに、新宿のK’Sシネマが満員であり、話題の時に鑑賞しました。

 そして2回目は8/26なので、だいぶ話題になって少しだけ落ち着いてきたかなぁ、というタイミングですが……公開2ヶ月ほど過ぎているのに、400席以上ある大きなスクリーンがほぼ満杯という異常な客入りの中で鑑賞しています」

 

主「ただし、やはり熱量は全く違うね。

 K’sで鑑賞した時は小規模映画の上映が多い、アットホームな映画館ということもあり、少ない客席数でリピーターも含めてみんなゲラゲラ笑っていた。序盤のシリアスな場面も笑っている人がいて、伏線だと理解してモヤモヤした気持ちを覚えているし、それにノレなかった自分がいた。

 一方で大きな映画館で見た時は、笑いもあるけれど、普通のコメディ映画を見ている時と同じくらいの熱量かな。

 例えるならば2017年の『銀魂』で、ある国民的人気アニメ映画をパロディする、1番笑える場面の方が、単純な笑いの量は大きかったかもしれない。

 もっとも、それは瞬間最高の話で、あれだけ笑いが絶えない劇場というのはコメディといえども珍しいけれどね

 

カエル「……それってやっぱり大きい?」

主「大きいよ!

 先ほども挙げたように、小規模上映映画の独特の雰囲気や、ファンの応援したい意識ってあるからさ。

 自分がこの現象と似ていると思ったのは『この世界の片隅に』で、実は自分はここ最近あまり触れないようにしている。というのも、この世界〜は熱狂的なファンが非常に多いからであり、そこに若干引いている部分もある」

 

カエル「……まあ『聲の形』に関してはうちが引かれるほどの熱狂するファンかもしれないけれどね」

主「『この世界~』も『カメ止め』もファンをスタッフにしてしまった。

 宣伝しなければいけない、この傑作を広めなければいけない! という意識を生み出し、宣伝部隊を勝手にファンが務めてくれるくらいに高い評価と熱いファンがついた。

 ここまでの熱量は大規模公開映画ではなかなか難しい。一方で、ファンが過激化してしまうかもしれないリスクはあるけれど……これも小規模映画の味なのかな。

 とにかく! 初期の鑑賞した人たちと、ここ最近、あるいは今から鑑賞する人たちは状況が全く違いますよ! というのは、最初に語っておかないといけないね

 

 

 

 

以下ネタバレあり

 

本作がうまい点

 

基本的な構造について

 

ここからはネタバレありで語っていきます

 

本作の構造が面白いんだ

 

カエル「えっと……構造?」

主「もうはっきりいってしまうけれど、本作自体は3つの層によって成り立っています」

 

 作中の作中作(最序盤に登場する作中作内の作中作)

 作中作(スタートから37分間にわたるワンカット)

 作中の現実世界

 

カエル「映画を作る映画の話だもんね」

主「実はその外にもう1つ階層があって、それは『本当に撮影している層』なんだよ。

 

  1. カメ止めを撮影している現実の上田監督たちがいる現実の世界
  2. ゾンビ映画を撮る日暮監督の世界
  3. 作品の中のゾンビのいる世界
  4. ゾンビがいる世界の中で撮影される作品の世界

 

 正確には4つの階層があるわけです。

 もちろん、1番の本当の現実の世界はほぼ登場しないので、ここでは語りませんが」 

カエル「ふむふむ……それがうまいの?」

主「うまいというか、ずるいんだよなぁ

 

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作中作を撮る現場

今作は映画を作る描写がマトリョーシカのように積み重なっている

(C)ENBUゼミナール

 

小規模映画の特性を使って……

 

ずるい?

 

強かな、計算高い映画だよ

 

カエル「えっと……何がずるいの?」

主「カメ止めって基本的に安いんですよ。

 絵の作り方、セットの作り方、撮り方……その他色々なものが予算がかかってないなということがわかる。

 他にも、役者の演技を1つとってもそうでさ。最初の長撮りの際に明らかに役者の演技が下手になるシーンがあるけれど、それも全部意味があるように、後から脚本を変更している。もちろん最初に台本があって、その台本を基に長撮りがあって、若干の不備があってもそれをうまくカバーしているんだ」

 

カエル「そういえば作中で使用された長撮りシーンも、実はトラブルがあって変な間になっていると監督の話もあったね」

主「正直、最初の長撮りはかなり変な映画になっていて、そこは監督も評価を落とすかもしれないポイントと語っている。

 実際ひどい部分もあるし、うまくカバーしたとはいえ、カバーしきれていないと思う部分もある。

 でも、そんな批判は2つの意味で通用しないんですよ

 

カエル「通用しない?」

主「1つは作品の設定

 つまり、ワンカットのゾンビ映画を無茶苦茶しながら撮っているという設定の問題。

 もう1つが本作が本当に低予算映画ということ。

 ほら、低予算映画に『映画として安いところがあるよね』っていうのは、なんか違うと思わない? それを込みして鑑賞するのが大人のマナーでしょう?

 激安チェーン回転寿司店と超高級寿司店を同列に考えちゃダメでしょ?

 そしてそれを無茶苦茶な撮影という設定に組み込むことにより、何となく絵や小物などが安くても笑いにしてしまったり、納得できるように変更している。

 だからすごく批判しずらい映画でもあるんだよ

 

カエル「それも含めて監督などの工夫だけれど、強かであり、汚いっていうのはそういうことね……」

 

 

 

 

中間管理職の悲哀を描く

 

本作は一応お仕事ものでもあるんだよね

 

表現論でもあり、お仕事ものでもあるね

 

カエル「無茶振りを繰り返す上に翻弄される監督、さらには役者はいうことを聞かず、それをまとめなければいけない……一応作中では現場のスタッフ自体は常識のある人たちばかりだけれど、一癖も二癖もある人たちばかりの中で撮影を続けなければいけなくて……」

主「監督の立場になって同情する人も多いんじゃないかな?

 特にサラリーマン(のような立ち位置)の中間管理職の悲哀というと、コメディでは結構多いじゃない。さらにそこに家族の問題も絡んでくるという念の入りっぷりだし」

 

カエル「なんていうか、わかりやすいよね。

 ドラマなどでもそういう作品は多くて、とっつきやすいというか……」

主「本作はすごくわかりやすいんです。

 小規模映画では人間の微妙な機微を描いた作品もあるけれど、中には監督が暴走して訳のわからないことになっているような作品もある。その点、本作は徹底的にエンタメに徹していて、この映画の笑いのポイントは誰にでもわかりやすい。

 これは映画通じゃなくても笑うことのできる、絶妙な笑いですよ。

 もちろん、笑いのツボや相性の問題はあるけれどね」

 

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家族の問題などもわかりやすい

徹底的にエンタメに特化している

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山と谷、緊張と緩和

 

カエル「山と谷、緊張と緩和?」

主「今作はスタートのグダグダのワンカットで、この映画の評判を知らない映画ファンたちは思ったはずだよ。

『ああ、これはひどい映画なんだろうな』って。ここで引き込まれたら万々歳だけれど、全員が全員そうじゃない」

カエル「小規模映画って中には本当に目も当てられないような、ひどい映画もあるからねぇ」

 

主「そう思っていたら後半で実は……ということがあって、それが意外性を生む。

 だからこそ、映画祭や公開前に鑑賞した映画ライターや評論家が1番この作品を楽しんでいるはず。なにせ、事前情報は何もないから予想もできない。

 そして、笑いの本質は『緊張と緩和』であるというのは有名な話だ。

 つまり、この映画は『作中の登場人物が本気で作品を撮っている』という緊張と『嘘みたいなトラブルたち』という緩和で成立している。

 この中の登場人物が誰一人としてふざけ始めたら、この映画は破綻する。

 全員、大真面目、緊張しているからこそ面白い」

 

カエル「えっと……確かホラー映画でも同じことが言えて、モンスターが人を襲う前に美女のシャワーシーンなどが挟まれるのは、エロチックな表現で緩和を、その後のモンスターの行動で緊張を強いることで、さらに恐怖を煽るということだよね?」

主「ホラーというか、サスペンス映画でその緩和と緊張がめちゃくちゃ上手いのが『ヒメアノ~ル』ですので、興味がある人は手にとってみてね。

 ゾンビ映画という緊張、あるいはひどい意味不明なワンカットというスタートからの谷をこえて、そこから徐々に緩和していき山を登り初めて、第3部にあたる作品制作中の裏話を始めることでピークを迎える。

 そして最後に美しいオチを持ってくることで、映画としての完成度を高めていくわけだ」

 

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ゾンビ映画と映画愛

 

やっぱり、ゾンビ映画を作ったというのが大きいのかな

 

ゾンビ映画は低予算映画の代名詞だね

 

カエル「それこそ作中作としてゾンビ映画を撮影する作品は、近年の邦画でも『桐島、部活やめるってよ』や『キツツキと雨』などもあるし、それこそ海外も含めれば低予算ゾンビ映画は例をあげるまでもなくたくさん出ているわけで……」

主「ゾンビ映画そのものが……まあ、B級映画が全部ダメとは言わないけれど、ちょっと問題のある映画の代名詞なわけだよ。

 監督はそんな作品であろうとも、必死になって撮っている。無茶振りだろうと、いいものを作ろうと『カメラを止めるな!』と言い放つわけだ」

 

カエル「映画好きとしては思うところがあるよね」

主「あのラストシーンといいさ、この映画には映画に対する愛が溢れている、と語る人も多いのも納得する。

 自分もそれはある程度は同意するかな。

 どんなにダメな映画であろうとも、どんなクソな作品であろうとも、それを可能にするために色々な人が関わっていて、血反吐はく思いでやっているんだ! という思いが伝わってくる作品だったのは、間違いない」

 

カエル「……ここまで聞いているとさ、批判するポイント皆無じゃないの?」

主「だから何度も言うけれど、上手い映画なんだって。

 ただし、自分には違和感も少々あったからさ、それをこれからあげていくよ」

 

 

 

 

 

本作から漂う違和感

 

強制的な応援上映空間へ

 

ここからは批判ポイントですが……

 

コメディ映画の強みでもあるね

 

カエル「強制的な応援上映?」

主「前の記事でも同じことを語ったけれど、自分もコメディ映画を見たときに体験したことがあるんだけれどさ、みんな劇場でゲラゲラ笑うんだよね。

 その様子が強制的な応援上映になっていくんだ

カエル「あ~……観客を巻き込んで笑いの渦が起きるってことね」

 

主「笑いというのは伝染していくし、国によっては劇場でゲラゲラ笑うために雇われた専門の観客もいると聞く。いわゆるサクラだけれど、それはそれでアリだと思う。特に日本は劇場内では静かにすることがマナーとされているけれど、それがいきすぎてコメディ映画や笑わせるシーンで笑っただけで注意されたという話も聞いたことがある」

カエル「海外だともっとゲラゲラ笑うし、インドでのバーフバリ鑑賞光景を見ていると応援上映を超えているな、とも思うよね……」

 

主「ただし、過剰に笑いすぎるとそれに乗れなかった人は取り残されてしまう可能性もある。

 特に小劇場では熱心なファンが詰めかけるから、ノれない人は取り残される傾向が高くなるかな。

『そんなのお前だけだろ!』という人もいるかもしれないけれど、実は自分の元にはいくつか同じ意見もきています」

カエル「これは難しいところかなぁ……欠点というよりは、コメディ映画の難しさ?」

 

主「普通はそこまで問題ないことでも、ここまで加熱してしまうと笑い声もより響くからね。

 今は少しピークも去ったし、そもそも多くの劇場で観られるから、新規さんも増えて反応も少しは落ち着いていそうな雰囲気は感じたかな」

 

 

劇場で爆笑が巻き起こった経験のあるコメディ作品

フィリップ・ラショー(監督兼主演俳優)を応援しています

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あまり期待しすぎると……

 

カエル「何よりも忘れてはいけないのは、本作は『小規模映画』ということかな」

主「そうだね。結局は安い部分がとても多いわけです。ここまでの公開規模になると、映画館に向かうお客さんの中には普段小規模映画を観ない人もたくさんいるわけで、そうなると比較対象が映画ライターや評論家とは変わってくる。

 本作はあくまでも『有象無象の小規模映画』の中の傑作であり、例えば『ジュラシックワールド』とかと比べてはいけないわけですよ。

 本作はあくまでも奇策、奇襲の作品のわけです

 

カエル「みんなあれだけ『事前情報を入れるな!』と語っていたわけだし……」

主「そりゃさ、大作映画と比べたら落ちるところもたくさんありますよ。

 徐々に規模を大きくしていることは嬉しいけれど、けして大規模上映でも問題のない作品ではない。

 アメリカの小規模公開から映画賞たくさん獲得した映画というと『レスラー』などもあるけれど、ああいう映画ともちょっと違うわけ。

 まあ、予算からして二百倍くらい違うし、主演がミッキーロークという有名俳優なんだけれど。そこは映画業界の市場規模の差かな」

 

カエル「この辺りは監督などには問題がない部分だけれど、コントロールできないしょうがない部分なのかなぁ」

 

 

 

 

序盤の問題点

 

あ~……やっぱりここが1番大きいのかな

 

そもそも、37分間は長いって!

 

カエル「確かに1カットで37分間撮りきったことは素晴らしいチャレンジだし、文句をつけづらいけれど、長いといえば長いのかな……」

主「この37分間は映画として異常なシーンがあまりにも多すぎる。

 例えば、これは作中作の撮影中だけれどさ、これが作中作だって気がつかなかったという意見も聞いたけれど、それが信じられないほど多くの、本来ならばありえないミスとしている。

 例えば、それはカメラマンの存在。

 作中作ではカメラマンは監督や他の人が務めれいるけれど、本当にこの映画を撮っているカメラマンは他にいる。だけれど、みんなそれを無視しているし、ゾンビも明らかに襲ってこない」

 

カエル「例えばカメラのレンズを拭いたりとかで、隠そうともしていないよね」

主「となると、この序盤のロングカットが作中作であるということは、一目でわかる。

 そして、アドリブなども挟んで明らかに変な間があったりして、それは本当にトラブルがあった結果かもしれないけれど、色々と酷い出来になっている。

 まあ、元々の発想自体が無茶ぶりなところがあるということだろうけれど」

 

カエル「ここでノれないって意見は多いのかなぁ」

主「自分は『本作は傑作だ』って知って見に行ってしまったけれど、その程度の事前情報でもこの先の展開は予想の範囲内だったのも痛い。

 先が読めていても笑わせるコメディは相当難しいからさ」

 

ゾンビ映画を撮る映画として名作はこちら

今をときめく若手俳優たちばかり、必見です

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ワンカットゆえに……

 

カエル「他にもあるの?」

主「ワンカットの後半で、主役の女の子が屋上から逃げ出すシーンがあるけれど、あのくだりがまるまるいらないよね。

 そのあとのコメディの回収もうまくいったとは思えないし、確かにラストにつながるトラブル解決の間となって、説得力は増すけれど……

 自分はここはまるまるカットしてもいいと思った部分」

 

カエル「いや、でもワンカットなんでカットできなんじゃ……」

主「それがさ、卑怯であり強かな部分なんですよ。

 この前半についてどれだけダメだししようと

『ワンカット』

『無茶振りという設定』

『裏にあるトラブル』

『本当に低予算』という、これだけの要素があればどんな批判も全部否定されてしまうし、どんな穴もこれでカバーできてしまう。だからツッコミもできない作品なんです。

 とてつもなくダメな部分でもそれが気にならなくなるし、後半のコメディである程度カバーできてしまう。

 これだけ前半がダメダメなのに、ここまで絶賛される映画ってほとんどないですよ。

 しかも、絶賛している人の中にもダメダメっていうのもわかっているはずなのに!」

 

カエル「はい、クールダウン、クールダウンね……」

 

 

 

 

ここからさらにダメだし

 

はい、じゃあ少し落ち着いたところで、ちゃんと欠点を語りましょうか

 

ここからは自分が抱いた疑問と、欠点と思う部分を上げていくよ

 

カエル「はい、よろしくお願いします。冷静にね……冷静に……」

主「まず、ワンカットのあのスタートの時点で監督が怒鳴るんだよね。

 若い2人の役者に対して、かなり熱く暴言を言い放つ。

 この時点で自分は冷めてしまった。

 というのも、中間管理職の描き方って、かなり難しいんですよ

カエル「それこそ『こち亀』の大原部長みたいなものだよね。

 ある時は上司や両津みたいなとんでもない部下の板挟みになるけれど、場合によってはパワハラやセクハラまがいなことをしてしまう人というキャラクターになり、意外とクズ、という印象にもなってしまいがちで……」

 

主「課長や部長が敵、という作品はたくさんあるでしょ?

 この後で実は監督はかなり溜め込んでいたというのはわかるけれど、この時点では監督なんだから、現場のトップなわけだ。

 この場では1番偉い人なわけ。

 偉い人が、若い役者に対して暴言を飛ばす……

 これってパワハラなんじゃない?

カエル「それだけ本気とも受け止められるけれど……」

 

主「本気だったら何をしてもいいわけじゃない。

 本来、ここで感情移入すべき立場である監督が、ここでは悪役となっている。

 それは映画と現実の差を描き、ある種のコメディのポイントにした、とも言えるけれど、自分はあまり好きにならないキャラクターとして認識してしまった部分もあるかな」

 

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明らかに悪者の監督

初見時、ここでドン引きしました

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役者の疑問は非難されるポイントか?

 

カエル「これは前の記事でも語っているかな」

主「例えばさ、若手の人気役者が『ゾンビは人種差別を含んでいますか?』という疑問を投げかける。それは真っ当じゃない?

 少なくとも、ロメロはゾンビに様々な社会風刺があるように受け取られるように制作している。

 他にも『斧を使うのはおかしいと思うんですけれど』という疑問だって、それはそれでありだと思うよ。自分だってゾンビが斧を使ったりしてきたら疑問に思う部分もあるし、あるいはさらに過激にして、銃を発砲したり、爆弾を使ったりしてきたら、違和感がある人の方が多いんじゃない? ゾンビと武器は考えものだよね」

 

カエル「ゾンビである意味を否定されてしまうと、うちで書いていることって何の意味もないってことになりかねないからねぇ」

主「少しでも良いものを作ろうとするならば、その疑問は真っ当。もちろん、監督の言うことを聞きなさい、というのもわかる。

 だけれど、あの監督に役者などをまとめる力がない、単なるイエスマンであることも問題だ。

 それを役者のせいにするのか? という疑問がある。

 あの女の子も色々言っていて、確かにわがまま放題だけれど、ワンカットで失敗が許されない中で『涙は目薬で』というのは、当然の選択肢だろう」

 

カエル「そこで本物にこだわった挙句、泣けなかったら元も子もないよね……失敗できないわけだし……」

主「少なくとも、自分は仕事で『できないならできないって言おう』という考え方って大事だと思うんだよ。もちろん、フリーランスの監督が簡単にできないと言えない、だから引き受けてしまうというのはわかる。

 でも『本物』にこだわる一方で、本番で失敗したらどうするの? 

 そんなに致命的な失敗ではないけれど、1つのミスが連鎖することはよくあるよ。

 目薬を使うのはむしろ当然だとすら思う。

 そこを非難するのは、やはりパワハラ的にも思えるし『納期に合わせて仕事できないのは、お前の能力のせいだろ?』と無茶な要求をしてくる上司や営業先などと何が違うのだろう? という疑問が生まれてしまった」

 

 

 

 

徹底的に監督目線の映画

 

やっぱり、脚本を書いているのが監督というのもあるのかなぁ

 

それはとても大きいんじゃない?

 

主「本作は徹底的に『監督は辛いよ、でもこんないいこともあるんだよ』という形で語られている。それ自体は、もちろん非難するポイントじゃない。

 だけれど、その監督目線が強すぎて若干独断的に見える部分もチラホラある。

 もちろんこう言う作品だからこそ、思いいれが強くなるのもわかる。

 映画愛や家族愛を詰め込んだこともわかる。でも、その目線の強さが気になった」

 

カエル「でもさ、それが気にならない人も多いわけじゃない? だからこそこれだけヒットしているわけで……」

主「やっぱり、わかりやすいんだと思うよ。

 作品作りってこんなに大変で、役者も言うこと聞いてくれなくて……という話だと思えば、すごくわかりやすいじゃない。娘が出て行って寂しくて……という家族のお話もわかりやすい。

 しかも、笑うポイントもわかりやすくおかしいからゲラゲラ笑う。

 ゲロを出す、トイレに行きたがる、酔っ払う、暴走する……1つ1つの笑いがとてもわかりやすい。そこには緊張感があり、それを回避する面白さがある。序盤の伏線の回収があって、そこに納得する人もいる。

 そして最後に作品の完成と、わかりやすいハッピーエンド、2つの意味で……映画作りを象徴するようなカットと、家族愛を象徴するようなカットがあって物語が終わる。とてもわかりやすい」

 

カエル「それは褒めるポイントだよね?」

主「この違和感が次に続きます」

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本作の嘘の関係性

 

結構ここは語りたくなるんだよね

 

なんかさ、嘘を否定されるのは辛いんだよ

 

カエル「前も語っていたよね、これ」

主「本物、本物っていうけれど、この監督はドキュメンタリー志望なわけ? 

 多分、違うと思うんだよね。まあ、再現VTRとかを撮っているからわからないけれど。

 物語表現は基本的に嘘で溢れている。

 徹頭徹尾、嘘だと言ってもいい。

 その嘘を否定することが、果たして正しいのかな?

 

カエル「最序盤の『お前の全部が嘘っぱりだから』とか『これが本物だよ』とかがあるからそう感じたのかな?」

主「それもあるけれど、それ以上に思うのが上田監督は『映画作りの現場』を撮ろうとする意識が強いんだな、というのは伝わってきた。

 この映画でメインとなる作中の現実世界は、ある程度映画製作の現実なんでしょう。

 それを撮ろうという意思がものすごく強いからこそ、こういう脚本になったんじゃないかな?

 

カエル「ふむふむ……」

主「でも、自分が観たいのは現実じゃない。

 嘘の物語なんだ。

 嘘の物語というのは荒唐無稽なもの、という意味じゃない。あくまでもフィクションである。

 世の中では100パーセントの嘘だってわかっているフィクションが、人生を救い、人を助けることだってあるんだよ。それは映画のみならず、物語を愛好している人ならば誰でもわかるはず。

 だからさ、フィクションや嘘を否定してほしくないんだよね……」

 

 

 

フィクションと本作

 

主「そう考えると、本作ってもうドキュメンタリーなんだよなぁ

カエル「え? でもフィクションでしょ?」

主「これもこの世界の片隅に』と近いんだけれど、あの作品は1945年の広島をアニメで完全に再現して、半ドキュメンタリー並みのクオリティに仕上げた作品だった。

 本作もそれは同じで、上田監督が撮っている現実と作品世界の撮影現場はかなり近いものがある。

 これって、映画を愛すれば愛するほど、否定できないものになると思うんだよ」

 

カエル「大ヒット作がいくつもあるとはいえ、基本的に映画業界は苦境だしね」

主「この映画を絶賛する人たちは映画愛が強い人も多いだろう。それは小規模公開映画という状況も相まってね。

 コメディで笑い飛ばしてはいるけれど、実際には笑えない状況なんて日常茶飯事だというのもなんとくなく予想できるし。

 本作はすでにフィクション作品ではなく、ある種の現実を描いた作品として受け止められている部分もあるんだろう。

 この映画は『嘘のない、リアルな撮影現場を撮って笑い飛ばそう』という意図で溢れている。その試みは間違いなくうまくいったし、大ヒットした。

 でも自分は嘘が見たい。嘘が現実を超える瞬間を見たい。寓話性があり、暗喩や比喩に満ちて、考察がいくらでもできるような工夫を凝らした作品が見たいって話」

 

カエル「……これは相性なのかなぁ」

 

 

 

 

まとめ

 

では、この記事のまとめです!

 

  • とてもうまく、計算された作品なのは間違いない!
  • 一部では問題があるものの、それもコメディとして変換!
  • 嘘のないもの、リアルを撮ろうという意識に溢れている作品!

 

<p

>……こうしてみると基本的には絶賛に近いようにも思えてくる

 

 

カエル「じゃあ、実際上げていった要素を練り直せばもっといい作品になりますか? と言うと、そういうことはないわけで……」

主「間違いなくこのバランスでよかったし、自分が言ったのだってほとんどの人はそう受け止めていないだろうし。

『0か200を目指した』と監督は話していたけれど、それも納得だし、間違いなく成功しているし、その試みもとても正しい。60点の作品は印象に残らないから」

 

カエル「いろいろ語りましたが、決して非難される作品ではないのかな? と思います! ぜひ劇場で鑑賞してください!」

 

 

 

おすすめしたい小規模映画たち

 

最後に、他のお勧めしたい小規模上映映画を紹介します

 

小規模でもいい映画はたくさんあるんですよ

 

カエル「ちょっと鑑賞するのは難しい作品もありますが、機会があればぜひ観て欲しい作品たちです。ちなみに近年の、それも記事にした作品の中から選択しています」

主「まずは自分が大絶賛して、邦画界の中でも屈指の名作だと思うのが『無垢の祈り』というR18の作品です。

 この作品がR18なのは性的、あるいはグロテスクなシーンを含むというのもあるけれど、実は映倫やビデ倫などの検査機関も通らないであろう、過激な描写に挑戦した自主制作映画となっています

 

カエル「その理由は……小学生女児に対する、ある過激なシーンが多く含まれるからです」

主「もちろん、監督は最大の配慮をしており、それは少なくとも自分が見て問題があるとは全く思わなかった。でも、そこで表現されていることはとても過激で、児童に対する表現が難しい現代では、なかなか許可が降りそうにないので自主制作されている作品です」

 

こちらから鑑賞することができます。

www.uplink.co.jp

 

カエル「あとはカメ止め好きには是非おすすめしたいのは昨年公開した『狂覗』かな。

 

 

 こちらは密室劇なんですが、教師たちが高校の生徒たちの持ち物検査をしていると色々と衝撃の事実が明らかなになる……という映画であり、とても面白い作品です」

 

主「あとは感動の作品では知的障害と恋愛を扱った『真白の恋』や、映画などに出演している小川紗良や萩原利久が主演を果たした『イノセント15』などもオススメです」

 

 


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カエル「こういった小規模上映映画が流行すると、映画業界はもっと盛り上がるし、みんな夢を見ることができるからね」

主「その意味でも映画ファンとしてカメ止めを応援する人たちの気持ちはわかるんだよね。やっぱり、小規模公開映画にも頑張ってほしいものです!」

 

 

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