物語る亀

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<良作>映画『劇場版ツルネ はじまりの一射』ネタバレ感想&評価 京アニらしい1本筋の通った総集編に!

 

今回は『劇場版ツルネ はじまりの一射』の感想記事になります!

 

総集編ながらも、楽しみな作品だね

 

(C)綾野ことこ・京都アニメーション/ツルネ製作委員会

 

 

カエルくん(以下カエル)

今回は事前にテレビシリーズを観てから、劇場にいきました

 

総集編とは知っていたけれど、京アニの総集編って他の作品の総集編とは違う場合が多いからね

 

カエル「再構成とかがとてもうまいスタジオだよね。

 総集編だから1話から13話までの物語を詰め込みました! ではないというか」

 

主「何が出てくるのかはお楽しみってところもあるからね。

 今回もテレビシリーズとは違った一面が見られるといいなぁ……ということで、感想記事のスタートです!」

 

 

 

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感想

 

それでは、Twitterの短評からスタートです!

 

 

さすがは京アニ、と恐れ入ったよ

 

カエル「今回はテレビシリーズの総集編ということもあって、劇場版としての再構成などに注目が集まると思いますが、かなり見どころの多い作品となったのではないでしょうか?

 

主「素晴らしいよね。

 TVシリーズの頃よりも、断然良くなっていると感じた。

 どうしても12、13話という長丁場で物語を紡ぐTVシリーズと違って、劇場版は2時間弱という限られた時間にならざるを得ない。その中で基本となるストーリーテリングを行い、キャラクター同士の関係性と見せて……となると、どうしても早足になったり、違和感は生じる。

 でも京アニは『響け! ユーフォニアム』もそうだったけれど、再構成がうまいと感じさせるし、今作もその力が見事に発揮された

 

 

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テレビシリーズは観てから映画館に向かったけれど、初見でも大丈夫なの?

 

多分大丈夫だと思うよ

 

カエル「弓道という知ってはいても、馴染みがあるという人は少ない競技ではありますが……基本的なルールも『的に中る(あたる)』という、わかりやすいものというのもいいのかもね」

 

主「第2期に向けて、ここからスタートしてもいいと思うんだよね。

 あとはありがたいのは、2期を始める前に映画にしてもらえることで、前作のおさらいができるし、ここから入門してもいいよ、という方式になっている。もちろん、これは京アニが既にブランドとして確立しており、一定のお客さんが見込めることが前提かもしれないけれど、この手法はとてもありがたく感じるかな」

 

 

 

 

弓道を舞台としたスポーツもの(武道もの)の難しさ

 

今作の描く……弓道って、アニメ的にはどうなんだろう?

 

むっっっっっっっちゃくちゃ難しいと思うよ

 

カエル「あ、やっぱり難しいんだ。

 その理由は簡単にいえば、以下のようになります」

 

弓道の作画の難しさ! ○派手な動きや接触が少ない競技
○怪我などの可能性が少ない競技
○形の美しさなどを競いあう

 

一言で語ってしまえば”静かな動きを美しく描く”ということの難しさがあると感じる

 

カエル「ふむふむ……もちろん、うちはアニメーターでもなければ絵は全く描けないけれど、そういう風に感じたんだね」

 

主「もちろん、スポーツものはどれも独特の難しさがあるけれど……野球の動作とか、違和感なく見せるのはすごく大変。

 だけれどサッカーとかバスケとか格闘技とは、動きがあるから派手にすればなんとかなっちゃう部分はある。

時々アニメの絵に注目している人はいうのだけれど『派手ではあるし見応えはあるけれど、動きがどうなっているかさっぱりわからない』という動きもある。それでも評価されている人たちもいるんだよ。

 それもそれで1つの技術だとは思うけれど、弓道はそういう誤魔化しみたいなことが一切できないんだよね

 

動きに関してはいえば、弓を引いて矢を放つという、至極単純なものだよね

 

ほとばしる汗、速さを見せる派手な動きやカメラワーク、相手とぶつかり合う勢いの強さ……そういったものが少ない競技なんだ

 

カエル「それを一言で表すと静かな動きということになると」

 

主「それでいながらも形の美しさが問われる競技でもある。

 形が崩れては、弓道アニメとして失格なんだよね。

 それでいうとパンフレットにおいて今作の演出を務めた太田稔が以下のように発言している。

 

◆パンフレットの太田稔の発言◆
ーー『ツルネ』ならではの演出やこだわりのポイントをお願いいたします。
太田「所作でしょうか。練習が始まる前の礼や、普段であっても背筋を伸ばして過ごすなど、弓道場で弓を引くときだけでない彼らの弓に対する姿勢を意識しました」

 

これが、ものすごく難しいことだ

 

カエル「派手さではなく、凛とした美しさが求められると」

 

主「そこに嘘をついたら、この作品が目指したものは失われてしまうかもしれない。

 だから結論を述べてしまうと、地味で静かで動きが少ないにも関わらず、精密で美しい絵を求められるという……これは出来たら素晴らしいよね。

 動きやデッサンの狂いなんかがあると、これが崩れてしまうだろうし……近年は特にアクション系作品の派手な動きがフューチャーされる中で、日常表現を超えて、さらに凛とした美しさを目指したところに、本作の価値はあるだろう」

 

(C)綾野ことこ・京都アニメーション/ツルネ製作委員会

形の美しさと静けさの中に力強さも感じさせるシーンの1つ

 

動きが少ないストーリーを魅せる技術

 

物語に関してはどのように考えるの?

 

物語の動きそのものは少ない作品だよね

 

カエル「それこそバトルものだったら王道のヴィランが出てきて、それを倒して……という派手な動きができるよね。

 他の動くスポーツでも似たようなことはできるけれど……今作はそういう作品ではないと」

 

主「もちろん、ライバルになる桐先高校は出てくるけれど、彼らはライバルであり、倒すべき相手ではあっても……何というのだろうか、ヴィランという存在ではないよね。

 今作のドラマの作り方というのも、敵を倒すということを主眼に置くよりは、自分といかに向き合うのかということを述べているわけだ

 

そうだね、早気になってしまったり、あるいは指導者としての自分の姿、他の人との関係性……そういった自分自身を見つめ直す物語だよね

 

その意味では、まさに”道”というべき作品になっているのかもしれない

 

カエル「そうなると、これまた地味な作品のような……」

 

主「すごく物語の作り方も難しいと感じるし、自分はTVシリーズを見ている最中に、もっと派手に動いてもいいのにな、と思う部分はあった。

 例えば弓道をテーマにした物語を作りなさいと言われた時に、テニプリや『キャプテン翼』ほどではないにしろ『イーグルアイ!』なんて必殺技があったり、それこそ『必中の呼吸!』みたいな技を出すという選択肢だってあるわけだよ。

 隣にいる相手を圧倒し、吹っ飛ばしたり、矢が全く同じところに4本一気に刺さる! とかさ。そういうメチャクチャなのだって、少年漫画的な手法だから。

 あるいはヤンキーを主人公にしたり、女の子をもっとギャルっぽくしたりとか……色々な手段はあるけれど、そういうことを一切選択しなかった

 

キャラクターデザインの門脇未来も『普通の男の子』といっているもののね

 

本当に真面目に、愚直に、弓道と向かい合っているんだよね

 

主「こういった作品は……純文学的、というとちょっとアレだけれど、派手な事件もないし、すごく難易度が上がる。誰もがわかるキメシーンがあるわけでもないしね。

 それでもきっちりと映像演出を施し、魅せる物語を作り出せるということは、まさに圧巻の一言。

 どんな原作、どんな物語でも面白い作品を作れるのが演出家として一流の条件、という考え方もあるけれど、派手さがない中でしっかりと組み上げられた本作は、まさにその域に達していると感じる」

 

以下ネタバレあり

 

 

 

 

作品考察

 

育成を大切にする京アニ

 

それでは、ここからはネタバレありで語っていきましょう

 

作品に対する独自解釈の時間ですね

 

カエル「さてさて、実はTVシリーズは動きや映像演出に感動していたけれど、そこまでハマっていなかったけれど、今回の劇場版が素晴らしいと感じる部分はどこなの?」

 

主「やはりテーマ性かな。

 これもよく言われるけれど京アニって育成意識がとても高い現場として知られている。

 そして『ツルネ』は、結構スタッフに若手が多いというのも言われているんだ。もちろん作監クラスとかはベテランあるいは若手のホープだったりするけれど……今回、パンフレットにクレジットが全員載っているから少し調べたけれど、例えば原画では石立太一や佐藤達也などの中堅・ベテランもいるけれど、調べてもあまり実績が出てこない人もいた。

 もちろん、ネットに反映されていない可能性だってるし、別名の場合もあるから一概にはいえないけれど」

 

若手育成の場としての作品でもあるんだね

 

それでこれだけの高難易度の作画・映像技術を必要とする作品を選ぶから、大したもんだ

 

カエル「テレビシリーズでも絵コンテ・演出・作画監督は中堅からベテランが多かったけれど、色々な人が携わっていて……これはまあ、テレビシリーズだから当然かもしれないけれど、色々な人の絵コンテや演出などを勉強させようという意図もあったのかもしれないね」

 

主「もちろん、作品自体は少し前とはいえ、それは声優陣からも受け取れるよね。

 今って作品人気を上げるために大人気声優を起用して、ファンを獲得して作品人気をあげることをするけれど、京アニは昔から新人・若手を起用してきちんとヒットさせてきた。いまだに京アニ作品が代表作の若手・中堅声優もたくさんいる。

 これは業界全体で育成が足りないとされる中で、京アニがいち早く育成を重視したことが、今の作品制作環境と、人気の基盤となっている

 

(C)綾野ことこ・京都アニメーション/ツルネ製作委員会

キャラクターや物語もさることながら、撮影技術の玉ボケなども映像の美しさを引き立たせる

 

今作が描き出した京アニらしいテーマとは?

 

うちでは京アニ作品を語ることが多いけれど、そのテーマが一貫していると感じることが多いよね

 

京アニ作品に共通するテーマは『アニメ制作とは何か?』ということを、問いかけてくるんだ

 

カエル「個人競技であるようでありながらも、実は団体競技を志向する側面があるというか……

 『Free!』も水泳という個人競技だけれど、リレーを重視した作品だし、同じ部活ものでも『響け!ユーフォニアム』はまさに全体の調和を目指した団体競技だよね」

 

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今作もまた、京アニらしい”アニメ制作とは何か”という理念が感じられたんだ

 

主「今作では弓の射る姿勢や心持ちに関する教えがいろいろあったけれど、それはそのままアニメ制作の心構えにも通じる。

 これは京アニ出身のアニメーター、斎藤敦史が最近答えたインタビューから抜粋する」

 

◆斎藤敦史の発言◆
自分は基本的に木上さん(訳者注:木上益治)の担当カットを清書していたんですけれど、ご本人がお仕事されているところを後ろから見ていると、机にかじりついてガリガリやるというよりも、背筋をスッと伸ばして軽くサッと線を引いていく。そんな澱みない線の引き方とか、木上さんの仕事に向き合う姿勢にすごく影響を受けたんですよね。

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これが京アニの伝統として続く、アニメ制作における姿勢なんだね

 

カエル「木上さんの姿勢を見て京アニのスタッフは学んでいく、というのは、とてもよく聞く発言だよね」

 

主「だから『ツルネ』の劇中で姿勢を正したり、あるいは心持ちを説く行為は、そのまんま新人や若手に対するアニメ制作の心得としても、解釈できるように作られている。

 その目線で見ると、今作の冒頭もまた見え方がちょっと違っていて……八坂八段との出会いというのは、そのまんまアニメ業界に憧れたアニメーターたちとも重なる。

 誰が描いたかはわからないけれど、確かに印象に残るアニメ。

 誰が引いたかわからないけれど、確かに印象に残る弦音。

 この2つが一緒なんだ

 

そう考えると、実はやっていることは『SHIROBAKO』と同じと言えるんだね

 

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八坂八段は『SHIROBAKO』におけるアンデスチャッキーであり、杉江さんポジションである、ということかね

 

カエル「そう考えると、結構冒頭はそのような話が続いていた印象かなぁ。

 それこそ『はじまりの一射』といったところだね」

 

主「弓道に対して中る(あてる)ことを重視するのか、それとも道を重視するのか。それもまた、1つの考え方だよね。

 的に集中しなければいけない、というのは、そのまま他の人の評価や結果ではなく、目の前の1枚に集中しなさい、という意味にも受け取れる。

 そういう風に、アニメ制作に対する複合的な意味合いを感じる作品でもあるわけだ」

 そこにテレビシリーズでも描いた関係性の変化と、全員の成長を盛り込んだ……それがこの作品の魅力だと、自分は解釈するかな

 

 

 

 

最後に

 

『ツルネ』は弓道の話であると同時に、アニメ制作の話として感じられるように再構成されている、という話でした

 

やっぱり自分は京アニに対して、そのような見方になってしまうかな

 

カエル「前回の『劇場版 Free! the Final Stroke 後編』も、そのような評価に近いものがあったものね」

 

主「多くのアニメスタジオって、映像的な個性を感じるけれど、内容的には個性や作家性と呼べるほどの癖がないな、って思うことも多い。

 これは原作がある作品を手がけることも多いし、あるいは監督などがフリーで外部の人を呼んでいるからってのもあるだろうけれど……京アニは確かに理念と呼べるものがあるし、それが感じられる。

 そして自分はそれはアニメ制作論であったり、あるいは全体主義的な見方だと感じることが多い。

 自分はその姿勢が好きだからこそ、いろいろとそういう見方が増えていくかな

 

 

これはボクの物語。あなたの物語はどうでしたか?

 

 

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