物語る亀

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物語愛好者の雑文

映画『いぬやしき』ネタバレ感想 原作とは結構違う! アクション映画としての見所は豊富も……

「いぬやしき」オリジナルサウンドトラック

 

カエルくん(以下カエル)

「今月は目玉作品がたくさん!

 そしてアクション俳優で1番の注目株である佐藤健の出演作品が登場だよ!」

 

亀爺(以下亀)

「アクションも期待がかかる作品であり、楽しみなところも多いの」

カエル「ただ、最近今月末のヒーローお祭り映画に向けて色々と勉強しているから、ハリウッドと比べちゃいけないと思いつつも、無意識で比べちゃうかもしれないね」

亀「日本のCG映画もここまで来た! というものを見せて欲しいものじゃな。

 それでは早速感想記事の始まりとするかの」

 

 

 

作品紹介・あらすじ

 

『GANTZ』など人気漫画を多く発表する奥浩哉の同名原作コミックを、同じく『GANTZ』にて実写映画の監督を務めた佐藤信介が再び映画化に挑む。

 脚本は『映画 ビリギャル』などの橋本裕志が務める。

 主演には木梨憲武、ライバル役には佐藤健と話題のキャストが並び、二階堂ふみ、三吉彩花、濱田マリ、斉藤由貴などが脇を固める。

 

 

 夢の一軒家を買ったのにもかかわらず、家族や会社からないがしろな扱いを受ける犬屋敷壱郎は、末期癌により余命がいくばくもないことを告げられてしまう。人生に虚無感を抱きながら向かった先の公園で、宇宙から降り注ぐなどの光に襲われる。

 次の日、目覚めたらその体は機械のものに変わっていた。

 一方、その日同じ公園にいた獅子神もまた機械の体に変化していたが、その力を使って様々な悪事を行い始める……

 


『いぬやしき』予告編(特報予告)/シネマトクラス

 

 

 

 

 

1 感想

 

カエル「では、いつものようにTwitterの短評からスタートです!」

 

 

亀「う〜む……微妙な評価じゃな

カエル「ちなみに原作は既読のため、ちょっと答え合わせのような見方をしていたということもあります。

『あ、ここ改変したんだ』とか『ここはかなり尺を取っているなぁ』などと分析していました」

 

亀「まず、はっきりと言っておくがダメな映画ではない。

 特にアクションシーンに関しては非常に力を入れておるし、ハリウッドよりも予算がない中で見事に描いているという感想が多く見られるが、これはわしも同意じゃ。がんばっておるのは間違いない。

 まるでアメリカのヒーロー映画を見ておるような気分にしてくれる。

 残念ながらわしはヒーロー音痴であり、あまりその手の映画を好んで鑑賞してきたわけではないが……やはり『アイアンマン』などを連想するような、派手な空中アクションなどは見所の1つとなっておる」

 

 

いぬやしき(1) (イブニングコミックス)

 

原作と映像の関係性

 

カエル「たださ……これはこれで難しいけれど、いぬやしきらしいのか? というとちょっと難しいところもあって……」

亀「わしは基本的に『原作と映像化した作品は別物』と考えておる。ただ、まあ場合によってはそんなことを言いながらも原作ファンであるがゆえにわし自身が原作原理主義者となって大声をあげる時もあることは否定をしないが……

 いぬやしきに関しては、わしはそこまでファンというわけでもなく『この映画があるからちょっと原作を読んでみるか』程度で読み始めたわけじゃ」

 

カエル「う〜ん……なんというか、ちょっと難しい話だよね。

 いや、物語が難解というわけではなくて、結構構成がバラバラというか……基本的に犬屋敷さんのお話なのに、途中から明らかに主人公が獅子神になっていたり、『え? この描写必要?』と思われるシーンもそこそこあって……

 しかもさ、映画とはラストが大きく違って……

 多分、この映画を見てから原作を読んだらみんなびっくりすると思うんだよ

 

亀「あの展開はさすがに難しかったかと見えるの。

 持論ではあるが、映像化に向いている漫画の巻数というのはある程度決まっておる。

 テレビアニメなどの話数や時間がある場合は5、6巻、映画のように2時間前後でまとめなければいけない場合は3巻ほどの作品が原作の要素を過不足なく映像化できると思っておる。

 傑作とされる作品もこれくらいの巻数の作品がそこそこ多いのではないかの?」

 

カエル「それでいうと全10巻の本作は映画化にはちょっと多いよね」

亀「だからこそ、切り捨てられたり逆にわかりやすくされた要素もたくさんあった。

 その点では評価もするが、どうしても原作を読んでいるからか、若干の違和感となってしまったところもあるかの」

 

 

 

木梨憲武が演じることによって……

 

カエル「これはさ、元々キャスト発表の時から思っていたけれど、本作ってちょっと……キャストが合っていない気がするんだよね……

亀「これは木梨憲武の演技が悪いというわけではない。

 むしろ、彼の演技はなかなかのものであるし、本作は若手の役者も含めて多くの役者が熱演している。

 じゃがなぁ……木梨憲武自体がこの役に合っておらん

 

カエル「もともとさ、原作の犬屋敷さんって58歳なのに70、80代に見えるくらいに老けているんだよ。震えている描写も多くて、シワだらけで……だからこそ、冴えないおじさん設定が生きている部分もあった。

 だけれどさ、木梨憲武ってまだ56歳で、むしろ年齢は一致しているけれど、一般的な50代と比べると若く見えるんだよね……

 まだ髪も黒くて、普通のおじさんでさ……その辺りがちょっと違和感になってしまったかな」

 

亀「アニメ版であれば小日向文世が演じておるが、彼ならば情けない中年サラリーマンも見事に演じるじゃろう。あとは……西村まさ彦とかかの?

 しかし、アクティブなイメージも強い木梨憲武がこの役に合っていたのか? と言われると、少し疑問があるかもしれんの

 

いぬやしき MOVIE EDITION(1) (イブニングコミックス)

う〜む……年相応の50代に見えるような……

 

役者について

 

カエル「でも、難点を多く語っているようだけれど、役者陣が悪いとか、木梨憲武の演技が酷いということではないです!

 それは特に言っておきたいし、やはり芸人ってコントなど演じることが求められるし、舞台で漫才やお笑いを行う上で発声なども練習しているだろうし、演技がとてもうまい人が多いよね」

亀「これから先、様々な道に進むであろう芸達者な人物であるが、やはり多方面で活躍できる逸材であることを改めて確認したの」

 

カエル「それからライバルの獅子神を演じる佐藤健はさすが!

 邦画アクションに関しては彼に任せておけば大丈夫って安心感すらある、欠かせない若手俳優だね。それから体が美しくて、そちらも見所になっています!」

亀「ベテラン勢も負けておらん。

 濱田マリが演じるお母さんはいかにもかかあ天下な家庭であることがわかる、気の強いおばちゃんであったし、斉藤由貴は相変わらずの薄幸の美魔女であるが、儚さの中に妖艶な色気も合って役とマッチしておった」

 

カエル「もちろん他の若手役者も熱演していたし、二階堂ふみにしろ、三吉彩花にしろ年齢からすると女子高生役はちょっと……と思うくらい大人っぽくて色気が出すぎているけれど、それはそれでOKだったかな」

亀「この手の映画では学校などの描写がおざなりな時もあるが、荒れ具合なども既視感があって、細かいところも拘ろうという意識は感じられたかの。

 ツッコミどころは多々あるが、役者に関しては十分納得の演技じゃったな」

 

 

以下ネタバレあり

 

 

 

2 原作から大きく変更された点

 

あの設定がないとちょっと違和感が……

 

カエル「では、ここから内容に深く切り込んでいきながら語っていこうとするけれど……まずさ、原作と大きく変わったポイントがあるよね」

亀「多くの設定や展開が原作から変更されておる。

 例えば、犬屋敷さんはローンが嫌いだからあの年までマイホームを持てなかったという設定じゃったが、映画では普通にローンを組んである。しかし、よくよく考えてみるとあの年で家のローンを組んだら、それはそれで相当大変なことになるような気もしておるがの」

 

カエル「高校生の娘がいるからね……見た目を考えて、年齢を若く見積もっても40代後半くらいだろうし、原作通りなら50代なんだよね。

 50代からローンを組むって相当な地獄なような気もしてくるんだけれど……

亀「もちろん、それは細かい設定の変更のように思うかもしれん。

 しかし、ここでローンを組まないというのは犬屋敷さんが自分の信念にまっすぐであり、そのためには労力を惜しまずに必死に努力する性格であることを表しておる。

 これがなくなってしまったことが、本作の大きな違和感となってしまったようにも思うの」

 

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CGなどもよく、アクション邦画としての文句は特になし!

(C)2018「いぬやしき」製作委員会 (C)奥浩哉/講談社

 

犬屋敷さんの設定の変化と獅子神

 

カエル「それって随所に感じられて……確かにさ、そこまで威厳のあるお父さんではなかったけれど、あそこまでないがしろにはされていないんだよね。

 犬のハナコも原作では飼うことは誰も反対していなくて、動物保護センターにもらいに行くほど愛護精神を持つやさしい人だということもわかって……それも性格づけで大事なところでさ」

亀「なぜあそこまでないがしろにされてしまう設定にしたのか? というのは少しばかり疑問もあるかの。

 もちろん、その意図はわかるのじゃがな……原作を読んでいると、若干ノイズとなってしまったかもしれん」

 

カエル「原作を読むことの良し悪しだねぇ……

 そしてさ、これは元々そうだけれど、本作ってより主役らしいのは獅子神だよね?」

亀「より魅力的なのは間違いなく獅子神じゃろうな。

 家族にも難があり、そして大きな事件を起こしてしまい、心理的にも大きな変化が訪れる……むしろ犬屋敷さんは体以外には特に大きな変化はないために、性格の変化や成長などの魅力があまり発揮されていないように見えるの」

 

カエル「まあ、原作からしてダブル主人公みたいなところがあるから仕方ないけれどね……」

 

いぬやしき MOVIE EDITION(2) (イブニングコミックス)

 

 

原作をより単純化した作品

 

カエル「えっと……この改変にはどんな意味があるの?」

亀「簡単に言えば原作をさらに単純化して、わかりやすくした作品に仕上がっておる。

 例えば、獅子神というのはよくわからん男でもあって……人に危害を加えながらも、時には人を治すこともする。まさしく神のように気まぐれなところがある男でもある。

 そして何を考えているのかよくわからない上に、気分や態度もコロコロ変わる男で……これは原作が連載中の漫画であるから、キャラクターの成長や変化と捉えるべきかもしれんがな」

 

カエル「犬屋敷さんも特訓なんかすることもなく、普通に能力を使えるんだよね。

 直行とやっていたのも特訓になっていたけど、原作では病院の人助けであって……」

亀「つまり、より犬屋敷さんを情けない存在にして、特訓などを入れることによって成長していく様を見せたかったのだろう、ということじゃな。

 そして獅子神を明確な悪に設定することにより、話の落としどころを『正義の犬屋敷VS悪の獅子神』とすることでより単純なものした」

 

カエル「う〜ん……それってどうなの?」

亀「映画としては正解じゃろう。原作ラストのあの展開を映画でやらないのであれば、その決断は理解できるものである。

 しかし……わしはその描き方があまり好きではないかの」

 

生きる

 

邦画の欠点が多い

 

カエル「この作品ってさ、アクションは確かに面白いけれど、そこに至るまでのドラマがあまり面白くないんだよね……」

亀「原作を読んでいて『これは面白い!』と思ったのは、冒頭で犬屋敷さんが癌の診断を受けた状況などが、黒澤明の『生きる』のオマージュになっておる。そしてそこから新しい力を得て、自分の生きる道を見つける……その意味ではテーマも序盤は似ているのかもしれんの。

 本作ではそのオマージュも弱くなっており、たぶん誰も『生きる』オマージュだとは気がつかないかもしれん。

 まあ、それはそれでいいのじゃがな」

 

カエル「そして人間ドラマが始まるわけだけれど……なんだろうね? すごく既視感があるというか、おきまりのパターンでそこまでドキドキしないというか……」

亀「物語の展開や、ドラマがそこまで面白くはない。ありきたりなものになっており、会話や台詞などもそこまで面白いとは思えなかったかの。

 アクションはいいのかもしれんが、そこに至るまでのドラマが……はっきりと言わせてもらえば、陳腐なようにも見えてしまった

 

 

記号的な描き方

 

カエル「先にも語ったけれど、獅子神ってもうちょっと心情的な揺れ動きがあったりとかがあって……すごくわかりやすくはなった分、底が浅くなったというのかな?

 善人で情けないけれど頑張るおじちゃんVS悪人で人をすぐ傷つける若者! という単純化した構図にしたいのはよくわかるんだけれど、それがじゃあ面白いの? と聞かれると、ちょっと思うところがあるかなぁ

 

亀「わしは大作邦画の欠点の1つであると思うのじゃが、多くの人にわかりやすい物語を作るうちに、よく言えばバランスのとれた王道な、悪く言えば陳腐な物語になってしまうことがある。

 例えば、本作で登場するオタク描写があまりにも古い、ステレオタイプだと非難する声もある。それについてはわしも同意ではあるが……まあ、それはそれがメインの描写ではないため、いいとするかの。

 問題はそれ以外の部分でも定型的な、決まりきった描き方をしているところじゃな

 

カエル「それがこのTweetだね」

 

 

カエル「もちろん、全滅したとは言わないし、今でも一般的なスタイルではあるだろうけれど……今の若い子ってハイソックスよりも、短いソックスの方が多かったり、手提げタイプのカバンよりもリュックサックの方が多いんだよね。

 それは街中にいて、観ていてもわかることだし、2007年頃と2017年頃の女子高生のファンションを比べた記事やTweetも出回っているけれど……」

 

亀「簡単に言えば、本作は『女子高生とはこういうものだ』という意識があり、それに基づいて製作されておる。年頃の娘が父親にする言動なども、典型的なものであったの。

 オタク描写や女子高生の描写だけではない。

 それは他のことでもそうで、家族描写、疲れたおじさんの描写、悪役の性格、困っている母親……そのどこをとっても、定型的で使い古された、記号的な表現ばかりのように見えてしまった。

 それが王道であり、陳腐に見えてしまったものの正体じゃろうな。

 それはそれで楽しめる人もいるじゃろうし、本作はヒーロー映画が好きな人には評判が良かったりもするのかもしれんの」

 

 

 

 

 

 

まとめ

 

カエル「とりあえずこんなものかなぁ……

 なんかさ、原作を読んで下調べをしたことによって、逆に楽しめなくなってしまったような印象もあって……

 ほら、原作ってアクション漫画だから結構頻繁に派手なアクションシーンがあるけれど、本作って予算の都合もあるのか、それも少なめなんだよね」

 

亀「アクションはまだかまだか? と考えてしまったからの。

 同じ力を持っても使い方が全く違う、なども面白かったのじゃが……それがもう少し社会的なテーマを持つと良かったかもしれん。

 例えば『アイアンマン』は科学の平和利用と軍事利用について語っている映画でもあり、SFでありながらメッセージ性も備えておる。本作はそのメッセージ性などが弱い印象かの」

 

カエル「……とことんアクションやヒーロー映画に向いていない人の感想ってことかもしれないね」

亀「悪い映画ではないので、ぜひとも劇場へ足を運んで欲しいの」