今回はテーマパークをモチーフとした作品を紹介します!
期待していいのかどうかよく分からない作品じゃな
カエルくん(以下カエル)
「もうちょっと言い方を……と思いつつも、そこまで注目はされていない印象かなぁ」
亀爺(以下亀)
「普段であれば、あまり観にいいかんかもしれんが、評判が悪くないのでものは試しといってみたの」
カエル「あとは大好きな橋本愛ちゃん目当てという邪な感情を抱えつつね」
亀「実はブラック企業と社畜を賞賛するような映画になっていました! とかでなければいいが……
では、感想記事のスタートじゃ」
感想
ではTwitterの短評からスタートです!
#オズランド
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2018年10月27日
上手い下手よりも「お客さん(観客)を楽しませるにはどうすればいいか?」を必死に考え抜いた良作
ちょいちょい挟まれる小道具の使い方や小ネタが上手い
ただ一部シーンは会社員としてその姿勢に疑問符も
安全第一であればあの選択はないよなぁ、と妙にリアルな見方してしまった pic.twitter.com/mx18Dgy0RM
思ったよりもいい映画じゃったな
カエル「正直なコトを言えば予告などの段階からして『またこの手の映画かぁ』と舐めていた部分はあるんだよね。
お仕事ものでありながらも、結局はありえない展開が続いて、最後には波留が演じる主人公の波平と、西島秀俊が演じる小塚が恋愛関係になってキスしておしまいなんでしょ? と舐めていたけれど……
そんな穿った見方を否定されるような映画だったね」
亀「うまい映画か、と言われると少し微妙な感想になってしまうが、お客さんを喜ばせようという工夫はたくさん見られたからの。
遊園地も映画製作も限られた資金やスタッフの中で、どれだけ工夫するかという部分が重要じゃろう。
絶対いいものにしてみせる、お客さん(観客)を楽しませて帰るという心意気が伝わってきたし、実際そのような映画になっておった」
カエル「この手のお仕事ものという身近な題材だから、細かい違和感だったり、ツッコミどころもなくはないんだけれどね」
亀「それを差し引いても面白いと思えるような、いい映画だったのではないか?
おそらく興行的には苦労するし、賞レースにからめるような作品でもない。大規模公開の割にはひっそりと消えてしまうとは思うが、興味があれば鑑賞してもいいのではないかの?」
本作の上手さ
どんなところが工夫が感じられたの?
主に小道具の使い方であったり、あとは引用の方法じゃな
カエル「今作はその名前からもわかるように『オズの魔法使い』の物語が多く引用されています。
有名な児童文学であり、歴史的なミュージカル作品なので、名前だけでもご存知の方は多いのではないでしょうか?」
亀「本作をより楽しむためには、オズと魔法使いを知っておくといいじゃろうな。
もちろん多くのシーンはオリジナルであるが、一部展開や演出などにオズの魔法使いを参考にした場面が挿入されておる。
そこは物語の本筋には大きく絡まないが、知っておくとニヤリとできる作品となっておるぞ」
カエル「それと、小道具も良かったという話だけれど……」
亀「例えば、最序盤で靴が大きく映るシーンがあるのじゃが、オズの魔法使いで靴というのはとても重要なアイテムになっておる。他にも『シンデレラ』などもそうであるが、靴というのは女性が新しい一歩と踏み出す際に、重要となるアイテムじゃな」
カエル「人気ゲームである『アイドルマスター シンデレラガールズ』はその名の通りシンデレラが重要なモチーフになっているけれど、アニメのOPなどの作品に重要な楽曲では、歌詞にシンデレラに対する言及があったりすんだよね」
亀「他にも……これは少しネタバレ気味になってしまうので詳しくは後述するが、序盤から終盤にかけて重要な意味を持つあるアイテムがある。その使い方やちょっとして見せ方なども工夫されておる。
他にコメディに徹するために様々な工夫が練られており、映画として見どころの多い作品であるの」
歴史的なミュージカル映画でもあります
役者について
本作の役者についてはどうだった?
ある程度は良かったのではないかの?
カエル「まあ、あんまりケチはつけにくいよね。
主役の波留や、西島秀俊などもいい演技を披露していたんじゃないかな?」
亀「今作は役者の演技に関しては語ることがほとんどないの。
もっと悪い演技であれば、思いっきり不満を述べることができるし、いい演技であれば当然誉めたたえる。
しかし、本作は決して貶されるものではないにしろ、褒めるほどのものにも感じなかったというのが正直なところじゃな」
カエル「……えっと、一応念のために断っておきますが、決して悪い意味ではありません」
亀「これは役者の演技云々ではなく、物語の方向性の問題であるが……この手のお仕事ものでは大きな欠点がある。
例えばあんまりブラックな環境を描けない。それではハートフルな物語にはならないからの。それに……これは近年のお仕事アニメの大傑作である『SHIROBAKO』にも共通する違和感なのじゃが、主人公が有能すぎるんじゃな」
カエル「まあねぇ。仕事において1年目って普通は覚えるだけで精一杯で、そんなに役に立てるわけじゃないよね。足を引っ張らなければそれでいいというか……」
亀「もちろん仕事にもよるじゃろうがの。
今作でいえば西島秀俊などもは、本当に有能で理想的な上司を演じておる。
何があっても穏やかで、決して慌てずに行動することのできる人間の鏡じゃ。しかし、だからこそどこか人間味は感じない部分もあるように思ってしまった。
それは波留も同じじゃな。
彼女を中心に物語は進行していくが、特に中盤以降は特に有能すぎて、どうしても物語らしい虚構性を感じてしまったの」
カエル「うちでは大好きな橋本愛ちゃんは?」
亀「普段は落ち着いた女性を演じることが多い中でも年相応の女性を演じており、新境地とまでは言わんが、なかなか新鮮じゃったな。
それと柄本明や濱田マリも出ておるが、何かを語る必要もないくらい安定している演技じゃったな」
カエル「……なんかここ数年1番顔を見る俳優は柄本明な気がするなぁ。
本当に多くの作品で登場する役者だね」
以下ネタバレあり
作品考察
オズの魔法使いの影響
ではここからはネタバレありで語っていきましょう!
本作はオズの魔法使いの影響がとても大きいの
カエル「それは名前からもわかるけれど、そんなに引用があったっけ?
有名な作品ですが、一応あらすじを説明します。
夢見がちな少女ドロシーは、ある日竜巻に巻き込まれてしまい不思議な世界にたどり着きます。そこでは小人たちが暮らしていましたが、彼らを苦しめる東の悪い魔女をドロシーは事故により殺してしまいます。
東の魔女の死に喜んだ小人たちに歓待を受けるドロシー。その前に出てくるのは北のいい魔女でした。北の魔女はドロシーが家に戻るために、エメラルドの都に住む大魔法使いのオズに会いに行くようにアドバイスをします。
そして脳みそのないカカシ、心のないブリキ人形、臆病なライオンを仲間に加えて旅をしていきます……」
亀「本作はスタートからオズの魔法つかいをモチーフとしておる。
例えば靴をどアップにするシーンは、オズの魔法使いで重要な意味を持つルビーの靴をモチーフとしておる。
また、波平は熊本にある現場の遊園地よりも、都会にある本社に帰りたい。もともとは都会の……おそらく東京の人じゃからの。そこも現実世界からオズの世界へと向かうという、オズの魔法使いを踏襲しておる。
だからこそ、当初の波平の目的は『東京(元の居場所)に戻る』というオズの魔法使いのドロシーと全く同じ目的になっておる」
カエル「ふむふむ……それでいうとあの同じ職場の3人は……」
亀「明確にオズの魔法つかいの3人の仲間じゃな。
橋本愛演じる弥生はカカシじゃな。オズでも1番最初にドロシーと出会うのはカカシじゃしの。他の2人は明確にお喋りなライオンと、感情に乏しいブリキをモチーフとしておる。
まあ、ブリキの彼はあまり出番がなかったのは少し減点かもしれんがの」
カエル「それでいうと小園は?」
亀「もちろんオズの魔法使いじゃろう。
それを考えるとあのラストの意味がよくわかるんじゃが……それは後述じゃな」
小道具の使い方
本作は小道具の使い方がとてもうまかったよね
特に爆弾の使い方は見事じゃったな
カエル「トイレで爆弾が発見されて、その処理を緊急で波平たち新人がその処理に当たるんだけれど、実は新人教育とショーの一環だったというオチだよね。
最初は新人さんをいじめるようにも見えていたけれど……」
亀「あの手の描写は難しいところじゃな。
爆弾騒動は物語の導入としてはいい。
遊園地という職場がどのような場所なのか、もしくは鉄壁の5ヶ条を説明するのにも、キャラクター紹介にも役立っておる。
新人さんを主人公とすることで、新人への説明=観客への説明として自然に機能するからの」
カエル「でもさ……結局その笑いって何も知らない人を馬鹿にするような笑いでもあるじゃない?
じゃあ自分の職場で新人時代に同じようなことをさせられたら……それはパワハラだと思って嫌になるんじゃないかなぁ」
亀「結局は見世物にされて、馬鹿にされたような形じゃからな。それがエンターテイメントであり、遊園地は人を楽しませる仕事とはいえ、この形は納得できないって人もいるかもしれんの。
そして”爆弾=新人を嘲笑する上司の象徴”となったようにわしは思う」
カエル「そこまで強烈な言葉は違和感もあるけれど……」
亀「そして新人とはいえ波平が考えた企画書は爆弾の下に置かれてしまう。やはり右も左もわからない新人では……ということを映像だけで端的に示しておるとも言えるの」
カエル「でもそれが後半で大きな活躍を見せるもんね」
亀「他にも名前を隠す養生テープの使い方であったり、それから面白いのは車じゃな。
本作では波平は車を持たんから、小園が毎日車で迎えに来る。それが最後には大きな成長を見せる車の描写が、波平の成長を端的に描いておる。映像表現としても優れた作品を目指しておるのは、よく伝わってくるの」
ラストの展開について
そういえば、最後の方にオズをモチーフにしたシーンがあるという話だけれど……
気球に乗るシーンじゃな
亀「オズの魔法使いではドロシーが気球に乗って家に帰ろうとするシーンがある。
しかし、それに乗ってカンザス州へ帰ろうとオズの魔法使いと一緒に気球の準備をしていたが、飼っていた犬のトトがいなくなり、オズだけが去って行ってしまう。ドロシーは取り残されてしまうわけじゃな。
物語としては最大のピンチに該当するシーンであるが、もちろん本作の終盤もこの展開を踏襲しておる」
カエル「ああ、だからあの気球のシーンが入っていたんだね」
亀「オズの魔法使いという作品に教訓を求めるならば……まあ、割と荒唐無稽でメチャクチャなお話であるが”心の持ちようで物事の見え方は変わる”ということじゃろう。
別に魔法によって何かが変わるわけではない。
しかし、自分の心持ちが変わることによって、自分のコンプレックスや抱えていたものが大きく変わり、人生が変わるということを描いておる。
それはまさしく”発想の転換の勝利”であり、”創意と工夫の物語”として本作では活きていると言えるわけじゃな」
カエル「あの見どころのシーンは素晴らしいよね。確かに限られたお金の中で、そして世界一を目指すという2つの目標を達成する、見事な発想で唸ってしまったよ」
亀「オズの魔法使いという、元の作品の語ることにも合致した作品じゃったな。
オズの魔法使いではドロシーは家に帰るが、本作はそうではない、別の道のドロシー像を見せてくれたのかもしれん」
欠点として
ここまでほめてきたけれど、欠点としては?
……かなり現実的な、面白みのないツッコミじゃがな
カエル「現実的なお話? やっぱり残業とか?」
亀「いや、あれはあれであの日限定の突発的な事態じゃからそこまでブラックなどとも思わんが……今の社会で最も重要視されるのはコンプライアンスと、そして安全対策じゃろ?
しかし、その安全対策上で問題があると思わざるをえないシーンがいくつもあった」
カエル「あの危機を救った夜間停電作戦とか?」
亀「それもそうじゃし、アイドル達のわがままを聞いてしまうのもの。あの施設は夜間も少しは営業をしておるようじゃが、夜間営業は暗い中で行うために危険もある場合がある。特に、毎日の点検などは明るい時間に行わないと見落としなどもあるじゃろう。
さらに言えば夜間に停電させるというのは、いくら花火大会でもやっていいのじゃろうか?
あれだけのお客さんがおるから、全員が花火に夢中とは限らん。中にはトイレへ行ったり、その時間中に他の場所へ移動することもあるじゃろう。
極めつけは救急車を呼ぶほどの、重い労働災害が発生しているにもかかわらず、それが軽いもののように扱われてしまっておる。
この辺りは企業や業種によって考え方は変わるが、そこまで軽く考えていいものではないと思うがの」
カエル「……かなり現実的な見方だね。
無理だったら毅然と断るというのも、お客さんのために重要な対応だよね」
亀「それから……これはお話の構成の問題であるが、本作は途中で物語が終わってしまっておる。
オズと魔法使いのように波平(ドロシー)が東京に戻るまでの物語かと思いきや、終盤は全く違う物語になってしまった。そこからは目的が弱くなってしまい、全体的なカタルシスは減ったしまった。
どうしても小粒な作品になってしまった印象は拭えず、絶賛できない作品になってしまったの」
カエル「悪くはない作品ですが……って言い方がすでに微妙な評価なのかなぁ」
まとめ
では、この記事のまとめです!
- 工夫に満ちた多くのシーンが物語を彩る!
- オズの魔法使いを下敷きに、小道具などの演出も工夫されていた!
- コンプライアンスなど現実的に考えると首を傾げるシーンも
悪くはないぞ!
カエル「でも観る前の予想よりは、ずっといい作品だったよね」
亀「だからと言ってオススメしまくるほどの作品でもなく……なんというか、言葉には困るが、テレビなどでやっていたら是非見て欲しい作品じゃな」
カエル「……ある意味、一番不遇なタイプの作品かもね……」