カエルくん(以下カエル)
「……主は明日のコミティアで発売する同人誌の目処がついたみたいだね」
亀爺(以下亀)
「あとは微調整して製本だと語っておったの。色々と教えてもらったりしながら、少しずつ作っておるようじゃぞ」
カエル「……正直、こんなこと(映画レビュー)している暇なんてないんじゃないの? って思いもあるんだけど」
亀「まあ、本人が好きでやっておることじゃからいいのではないか?
今回は主の負担を減らすためにも、わしらで感想を進めていくとするかの」
カエル「そうだねぇ……さすがに映画レビューも休みすぎるとブログの運営にも問題が出てくるし。しかも、今週だけで観たい映画が10本ほど増えたって言っているよね。よくそんなに次から次へと……」
亀「元々今週は小規模公開系に良作が多い上に、さらにあちらこちらで再上映や2番館の上映なども含めると、一気に増えたみたいじゃの。
今週も『マリアンヌ』などもあったようじゃが、最近洋画ばかりで邦画をあまり見られていないということで、この映画を選択したらしいの」
カエル「結局『恋妻家宮本』も『キセキ』も見に行ってないしねぇ」
亀「そう考えると、アニメ以外の大作邦画は……もしかしたら昨年末見た『海賊とよばれた男』以来かもしれんの」
カエル「確かに、今年初な気がしてきた……先月も20本近く映画を見ているのにね」
亀「いかに小規模映画ばかりに行っていたかわかるの。
では感想記事の始まりじゃ」
1 ネタバレなしの感想
カエル「じゃあ、まず大雑把なレビューだけど……まあ、うん。おもしろかったといえばおもしろかったかな?」
亀「……曖昧な回答じゃの」
カエル「いや、つまらなくはないんだよ? だけど『オススメです! この作品を見に行ってください!』とは言えないよね。
『つまらない! こんな映画を誰が見に行くんだ!』というレベルでもない。
なんというか、レビューとしては1番面白くなりにくいタイプの映画って気がする……」
亀「そうかもしれんの。今作はフジテレビが主導の映画のようじゃが、大規模公開邦画に良くある『テレビドラマ映画』になっておった。
確かに予算もかかっておるじゃろうし、まあやりたいことなどもわからんでもないのじゃが……これだったらスペシャルドラマでもいいか? と思わせるような内容でもあったの」
カエル「決して悪い作品ではないけれど、じゃあ映画館で見る意味がありますか? と問われると、ちょっとねぇ……」
亀「あとは作りも説明的すぎるほど説明的なセリフであったり、分かりやすいテーマ性、描写、演出なども含めて、良くも悪くも『テレビドラマらしい』映画になっておる。
ただ、そういう『テレビドラマ映画』の中では比較的良作と言えるかもしれん。昨年公開された『グッドモーニングショー』などは、決して褒めることは出来ん作品じゃった。それに比べれば本作は十分満足できる作品と言えるじゃろうな」
(C)2017 フジテレビジョン 東宝 電通 アルタミラピクチャーズ
良かった点
カエル「じゃあ、この作品の良かった点は、というと……」
亀「伏線がきっちりと練られており、それが生きておるシーンも多々あった。それがあるからこそこの映画は『映画』たりえたのかもしれん。それがなければ、それこそダメなドラマ映画と成り下がっておったかもしれんの」
カエル「あとはサバイバルに関する知識とかも披露していたり、ある意味ではこのような極限状況における啓蒙とも言える作品になっているよね。東日本大震災を経験したからわかるけれど、ここまでではないにしろこの状況に似たようなことに陥る可能性はあるわけだし」
亀「それこそ輪番停電などもあったし、あの時はコンビニやスーパーから物が一斉になくなったり、停電した中でも電卓叩いてコンビニも営業を続けていたりと、人間のたくましさなども感じたからの。
その意味ではこの映画を作る意義というは確かに大きい」
カエル「あとは役者の演技かな? これは後々まとめて語るよ」
亀「……まあ、これは良い面と悪い面を兼ね備えておるがの」
悪かった面
カエル「悪い面は……まあ、そこそこあるよねぇ」
亀「まずはお話が薄いことかの。
しっかりと練られた伏線が効いておる描写もあるのじゃが、雑なところはとことん雑じゃ。しかも、しっかりと描かなければいけないであろう部分が、非常に雑になっておる。
だから、この映画を見終わった後にはどのような評価を下せばいいのか、まるでわからん」
カエル「まあねぇ。ツッコミどころも多々あるし、まあ停電するという設定自体はいいとしても、電池まで使えなくなるというのは説得力がないしねぇ」
亀「あれだけの騒動になっておったら、病院や消防、警察なども大パニックに陥っておるじゃろう。もちろん一般市民もパニックになっておったが、その描写が甘いように思ったの。
例えば電気が消えたから代わりにロウソクなどを使っておるが、そうなると怖いのは火の危険性じゃ。火事なども劇的に増えるじゃろうが、そういった描写もない」
カエル「そこは配慮した結果ということもあるだろうけれど、気になるポイントだよね」
亀「主人公一家の生活のみに注目しておるのはわかるのじゃが、それが効果的だったかというと……中々難しいの。
結構大きな出来事なのに、お話自体はミニマムだから余計にそういう違和感を生じさせたのかもしれん」
4人家族のお話がほぼメイン。ロードムービートしても楽しめる
(C)2017 フジテレビジョン 東宝 電通 アルタミラピクチャーズ
役者について
カエル「今回、役者は基本的によかったんじゃない? 特に主演の小日向文世とかは、器の小さい、どこにでもいるお父さんを熱演していたし」
亀「……ここも評価が難しいポイントじゃ。
小日向文世は確かに良かった。
様々な描写に体当たりで挑んでおるし、きちんと汚い役にもなっておった。役者魂を感じたの」
カエル「あとは娘役の葵わかなも好演だったよね。ギャルっぽい女子高生の役だけど、お父さんのことがあまり好きではない、というあの世代の子供にとっては普通の反応がリアルだったなぁ」
今作では自然ないい演技も。キラリと光るものがある。
(C)2017 フジテレビジョン 東宝 電通 アルタミラピクチャーズ
亀「彼女が1番評価に困るのじゃが……小日向文世を嫌うシーンなどはうまかった。特に序盤は『この娘はこれから要注目ではないか!?』という思いもあったの。
じゃが、途中のシーンにおいて、やはり子役役者のような演技になっておるような場面も見受けられたかの。
これは経験不足からくるものかもしれんが、そこは惜しい、と感じたポイントじゃな」
カエル「あとは……深津絵里は、まあよかったんじゃない?」
亀「この役を評価するのは難しいの。特に大きなメリハリもない映画じゃし、演技力云々以前にキャラクターの方向性が一方的でしかなかったように思う。この役を魅力的に演じろ、というのは少し難しいかもしれん」
カエル「一家でいうと息子役の泉澤祐希だけど……」
亀「1番評価に困るの。悪いとも思わんが、いいとも思わん。印象に全く残っておらん」
カエル「それって役者としては……」
亀「ダメかもしれんの。
ただ、これは役者云々というよりも、全体的にどうにも統制が取れていないような気がしてしまった。それは脚本もそうじゃが、深読みするに、そこまでキャラクターを一本化することができなかったのではないか?
これは役者云々というよりも、監督や演出などの、もっと前の段階での問題ではないかの」
以下ネタバレあり
2 この映画を見ながら思っていたこと
カエル「この映画を見ながら、ある映画について思い出していたんだよね」
亀「『カレーライスを一から作る』じゃな」
カエル「この映画って冒険家のグレートジャーニー関野吉晴が、大学生とともにカレーライスを一から作るっていう、題名通りのドキュメンタリー映画なんだけれど、この映画の中では野菜を種から育てるのはもちろん、米、肉、スパイス、果てはスプーンや器まで一から作るんだよね」
亀「この映画がやろうとしていることを、ドキュメンタリーとして撮影したら、同じような作品になるかもしれん。普段の我々が如何に便利な生活を送っているか、それがどれほどの大変なことの上に成り立っておるのかということも追求しておる」
カエル「この映画を観ていおいてよかったなぁって点も多いしね。
例えば途中で豚を屠殺するシーンがあるけれど、決定的な場面はそれっぽく見せてはいるけれど、映画には映さない。もちろん、それは映画としてグロテスクなシーンは避けた、というのも1つの理由だろうけれど、これって法律の問題もあるんだよね」
亀「『4つ足の動物(牛、豚、馬、山羊、羊)は屠殺場以外では殺してはいけない』という『屠畜場法』というものがあり、食の安全のためにきちんとした手順を踏まなければいけないという法律で決まっておる。
じゃから、田中さんのように自分の家で屠畜することは、実は違法行為じゃ。もちろん、映画の描写としては問題ないが、実際にその現場を撮影してしまうと問題があるために、あのような描写になったのじゃろうな」
カエル「まあ、それは仕方ないよね」
失われた『リアリティ』
亀「じゃがな、こういうことの1つ1つが映画のリアリティというものを生み出していく。例えば、ここで明らかにそういった事情がわかる描写を入れてしまうことによって『本作は作り物なんだよ』という意味が観客に伝わってしまう。そうなると作品世界から現実に引き戻されるわけじゃから、没頭して映画を見るという行為にならんじゃろう」
カエル「確かにねぇ。例えば、ここで豚じゃなくて鶏とかウサギ、あとは現実的には難しいかもしれないけれど鹿、クマ、イノシシなどは規制の対象外なわけだしねぇ」
亀「やろうと思えば描写できるわけじゃからな。
それから、わしが気になったのは『極限状態』というリアリティじゃ。
本作は多くの場面において自転車で移動するのじゃが、それも違和感があったの」
カエル「……違和感? パンクとかはちゃんと修理していたよ?」
亀「あれだけ1日中自転車を漕いでおったら、単に疲れたというレベルではない異常があるはずじゃ。例えば、手のひらの皮が剥ける、腰痛を抱えるなど、といったようなことがの。
ましてや普段から自転車に乗り慣れていないのに、そういった描写がないのはおかしいではないか?」
カエル「う〜ん……でもそんなこと言い出したら細かいところがたくさん目につくよねぇ」
亀「他にもあれだけ何日間も着た切りであるのに、汚れや損傷が少なすぎる。匂いを気にする描写があるが、全くこちらにそれが伝わってこないの。
終盤の小日向文世はその点、素晴らしかった。今にも限界を迎えそうなボロボロの衣装をまとい、汚れた姿を見せたのはプロ意識の高さを感じるの。他の役者もそういった描写があるにはあったが……もっと汚れた方が良かった場面もあったの」
怪演? 光る小日向文世。さすがの役者魂!
(C)2017 フジテレビジョン 東宝 電通 アルタミラピクチャーズ
3 雑な部分
カエル「あ〜……ここに言及していくのね」
亀「本作は雑な描写はとことん雑じゃからの。省略というよりも、投げっぱなしと言っていいほどじゃ。
例えばラスト付近の描写であるが……あのピンチは一体なんじゃ?」
カエル「山道で襲われて、ってやつね」
亀「作品として物語を動かすためにピンチの山場を作りたかったのはよくわかる。
じゃがな、その方法としてこの物語の動かし方は、ちと雑なように感じたの。例えば雨でぬかるんでいて足を取られて転げ落ちるとか、暴漢に襲われるとかなら、まだ理解はできる。
じゃが、なんであんな形にしたんじゃろうな? そんなに恐ろしい存在とも思えんかったが……」
カエル「やっぱりあれじゃない? 最初の方であった、人間においてけぼりにされているのを伏線として、復讐にやってきたよ、というのがやりたかったんじゃないかな?」
亀「そうだとしてもやはり雑じゃの。それが何の意味があったのか、よくわからん。
本作はセリフの1つ1つも説明的であったり、ダサいものが多いように感じたの。ただ、コメディ描写は笑い声も起こっておったから、脚本も務めた監督が全て悪いとは思わんが。
色々な政治的なこともあるんじゃろうな」
この作品を激押ししてます!
公開館数は少ないけれど、ぜひ!
息子の存在
カエル「その雑さが集合してしまったのが、この息子かもねぇ」
亀「彼は彼なりに活躍する描写もあるにはあるのじゃが、どれもその描写が弱い。というか、本作全員に言えることじゃが、活躍する描写がそこまで多くない。だから印象に残りづらいのかもしれんの。
特にこのお兄ちゃんは好きな女の子の伏線も特に生かされることなく、ただ単にほんわかと終わってしまった印象がある」
カエル「スマホを捨てたというのは成長なのかもしれないけれどねぇ」
亀「わしはそこも納得いかなかったの。
本作は『都会の便利さを見直そう! 農村暮らしもいいよ!』というメッセージも含んだ映画であるのは間違いない。どうにもテレビ局主導の映画に多いのじゃが、スマホやデジタルなものを捨てさせて、アナログに帰ろうよ、というテーマの作品が散見される。
じゃが、そんなことをテレビ局が言うべきことではないじゃろ? デジタル化を邁進して、毎日電気を消費することで成り立っておるのに……」
カエル「……いや、それはもう映画関係ないよね?」
亀「都会の便利な生活を否定し、時には田舎の農業生活もいいよね、というのはわかる。そこはわしも同意じゃ。
じゃが、それを捨てることが成長のように描かれるのは、少し思うところがあるの。要は選択制の問題じゃからな。どちらを選んでもメリットもあればデメリットもある。
例えば田舎暮らしをしている時『電気があればもっと楽なのにね』という描写があるだけでも少しは印象が変わったように思うの」
4 うまい部分と惜しい部分
カエル「あんまり文句ばっかり言ってもなんだから、少しうまい部分についても話しておこうよ。
やっぱり伏線がうまく効いているよね。ラスト付近のあの演出は『うまい!』って思ったよ」
亀「じゃがなぁ……そこも少し惜しい部分でもある」
カエル「……え〜?」
亀「もちろん、いいシーンじゃよ?
そのあとのカツラを捨てるシーンも含めていい描写じゃった。あれはそれまでの見栄を捨てて、本当に自分に素直になる、という描写じゃからな。そこは素直に感心した。
じゃが、そういうシーンがあまり生きてこないんじゃ」
カエル「というと?」
亀「あそこで見栄を捨てたことによって、お父さんは成長をした。じゃがな、その成長をしたから勝利した、という描写があってもいいように思うのじゃ。
本作の勝利条件は『鹿児島のお爺ちゃんの元へたどり着くこと』じゃ。本当は『安心して暮らせる場所を探す』が勝利条件じゃがな。
それをお父さんは見栄で、2度逃しておる。それがあのサバイバルを楽しむ一家と、田中さんの申し出を断った時じゃ。まあ、それはそれでいいじゃろう。あの状況では断るのもさほどおかしな選択ではないしの」
カエル「……じゃあ、何が不満なの?」
亀「例えば『バック・トゥ・ザ・フューチャー』を考えると、マーティは『腰抜け』と言われると怒るが、それを言われてもキレることなく冷静に対応したからこそ、事故に遭わずに勝利した。
これが『成長からの勝利』の過程じゃ。じゃが、あの列車に乗った時点でほぼ話は9割型終わっておる。あの演出では勝利と成長が結びつかん。あの成長があったからこそ、鹿児島にたどり着いたという描写が欲しいの。
それが惜しい。ここがうまくできておれば、中々面白い1作になっておった。他にも、チームとしての一家を描くのならば、お父さんと息子を対比するように作ったり、もっとうまく役割を絡めることができればそれぞれの個性もよくなって映画として優れたものになったように思うがの」
最後に
カエル「フジテレビで災害ものというと、やっぱりアニメが好きな身としては『東京マグニチュード8.0』が思い浮かぶよね」
亀「全く関係はないが、わしなどは連想してしまったの。じゃから、どこか比べるような部分もあったかもしれん。
教育としては確かに面白かった。
NHKなどで防災番組の一環としてこの作品が作られておったら、わしも賞賛したかもしれん。しかし、映画としては少し疑問じゃな」
カエル「あくまでも防災をテーマにしたテレビ番組ならねぇ」
亀「あとは、わしは納得がいかん描写もそこそこ多かったしの」
カエル「え? 何?」
亀「あのような状況で米を炊くのは感心しないの。米というのは水田や炊く際に大量の水があって初めて成立する作物じゃ。水資源が豊かな日本の風土には合致しておるが、水田はともかく炊くのに水を消費するわけじゃから、あのような状況には向いていない食料じゃな。
作中では何回も出てきたが、やはり干し肉などの保存食が1番向いておるように思う。その意味ではあのホームレスの行動というのは、実に理に適っておるの。あとは虫なども……」
カエル「話が長くなりそうなのでこの辺で!」