今週も気になる映画が目白押しです!
もう何作語ればいいのだろうか……
カエルくん(以下カエル)
「ちなみに、いつもは優先度の高い記事は注目度の高い作品や、個人的に楽しみにしている作品なので、必然的に小規模上映映画は後回しになりがちなんです」
主
「それでもこの映画はちょっと優先的に語らないといけないと思ったので。
色々と違和感があるかもしれない書き方もするかもしれませんが、それはまあ、おいおい説明するということで」
カエル「?
よくわからないけれど……とりあえず記事のスタートです!」
感想の前に
今回はいつもとちょっと趣向が変わります
いやー、最初はこの映画、外したと思ったよ
カエル「生まれたばかりの子供の面倒を見るお母さんのお話なんだけれど、正直、子供もいないとピンとこない部分もあって……もちろん、とても大事なお話だし、社会的関心が高いのも重々承知しています」
主「たださぁ、あまりにもこの手の映画が多いのと、どう受け止めればいいのかわからないというのもあって……
この手の映画の8割は女性応援になっていて、もちろんそれは正しいし意図としては良くわかるけれど、でも男性側の意見もあるわけじゃない?」
カエル「その男性側の育児と家庭を描いた作品というと……近年では『幼な子、われらに生まれ』くらいしか思い浮かばないかも……」
主「自分は『幼な子〜』を高く評価しているけれど、なぜならばイクメンに疲れたお父さんが主人公だったからなんだ。
現代の日本において、お父さんも家庭進出するのは大切な話だ。
ただ、仕事をして家族を養わなければいけないというのも事実であり、現代社会は過重労働や有休消化を認めないなどの問題を抱える企業は少なくない。男性が育児休暇を取れる会社はそんなに多くないよ。
それでイクメンになって、定時退社や有休消化を繰り返し、単身赴任を断ったりしたら、会社で邪険にされてしまいかねないのが日本社会だ。もちろん、今作はアメリカの映画だから、状況は少し違うけれど、受け止める自分は日本人だし……」
カエル「でもさ、育児をお母さんに押し付けるのもそれはそれでおかしいじゃない? 負担大きすぎるよ」
主「だから、これは社会の問題なんだよ。
本作はアメリカを舞台にしているけれどさ。
男と女、父親と母親という対立軸で語っても解決は難しいんじゃないかな? というのが持論。
自分は『Hugっとプリキュア』を現代最先端の物語としていて、倒すべきは男女の対立ではなくて、ブラック企業(=社会)である、というのはとても納得しているんだ。
ちょっと感想を離れているけれど、そんな思いがあるから、一方的にお父さんを悪役にするのもちょっと……という思いは、鑑賞中でもあるんだよ。
正義が一方的なのは、あまり良くないなぁ、という思いがあるからさ」
素晴らしき演出力
でも、そんな思いを吹き飛ばすような映画だったね
こんな作品が出てきたら認めるほかないですよ
カエル「あまりネタバレをしないように語るけれど、監督のジェイソン・ライトマンは制作総指揮も含めて、本当に素晴らしい作品をたくさん生み出している監督です!」
主「自分にとっては今作の印象もあるのかもしれないけれど『JUNO』の監督ってイメージなんだよね。数年前かな? テレ東で放送されていたのを鑑賞したけれど、妊娠というものに向き合う少女の姿が、強く印象に残った作品だった」
カエル「ちなみに、本作の脚本も『JUNO』と同じくディアブロ・コディで、このコンビでは『ヤングアダルト』も制作しています」
主「女性が活躍することに対してとても強い思いを抱えているということが伝わってくる。
それと同時に、ジェイソン・ライトマンは制作総指揮として『セッション』などの男の世界を作り出しているのも面白い。
本作だって、自分のチンケな思いなんか吹き飛ばすくらい、エンタメ性もあります!」
カエル「少し重いお話だけれど……でも、あの演出を見たらドキ! ってしてしまうよね」
主「注目するポイントとしては……音かなぁ。
特に今作のラストシーンはとても心を打つシーンで、なんでもかんでも説明してしまう大作邦画も見習ってほしい!」
圧倒的なシャーリーズ・セロン
カエル「そして本作の役者についてだけれど……」
主「もうシャーリーズ・セロンですよ!
彼女、本当にどうなっているの? あれだけ増量や減量を繰り返して、健康でいられるわけないじゃん。本当に魂削っているな、と感動しました」
カエル「劇場にあったパネルではこの映画を撮影中と撮影後では、18キロも変動したらしいです」
主「肌もボロボロ、目元もクマも多くて、美人女優の面影なんて一切なし。だからこそ、過酷な育児の様子が観客によく伝わってくる。
そしてランニングシーンでは本当に走って、顔を赤くし、豊満な胸元に汗をため、母乳によるシミも作る……これが演技ですよ!
日本の俳優よ、この映画を見ろ! 特に若者向けの映画は、役者のメイクが落ちることを嫌がって、汗ひとつも垂らさないで『ランニング疲れたよ』なんてのたまう映画がどれほどあるものか!
役者の情熱はメイクに宿るのか⁉︎
違うだろう、汗や涙、鼻水、紅潮した顔にこそ役者魂は宿るのではないか⁉︎」
カエル「そんな愚痴も言いたくなってしまうほどの熱演であり、世界中で絶賛されるのも納得でした」
主「実際、本作の肝はセロンですから。本来は美しいはずの母親が、妊娠により体のラインを崩し、顔を歪ませる……そこに説得力がないと、この映画は全く成り立たない。
その意味でも、ベストキャストであり、本作が素晴らしい作品に仕上がったのはセロンの功績が非常に大きいです!」
カエル「とりあえず、ここまでで興味を持った方は、この記事を読んでいないで、今すぎに映画館に向かって欲しいほどの作品です。
もちろん、ネタバレなんて読まないで、新鮮な感覚で映画館へ向かってください」
主「まあ、小規模上映だから難しいかもしれないけれどさ」
以下ネタバレあり
作品感想
では、ちょっと異例ですがここからが作品感想です
#タリーと私の秘密の時間
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2018年8月18日
あ〜失敗したわぁ…これは自分には早すぎたわぁ、まぁ大切な問題だけどさ…とか考えていた最中
いやいや、これはとんでもない作品でした!
何よりも会話で説明せずに観客に分からせる手法がメチャクチャ上手い!
ラストカットは上手すぎて鳥肌ですよ!
いい作品でした pic.twitter.com/fEqUzsnnrm
なんかさ、最初はいやぁな物語だと思ったんだよ
主「公開2日目とはいえ、もともと評判がいい作品と聞いて観に行ったけれど、それがちょっと信じられないような映画だと思ったかなぁ。この手の社会的に重要なことを描いている映画で、評価は高いけれど個人的には合わないってことがあるから、今回もそのパターンか、と思った」
カエル「それこそ、上記の理由もあるのかなぁ」
主「さすがにさ、お父さんが可哀想だなぁ、と思ったんだよ。
セロン演じる母親のマーロが、なぜこの男性と結婚したのか? と問われるシーンがあるけれど、その回答にまるで愛を感じなかった」
カエル「マーロがメリーゴーランドに乗って遊んでいたときに、彼はベンチに座っているタイプだった、という話だね。つまり、本来は眼中にない男性という意味だと思うけれど……」
主「それは夫への態度でも伝わってくるし、しかも中盤でマーロと夜間のベビーシッターで入ったタリーがある行動に出るけれど、そのシーンだけをみると、もう夫婦として終わっているようにも見える。
旦那に対してヤキモチや怒りを抱かなくなったら、それはもう夫婦関係と言えるのだろうか? という思いもあってさ、かなりこのお父さんがかわいそうに見えた。
確かに育児が大変なのはわかるけれど、奥さんに無関心になるのも理解できるなぁって。
その意味では、途中から『女性頑張れ!』という映画には思えなくなってしまったのかな」
カエル「結婚して10年以上は過ぎているだろうし、子供だけが夫婦である理由って家庭は日本でもいっぱいあるだろうからなぁ。
実はどの家庭も似たようなものなのかもしれないけれど、何かきっかけがないと変わることは難しいのかも……
特に、この旦那さんは奥さんが子供2人を経験している、という認識もあるから、それも無関心の原因かもね」
主「だからと言って、育児への無関心がいいわけではないけれどさ」
脚本のうまさ
何と言っても脚本の魅力だよね
ラストシーンが素晴らしいんです!
カエル「本作を1番楽しむためには、なんの情報も入れないことだと思います。
なのでネタバレなしのパートでは『なんの情報も入れるな』という情報もカットして語っていました」
主「もしかしたら今年1番の衝撃かもしれない。
あの展開は全く予想していなかったし、びっくりした。
もちろん、この記事でもそのネタは語りませんが、本当にうますぎて、もしかしたら一部の方は気がついていないんじゃないか? と思うほど!
上記のようにグダグダ語っていたことが、全て解消されたよ」
カエル「えっと、そのビックリを簡単に表現すると?」
主「ブラット・ピットだよ」
カエル「……ブラット・ピット?
それ、この映画を観た人でもはてなマークがつくんじゃない?」
主「わかる人にはわかる! この程度で十分なんです。
とりあえず、映画館に向かいましょう」
本作の演出について
カエル「演出では良かったのは?」
主「もちろん大どんでん返しに至るまでの流れと言い、それを抑えて改めて考えると思い当たる節もたくさんあるんだよ。
例えば、今作は水の中が多く出てくるけれど、やはりこれは子供が生まれるということ、胎児を象徴しているのは間違いないでしょう。あのシーン自体の美しさもさることながら、メタファーとして優れているんだよ」
カエル「ちょっと物語として語りづらいことも、メタファーをうまく取り入れることでわかりやすくなるよね。海とか、人魚などが絡んでくることによって、色々考察もできるし……」
主「それと同時に、本作は『母という役割からの解放』を描いていると感じているんだよ。
上記で色々語ったけれど、この手の映画が量産されるのは『女性の家庭からの解放』が今、世界的なトレンドだからだ。
その中でも最も女性を縛り付けてしまうもの、それが育児である。
本作は『母』であるマーロと『女(母になる前)』のタリーが向かい合うことで、女と母の二面性を描くという試みに対して、それは完全に成功しているんだ」
音とイヤホン
カエル「この音というのは?」
主「この映画は音や声にとても過敏な映画のように感じた。
妊娠中に街で買い物に行けば『それにはカファインが……』という注意される声があり、また学校ではちょっとした校長の嫌味のような言葉もあった。夫からも配慮に欠けるような、嫌味のような言葉があり、この映画で最も鳴り響くのが生まれたばかりの赤ちゃんの泣き声だ」
カエル「それこそ、長男のシーンもそうだよね……」
主「その音に対してパニックになっているとき、ある先生は木になる方法を教えてくれた。
この映画が一貫して語りかけているのは『本当に辛いときは誰かに頼りなさい、相談しなさい』ということなんだ。
その『音』と『頼ること』が合わさったのが、あのラストシーンだよ」
カエル「そしてイヤホンの演出かぁ。
夫は大きなヘッドフォンをして、ゾンビゲームをプレイしている。それはそれで奥さんを起こさないような配慮かもしれないけれど、結局は自分の世界に逃げているんだよね」
主「ヘッドフォンとテレビゲームというのは、外界をシャットアウトするものだ。
家庭という現実を見ない、赤ちゃんなどの声を聞かない、ということの象徴がヘッドフォンだ。
ラストシーンにおいては、その大きなヘッドフォンではなく、イヤホンがとてもいい役割を果たしているんだよ。
それがこの夫婦が本当の意味で『家族』になったことを示している。
その意味では、それまで2人は父親と母親であったけれど、本当の意味では家族ではなかったんだろうな」
まとめ
というわけで、この記事のまとめです!
- 育児の大変さを描いた作品!
- 脚本、演出にも大きな工夫が施されている
- 家族とは? 夫婦とは? それを考えさせてくれる作品です!
単なる女性応援映画とは一線を画したね
カエル「う〜ん、なかなか奥歯に物が挟まったような言い方になってしまったかなぁ。
もしかしたら、あの描写の意味がわからないから検索して調べている人には、申し訳ないことをしているかも……」
主「結構わかりやすいとは思うんだけれどねぇ。
簡単に語らないからこそいい仕掛けなんだけれど……」
カエル「流石に公開直後でそれを明かすのも躊躇うほどだしね」
主「色々語ったけれど、簡単に言えば『完璧な母親になどならなくていい』ということでさ、逆に言えば完璧を求めては行けないということだろう。
色々な事情はあるだろうけれど、旦那さんや両親、友達、なんなら役所の地域課の人でもいいから、誰かに相談すること。それが大切だと教えてくれる作品です」
カエル「旦那さんも子供も育児には協力することを願いながらも、社会ももっと成熟していくといいなぁ」