ブログ主(以下主)
「なあ、亀爺よ……」
亀爺(以下亀)
「なんじゃ、主」
主「今回は俺と亀爺の2人で語っていくんだな。いつもはカエルがいるのに」
亀「今回は作品内容やR15ということで、子供っぽい聞き役のカエルは連れてこんかったわ」
主「理屈屋と理屈屋の対談だから、どうなるかわからないな」
亀「前回とは主の口調も変わっておるな。まあ、メタの話になるが、まだ試行錯誤の時期じゃ、とりあえず書き進めていくしかあるまい。それでは感想にいくぞ」
1 強烈なストーリー
主「個人的な話になるんだが、ヒメアノ〜ルを見た日は2本映画を見てな。ウッディ・アレンの最新作『教授のおかしな妄想殺人』の次に見たんだが、まあ頭を掻き回されているような、思想改造を受けているような強烈な映画体験だったよ。見終わった後はガツンと疲れて、頭が痛くなってしまったほどにね」
亀「そうじゃろうな。『教授のおかしな妄想殺人』はレイティングこそクリアしておるが、哲学科の教授が完全犯罪を行い、人間が狂っていく様子を描いた作品じゃ。こちらは激しいシーンはないし、軽めに仕上げてはいるものの、サスペンスとして重苦しい部分もあるからの」
主「で、ヒメアノ〜ルに話を戻すと、他の映画と比べてもエロチックな部分もさることながら、それ以上にグロテスクな部分が多い。血も大量に出てくるし、苦手な人には鑑賞するのもきつい作品になるだろうな。そうだな……『ソウ』の最後らへんよりはまだマシだが、『愛のむきだし』と同じくらいかね」
亀「ただ、魅せ方が本当にうまいからの。このうまさがより作品のおぞましさを際立たせておる」
役者について
亀「中々独特な演技が光る映画じゃったの」
主「そうだな。まず主演の森田剛はさすが。ジャニーズのイメージからすると、エキセントリックな大量殺人犯の役は難しいとこもあっただろうけれど、サイコパスでイっちゃってる感じがちゃんと出ていた。こう言っちゃファンに怒られるかもしれないが、やんちゃで少し汚い風貌が役柄にマッチしていた」
亀「主演の濱田岳もよかったの。今時の活力のない、草食系男子を好演しておったし、人間としての器の小ささなども伝わってきたわい」
主「ヒロイン役の佐津川愛美も肌をほぼ全裸のシーンもあり、肌を多く見せる体当たり演技だったし、清楚ながらも経験人数は多そうな雰囲気がよく出ていたな。まあ、あれだけ可愛ければ当然か」
亀「わしが一番面白かったのはムロツヨシの演技じゃな。あまりにも癖が強くて、セリフ棒読みだから一見すると下手なように見えるが、体だけで表現しておった。むしろこっちの方がサイコパスの思えてくる演技で、実は相当危ない人間ではないのかと疑りながら見ておったわ。
特に素晴らしいのが、ヒロインのユカと付き合うために設けた飲み会のシーンじゃな。友達が酷い女なのじゃが、会話がなくてもうんざりする様子を目線や演技だけで表現しておったのは驚愕じゃった」
主「そのシーンでうまい役者があえて抑揚なく話をしているってのが、よくわかるよ。他の脇役に関しても個性的だったし、それがこの作品にはマッチしていてよかったな」
亀「物語は『まともな主人公と異常な世界』か『異常な主人公とまともな世界』のどちらかに振ると作りやすいというが、この作品は明らかに前者だったの」
以下ネタバレ
2 うまい演出が光る
主「まあ、なんというか何から何まで映画的なうまさを感じさせる映画だったな」
亀「まず冒頭の掴みをあの安藤の話し方などで独特な雰囲気を出し、さらに岡田がいい奴なんだけどちょっと抜けているって印象を与えておったの。あの不思議な空気感というか、出だしでわしなどはポカンとしてしまって、理解しようと引き込まれてしまったわ」
主「そこにヒロイン阿部ユカ登場に、一目でやばそうな森田登場。この段階ではユカが嘘ついている可能性もあるからな。まあ、観客は予告やポスターで森田がヤバい奴ってわかっているんだけど」
亀「その後の4人での飲み会のシーンだったり、告白のシーンで笑いを巻き起こしていたし、ギャグもしっかりとしていたの」
主「ギャグとエロチックを交えることによって、よりグロテスクなシーンが引き立つようにうまく作り上げているよな。そしてそれが結構長く続いた後に、森田と岡田がふたりで呑みに行くシーンがあるんだが、そこが最高にヤバかった」
亀「前の言葉と次の言葉が全然噛み合ってないのに、それに対して全く気がついていないという場面じゃな。あの部分で森田の異常性が明らかにされたわい。あとは幸せになる能力などの言葉も『共感性』を生むものになっておったの」
タイトルクレジット
主「そして誰が見てもわかりやすいスタートとなる、タイトルクレジットの入れ方は完璧だった。その前が童貞の恋愛劇と初体験という、初々しくて微笑ましいシーンだったからこそ、序章は終わり、これから本番だよっていうのが伝わってきた。正直、そこまでタイトルクレジットがなかったことに気がつかなかったよ」
亀「たぶん、あのシーンは誰が見ても驚愕するじゃろうな。その後から凄惨な場面が続いていくのじゃが、最初のアパートの凄惨な場面と、エロチックな場面がリンクするのはうまい発想じゃ。『棒の突き入れ』と『果てる』という意味が全く違うものになるというのも素晴らしいの。
スプラッタホラーでは美女のシャワーシーンなどが付き物じゃが、これは男性の性でそんなシーンになると身を乗り出して集中して画面を見てしまうというものがあるからなのじゃが、今では使い古されすぎてテンプレの代名詞になっておる。こうして交互に見せることによって、緊張と緩和理論ではないけれど、より異常性や気持ち悪さが引き立ったの」
主「生と死の対比でもあったんだろうな。かたや生者の世界、かたや死者の世界っていう」
脚本について
主「脚本も基本的にはうまいよ、さっきも言った通り会話だったり、ギャグ、恋愛、エロ、グロ、サスペンスなんて色々な要素が入っているけれど、それらをうまく使って物語を構築していた。難しかっただろうな」
亀「ただの……少し難点を言うのであれば、あまりにも森田の運が良すぎるというか、ご都合主義な場面も目立ったの……」
主「例えば?」
亀「まずは音に対する周辺の反応じゃな。森田はアパートから相当離れておったけれど、あの距離で聞こえる喘ぎ声なんて、周辺住民から苦情が来るじゃろう。特にあのお隣さんは言うタイプじゃし」
主「あれってそういうホテルだったのかね? その後が強烈すぎて部屋の内装とかまでは覚えてないわ」
亀「あとは銃声が周辺の人に聞こえてなかったりとか、警察も顔も名前も分かっておっているはずなのに、案外捕まらない展開とかかの。あれ、結構な日にちが過ぎているはずじゃろうに」
主「……まあ、それもそうなんだけどさ、そんなに気にするレベルでがなかったでしょ。元々ギャグ調な場面も多くて、エロチックな場面もグロテスクな場面も色艶……と言っていいのかは微妙だけど、絵としての魅力が出るように演出されているし。
これがリアルテイストだったらもっとヤバいもんになるし、そこは『物語』というものを強調する上でも正解だったんじゃねぇかな」
ラストについて
主「最後の余韻もすごく強かったな」
亀「そうじゃの。シリアルキラーだった森田が、過去の森田へと戻り岡田に言葉をかける……そして物語は過去に戻り、悲惨な現在ではなく、母親に麦茶をお願いする森田へと戻る。その前の話が過激だったからこそ、より悲しみが引き立つラストだったの」
主「あと犬はズルいね。わかりやすく涙腺を刺激してくる」
亀「わしはそこが不満じゃがな。
なぜ亀を出さなかった!
リクガメを散歩させておったら、どんな映画でも100点満点つけるのに……」
主「どんなコメディだよ」
3 映画の感想と離れて……
亀「まあ、なんというか完璧な映画じゃったの。
コメディあり、恋愛あり、エロチックあり、バイオレンスあり、感動ありと、それぞれがそれぞれの要素を引き立てておるし、非常にうまい作りをしておった。役者もジャニーズという人気者を使いながら、その魅力を120%引き出しておるしの。
しいてケチをつけるならば、森田が途中からサイコパスというより、ただのシリアルキラーになった所が残念だったか。もっと冷静に、知能的に、効率よく人を襲うような男であれば、より恐怖心は駆り立てられたであろう。これではジェイソンなどとあまり変わらぬような気がしてしまったわ。
ただ、わしが見た邦画の中では、間違いなく今年1番の出来の作品じゃな。評価が高いのもうなづけるわ」
主「ま、それもそうなんだけどね……」
亀「……含みがあるの?」
主「これは過去の記事でも語ったことなんだけどさ、これでいいのかなって思ってさ」
亀「わしとカエルの記事ではないか」
主「そう。これはこの映画に限った話ではなくて、映画業界、いや物語を表現する全ての業界にも言えることなんだけど、じゃあ、この映画の行く先はどこなのよって話でさ」
亀「というと?」
主「これは自分がヘイズコードがある時代のハリウッド映画が好きなことも影響しているが、エロとグロ、バイオレンスの行く先ってドンドン過激になっていくしかないと思っているんだよ。どこまで脱げるか、どこまで見せるか、どこまで過激にするか、そのギリギリを責めるチキンレースになっていく。
じゃあ、この先にあるのは何かっていうとR-18の世界、AVとかスナッフビデオの世界になってくるような気がしてしまう」
亀「……極論じゃな。少なくともこの映画はさっきも言った通り、映画としての色艶もあったし、演出もなされていてしっかりとした『映画』になっておった」
主「もちろんそれはそうだ。この映画は最後に暴力からの喪失だったり、物悲しいラストによって、暴力の否定もされている。
でも、エロとグロってのは『表現』というよりは『反射』の域だと思うんだよ。例えば裸の美女がいたら男は誰だって興奮するさ。だけど、色気ってのはそんな肌の露出のことではなくて、服を着込んでいても透けてくるもんだろ? それをキャッチして撮るのが『映画』であり、表現だと思うわけよ。
ただ女優に脱がせて『エロいでしょ? 興奮したでしょ?』ってのは映画ではないってのは誰だって理解してくれると思うがね」
亀「何度も言うが、この映画はきちんと映画になっておったぞ」
主「その通り。この映画は本当にエンタメとして成立する、ギリギリのラインを攻めたと思う。だけど、これは俺個人の趣味からしたら、まあアウトかな。自宅で見ていたら途中で映画を止めるか、音声のみ再生にしたかもね。
この映画を受け入れられるかどうかってのは、そう言った要素も絡んでくると思う。なんせ暴力シーンもあれば、女性に乱暴するシーンもそのまま映してしまっているから。
これは映画業界や表現に対して物申すとか、そんな大きなことではないよ。多分監督含めて、関係者の誰もこの記事なんて見ないだろうし。
ただ、足元でキャンキャン吠える、小汚い野良犬もいるってことよ。それを聞く必要はないけど、まあ、目障りかもしれないけれど、吠えるだけはさせてくれや」
最後に
亀「総評としては今年1番の邦画ってことでいいんじゃないかの?」
主「まあ、ジャンルの違いもあれば表現したいことの違いもあるだろうけど、それはその通り。面白くて、上手くて、深い映画になっているよ。吉田恵輔監督は他の作品を見ていないから、ちょっと見てみたいなって気にもなった」
亀「ただのぉ……それだけに惜しいの……」
主「何がよ?」
亀「やっぱりあのシーンは犬ではなくて亀を……」
主「もういいって!!」
監督・脚本 吉田恵輔
原作 古谷実