カエルくん(以下カエル)
「今回はファミリー向け映画の傑作であるパディントンの続編だよ!」
ブログ主(以下主)
「この手の作品、もっと日本でも増えてもいいと思うけれどね」
カエル「やっぱりCGとかがお金かかるのもあるのかなぁ?
ファミリー向け映画の需要がハリウッドなどの海外層に持って行かれてばっかりな気はするよね」
主「近年話題になっているのも作家性の溢れた大人向けの作品ばかりだし、確かに実写とアニメで住み分けはできているのかもしれないけれど……この手の作品で映画に触れる子供が増えることは、先のことを考えてもすごく重要だけれどね」
カエル「それこそキャラクターを生み出す文化は日本だって相当レベル高いわけだし、やればそれなりに流行るかもしれないけれど、今はもう山崎貴くらいしか今作のようなファミリー向け映画を作る監督は思い浮かばないかなぁ」
主「漫画原作やゴリゴリのアクションだけでなく、児童文学も日本は傑作がいくつかあるから、そういう作品を実写化する動きが出てきてほしいなぁ。
なんて語りながら、バディントン2の感想のスタートです!」
作品紹介・あらすじ
1958年に出版されたイギリスの代表的児童文学である『パディントン』のシリーズ第2弾。前作に引き続きイギリスに移住しているパディントンと周囲の人々の織り成す、ドタバタとしていながらもハートフルなストーリーを展開する。
監督は前作に引き続きポールキングが脚本も担当しているほか、今作ではヒュー・グラントが起用されコミカルながらも恐ろしい敵を演じている。
日本語吹き替え版も主人公のパディントンを松坂桃李が引き続き演じ、敵のフィリックスは斎藤工が担当、若手人気俳優の共演も話題に。
前作にてペルーからイギリスに渡ってきたこぐまのパディントンはすっかり街に定着し、一緒に暮らすブラウンさん一家と楽しく暮らしていた。そんな中、故郷に残してきたルーシーおばさんの100歳の誕生日のためのプレゼントを選んでいる最中、ロンドンの名所がたくさん描かれた飛び出す絵本を見つけるが、世界で1冊しかないという高価なもののため働くことを決意。
しかし、その絵本を欲していたのはパディントンのみではなかった……
感想
カエル「ではいつものようにTwitterの短評からスタート!」
#パディントン2 吹き替え版
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2018年1月19日
ファミリー向け作品としてもケチの付けようがないんじゃないですかね?
笑って泣ける大傑作とは本作のためにあるような言葉でしょう
パディントンの愛らしさはもちろん、演出も優しいながらも面白くて目を惹くものが多数
シナリオもいいし伏線も効いている
主「ファミリー向け映画として完璧な映画であり、ケチのつけようがない完成度の高い作品だね。
アメリカで超がつくほどの高評価を受けているというのも納得、脚本、演出、人物描写、音楽、美術……何をとっても1流の作品に仕上がっている。
強いて言えば個人的には中盤、ちょっとグダッとしたかな? という思いもあるけれど……でも時間も104分と比較的短めだからそんなに気になる人は少ないんじゃないかな?」
カエル「今回は吹き替え版だったけれど、俳優が吹き替えているとちょっと賛否が分かれる印象があるけれど、今回はどうだった?」
主「違和感もほとんどなかった。
そりゃ、本職の声優に比べればちょっと拙いところはあるけれど、松坂桃李のパティントンは素朴で可愛らしく、そして『イギリスの異物』という感じがよく出ていたよ。
あとは敵の斎藤工だけれど、彼も悪くない。もう少し威厳があると……とは思うけれど、子供も楽しめるファミリー向け実写映画の敵としてコミカルで怖くなりすぎないようにしっかりと演じていた。
吹き替え版を芸能人が務めるのは違和感がある人もいるかもしれないけれど、でも本作は特に問題ないね」
カエル「ちなみに1と2だったらどっちが好き?」
主「う〜ん……自分は2の方が好きかなぁ?
やりたいこと、テーマは1の方がすっきりしていた。
2はそこがちょっとボヤけてしまった感もなくはないけれど、その分演出などに関してははっきりとこっちの方が上だと思う。子供が退屈しない仕掛けをいくつも用意していたし、やはり涙腺を刺激されたのもこっちかなぁ……
実は同じようで魅力が全然ちがう2作だね」
可愛らしいくまのパディントンがまたまた大騒動を巻き起こす!?
パディントンが表現してきた3つのテーマ
カエル「では、ここで前作のパディントンの内容を軽く振り返りながらも、このシリーズが表現してきたテーマについて考えていこうと思います」
主「だいたいこの3つのテーマが今作では根幹にあるんだよね」
- 家族とクマのドタバタコメディーと愛情の物語
-
移民に対する差別と偏見の物語
-
イギリスの負の歴史を振り返る物語
この3つの要素が複雑に絡み合いながらも、見事に融和しているのが1の最大の魅力だった」
カエル「ふむふむ……まず、この家族とクマのドタバタコメディーというのはこの作品の最大の魅力だよね。ブラウンさん一家もとても優しくていい人たちばかりなんだけれど、でも普通の人たちというにはちょっと個性的でもあって。
そして街の暮らしが初めてのパティントンが森の生活のように振舞ってしまい犯してしまう失敗の数々も笑えるものも多かったし……」
主「そもそもプーさんなどもそうだけれど、クマというのは恐ろしくも愛らしい存在であり、世界中で愛されているキャラクターだよね。モフモフの毛並みなどもあってテディベアもぬいぐるみとして世界中で愛されている。
今作のパティントンもこぐまであり、CGで表現された毛並みなどもモフモフで可愛らしくて、見ているだけで誰もが魅了されてしまうものでもある。
これはまずキャラクター商法の作品として非常に強い。
現代におけるおとぎ話を映画で作る意義に溢れていると言える」
大事な要素
カエル「そして今作で同じくらい大切なのがパティントンが置かれた立場で……彼は街に必死に溶け込もうとするけれど、やはりくまということもあって差別を受けてしまうわけじゃない?」
主「街にホームステイ先を探している時の対応などは紛れもなく黒人などの移民差別を連想させるものになっている。
ここはもちろん移民と言ってもいいんだけれど、さらに突っ込んでいくとイギリスの負の歴史にも言及している。
パティントンの出身地は『暗黒の地』であるペルーである。
普通は暗黒大陸といったらヨーロッパではアフリカ大陸を示し、多くの難病と苛酷な環境、獰猛な動物たちなど恐ろしい存在が多かった」
カエル「あれ? でも原作でもアフリカではなくてペルー出身という話じゃなかったっけ?」
主「アフリカにはくまがいないんだよ。
だからくまがいるペルーに変更になっている。やりたかったのは過去の問題であり、移民の問題だから、アフリカを意識しているのは問題ない。
前作は過去にパディントンたちに会った偉大な探検家もいるんだけれど、これはアフリカ大陸を冒険した探検家たちを意識している。
そしてヨーロッパがアフリカから輸入し、売っていた賞品は何だ?
黒人だよ。
しかもイギリス人は自分たちの勝手な尺度で『文化的で進歩的』というものを決めて、相手の文化を尊重しようともしなかった。そういう時代だよね」
カエル「その象徴がパディントンなんだ……」
主「前作の序盤でパディントンは船でイギリスに渡るんだけれど、ここでわざわざ船にしたのは当時の状況を連想したこともあるだろう。もちろん、隠れてやってきた存在ということも大事なんだけれど……
その過去のイギリスの汚点と向き合い、そして現在でも続く移民差別の問題を取り扱いながらも、楽しくハートフルに魅せようとと工夫された、子供も楽しめる作品……それが前作のパティントンだった。
だから高い評価を得たわけだ。
では、この視点を持った上でパティントン2の話をより詳しく始めていこう」
2 尖った演出
カエル「今作で特に目立ったのはこの尖った演出ということだけれど、もう序盤から一気に引きこまれたのよね!
視覚的にどうすれば楽しめるのかということをしっかりと計算されているのがとても印象深くて……」
主「今作で色々な創意工夫で『見せる』ということを意識している。
例えばペルーの森で暮らすパティントン一家の目の前に広がる、圧倒的で雄大な自然。これで一気に広い舞台を見せつつ、パティントンがどこで、どのように過ごしてきたのかというのがはっきりとわかるし、この絵が迫力があるからまたひきこまれるんだ」
カエル「結構続きもので難しいのが、前作を見ていない人への配慮なんだけれど……今回は街の人やブラウン一家の紹介方法も洗練されているよね。
さらりとしていながらも、前作を見た人はちょっと感慨深くて、見ていなくても納得できるけれど説明的すぎないとか!」
主「この辺りの手腕がまた見事で……前作を見た人だとパティントンの家での動きであったり、また街の人との交流などでもグッとくることが部分がある。
そしてある登場人物が迎えた大きな変化などは……ちょっと成長を感じながらも寂しくなってしまう部分も。
ああ、前作のラストではあんなに上手くいっていたのに……ってね。、残す部分は残し、変える部分は変えていくという選択のさじ加減が抜群にうまい!」
カエル「他にもバディントンの引き起こすドタバタ劇も視覚的にも面白かったし!」
主「ピタゴラスイッチなどでも有名なルーブ・ゴールドバーグ・マシーンにつながる面白さがあるよね。たった1つの行動がその次に連鎖して、それが結果的には大騒動を巻き起こすという……これは前作でも効果的に使われていて、最もうまく活用された映画の1つが『ホームアローン』だと思うけれど、やはり子供も対象にしたファミリー向け映画ではかなり強い力を発揮するのが証明されていると思う」
豪華に作り込まれた美術もまた見どころの1つ
アニメーションを用いた演出
カエル「今作ではアニメーションを用いた演出などもあって、そこも見どころがあったなぁ」
主「子供も楽しめる実写映画を作る上で、アニメを用いた演出はとても有効だろう。
何よりもわかりやすい変化だしね。
元々パディントンという作品がCGを用いたキャラクターが動き回るということを考えれば、結構アニメ的な要素がある作品でもある。近年のハリウッド大作をはじめとして、どの作品にも言えることだけれど……
日本だと『実写とアニメ』ってちょっと対立関係にあるというか、その融合を目指そうという人はあまりいない。だけれど、実は実写でもアニメというのは演出の1つとして見事に有効なんだ、ということを示しているよね」
カエル「日本はアニメ大国だけれど、案外こういう演出は少ない気がするかなぁ……それこそ、『バクマン』でプロジェクトマッピングなどのいい演出などもあったけれど、そのあとに続くものがあまり見受けられていない印象もあるし……」
主「海外の実写映画を見ていると、そういう作品ってそこそこあって『(500)日のサマー』で有名なミュージカルシーンでもアニメーションがちょこっと使われていたりして、それがより幻想的な印象を与えていたり……
あとは特にアジア圏の映画を見ていると、アニメーションを用いた演出をしている実写映画ってそこそこ出てくる印象があるかな」
カエル「本作は絵本の物語ということもあって、飛び出す絵本のような演出もあったり……もう飽きることがほとんどないよね!
ただのドタバタアクションやミュージカル要素だけではなく、あの手この手で魅了しようという意気があって、本当に万人に愛される作品を目指しているんだなぁ……と言うのが伝わってきたなぁ」
以下ネタバレあり
3 本作が表現したもの
カエル「では、ここからはネタバレありのパートに入っていくけれど……でも、正直なところ、1よりは差別とかの要素もちょっと減ったかな? という印象もあるかな」
主「それでも結構直接的な描写も多かったけれどね。
例えば冒頭のパティントンが街へ出かける時に、自転車に乗せてくれた女性はラテン系のような少し黒っぽい肌をしていたし、あの辺りのシーンでは人種が結構バラバラだったんだよね。これは、現在のパティントンがいる状況が多様性に富んだ社会であるということを示している。
それだけの多様性がある社会だからこそ、パティントンという別人種どころか、くまであっても受け入れるよ、ということを示しているわけだ」
カエル「だけれど、色々なことが起きて結局は刑務所に入れられてしまうわけで……」
主「本作ではちょっとだけ差別を感じる部分もなくはないけれど、でもその多くは差別というよりも状況が悪いと思うものに仕上がっている。
裁判のシーンでは『くま』であることをもっと強調してもいいけれど、そうじゃない。パティントンが不利な状況に至ってしまった原因は、紛れもなく彼自身の行動にあるし、そのあとの刑務所の描写であっても人種もバラバラだし、そこまで差別的な要素は感じなかった。ただの荒くれ者の集団だよね。
前作であった『差別や多様性』というものについては、かなり影を潜めている。
脚本としても伏線の回収などもあって、結構うまいけれど、メッセージ性や暗喩という意味ではちょっとパワーダウンした印象もないではない」
カエル「まあ、前作でやったからこれ以上やる必要はないということもあるのかもしれないけれど……」
主「そうだね。
でも前作で差別をテーマにして描いたからこそ、今作は『その先』を描くことができたということもできるわけだ」
個性的でありながらも優しい家族に囲まれて……
パティントンが変えたもの
カエル「その先?」
主「今作のテーマは……一言で表すと『マナーが紳士を作る』に尽きるだろう」
カエル「……どっかで聞いたことがあるよな台詞だなぁ」
主「今回、パティントンは1匹の獣でありながらも、作中では最も紳士な存在として描かれている。マナーや礼節を守り、隣人を愛し、誰であっても博愛の精神を忘れないようにいるしね。
そのような『マナーを守る紳士』であるからこそ、誰もがパティントンを愛して、接してくれるわけだ」
カエル「くまということは関係ないんだね」
主「そう。その意味ではやっぱり偏見や差別が根底にある物語だと言ってもいい。
だけれど、例えくまだとしても、もっと暴力的で荒くれ者が多い場所であろう刑務所の中であったとしても、そのマナーは通じるということでもある。
今作は『与える物語』であり、そして同時に『受け取る物語』でもある。
愛情や礼節を与えたものは、愛情や礼節を受け取ることができる。
そういったギブアンドテイクについて描いた映画であり、そしてそれは子供も楽しむファミリー映画として、極めて真っ当なメッセージだろうな」
最後に
カエル「正直、語るとしたら前作の方が向いているような気もするけれど、でもあの前作の魅力を失うことなく、さらにそれを前進させて違う魅力を持つ物語に仕上げる能力はとても素晴らしいものがあるよね。
中盤にナポレオンをイメージした部分もあるけれど『ああ、フランスとの合作なんだなぁ』ってちょっとほっこりしたところもあったなぁ」
主「演出力が一層増しているし、今作が深く愛される名シリーズに向けて完璧な作品に仕上がっているんじゃないかな?
語るの云々だって1作目がそれだけうまくできているからだし、そういう要素がさらに薄くなってもみんなが満足出来る作品に仕上がっていて……いやいや、とんでもない傑作ですよ」
カエル「これから子供達もどんどん成長していく中で、バディントンとの付き合い方も変わるだろし、バディントン自身も成長していくだろうし、この先も楽しみなシリーズだね」
主「3月とかに公開しても勝負できる作品だったんじゃないかな?
わざわざ学校のある1月に公開する必要があったのかなぁ? と思わせる作品だったね。子供を中心に、ぜひ見て欲しい作品の1つです!」
パディントンのにわづくり (絵本「クマのパディントン」シリーズ)
- 作者: マイケルボンド,R.W.アリー,Michael Bond,R.W. Alley,木坂涼
- 出版社/メーカー: 理論社
- 発売日: 2013/05/01
- メディア: 大型本
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