物語る亀

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物語愛好者の雑文

映画『日日是好日』ネタバレ感想&評価〜樹木希林さんの近年の活躍を改めて振り返る〜

 

 

先日亡くなられた樹木希林さんの出演作品です

 

こういう形で注目されるのは、少し複雑じゃな

 

カエルくん(以下カエル)

 「日本を代表する名女優、樹木希林さんの出演する作品としても注目を集めています」

 

亀爺(以下亀)

「とは言っても、本作が遺作ではないがの」

 

カエル「もちろん、それ以外でも珍しい茶道の映画という面でも注目していきましょう。

 では記事のスタートです」

 

 

 


『日日是好日』予告 2018 年10 月13 日(土)公開

 

 

 

 

感想

 

それではTwitterの短評からスタートです

 

 

これが樹木希林さんの遺作になると考えると、感慨深いものがあるの……

 

カエル「やっぱり、希林さんが亡くなってしまったことを意識してしまうよね。

 本作は茶道を通して日々の生活の中に宿る豊かさであったり、人との接し方を考える作品に仕上がっていて、決して劇的な展開が多い作品ではありませんが、静かにゆったりと語れていく作品になっています

主亀日本古来から続くお茶の文化を通して、人が生きるというのはどういうことなのか、人との接し方とはどういうものなのか? ということを探していく物語じゃな。

 茶道なんて全くわからん……と思う方でも安心して見てもらえる作品に仕上がっておるし、ある程度の満足感を多くの人に与える作品じゃろうな

 

カエル「だけれど、やっぱりこの映画を観に行く層は比較的高齢の方が多くなるのかな?

 先行上映で鑑賞したけれど、どうしても年齢層の高さは気になってしまったかなぁ」

亀「題材が題材だけに、黒木華や多部未華子という若いキャストもおるが、決して若者向けの作品ではないかもしれん。

 しかし、伝統文化に対する関心がどうしても薄い若者にも届く作品であり、確かに静かな部分が多いものの、コミカルで笑えるシーンも多い作品じゃ。

 劇場内では笑い声もたくさん巻き起こっておったし、わしも笑った。若い人にも鑑賞してほしいし……さらに言えば、就活を考えている20代前半から、アラサーぐらいの人が1番刺さる作品かもしれんの

 

 

 

樹木希林さんを悼んで

 

本作を語る上で避けることができないのが、樹木希林さんの存在です

 

少しだけ、樹木希林さんについて語っていこうかの

 

カエル「変な話だけれど、僕からするとずっとお婆ちゃん役を演じていた方という印象があって、全身にがんが転移していると聞いても、なんだかんだ言って後10年は映画を中心に出演し続けるんじゃないかな? って漠然と思っていた部分もあって……

 アンパンマンのやなせたかしさんとか、歌丸師匠と同じように、ずっとお爺ちゃん、お婆ちゃんのままでいるんだろうなって、思いがどこかにあっただけに、まだ亡くなったという実感はあまりないかな……」

 

亀「わしら映画ファンとしては、実際にお会いする機会なんてほとんどなく、スクリーン越しの出会っているからの。現に、亡くなった後もこうやって封切りされる映画に出演しており、遺作は来年公開される『エリカ38』になるという話じゃから、わしらが鑑賞するのは少し先のお話じゃの。

 亡くなった後も出演した作品が公開される……これは間違い無く、生涯現役を貫いたと言えるじゃろう

カエル「近年は是枝裕和監督の作品を中心に、多くの映画に出演していて、今年も『モリのいる場所』『万引き家族』の2作品でもとても印象的な演技を披露していたよね」

 

亀「上半期の映画ランキングではこの2作ともに高い評価をつけさせてもらったが、やはり役者の魅力も大きい。特にこの2作では、とぼけたところもありながらも、ちゃっかりとした高齢者のしたたかな部分も演じており、強く印象に残る演技じゃったな」

カエル「間違い無く、替えのきかない役者さんだったよね。

 本人は今の日本の役者陣を見て『諦めリストだ』と語っていて、演技の幅がない役者ばかりになってしまったと嘆き、自分もその一員であると語っていたけれど……唯一無二の存在感があった役者さんで、誰もが出演を熱望し、共演を望んだ方だったんじゃないかな」

 

 

blog.monogatarukame.net

 

 

近年の出演作品を振り返る

 

では、樹木希林さんの近年の出演作品を振り返りましょう

 

何と言っても是枝裕和監督の作品が強く印象に残っておるの

 

カエル「先にもあげたように『モリのいる場所』『万引き家族』は2018年の邦画の中でも特にオススメしたい作品でもあるし、万引きに至っては邦画界を象徴する作品の1つだよね。

 長年参加してきた是枝監督の最後の出演作が『万引き家族』というのも、いろいろと思うところはあるかな」

 

亀「わしは、あまり役者を意識して映画の評価を決めることはしておらんが、結果的に見ると樹木希林さんが出演した作品は非常に高い評価をつける傾向があったかもしれん。

 2017年で言えばナレーションで参加した『人生フルーツ』『光(河瀬直美監督)』は200作以上新作を観た中でもTOP10にランクインしておる。

 特に河瀬直美監督の『あん』などは、オールタイムベストの候補にも入るくらいにお気に入りの作品でもある」

 

カエル「それだけ作品全体を支えて、大きな印象を残す演技が多かったということだよね。

 近年の……自然な演技を主体にした、リアリティのある作品には欠かせない役者さんだったし、どこまでが台本でどこまでが演技なのかが全くわからない味があったね

亀「時折、役者に対してあまりよくない評価として言われるのが『何をやっても変わらない演技』という言葉じゃ。

 その意味では樹木希林さんもどの作品を見ても、そこまで大きく変わらない演技をしておったようにも思う。しかし、樹木希林さんの場合は”役者が役を凌駕する”とでもいうような凄みがあった。

 ”役者が役を演じる”のではなく”役が役者に追従する”とでもいうのかの……この境地こそが、名人芸と呼ばれるものなのかもしれんの」

 

 

 

黒木華と多部未華子について

 

他の役者についても語っていきましょう

 

今作は当時の時代感などがよく出ておったの

 

カエル「主役を務める黒木華と、その仲のいい、いとこである多部未華子の演技もよかったよね。

 本作は1990年代が物語のスタートになっているけれど、あの時代の雰囲気がすごくよく出ていたよ!

亀「今にしてみると、若干ダサいような服装であるが、当時の若者の最先端のファッションを着こなしておったの。元々が可愛らしい2人からこそ、それがダサいにならずに、可愛いと思えるようになっておった。

 また、本作はおそらくアドリブとでもいうか、演技ではないと思われるシーンもある。

 最初の稽古では、樹木希林さんの演じる武田先生による帛紗(ふくさ。ハンカチのようなものであり、茶器など拭いたりする)の扱い方を教えられるが、そのたどたどしい様子が初心者である2人の様子を見事にとらえておるの」

 

カエル「あのシーンも含めて、可愛いらしい女の子でさ。

 確かに、ちょっと無作法な部分もあった女の子が、徐々に美しい所作を身につけていく部分なども含めて、見所が多かったね」

亀「わしは残念ながら茶道についてはほとんど知らんから、本作の茶道がどの程度正しいものなのかは、正直わからんものがある。しかし、画面から伝わって来る静かな佇まいであったり、所作の美しさなどは確かに胸を打つものがある。

 特に黒木華は……こういうとなんじゃが、あまり派手な顔立ちの女優さんではない。その分、日本的な文化に見事に合致しており、どことなく文化的な雰囲気を身につけておる女優さんじゃな。

 黒木華だからこそ出てくる魅力にも満ちており、いい配役じゃったの

 

 

 

 

作品考察

 

茶道の描き方につい

 

全く茶道については詳しくないけれど、自分なりに思ったところを書いていこうか

 

わしが連想したのはこの作品じゃな

 

 

 

カエル「近年の茶道を描いた漫画というと、やはり1番に思いつくのがこの作品かなぁ。

 へうげものは織田信長、豊臣秀吉、徳川家康などの三英傑などに仕えた古田織部を主人公とした歴史漫画です。織部は千利休の弟子の一人であり、後々の茶道に大きな影響を与えた人物ですが……まあ、ちょっと地味な印象は拭えないかも?

 安土桃山時代から江戸初期に関しての文化を知る上でも、オススメする作品でもあります」

 

亀「もちろん漫画的な脚色はあるがの。

 わしが日日是好日からへうげものを連想したのは、1つ理由がる。それは第44話『Relax』の一幕じゃな」

カエル「このお話を簡単に説明すると、古田織部は千利休の紹介で1番のわび数寄者と名高い丿貫(へちかん)の元へ行きます。貧しい農民のもてなしに最初は訝しげな態度をとったものの、徐々にそのもてなしの心に感心していく……というお話です」

 

亀「この話の中で『名物(名実ともに優れた茶器)に囲まれていると、うるさくてしょうがない』という話がある。例えば立派な家であったり、掛け軸、茶碗、その他いろいろなものが素晴らしいと、却ってそれが煩く感じてしまう。

 だからこそ、そのような名物はやめて、あえてボロボロの屋敷に住むことで、よりシンプルなもてなしを目指した、という話じゃ。

 しかし、織部はそうは受け取らなかった。

 実はそのシンプルさの中にも、風や水の音だったり、家の中の柱などが奏でる味わいが感じられて、いろいろなメッセージ性があると感じたわけじゃな

 

カエル「シンプルを極めるとピュアになる、みたいな話なのかな?」

亀「それは日日是好日の中でも同じでの。同じことの繰り返しの中でも、実は大きな変化がいつもある。同じ水の音でも、実は温度によって全く違ったり、あるいは雨の音なども違うものじゃ。

 わしなどは冬から春になった空気感の違いなどを感じると、ふいに楽しくなったりするものじゃな。

 そういった、日々の生活の中から、どれだけ変化を感じることができるのか? ということを語りかけている映画でもあるの

 

 

 

同じことの繰り返しの中にある変化

 

茶道って面倒くさいなぁ……と、もしかしたら思うかもね

 

しかし、それが大事であったりする

 

カエル「なんでこんな細かいことも決まりごとがあるの? 

 そんなこと、どうでもよくない?

 理由がないなら何でもいいじゃん! って鑑賞中は思ったりもしたんだよね。この辺りは伝えるのが難しいところだろうけれど……」

亀「こういった”形を作る”ということは非常に重要での。

 ここをないがしろにすると、それこそ”形無し”になってしまう。

 スポーツ選手のルーティンなどもそうじゃろうが、その行動をとることによって、平常心を保ち、小さな変化にも気がつき、また心が惑わされることがないような日々を送ることができるんじゃな」

 

カエル「単に仕草が美しいとか、それだけではないんだね」

亀「もちろん、それもある。

 スポーツでもなんでもそうじゃろうが、まずは第一に重要なのは”形を作る”こと。

 それを作るためには、何度も挑戦し、失敗し、それでも再び学び続けるしかない。そして、ある程度の型ができたところで、初めて創意工夫が生まれる。

 その型がなければ、単なる滅茶苦茶なもので終わってしまうだけじゃからの

 

 

 

 

大事なことを伝えている一方で、少しだけ残念に思った部分

 

そういえば、Twitterの短評で一部が残念だったと語っているけれど……

 

これは完全にわしの趣味じゃな

 

カエル「えっと、あまりネタバレしない範囲でお願いします」

亀「本作は20歳ぐらいの女性が茶道を通して成長していく過程を描いておる。

 ご存知の方も多いと思うが、茶道というのは”一期一会”が重要だと考えられておる。いつも会っている人が、また明日も顔を合わせられるとは限らない。特に千利休の時代は戦乱も多く、場合によっては大名などによって理不尽な要求によって腹を切らされることもあったじゃろう。

 今日会った人が、明日に生きている保証はどこにもない時代じゃな。

 それをこの映画は表現するために、彼女の人生を描いておる

 

カエル「そうだね。その悩みなども就活だったり、あるいはアラサーの人には特にひっかかることが多いんじゃないかな?」

亀「じゃが、わしが勝手ながら残念に思ってしまったのもその部分での。

 本作は茶道の教えを描くシーンが多いのじゃが、わしとしては最初から最後まで茶道だけの物語にして欲しかった、という思いがどうしてもある。

 確かに、後半の描き方がいい! あの描き方がなければ茶道で最も重要なことは伝えられない! という意見もあるじゃろう。それは納得するし、真っ当なものじゃと思う。

 しかし、それがどうにもわしには説教くさく感じてしまったし、若干ノイズのようになってしまったかもしれんの

 

カエル「う〜ん……どうしても日常的な描写が続く作品だからこそ、ちょっと退屈に感じてしまった面もあるのかな?」

亀「本作は上映時間が100分と短くまとまっておるのじゃが、題材が題材だけに少しだけ長く感じてしまった部分もあるかもしれんの

 

 

 

 

まとめ

 

ではこの記事のまとめです!

 

  • 樹木希林さんや、黒木華などの演技が楽しめる作品!
  • 茶道という題材を魅力的に、静かに描く
  • 大事なことを描いているのものの、個人的には終盤の展開がちょっと退屈かなぁ……

 

樹木希林さんの演技を楽しむだけでもいい作品じゃな

 

カエル「特に近年は若手女優などに自分の演技を教えていると思われる演技も多かったかなぁ。2018年は松岡茉優と黒木華という、現代でも注目を集める若手女優との共演はとても大きな意義を感じるね」

亀「その存在感は亡くなった今だからこそ、より大きく感じられるかもしれん。

 作品自体も人の最期についても考えさせられることもあるからの……色々と、思うところはあるの」

 

 

樹木希林さんのご冥福をお祈りいたします。