では小規模公開映画の2作品同時レビューです
まさか、あの超大作のアクション映画を無視することになるとは……
カエルくん(以下カエル)
「シリーズ物の続編は、前作を観ていないと語りずらいしねぇ」
主
「アクション映画って何を語ればいいんだろう?
この手の映画の方がすごく語りやすいのは、やっぱり向き不向きなのか?」
カエル「今回は『少女邂逅』は舞台挨拶付きの回に行ったけれど『カメラを止めるな!』の上田監督も登壇ということもあり、夜遅い回ですが満員でした」
主「……何もしらず行ったけれど、まさか上田監督がくるとは。
カメ止めは色々あったから、ちょっと会場にいづらかったし、さっさと帰っちゃったよ」
カエル「向こうはこちらの存在なんて全く感知していないだろうけれど、自意識過剰?
では、感想記事を始めましょう!」
志乃ちゃんは自分の名前が言えない
花の80年組
まずは作品について語る前に、原作者の押見修造について語りたいことがあるということだけれど……
現代の若者文化を語る際に重要なのが『自意識の80年代組』なんだ
カエル「……自意識の80年代組?」
主「これは自分で勝手に作った言葉だけれど、いまの若者文化を語る上で1980年前後生まれをというのは、とても重要な意味合いを持つ。
具体的に名前をあげていくと、小説家や漫画家では佐藤友哉、浅野いにお、ミュージシャンならばamazarashiの秋田ひろむ、鬼束ちひろなどがいる。また、1981年では今作の原作者である押見修造、小説家では西尾維新や山田悠介、1979年では押切蓮介、BUMPの藤原基央もこの年代だ。
他にも乙一や今作の監督を務めた湯浅監督は1978年生まれだから、同世代と言えるだろう」
カエル「もちろんたくさんいる1980年生まれの有名人の中でも、なんというか……サブカル寄り? というか、暗めの作品を作る人たちを挙げているね」
主「ここで挙げた作者の描く人物像や物語というのは、希望に溢れた若者たちではなく、むしろ生きることそのものに、ある種の絶望感を抱いているような作品が多い。
自分は上記の人たちには、その、人間に対する絶望感が共通していると考えている。
この世代って、最も多感な思春期の頃が1995年なんだよね。
これもいつか詳しく書こうととは思っているけれど、自分は戦後日本と物語文化を考える上で、日本が大変換を遂げたのは終戦の1945年の次に重要なのは1995年だと考えているんだ」
カエル「それまでの高度経済成長からのバブル景気が弾けて、社会全体が沈んで行く中で、阪神淡路大震災やオウム事件などがあった年だ……」
主「エヴァがブームになったように、人間の内面を鋭くえぐっていくような作品が多く脚光を集め始めたのもこの時期だと考えている。
その後、80年代組が表現を行い、約10年ほど前から多くの表現で、いじめや過酷な環境のなかで生きる少年少女や、マイナス思考な自意識などを描いてきた。
そのエッセンスが凝縮されたような作品だったというのは、指摘しておきたい」
南沙良&蒔田彩珠主演『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』予告編
感想
では、Twitterの感想はこのようになっています
#志乃ちゃんは自分の名前が言えない
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2018年8月4日
なるほど、褒める人が多いのも納得
特にラスト10分の盛り上がりのエモさはなかなか上がるものがある
うまいと思いつつ、押見修造が苦手な血が騒いだりもしてべた褒めはできませんが、全体的には良作だと思います
あんな子達、学生時代にいたなぁ
あと百合成分強い pic.twitter.com/bj4YiRINHH
とても高く評価する人がいるのも納得です
カエル「本作はTwitterをはじめとして、映画ファンを中心に賞賛する声もよく聞く作品で、全国でもそんなに公開規模が多くない作品だけれど、静かに注目を集めている作品だよね」
主「個人的には合わない部分もあったというか、キャラクターが苦手だったけれど、でもラスト10分はとても衝撃が大きかった。
また、女子高生たちの恋愛とも友情とも言えるような、濃い人間関係を見事に描いていたし、百合成分が強い映画としても面白かったよ」
カエル「似ている作品としては、大絶賛した『聲の形』に近いということだけれど……」
主「いじめが絡んできたり、ある種の病気や障害によりコミュニケーション能力に不備がある人たちが、ぶつかりあって色々学んでいく物語という意味では、似たものがあります。
自分は聲の形ほどのめりこみはしなかったけれど、ある種の弱者の映画として見所が多い作品なのは間違いない」
このシーンが最高です!
(C)押見修造/太田出版 (C)2017「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」製作委員会
登場人物について
カエル「今作では少し意見が割れそうなのが、登場人物の描き方だけれど……なんというか、かなり個性の強い子だから、嫌悪感を催す人もいるかも」
主「今作は主要な登場人物である子供達3人とも、ある種のコミュニケーション障害を患っていると言える」
- 志乃→吃音があり、人と近づこうとすると発作が出る
- 加代→他者を遠ざける、ある種の孤独主義のような子
- 菊池→2人とは逆に適切な距離感を築くことができずに過剰に近づいてしまう
カエル「学生時代、実際にあんな子がいたよなぁ、と思いながら見ていたなぁ。その時の記憶もあって、ちょっと心穏やかではいられないかも」
主「自分はこの3人とも仲良くできないし、近づこうともしない人間なので、ある程度誰にも共感することも、逆に排除することもなく鑑賞していたけれど、人によってはいろいろな感情を揺さぶられるだろうね」
カエル「……ある意味、見て見ぬ振りをする第三者って一番害悪な人じゃない?」
主「でもさ、接しようがないよねぇ。
今作の秀逸な点は、誰も彼もが理解があるわけではなく、無自覚な暴力に満ちている部分だ。
学校の先生ですら、なんとかしようという善意はあるものの、それが押し付けがましく見える。本人たちもどうすればいいのかわからないし、必死にもがくけれど、観客にもその答えは出てこない……
吃音だけでなく、コミュニケーションで悩む登場人物たちの気持ちがリアルに表現されている」
菊池はうざいと言われがちだけれど、萩原利久くんは応援してね!
(C)押見修造/太田出版 (C)2017「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」製作委員会
本作が描き出した絆
鑑賞する際に注目すべき点といえば、どこになるの?
やっぱり志乃と加代の関係性の変化かなぁ
カエル「あまりネタバレはしないように話すと、女子2人が少しづつコミュニケーションを取っていくシーンがあるけれど、そのシーンは本当に良かった!」
主「いくつかの楽曲を通して仲良くなっていくけれど、その歌詞がこの作品とリンクしている。
自分が1番ガツンと効いたのは、ブルーハーツの『青空』で、この曲の静かなメロディの中にある怒りや悲しみが作品と見事にマッチしていた。
他にも『あの素晴らしい愛をもう一度』は、それこそコミュニケーションの難しさを歌っている。曲調は穏やかでも、その精神はロックにも負けない反抗の歌なんだ」
カエル「決して歌唱が抜群にうまいわけではないけれど、それが高校生の等身大のようですごく響いたよねぇ」
主「どうしても音楽映画って歌がうまい人がたくさん出てくる印象もあるけれど、映画ってそういう人たちだけのものじゃない。
むしろ、醜い人や歌が上手くない人が歌うからこそ、響くこともある。
それこそ、自分が今年絶賛した『グレイテスト・ショーマン』なんかは、バケモノのような扱いを受けてきた醜い人たちが歌うことで、高らかに人間賛歌を表現している。
その意味では本作も同じだよ。
歌が下手だから、コミュニケーションが取れないから自分の殻に閉じこもるのではなく、そこからでも出ていく勇気を持つこと。
その結果、辛いことが100個あったとしても、掛け替えのない大切なものが1個見つかるかもしれない。
それを再発見させてくれる作品です」
少女邂逅
感想
続いては少女邂逅の短評です!
#少女邂逅
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2018年8月4日
高校生の女の子の危うさと妖しさを切り取った作品
特に主演の二人がめちゃめちゃ可愛くて、トークショーではブスに撮ったと語っていたけれど作り込まれていない分とてつもない魅力に満ちていた
EDが転校生のほうかごなのがグッと来た
ベストチョイス
派手さはあまりないけれど、こちらも女子高生の独特な感覚を切り取った作品です
カエル「この両者は共通点が多いよねぇ。今回は新宿にある武蔵野館で鑑賞したけれど、ハシゴできるような時間割にしているのは、映画館側も意識しているんだろうな」
主「自分がこの作品で絶賛するのは、主演の女の子2人を始めとした役者の演技!
このような小規模公開映画を観に行く楽しみの1つが役者の演技なんだよ」
カエル「えっと……主演の保柴萌香も、モトーラ世理奈も初めましてだよね?」
主「監督を含めて全員初めましてだけれど、ほかの商業映画と違って、女優の女の子たちがまだ初々しいんだよ。
もちろん、彼女たちもどこかの芸能事務所に所属するような子たちなんだろうけれど、演技経験が多いわけではない。ある意味ではどこにでもいる女の子だ。
その子達が、映画の中で女優として少しずつ開花して行く瞬間、その限られた時間を見事に捉えた作品なんだよ」
カエル「それは確かにある程度実績のある、大規模商業映画では味わえない感覚かも……」
主「他にも過去に見た小規模公開映画では、先に紹介した『志乃ちゃん~』にも出演していた萩原利久が主演の『イノセント15』でヒロインを演じた小川紗良もそうだったな。
有名どころでは『海街diary』での広瀬すずがそうだよね。あの美少女だけれど、普通のどこにでもいそうな女の子が魅力的な女優に変貌して行く瞬間……それを永遠に閉じ込めることができた作品は、それだけで価値があると考えるね」
カエル「あとはEDが転校生の『ほうかご』だったのも、転校生好きだったから嬉しかったね」
危うさと妖しさと
カエル「なんというか、女子高生の危なさが発揮された作品だよね」
主「学生時代ってさ、男子も女子もそうだけれど、みんながみんな希望に満ちているってわけじゃないじゃない?
むしろどうしようもない絶望感を抱きながら、もがきながらも表面上ではそう見せないで生きている子だっていくらでもいる。
そういう子に寄り添うように撮られた作品だよ」
カエル「今って、アイドルの女の子を見ていても、その多くが明るくて元気な女の子ばっかりじゃない? だけれど、そうじゃない子もたくさんいて……昔だと中森明菜とかさ、最近だと平手友梨奈がそうなるのかな?
そういう暗い女の子だからこそある、ある種の色気というか、妖しさがよく発揮されていた作品で……」
主「流石にもう10代の女の子に熱中する歳ではないけれど、今作の主演の2人の女の子は実際学生時代にクラスにいたら熱中していたかもしれない。
監督の舞台挨拶では『ブサイクに撮った』と語っているけれど、むしろ女の子のもつ妖しげな色気がさらに増したと思っていて、とても強く印象に残った」
カエル「これは趣味もあるかもしれないけれどね」
今作は先生たちの演技も本当に自然で驚き!
なんで大作はこれができないんだろ?
少しだけ考察
じゃあ、ネタバレがしないレベルでの考察といきましょうか
女の子の成長って『痛み』があるんだよ
カエル「……痛み?」
主「例えば生理痛がそうでしょ? 毎月、生きているからこそ、子供が埋める体になったからこそ、出血して痛みを伴わなければいけない。また、セックスの際も女の子は痛みと出血を伴う。
それは生きる上では、子供を残す上では絶対必要な痛みなんだ。
一方で男はそんな痛みがない。あっても成長痛くらいの、軽い痛みだ。体が痛みや出血を伴なって明確に変化する女の子に比べると、男の成長はのほほんとしたものだよねぇ」
カエル「……まあ、確かに女の子の最初の本厄年が19歳であり、男は25歳。
もちろん迷信みたいなこともあるけれど、それだけ体に異常がきたしやすい時期で気をつけなさいねって意味もあって……男は若さで無茶しすぎて体にボロが出てきやすい歳であり、女の子は体の変化が多くある時期でもあるんだよね」
主「本作の柳監督は24歳と若く、美しい女性監督だけれど、だからこそこのような女子の気持ちに寄り添うような作品を作れたのかもね。
個人的には物語の起伏のなさなどに眠くなった部分もあるけれど、でもいい作品だと思う。
あと、蚕は万能!
自分も蚕にハマっていた時期があるけれど、かなり特殊な生態をしている上に身近な虫だから、物語に取り入れやすいんだろうな」
2作品を通して
近いことをテーマにしているこの2作品を通しての感想です!
いつもいうけれど、青春時代って一種の地獄なんだよ
カエル「地獄?」
主「青春キラキラ映画を見るとさ、恋以外の悩みがないような女の子が出てきて、イケメンくんと恋をする。そんな青春もあるかもしれない。だけれど、それは極々少数の、スクールカースト上位の物語だ。
実際の青春はもっと地獄。
自分は何も持っていないのに、選択は多く迫られる。
感性は敏感だけれど、大人は理解してくれない。
誰も正解なんて教えてくれない割に、色々と口を出してくる。
青春時代に獲得した友人だって、大人のように割り切った付き合いもできなくて、時には近づきすぎてしまうこともあるでしょう。
その、大人になると忘れてしまいがちな青春期の地獄と過剰な自意識を、見事に切り取った2作品だ」
カエル「2作品とも単純に『友達ができて良かったね』なんて言えない物語で……むしろ、友達がいるからこそ、もっと苦しい思いをする面もあるんじゃないかな?」
主「小さな小さな田舎町に閉じ込めらた少女たちには、もっと大きな世界があることを知ってほしいと思いつつも、そこで手にした感情は一生もので……
自分はもう感性の鈍った大人だからさ、少女同士の過剰な友情を『百合だ!』で楽しめるけれど、そんな単純なものじゃない。
その間には憧れも嫉妬もあって、大好きだけで憎くて、壊したいけれど守りたい、そんな相反する感情が同時に存在して、暴走しているとももう。
それを改めて確認した作品でした」
最後に
では、2作品合同記事はこれで終了です
小規模ならではの味がある作品だったよ
カエル「大作ばかり観ていると、どうしても明るいハッピーエンドや、ある意味では過剰で、派手な作品ばかりを見ることになるけれど、こういう静かな作品もいいねぇ」
主「特にこの手の味わいの作品は大規模公開映画ではなかなか観られないしなぁ。
どちらも解釈の幅がとても大きくて、尖っている分賛否はあるだろうけれど、とてもいい作品だと思います。
機会があれば……難しいかもしれないけれど、一見の価値はある作品です」