カエルくん(以下カエル)
「さて、今週もすごく映画が多いけれど」
ブログ主(以下主)
「……映画記事を減らそうかなぁ? なんて考えているんだけどさ。じゃあ、どれを見に行こうかな? と思ったら、結局毎週5本くらいから絞りきれないというね」
カエル「映画料金も安くはないしねぇ。本当なら批評とかするなら、何回も見直してから書きたい部分もあるけれど……」
主「大作も面白いけれど、小劇場系もまた違う面白さがあるからさ。それに、これからのシーズンは大作映画や大規模公開映画がたくさん公開されるしね」
カエル「やっぱり大作の方が面白い確率は高いの?」
主「……いや? 趣味の問題もあるけれど、小劇場系の方が面白い作品が多いと思うよ? もちろん、作品にもよるけれど……」
カエル「え? それはなんで?」
主「考えてみれば当たり前だよ。大作や大規模公開はどこの映画館も黙っていても公開してくれるけれど、小劇場系はその映画館のオーナーなり、責任者が『これを公開したい!』と思わないと劇場でかけてくれないわけだから」
カエル「ああ、そうか。何か見所があるから劇場公開されるわけだもんね」
主「洋画の場合、作られる本数なんて世界で何千、何万とあるわけだ。その中で日本で公開される映画なんてパーセンテージでいうと、そんなに高くないでしょ?
誰かが『いい映画』と思ったから公開されるわけでさ」
カエル「今回、こんな話から入ったのも、この映画に関係しているんだよね」
主「……感想は様々だけど、率直な気持ちを言わせてもらおうかな。
最初に言っておきますが、今回は酷評記事です。
なので、この映画が好きな人は読まないことをお勧めします」
カエル「お手柔らかにね。それじゃ、感想記事スタート!」
1 ネタバレなしの感想
カエル「それじゃあ、ネタバレなしの感想だけど……今回は、ね」
主「相当辛い評価になるよ。ほぼダメ出しの嵐。
コメディ要素もあるけれど、個人的には全然笑えなくてさ。まあ、劇場内のおばちゃんとかは笑っていたから、単なる笑いのツボの話かもしれないけれど」
カエル「そんなに?」
主「個人的にはかなり言いたいことがある。もう日本の大規模公開映画のダメなところの詰め合わせみたいな作品でさ、まあ今年ワーストとは言わないけれど、あまり擁護はできないレベルだよ」
カエル「……なんで今回はそんなに手厳しいの?」
主「結構、邦画大豊作なんて言われてさ、確かにいい邦画が多かったけれど、やっぱりダメな邦画もまだまだあって、少し安心している部分もあるの。
『あれ? あのダメだと思っていた邦画はどこいった?』みたいな気持ちになっていたのが、『ああ、やっぱりいてくれたんだね』って、懐かしの悪友に再会した気分。
だから嬉々としてこの映画を酷評できるよ!」
カエル「……意味がわからないよ」
主「もうさ、作品の設定自体がダメ。というか、大事な設定を忘れているし、この映画の非常に重要なアイテム、つまり K−55という炭疽菌の扱いの雑さとか、すごく目につくんだよね。
それでコメディも寒い、サスペンスもミステリーもダメダメ、人間描写もダメ……まあ、一部褒められるのは迫力のあるスキーのシーンとかかな……。
それも映画である必要性があるのかは、少し疑問があるし……
細かい理由はネタバレありの記事で書くけれどね」
役者について
カエル「じゃあ、今作の役者について語っていくけれど……」
主「う〜ん……味を出したな、と思える役者は特にいない気がする。阿部寛はコミカルに演じていたけれど、新しい味でもなければ、代表作になる! というレベルでもないしさ。
今作に関して、役者で特別褒める人はいないかな」
カエル「……え〜? そんなにダメだった?」
主「特にさ……大ベテランだから、こういうのもなんだけど……柄本明がさ、見ていて心配になるんだよ。シンゴジラの時でも『台詞を喋るのが辛そうだな』と思ったけれど、あの時はそれで良かったんだよ。そんなに元気な役でもないし。
でも、今回は部下に対して当たりの強い、気の強い上司の役なんだけど……それが息も絶え絶えでさ、叫ぶシーンで声も張り上げることもせずに、台詞をなんとか喋っているように見えたんだよね」
カエル「絡む相手も阿部寛とばかりだしね……」
主「もっと、怖い上司とか、声の大きい上司のような役どころなのにね。途中で転ぶシーンがあるけれど、その転び方も如何にも転ぶ演技でさ……歳も歳だから仕方ないけれど『おじいちゃん大丈夫?』って、気になっちゃった」
カエル「本来は強い役のはずなのに、そうじゃないから余計に目に付いたのかな」
主「昔はもっと迫力のある人だったけれどね。
あとは……子役というか、中学生たちはいつも通りの悪い意味で中学生らしい演技だし……あ、女の子はうまかったかな?
それ以外の子は、台詞を話している時に違和感があったなぁ……」
カエル「え、でも誰かいるでしょ? 褒める人が……」
主「……あ! ひとりいた!」
カエル「誰!?」
主「生瀬勝久! 彼だけは抜群に面白かったわぁ……顔だけで笑いが取れる俳優だよね。いい演技だったよ」
カエル「……あ、うん。確かに出演者だね」
以下ネタバレあり
2 設定上のツッコミどころ
カエル「じゃあ、ここからはネタバレありなんだけど……なんでそこまで酷評するの?」
主「だってさ、考えてもみなよ。炭疽菌テロだよ? アメリカなどが最も警戒する、生物兵器だよ? 強力な細菌テロなんだよ?
それこそオウムクラスのインパクトのある事件なのに、それに対する緊張感が無さすぎるんだよね」
カエル「え? どんなところが?」
主「まずさ、あの炭疽菌が入ったガラスは気温が10℃になったら自然に割れるという説明があった。それはこの事件にタイムリミットがあるという、明確な理由付けになった。それはわかる。
だけど、その割にはこのガラス瓶の扱いが非常に雑すぎるんだよね」
カエル「例えば?」
主「途中である人物がポケットの中に入れているじゃん。『お前、ちょっと待て!』だよ。
いくら冬山でも晴れた日に、人間のポケットの中にそんな生物兵器を入れておくやつがいるか!? もちろん、その人物はそのガラスの性質は知らないだろうけれど、あの状況ならすぐに体温などであったまるよね? それはどういうこと?」
カエル「すぐに割れる代物でないんじゃない?」
主「それからさ、その後に、窓の外にそのガラスを置いておいて、部屋の中に入れるわけじゃない。そんな大事なものを、あったかい部屋に入れるなよ! とかさ。
外に出しておいたからいいけれど、あの子供はそのガラスの性質知っているの? もしかしたら、布団の中に入れていた可能性もあるんじゃないの?
あの大迫力のスキーでの戦闘もハラハラもんだよね。まあ、ふたり共中身を知らないはずだから、あれでいいかもしれないけれど、衝撃で割れたらみんな終わりだし……。あの黒幕も、中身の確認くらいしろよ。
もう最悪の病原菌である炭疽菌の扱いが雑すぎてね。キャラクターが、というよりも、映画として雑」
炭疽菌とコメディ
カエル「あー……これはそもそも論の話?」
主「先にも言ったけど、炭疽菌テロなんて重大事件なのに、みんな緊張感が無さすぎるんだよ。いや、中身が炭疽菌って知らない人たちは別にいいよ? だけど、肝心の阿部寛もさ、必死にやっているんだか、ふざけているんだかよく分からないんだよね」
カエル「……コメディだからそれでいいんじゃないの?」
主「コメディにしても、状況が状況だからそんなに笑えるものじゃないでしょ? こういう状況で、すごく真面目にやって失敗したり……とかならわかるけれど、絵面とかがふざけているようにしか見えないんだよね。
じゃあサスペンス風に行くのかというと、そうでもない。コメディとサスペンスの相乗効果になっているとは、全く思えなかったんだよね……
お互いがお互いを邪魔しあうようにしか見えなかった」
カエル「そんなに言うほど悪いかな?」
主「それを助長しちゃったのが、会話のつまらなさと演出なんだよね……」
3 脚本について
カエル「笑いどころは多かったけれどね」
主「まあ、笑いに関しては趣味もあるけれどさ、会話だったり、脚本自体が致命的に悪い。
例えば序盤の犯人の『俺は天才なんだよ!』の台詞とかさ、何その陳腐なやつ? リアルを狙っているのか、ギャグを狙っているのかもよくわからない。
そして結局はずっと説明台詞の連呼だからさ……もう、どこがいいのか全く分からないんだよ」
カエル「説明台詞が多いのは、ドラマの都合上仕方ないけれどさ……」
主「あの所長、色々と知りすぎでしょ。というか、どこまであの犯人も喋っているんだよ? まあ、事故した時のカバンの中に色々と計画書とか入っていたのかもしれないけれどさ……
それにしても、状況が整いすぎているんだよな。すごくドラマのためのドラマって感じがした。
いつも言うけれど、邦画のダメなところはさ『言わなくてもいいこと、演出で語ることを、長々と台詞にする』というのがあるんだよ。その方が伝わりやすいと言うけれど、じゃあ映画である意味って何よ?
しかも、単なるお説教の映画。理想論だったり、美しい言葉で修飾する。
あの男の子がやろうとしたことは、考えてみれば毒物カレー事件レベルの大事件だよ? 未遂とはいえさ。
それがあんな説教レベルで済ませていいの? しかも、あんな臭い台詞を述べて……そこを演出や暗喩でカバーするのが、映画であり物語なんじゃないの?」
カエル「まあ、そこは映画性の違いとかもあるから。娯楽だし」
主「結局さ、心に響く言葉もない、脚本もご都合の繰り返しに見えて、もうどうしようもないなぁ……って気分だよ。アドリブ芝居も多いらしいけれど、そこが余計に脚本の稚拙さを露呈した形になったんじゃないかな?」
ドラマ性の弱さ
カエル「……まだ続けるの?」
主「まだまだ続けるよ。
邦画のダメなところで上がるのが、色々な要素を入れすぎて結局エピソードが薄味になって、特徴のない映画になるところだ。
この映画でいうと
炭疽菌を追う事件……①
オリンピックを目指す……②
学校のインフルエンザと妹の死……③
父と子の関係……④
それから、息子が好きな女の子を追いかける話もあるかな? まあ、これはサブストーリーとしても……これだけで4つの物語がある。
これはさすがに詰め込み過ぎよ。そのせいで1つ1つが弱くなるし、その結びつきが強いとも思えない。
オリンピックを目指します……なんて飲み屋のシーンとかでベラベラ話しているけれど、結局ドラマ自体が薄いから会話で補完して、さらに薄くなっているし、救助隊の彼もなんであんな犯罪まがいの危険まで犯して真摯に手伝ってくれるのかわからない。
『騙したんですね!』のくだりもたった一言でおしまいだし」
カエル「う〜ん……まあ、炭疽菌を追う事件がメインのはずなのに、途中から色々とドラマが始まっちゃったからね」
主「炭疽菌事件ももう一つ大どんでん返しがあればね。あの黒幕逮捕だって、なんで偽造パスポートを使うのよ? 別に普通に出国すればいいのに。
結局みんなドラマのためのドラマ、御都合主義にしか見えなかったなぁ」
息子の憤り
主「それから息子の言葉。感動ポイントらしいけれど、意味不明だよ。
だってさ『僕の気持ちをわかってよ!』って、お前は何をしていた? ゲームして、スノボして、女の子ナンパして。奢るよって、それは自分で稼いだ金でもないだろ? 父親の金だろ?
それで『どういうことだよ!』って怒る意味がわからん。それまで、父親の仕事にも関心を見せずにいた息子じゃない」
カエル「それは……まあ、あの子の気持ちを蔑ろにしたからで、ね」
主「父親のことは理解しないで、ウザいだなんだって言っておいて『僕のことを理解してよ』なんて調子良すぎるでしょ!
しかも、なんで公表するの? なんで返しちゃいけないのよ?」
カエル「研究所の失態を世に晒すためでしょ?」
主「別にあの研究所がアメリカとかに売りつけたり、それで悪用するわけじゃないでしょ? じゃあ、研究所に戻ったらどうなるのよ? 多分、オートクレーブに入れたりして、滅菌処理してそれでおしまいじゃない。
作った人間はもういないし、作り方のデータも破棄すればいいだけだから、公表する理由があるの? 単なる憂さ晴らしになっていない?
あのまま戻しておけば、父親も仕事が続いて副所長に、会社も苦労せずに炭疽菌は処理される。だけど、ラストのあの行動のせいで父親はおそらく失職し、会社は傾き、余計な発表され、日本全体が炭疽菌の恐怖に晒される。
どっちが幸福な未来かは、言わないでもわかるよね?」
カエル「え……ああ、まあ、ね。でも、それで持ち出されるのは防げたわけだし……」
主「それがご都合主義だよなぁ……
この映画のどこにハッピーエンドがあるのよ? 結局、一時期の情に影響されて余計なことをしているだけ。もっと最初から家族の軋轢とか、仕事一筋で非道の父親とかであればいいのに、そうでもないでしょ? いいお父さんじゃない。息子のことを気にしていてさ。スノボーに連れて行ってくれるし、東京住まいなのに、地元の子に上手いと言われるほど練習させてくれるし。
ぶつかる理由なんてどこにもないけれどね。単なる思春期のワガママで、それはそれでいいけれど、そんなもんで炭疽菌テロが左右されてもなぁ……
ドラマ性が薄いから違和感のある映像になる」
4 サスペンス描写とスキー描写
カエル「……じゃあ、サスペンスとしてはどうなの?」
主「ひどいよね……解決の多くがさ、偶然の出会いとか、偶然見つけましたが多くて、伏線をきっちりと張って……という風になっていない。
数少ないのが方言で居場所を見つける……くらいだけど、それ以外の多くが推理とかで頭を使って真相を知る、ではなくて、適当にぶらついていたら偶然知り合ったとか、偶然見つけたとかの連続だからね。
すごく練れらたサスペンス! ではない。多分、原作は読んでいないけれどコメディ中心だからサスペンスは軽めにしたんだろうけれど、映画にしたことによってそのご都合感がさらに増したよね」
カエル「……でもさ、ほら、スキー描写がすごかったじゃない!」
主「確かに映像は凄いんだよ。
(追記。大島優子は確かにすごい)だけどさ、スタントマンやプロのような実力を持った人たちの滑る様子を、後ろから追っかけているわけでしょ? 映像の迫力は凄いけれど、それだったら本物のプロのプレーを試合で追いかけたほうが良くない?
確かに臨場感もあって面白いけれど、映画である必要はあるのかな? って思っちゃった。別に阿部寛、ムロツヨシが滑るわけじゃないしさ、別人が滑っている映像だって誰もがわかるっているんだから。映画でやる必要性がある?
スキーとスノボーの対決もさ、オリンピック候補生といい勝負するって、それもう上手いってレベルじゃないし。あと偶然居合わせたカメラマンがくっ付いていくというのがあるけれど、唐突感が半端ないよなぁ……」
カエル「え〜……なんでそこまで批判的なの?」
主「だって、これだったらライブビューイングを映画館でやればよくない? オリンピック応援上映とかさ、W杯、WBC応援上映とか言って、大画面でみんなで観戦するとか、そういうのは面白いと思った。
だけど映画として……と言われると、明らかなスタントマンで、雪国だからって顔や体を全て隠したら、物語としての虚構性を全て暴きにいっているような気がしてさ……すごく気になるなぁ。
いつも言うけれど、映画に限らず物語で重要なのは『物語に魅せること』『物語に酔わせること』であってさ、それが明らかに俳優でもない人が滑っている映像を見せられて、現実に戻らないの?」
最後に
カエル「……今回は相当賛否ある記事になるだろうね」
主「この作品を褒めることはできないよ。好きな人は好きでいいけれどさ、個人的には全く評価できない。
特に、ここ最近R15ではあるけれど体を張ったコメディ映画である『世界の果てまでヒャッハー』を見ちゃったからさ。そうなると、この映画の駄目さがより際立っちゃうよね」
カエル「でも評判はそこまで悪くはないんじゃないの?」
主「う〜ん……みんな筋とか脚本とか演技とか気にしないのかね? テレビドラマ的なものに慣れているから、ご都合主義が目につかないのか、全体の整合性を気にしないのか?
この映画の面白いところはラストのオチだけだと思う。あれは笑った。
それ以外は、むしろひどいよ。監督の意図を聞いてみたいくらい。
本当にさ、劇場で頭を抱えたよ。なんでこうなるんだろ?」
カエル「う〜ん……今回はフォローのしようもないような酷評記事でした」
主「個人的には貶したくてブログ記事を書いているわけではないんだけどね……」
コメディなら R15で小規模公開ながらもこちらがおすすめ