はい、では『劇場版シロバコ』のネタバレ考察&解説記事といきましょう!
今回も非常に重い記事となっております
カエルくん(以下カエル)
「一時期は『これ、何万字いくんだろうね?』と思っていましたが、なんとく1万字ちょっとで納めました!」
主
「読み応えは抜群、その分内容にも気合入ってます!」
カエル「この記事は全編ネタバレありとなりますので、ご注意ください!
では……記事のスタートです!」
劇場版「SHIROBAKO」本予告【2020年2月29日(土)公開】
SHIROBAKOの動画配信をアップしました
映画レビュー『劇場版SHIROBAKO』をネタバレあり感想&考察!〜アニなら1回目SHIROBAKO編〜
”リアル”と”嘘”の狭間の思い
構成と冒頭で語られる”覚悟”
では、まずは今作の構成など大まかなところから語っていこうか
間違いなくあるのは、きっちりとした3幕構成だよね
カエル「映画ではおなじみの描き方ではありますが、この映画も明確な3幕構成だったね」
- 現状の武蔵野アニメーションの説明
- 仲間集めと作品制作過程の紹介(悪徳スタジオを倒すまで)
- ラストに向けての挑戦
さらに言うと……多分、もっと細かく見ると5幕構成くらいな印象もあるんだよな
カエル「幕間というか、幕と幕の間でミュージカルだったり、ある種の外連味のあるリアリティのない、ファンタジーとまでは言わないけれど面白い作画を取り入れていたシーンで、ある種の”キメ”という形にしたのではないか? ということだね」
主「そう考えると、今作は以下のような構成とも受け取れる」
- OP→序盤のムサ二に映画制作の話が流れ込むまで……1幕の前半
- 呑み会で七福神を見送った後の電車のシーン→アニメミュージカル……1幕の後半
- 仲間集め→杉江のアニメーション教室……2幕の前半
- アニメーション教室後→宮森カチコミ……2幕の後半
- ラストへの疑問→物語の終わり……3幕
1回しか見ていないし、時間配分も確認していなけれど、多分こんな構成じゃないかな、と思う
カエル「ふぬふむ……
その各パートの意味を考えると、以下のようになるわけだね」
- ムサ二やメイン5人の現在の状況に対する説明
- 物語の起点、新たなる冒険の始まり
- 仲間集め、仕事の始まり
- 大きな問題・対立の解決
- 最後の戦い
主「で、なんで最初にこんな話を開始したのか? というと……自分が1番語りたいポイントは上記の2の部分、つまり1幕目の後半の”七福神を見送った後の電車→アニメミュージカル”までなんだよね」
戦う決意を固める宮森。ガイナ立ちで見つめる先にあるものとは……
(C)2020劇場版「SHIROBAKO」製作委員
明らかに変化した映像
なんでそこになるの?
まず、序盤で語られたキーワードとなるセリフが『リアルな物語ならば実写でよくない?』というものだ
カエル「正確なセリフではありませんが、そのようなニュアンスのセリフがあったと思います。
また、このようなセリフを冒頭に入れるのは”クリエイター論を語るクリエイターの作品”にはよくあるものです。
例えば……『劇場版冴えない彼女の育て方Fine』とかですね」
このセリフは『SHIROBAKO』が対峙しなければいけないテーマ・あるいは作画面の課題だったろう
主「序盤、1話を連想するカーチェイスから始まるけれど、ここはムード歌謡のような楽曲で緩やかに始まる。これが現在のムサ二の状況を表しているわけだ。テレビアニメの説明、過去の幻想までして、没落した今のムサ二の状況を描き出している。
そしてその後……5人で飲み会を開いて、七福神を見送った後から、間違いなく作画の本気度が変わった」
……え、そんなのわかるのものなの?
絵も描けないど素人でもわかったことだから、多分合ってる
主「このポイントは3つある」
- 物語の起点となる、劇場版アニメ制作というムサ二の希望を描くため
- 外連味のある芝居だけでなく、日常的な芝居も描くため
- 物語がダレないような工夫
1番上の”ムサ二の状況打破の希望の始まり”というのは、わかるかなぁ
今作で注目を集めるのは、どうしても外連味のある作画だろう
カエル「外連味……つまり、派手で分かりやすい描写だよね。今作だとミュージカルとか、カチコミとかがそれに当たるかな」
主「もちろん、そこも素晴らしい。感
動した、見事な映像だった。
だけれど、同時にもっと自分が感動したポイントの1つが先ほど挙げた第1幕の後半だ。
ここは物語が動き始めるけれど、大きなことは起きない。むしろ、物語における谷場、言うなればタメのポイントだ。言ってしまえばダレ場に近い。
ここで日常的な芝居を……アニメーターがしっかりと作り込むことにおいて、映像的にはとてもリッチなものになる。
アニメだから”嘘”と言えば嘘なんだけれど、でもそこには”リアルを越えた嘘”がある」
必ずしも、爆発などが必要というわけではないんだね……
むしろ、こっちの方が難易度が高くて注目すべきかもしれない
主「アニメで作る意義、とかっていうと、SFアクションだったり、戦争モノなどの外連味のあるものが挙げられるかもしれない。だけれど、必ずしもそこはそうではなくて……もっと日常的な芝居をしっかりと描けると、実は物語はリッチなものになる。
この後で語るけれど、水島努監督はテンポが超絶いいんだよ。
絵コンテ段階で1シーンずつ時間を削っているそうだけれど、それも納得のテンポ感。まるで『シンゴジラ』を見ているようだけれど、不思議と早いとかは思わずに気持ちいい。
リズムがいいんだよね。
だけれど、この場面はむしろ長回し多用、テンポをあえて落としている」
例えば……本田さんのケーキ屋さんでのナベPとの長回しがそうなのかな?
あそこが1番象徴的だった
カエル「窓の外に動く人をしっかりと見せたり……ここって、その前に藤堂がCGの制作で語った『モブの車や動きにどこまで時間や手間をかけるのか?』ということだよね」
主「言っている事は間違いなく正しい。
モブの動きだろうが、見ている人は見ています。
だからあのシーンは手を抜けなかった。わざわざ窓を映し出して『モブにも手を抜きません』と、劇場版らしくリッチな映像をアピールしている。しかも、ナベPと宮森の動きをグリングリンと動かしていく。
こういう……なんていうか、日常的な、静かな動きって注目を集めづらいけれど、実は最も難しいものの1つでもある。
だから、ここには全く手を抜くことができなかった。
また、日常的な芝居もこうやって丁寧に描かれると、それだけで感動するものなんだよね」
示唆に富んだ発言をし、みんなを元気付けてきた元社長がここで登場した意味もきっとある
(C)2020劇場版「SHIROBAKO」製作委員
”日常的表現”へ挑む意味
それがあることで、後半に快楽性が生まれるようになっているんだね!
……それだけじゃない気がするんだよねぇ
カエル「やっぱり、劇場版だからリッチに動かそう! とか?」
主「う〜ん……これは深読みだけれど……というか、この記事の多くは深読みだけれどさ、あれって途轍もないメッセージ性を内包しているんだよね。
じゃあさ……あんな日常的な芝居が上手い、代表的なスタジオってどこよ?」
え、やっぱり京都アニメーション……あ
そういうことなんじゃないかなって
主「ここのシーンで起こる普段温厚な葛城さんが怒りたくなるような突発的なトラブルや、制作中のテレビアニメが全て中止になるほどのトラブル……しかも劇場版が制作中止になるほどのトラブルっていうことを、僕たちはたった半年前に知っているわけですよ。
非常に異例な形であり、最もあってはならいない方法で。
もちろん、それだけではない。あのムサニに起こった過去の出来事は、突発的な最悪のトラブル全てを表しているとも言える。
あの制作会社の偉い人はあくまでも”誰もが恨める敵役”である。物語として引っかからない程度に、デフォルメされている。だけれど、同時に”対策のしようのないトラブル”の象徴でもある。
だから『死にたくなった』と電話を入れるというのは、あれはそこまで大袈裟な話でもない。あの時、どうすればいいかわからなくなった人っていうのはたくさんいる」
それでも、宮森は『とりあえず生きればいいと思います』と返すわけだね……
じゃあ、なんであんなに日常的な芝居を入れたのかって……わかるでしょ?
カエル「京都アニメーションの挑んだ境地への模倣、あるいは闇の中から光が差すことへのエール……理由はいくらでも語れるよね」
主「丸川社長と言うのは、P.A.WORKS社長の名物社長、堀川さんの代弁者なんだよね。あの人が語る言葉って、多分堀川社長が語りたいことがそのまんま入っている。結構、SHIROBAKOのシナリオやセリフにも関わっている人だからね。
だから”絶望の中で光を見つけ出し”て、”劇場版を制作する”ときめた宮森に対して、丸川社長が教えてくれた思いは?」
”さらに若い人達の道標になるように、前に前に進まなきゃ”……
ここは、この映画を作る上で絶対に嘘がつけないポイントなんです
主「あれほどのことが起きて、しかも色々と発言をしてきた社長でもあり、アニメ制作の物語を預かる監督でもあるから、絶対に語りたいことはたくさんある。
だからこその、あのミュージカルなんですよ。
自分はあのミュージカル、涙が出てきそうだった。
京アニ云々は置いておくとして、セル画の時代から、現代のCG全盛のアイドルアニメまで、その全てを内包して”アニメが好き”と語るんだから。
ここで、この作品のテーマってガッチリと決まっている。だから、自分が1番リッチで、同時に正座をしないといけないなぁ……と思うのは、このポイントです」
カエル「あくまでも、これはあくまでもうちの深読み考察です!」
主「そして偉大なのは、そう言うことをあんまり感じさせないこと。わかる人にだけわかるようになっているんですよ……
あ、でもそうなると自分がこうやって書くのは、やっぱり野暮なのかなぁ?
でも、この感動は伝えたいからねぇ……
ごめんなさい」
水島努監督について
水島監督のテンポ
次に、水島努監督についてより詳しく語っていきましょうか
まあ、すんごい人だよね
カエル「前の記事では”群像劇の描き方が上手い”とも語っていたけれど、その理由ってどこにあると思う?」
主「1つはキャラクターや世界観の厚み。
あとは……テンポの良さかな。
水島監督のテンポを見るたびにドキドキするものがある。これ以上少しでも早くすると観客がついて来れないかもしれないけれど、ギリギリのところで止めているんですよ。そのテンポの良さが心地いい。先ほど語った『シンゴジラ』とほぼ同じ、あれ以上少しでも早くする失敗するはず」
カエル「あとは、ぶっちゃけた話、テンポがいいから誤魔化せるものもたくさんあるのかなぁ。全部が全部、1幕後半のテンポだとしたら、作画カロリーがとても高いものになるだろうけれど、この速さならばある程度崩れても誤魔化せると言うか……」
主「もちろん、劇場向けのクオリティには仕上がっているけれど、十分な妥協点だよね。
そのテンポの良さがある種の気持ちのいいゴチャゴチャ感を生み、さらに……なんて言うかな、『ガルパン』もそうなんだけれどさ、”文化祭の前日感”を作り出しているとも言える」
木下監督は水島監督の照れなどもありコメディキャラクターに?
(C)2020劇場版「SHIROBAKO」製作委員
水島努の狂気
ここで”狂気”って単語を使ってしまうんだね
いやー、これは笑っちゃったよ
カエル「水島監督は『クレヨンしんちゃん』などのシンエイ動画出身であり、多くのコメディ作品などを監督してきた経歴の持ち主です」
主「前半の山場であるアニメミュージカルもそうだけれど、音楽と映像の合わせ方が独特のセンスを持っている。今作に関してはクレヨンしんちゃんなどで培ったものがあるんだろうけれど……色々と短編作品も連想するんだけれど、見ている時の自分としては『ジャングルはいつもハレのちグゥ!』を思い出したかな」
……そう考えると、水島監督もなかなかうちらの世代に直撃している監督だよね
ある種の狂気性って言うのが伝わってくるでしょ?
主「ちょっと確認はしたんだけれど、OPとEDを担当しているのが誰かはわからなかったんだよね……多分、本編の監督を務めていた水島努監督も手掛けているはずなんだよ。
特にOPの1つめは、水島監督らしさが全開だった」
カエル「そのらしさって?」
主「『撲殺天使ドクロちゃん』とか『大魔法峠』に通じる、狂気としか言いようのないOPの外連味かなぁ」
いやー……もうなんの記事だかわからなくなりそうだね
ただ、これって水島監督の重要な資質の1つだと思っている
カエル「今作でも作詞は水島努が担当した楽曲もあり、独特な味わいを発揮していたよね」
主「作品のテンポ感の良さって言うのは、どこから来るのかなぁ? と思ったら、多分音と映像を合わせるセンスの高さだろう。
音響監督を務めた作品もあるくらいだし、作詞は楽曲と歌詞を合わせる作業などもあるから、高度なリズム感が要求される。
それに、作中で使用するダンスも自分で創作しているらしいしね」
カエル「SHIROBAKOで話題となったエンジェル体操も、監督の発案の模様です」
主「この”映像と音楽を合わせるセンス”っていうのはとても大事。それこそ、新海誠監督がヒットする理由とも似ているけれど、新海監督がMV的なセンスを持っているのに対して、水島監督はダンスなどのリズム感のあるセンスを持っている。
このあたりはシンエイ動画出身というのもあるのか、基本的にはコメディに振るんだよね。もしくはホラーやゴア表現にするか」
テレが強い人なのかなぁ
その辺りは木下監督の描き方に出ているよね
カエル「遠藤さんと似たような境遇なのに、遠藤さんは優しい世界にいて、木下監督はコメディの世界にいるというのも面白いポイントだったね」
主「監督というポジションは自分を投影する部分もあるけれど、やっぱり照れがあるあるのか、モデルも水島精二監督の方に寄せている。
で、絶対にカッコいいようには描かない……描いてもコメディ調に外す。
木下監督を1番のコメディ役にするのは、やっぱり照れや外しじゃないかな?
北野武が自分が出演しているけれど、最後は死んだりあるいはバカをやるのと同じようなもんでさ。そうやって物語の中に宿ってしまう自分というものに対して、照れて誤魔化している部分もあると思う。
そう考えると、やっぱりコメディというジャンルが合っているんだろうね」
リアルな世界を描くメリットデメリット
スタッフのリアルも描く
ここではメインスタッフとして監督について語ったけれど、その他のスタッフについては?
もちろん、様々な声を取り入れているわけだ
カエル「例えば脚本を務めた横手美智子の体験は大きくて、作中でのみどりちゃんの脚本修行の1部は、似たようなことを受けてきたと発言しています。
また横手美智子は、パソコン通信で脚本家の伊藤和典と知り合い、『起動警察パトレイバー』のテレビシリーズの手伝いをしていたことが脚本家の一歩を踏み出すきっかけと話しています」
主「なんかさ、舞茸しめじとの関係に近いものも感じるよね。
あとは、各スタッフさんの声を拾ったり、インタビューしたり……すごく他のセクションに関してもリアルを感じるものになっていた」
テレビシリーズも横手美智子・吉田玲子のスタンスが反映されている、という話だしね
『私には物語が必要なんです』という言葉は吉田玲子の言葉を取り入れていると、堀川社長が明かしています
主「その意味では、非常に”リアル”なんだよ。そりゃそうだ、本当に現場で働く人たちの声を拾っているわけだからさ。
だけれど、その弊害というのもいくつか感じさせるわけだ」
あまりにもリアルすぎるが故の違和感
リアルすぎるが故の違和感?
SHIROBAKO批判でよくあるけれど”綺麗事すぎる”んだよね
カエル「えー、でもそのバランスがエンタメとしてちょうどいいんじゃないの?」
主「例えば……同じシンエイ動画で『クレヨンしんちゃん』などでも活躍していた、同じく現代を代表するアニメ監督の湯浅政明が手掛けているアニメを語るアニメ『映像研には手を出すな!』と比べてみよう。
そうすると、リアルの描き方のバランスに目がいくと思う」
もちろん、原作付きとオリジナル違いはあると思いますが……
『映像研〜』はアニメ調のデフォルメされた世界でアニメ制作の情熱や夢を描く。一方で、SHIROBAKOはリアルに存在する世界でアニメ制作の情熱や夢を描く。
主「つまり、住んでいる世界のリアリティが違うわけだ。
そうなると……SHIROPAKOの嘘って、結構目につきやすい。
今作の場合、その影響を受けたのが遠藤夫妻だろう」
堀川社長のTweetによると、遠藤夫妻の受け止め方は男女で差があったようです
自分は違和感が多い描写に感じられたなぁ
カエル「一方では理想の奥様、天使のような存在であると受け止め、一方ではあれは理想的すぎるという意見があるようだね」
主「でもさ、そういうことってSHIROBAKOに関しては、特にたくさんあると思うんだよ。
特に現場をよく知るアニメーターさんなどの、アニメ製作者は色々と思うところがあるのではないでしょうか?」
カエル「それがリアルすぎる弊害かぁ」
主「自分にすら、色々と虚構が多い……あるいは理想的すぎる部分があるな、という思いがあったからね。
特に本当に現実としてその場を知る人たちにしてみると、その思いはより強いものになるんじゃないかなぁ?」
完成形しか普段は見えない世界
でもさ、それだけ”リアル”な世界だからこそ描けたものもあるんじゃないの?
それはもちろん、アニメスタッフたちの思いだよ
主「最近、うちでは”プロット,脚本”という言葉はあまり使わないようにしている。代わりに”物語”という言葉を多用し始めた。
というのは、脚本の良し悪しなんて観客からはわからないんだよ。
脚本はとてもいいのに、キャストがアドリブで大事なセリフを変えてしまったか、あるいは演出がダメにしている場合もあるかもしれない。
で、僕たちが普段見ているのは”結果”でしかない」
カエル「物を作る過程、あるいは初期の思惑から変更した理由などはあまり明かされない物だからね……」
主「SHIROBAKOに限らないけれど、クリエイターの物語はそこを魅せることが非常に大事なわけだ。大人の事情もある、やりたいこともある、予算も人でもある、その中でできることをやり切るしかない。
それはこのリアルな世界だからこそ、切実に観客である自分たちにも伝わってくるのではないだろうか?」
カエル「それがリアルな作風であることのメリットってことかぁ」
主「やっぱり、この映画で元気付けられる社会人ってたくさんいると思うんだよ。その思いを抱くことができるのは、この作品ならではのことなのではないかな?」
”空白の4年間の厚み”を感じさせてくれる作品に
実在感を描き出す
そのリアル感の集大成が、この映画のキャラクターたちなんだね
すごく実在感があるじゃない?
カエル「うちは、鑑賞前にこんなTweetをしています」
劇場版shirobakoには劇場アニメ作りの地獄を見せてほしい
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2020年2月26日
作画とかは特に拘らないから、とにかくライブ感がほしい
あとできれば太郎監督と平岡Pの片鱗が見えれば最高
自分は太郎と平岡が大好きなんですよ!
主「この2人は最高のバディになれると信じているし、今後世界をとれる器だとも思っている。自己肯定感が強く、企画などを山のように出せる太郎と、調整ができる現実的な視点を持つ平岡、でもその芯は熱いものでつながっていると信じている」
カエル「その片鱗が見えてくれば、それでいいという話だね」
主「この映画はその片鱗を見せてくれたんだよね。
それは太郎と平岡だけではない。
一緒に暮らすようになったからとはいえ、部屋が広くなった絵麻もそうだし、声優としてタレント業をやりながら前に進むしずかもそう。指導役になった藤堂もそう、普通に現場にいるみどりも同じだよね。
それこそ、小笠原さんのジャージ姿もその一環と言えなくもない……元々、あれはテレビシリーズに出すアイディアの没案だったらしいけれどね」
でもさ、あのスタートには賛否もあるんじゃない?
あんなの、闇でもなんでもないように感じるよ
主「自分に言わせて貰えば、本当の闇って仕事をやめたり現場を離れること。例えば下請けでもクリエイターとしてその業界にいる以上、いつかは上向く可能性もある。
あの落ちぶれた武蔵野アニメーションの姿すら、自分には憧れでしかないよ……
カエル「それだけ、この4年という月日に色々あったんだねぇ」
主「この4年という月日はそのまま作品を愛し続けた観客とも一致する。
SHIROBAKOは”アニメの今を描く”ということテーマにしている作品だけれど、今作でもそれは同じだよね。
物語を愛し続けた観客の4年間と、悲喜こもごもありながらも前に進み続けたキャラクターたちが一致するようにできている。
これが”キャラクターたちの空白の4年間の厚み”につながっているわけだ」
成長した姿を見せてくれた太郎と平岡
(C)2020劇場版「SHIROBAKO」製作委員
もう1人の主人公? の遠藤
今作では遠藤がかなり注目を集めるような描き方になっていたよね
ここも”厚み”のなせる技だね
カエル「特に瀬川さんや下柳3D監督の関係性も、すごくいいよね……瀬川さん、相変わらずだったなぁ……
それはいいとして色々と想像する余地が生まれているというか!」
主「その想像する余地こそが、物語のキャラクターを現実にいる観客に厚みとして訴えかけるものになる。
で、なぜ遠藤が注目を集めるようになったのかというと……やっぱり、激変するアニメ業界の”今”を捉えたかったからじゃないかな」
カエル「必ずしもいいことばかりではないだろうしね……」
主「今作において失敗した人、落ちぶれてしまった存在がいくつもある。
- 武蔵野アニメーション
- 木下監督
- 遠藤さん
宮森なども落ちぶれているようではあるけれど、この3者に与えられた役割というのは……”成功を知る人間が立ち上がるまで”なんだ」
まあ、役割からしても性格からしても宮森って挫けても腐るタイプじゃないしね……
作中でも語られているけれど、腐るのは男ばかりだしね
主「遠藤の役割は今業界で色々な条件もあって燻ってしまっている人、あるいはもっと広く、特殊な事情により働く環境下にいない人、ということもできるわけだ」
カエル「ふむふむ……木下監督は?」
主「主に同じ役割だけれど、先にも語ったように水島監督と同じ役割になる木下監督は徹底的にコメディ役。だから、愛する家族もいて、実は落ちきっていないというのは木下監督との対比でもあるわけだ。
その意味でもやっぱり理想や希望を語る映画、でもあるんだよね」
今作においてもう1人の主人公ともいえるほど印象に残る遠藤の姿
(C)2020劇場版「SHIROBAKO」製作委員
誰の背中を追うのだろうか?
この4年間の間に、みんな成長してたもんね……
重要なのは主要キャスト5人が”誰の背中を追うのか?”というところだ
カエル「えっと……宮森は矢野さんなどがいなくなってて、自分で頑張らなくちゃいけない立場でしょ?
絵麻も作監として独立していて……あれ、誰もいないのかな?」
主「成長というのはそういうことだよね。
テレビシリーズは先輩たちの影を追っていた。宮森は矢野さんに相談したりしていたけれど、その矢野さんも休職中、復帰しても自分がプロデューサーとして指揮する立場になっている。
絵麻も藤堂も指導する立場、しずかは自分で選ぶ立場、みどりはまだ師匠がいるけれど、でももう独り立ちしてライバルになる頃だ。
それが4年間という時間の厚みでもある」
そうなると、みんなまたまた成長したんだね……
もう、この後は作れないかもね
主「俺たちの戦いは続くぜ! エンドではあるけれど、でももうこれ以上の展開はまだできると言えばできるけれど、キツイと思う。
この後は5人が独自のやり方で先導を切っていく物語になるから、キャラデザなども大きくかえる必要もあるだろうしね」
カエル「でも、その成長もまた幸せなことだよね」
主「ちなみに文句があるとしたら……お姉ちゃんは結婚していたけれど、名前付きのスタジオの誰かは結婚しても良かったんじゃないかなぁって。
主要5人や矢野さん、久乃木ちゃんとかは難しいとしても……落合くんとかさ、そういう人が結婚とかしていたら、さらに時間が描けたと思うんだけれどね。
スタジオの人間とお姉ちゃんだと、重要度も段違いだし」
カエル「監督が恋愛を描かない主義らしいから、そこは仕方ないのかなぁ」
劇場版SHIROBAKOが描き出したもの
テレビアニメのその先へ
いよいよ長くなったこの記事も、最後の章に突入です
この映画は途中からテレビシリーズをそのまま踏襲しているんだよ
カエル「すごく簡単だけれど、トラブルがありながらも作品を作り上げていき、悪役の偉い人をこらしめてってことだね」
主「SHIROBAKOの欠点はリアリティがありすぎることであり、明らかに強調された悪役でないと『これは〇〇さんを揶揄しているのでは?』という憶測が立ちかねない。
だからこそ、徹底的にありえないくらい敵役にして描き出す。
あの宮森たちの外連味溢れる時代劇アクションはおそらくPA的には『さよならの朝に約束の花を飾ろう』の冒頭のシーン……確かに井上俊之さんが作画したと記憶しているけれど、そこへの挑戦&更新を目標にチャレンジしたシーンではないだろうか。
そしてその敵を倒した後の物語があるわけだね」
テレビアニメ版では”完成→納品→ハッピーエンド!”だったよね
それが劇場版では”さらなるラストへ!”となっている
カエル「なんか、公開数日前に完成したことも考えると、あれって本当にドキュメンタリーみたいな話なんだね……
主「前の記事でも語ったけれど、本当に修羅場ってたと思うよ。だけれど、嘘はつけないし、ただの劇場版じゃないからさ……それこそ”P.A.WORKSの理念と誇り”をかけた作品だから、ギリギリのギリまで作業していた。
その熱意が作品に込められているよね」
新たなる仲間との出会いも……
(C)2020劇場版「SHIROBAKO」製作委員
語らないラスト
あのラストの冒険活劇シーンで、まさか映画が終わるとは……
あれでちょうどいいんですよ!
主「クリエイターにとって最大の名刺は作品なわけです。
だったら、それを見せれば全ておしまい。その後にグダグダと余計なことは言わなくていい。それはダンスシーンで『なんてすごいダンスだ!』と言葉にしてしまう駄作といっしょ。
見りゃわかるんですよ。
わからなかったら、それはそれでおしまい!」
カエル「それはそれで勇気がいるような……」
主「あのラストに関しても色々な受け取り方ができるけれど、結果は見ればいい。
あれ見たらどれほどすごいシーンなのか、命かけているのか、それがすぐにわかるでしょ?
だからこそ……この映画はクリエイター賛歌の映画として傑作たり得るわけだ」
本作を最も端的に示しているのは、やはりこのイラストではないでしょうか
(C)2020劇場版「SHIROBAKO」製作委員
時代を捉え、ジタバタと見苦しく前に進む物語
それでは、この長い記事もようやく終わりとなります
最後に語るのはSHIROBAKOはどんな功績を残したのか? ということだ
主「これに関しては色々あるんだけれどさ……まだ現段階だけれど、今のアニメ界って実はちょっと大きな変化が徐々に起こっている。
それは黎明期を知る人……東映動画時代を知る方々が一線を退きつつあるということだ」
カエル「伝統を作り上げてきた先人たちが次々と去る時代だね……」
主「その中で”アニメの今”をここで描くというのは、とても大事なプロジェクトだったと自分は評価する。東映動画設立から70年近くすぎている中で、激動の現代のアニメを描く、それを広く知ってもらおうという試みは今後アニメ史を探る上でも重要になってくるのでないか?」
ファンでも外部からはほとんど何も知らないに等しいような業界だもんね
時代に爪跡を残すことができた作品でもある
主「まずは完成させるだけで凄いことなんですよ。
作品の質よりも、まずは完成させること、人に見せることが大事。それがないと何も始まらないから。
色々の問題の多い業界ではあるし、P.A.WORKSも比較的アニメ業界ではホワイトという話も聞くけれど、それでも労務問題なども発生した。やっぱり、まだまだ変わる必要がある業界なのだろう。
そこをジタバタともがきながら……それが果たして本当に正しいのかは自分もわからなけれいけれど、進むクリエイターたちの姿に……最大限の拍手を贈ることが大事なのではないだろうか?」