物語る亀

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物語愛好者の雑文

映画『冴えない彼女の育てかた fine』ネタバレ感想&考察! オタクの妄想からクリエイター讃歌の物語へ!

 

今回は『冴えカノ』のネタバレありの感想&考察記事になります!

 

 

ネタバレなしが読みたい方は下のリンクを参照してください!

 

 

blog.monogatarukame.net

 

 

カエルくん(以下カエル)

 「もう、早速ですが今回の記事も相当長めなので一気にスタートします!」

 

 

「本当は今週は毎日更新を目標としていたけれど、この記事だけで3日分くらいの労力を消費した気がする……

 そして重ねて言いますが、全編ネタバレありの記事になっています!

 ご承知ください。

 では、記事のスタート!」

 

 

 

 

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作品紹介・あらすじ

 

 PCゲームなどの脚本も手がける丸戸史明が原作のライトノベルを書き、2015年と2017年にフジテレビ・ノイタミナ枠でテレビアニメも放送された『冴えない彼女の育てかた』の最終章を描く劇場版作品。

 テレビアニメ版の監督を務めた亀井幹太は劇場版では総監督を務め、演出を手がけた柴田彰久が監督を担当する。丸戸史明はテレビアニメ版と同じく脚本を担当する。

 キャストはテレビシリーズと同じく松岡禎丞が主人公の安芸倫也を演じるほか、安野希世乃、大西沙織、茅野愛衣、矢作紗友里、赤崎千夏、柿原徹也などが声を担当する。

 

 テレビアニメシリーズにて高校生の安芸倫也は、同人サークル「blessing softeware」を結成し同人ゲームを完成させたものの、中心スタッフであった小説家としてもデビューしている霞ヶ丘詩羽と幼馴染の人気同人絵師の澤村・スペンサー・英梨々が人気クリエイター紅坂朱音に引き抜かれてしまった。

 メインヒロインと見出した加藤恵や永堂美智留、波島出海と共に新しくゲームを開発し始めるが、慣れない作業にスケジュールは押していく結果に。そこに現れた紅坂朱音の罵倒まじりのアドバイスもあり、ゲーム作りは順調に動き始めるかと思ったのだがトラブルが舞い込んでしまう……

 


劇場版「冴えない彼女の育てかた Fine」主題歌『glory days』音源解禁

  

 

 

 

前の記事のおさらい 

 

まずは最初に、前回の記事で書いたテレビシリーズに対する見方について軽くおさらいしましょうか

 

  1. 持つ者と持たざる者の残酷な物語
  2. 最低の男子・倫也
  3. ゲームを作ることのメタ的な理由

 

細かいことについては前回の記事を参照してください

 

 

カエル「簡単に語ると才能がある側に英梨々や詩羽がいて、ない側に倫也や恵がいる。そして相手の気持ちを知りながらも、自分の夢ややりたいことのために感情を無視して才能だけを目的に生殺しの状態にする倫也、という話だったね」

主「では劇場版は? と言うと、このような視点から見た場合のテレビアニメ版の欠点……というよりも課題というべきなのか? それを全て解決していったという印象があった。

 そしてそれがこの映画に高評価をつける理由につながってくる

 

カエル「ふむふむ……」

主「先に言うとちょっとだけ文句があるとするならば、一応メインキャストであったはずの美智留の出番が少なくて、下手したら伊織よりも影が薄くなっている部分はいただけない。まあ、テレビシリーズからそうだから仕方ない面もあるけれどさ……

 でもそれくらいかなぁ?

 全体として物語・作画・演出・演技・音楽……そして表現として挑戦する姿勢かな、それらが最高に組み合った2019年屈指の映画だと思っている

 

 

この記事での1番重要なことって何?

 

やはり”妄想まみれの現実”ってことだ

 

主「確かに冴えカノってオタクの妄想全開の物語だよ。

 だけれど、この映画は……というかテレビシリーズの後半からは妄想まみれかもしれないけれど、確かに現実について語っていた。

 というわけで、今回はこの妄想話が現実と観客が受け取られるようにした工夫などについて

 

  1. クリエイターの物語の視点
  2. 恋愛作品として

 

 の2つを中心に語っていきます」

 

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3つの階層を内包した物語

 

これは以前、他作品でも語ったことがあるのかな?

 

この映画で語られている次元には3つの階層があると思うんだよ

 

カエル「その3つの階層をまとめると以下のようになります」

 

  1. 冴えカノの物語内で倫也が紅音が作っているゲームの話
  2. 倫也や恵などの物語(冴えカノの物語の本編)
  3. 現実の世界

 

主「これは『カメラを止めるな!』だったり『SHIROBAKO』『バクマン。』『アオイホノオ』などと同じような構図であり、この映画が語っていることは現実の創作にもつながっている。

 また1の作中作の階層と、2の物語の階層が作中で密接に合わさっており、ゲームの話をしているかと思いきや、実は2人の恋愛の話になっていたりする。

 これはテレビアニメから使われている工夫でもあるけれどね。

 そして2の本編の階層と3の現実の階層も一致するように作られている。

 1番分かりやすいのは冒頭にもあったメタ的な会話かな」

 

カエル「あれはテレビシリーズの2期の時でも語られていたよね」

主「メタネタって人や作品を選ぶんだけれど、この作品ではピッタシとはまった。2の階層の、2次元世界での話なのに完全に3次元の現実の話になっている。これも階層の違いを活かした工夫の1つだ。

 そしてそこから、この映画をよりリアルに見せようという意識を強く感じた。

 その結果、自分にとってはこの映画は”妄想(2次元のアニメ表現)にまみれた現実”として受け止められた。

 なぜそんなに高く評価するの? と言われたら……『SHIROBAKO』『カメラを止めるな!』みたいな衝撃があったからだ! と答えるね」

 

カエル「次から語る”クリエイターの物語として”に繋がります」

 

 

 

 

 

『情熱では会社は動かない。情熱でしか人は動かない』〜クリエイターの物語として〜

 

3人のプロデューサー像

 

まずはクリエイターとしての倫也について語っていこうという話だけれど……

 

ここで倫也の成長が感じられるんだ

 

カエル「簡単にまとめると以下のようになります」

 

  • 倫也……情熱を武器に粘り腰でクリエイターと接していくスタイル
  • 伊織……冷静に状況を見極めてその都度に最善な行動を行う
  • 紅音……才能あふれるクリエイターであり強引に物事を進めていく

 

この3人は全員プロデューサー・ディレクターとしてのスタイルが全く異なる

 

主「自分が1番好感を持てるのが伊織で、念密な計算と冷酷なまでに全員の勝利条件を見極めて行動する、本来は彼の手法がPという仕事のあり方だとすら思う。

 その真逆が紅音。本人が卓越した才能を持つクリエイターだからこそ強引なやり方で周囲を引っ張り、状況を無理やりコントロールしていく剛腕タイプ。ついていければ限りない賞賛を受けるような完璧な作品になるのだろうね」

 

カエル「それでいうと倫也はその中間ってところなのかなぁ」

主「彼のやり方はアマチュアのものだったんだけれど、映画ではある程度自分のスタイルというものを確立し始めた。

 ちょうどふたりの中間で、誰もが納得出来る落とし所を情熱と粘り腰を持って見つめるスタイル。

『情熱では会社は動かない。情熱でしか人は動かない』

 これは町田さんの言葉ではあるけれど、この経験を生かして倫也はアマチュアからプロとして成長していく様を描いている」

 

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商品と作品と

 

映画の中盤の問題として上がるのがこの”商品と作品”かもね

 

クリエイターにとっては作品だけれど、企業にとっては商品だからね

 

カエル「この辺りは一般企業と事情が異なるよねぇ……特にクリエイター系はここでどのように見切りをつけるのか、というのが最大の問題かも……」

主「テレビアニメ版はあくまでも同人サークルのお話であり、どんな大手であってもそれは一応はアマチュアの戦い方だった。だけれど、この映画版ではプロの舞台で戦うことになる。

 そしてそこで重要になるのは”商品としての価値・開発期限”の問題だ

 

カエル「現実で起きたことで語れば『メタルギアソリッドシリーズ』で有名な小島秀夫がその問題に苦しんだ印象かなぁ……

 あとはちょっと形は違うけれどプロ野球の中日ドラゴンズで落合監督が『勝つことが最大のファンサービス』として実行したけれど、勝っているのに観客が減り続けたこともあってフロントと対立して退団することになったり……」

 

”作品の完成度を高めることが勝利”というのは否定しないけれど、それはあくまでもクリエイター側の話であり、そこにこだわり続けられるのは同人サークルというアマチュアだからだ

 

主「プロであれば予算と期限があって、多くの人的・物的支援があってもその見極めはシビアだ。

 だからこそ、プロでは”金を稼いだ<商品>が勝利”なんだよ」

 

カエル「これって映画業界でもよくあるよね……傑作・名作が売れなかったから続編が作られたり、逆に駄作なのに大ヒットして続編が作られたり……」

主「売れるってことは絶対的な正義なんです。

 作品の評価はその次に来るものかもしれない。

 でもクリエイターは作品の評価や自分の仕事が第一なんですよ。だからこそクリエイターとして食べていける。

 ここがどうしても対立する部分なんだけれど……そこの向き合い方がプロの割り切りをする伊織と、クリエイター寄りの紅音に対して、じゃあ倫也はどう向き合うのか? って話が中盤の見所です

 

 

 

 

テレビシリーズからの進歩

 

その進歩を感じたシーンがあるということだけれど……

 

そこは『2週間の猶予を勝ち取ったぞ!』かなぁ

 

カエル「倫也が交渉の結果勝ち取った部分だね」

主「ぶっちゃけさ、テレビシリーズの倫也の行動ってアマチュアのサークル活動だから大目に見られるけれど、最低な行動だと思うわけですよ

カエル「それは前回の記事でも語っていたよね。

 確か”才能にしか興味がなくて生殺しにしている”だっけ?」

 

主「それもそうなんだけれど、一流のクリエイターをあれだけこき使って働かせており、その後の報酬を出したのかもしれないけれど、あれってやりがい搾取にも近いものがあるよね」

カエル「……まあ、同人のサークル活動ってそういうものですから、としか言えないかなぁ……」

 

主「だからやっぱりアマチュアだったんだよ。

 だけれど、今回はプロの舞台に臨時とはいえ一歩上がったわけだ。

 そこでクライアント側のある種正当な要請に対して、譲歩するところは譲歩しながらも勝ち取った。あれこそプロの仕事だと思う。

 その結果、スケジュールはきつくなったし仕事は大変だったかもしれないけれど、きちんと”誰もが妥協しながらも納得する道”を掴み取った」

 

これが伊織だったらクリエイター側が一方的に涙を飲み、紅音だったらクライアント側が一方的に唇を噛みしめているような話だもんね

 

ちなみに、完全に業界と関係ない部外者でも噂は耳に入るくらい、ああいうのはどこにでもるあることなんだろうな

 

主「その結果、完成した時3人で三角形になるように倒れこんだ。ここで初めてこの3人はプロに近い形でクリエイターとして同じ舞台に上がったとみていいのではないだろうか?

 この場に恵がいないのもポイントで……この段階では恵はこの輪に入れないんだよ。

 結局、倫也、英梨々、詩羽はクリエイターとしての繋がりだった。

 そしてそこでお互いがお互いを助け合う完璧なトライアングルを達成した、という映像になっている」

 

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倒れこんで満足そうな3人の姿がクリエイターとしての繋がりになる

(C)2019 丸戸史明・深崎暮人・KADOKAWA ファンタジア文庫刊/映画も冴えない製作委員会

 

 

個人的に大きく感動した一面〜文章業の辛い部分〜

 

これは個人的な感想になるんだけれどさ……文章業の辛い部分を見せてくれたよねぇ

 

あなたはライター業の端っこの端っこにいるような人ですがね

 

カエル「一応はネットライターとして一部で寄稿させていただき、あくまでも副業レベルではありますが、文章業の端っこにはいるのかな」

主「小説家や脚本家とかシナリオライター、他のライター仕事もそうだけれどさ、文章業って”100%自分の考えた文章が多くの人に読まれる!”って仕事だと思うじゃない?

 ちょっと華々しい部分もあったりさ。

 でも実際のところはメインの仕事は修正なわけですよ。

 編集さんとか、いろいろな人の考えがあって、駄目出しや赤をもらって修正する、脚本ならば何構も重ねていく。その最終形態したお客さんは見ないわけです。

 むしろ修正の仕事の方が長いもんです。

 ブログはその点、自分で編集して自分で全てをこなして……って感じだから楽でいいよね」

 

いや、あなたが気楽なだけで、ブログはブログで文責が全部自分だったり、メンテナンスや修正、読んでもらうための宣伝活動とかで大変な部分もあると思うけれど……

 

感銘を受けたのが『お前の文章はクソだ! だけれど精錬されたクソになるな!』って部分で、その気持ちがすごくわかるのね。

 

 

主「恵にも『めっちゃキモいね』と言われるけれど、文章書きとしてはそれも1つの武器になるんですよ。

 もちろん、掲載相手が許可するレベルもあるだろうけれど、罵倒でありながら褒め言葉でもあるんです。

 しかもテレビシリーズでも詩羽が『初めて書いたシナリオで直されないなんてありえないと思ってた』と語っていて、天才でも抱える悩みをしっかりと描いてくれて本当にありがとう! って思いがあったんですよ。

 自分は文章表現にそこまでこだわりがない上に我流なので、編集さんの赤に『添削していただいてありがとうございます』って気持ちだけれど……こだわりや思い入れが強い人は修正だけで自分の全部を否定されたような気持ちになったりする。

 そういった部分を描いたことも”リアル”の1つになっていて、自分の評価を爆上げする要因の1つですよ」

 

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クリエイターの先輩として含蓄のある言葉をたくさんくれる赤音さん

彼女に待ち受ける運命もまたクリエイターとして苦悩に繋がり胸を打つ……

 

(C)2019 丸戸史明・深崎暮人・KADOKAWA ファンタジア文庫刊/映画も冴えない製作委員会 

 

『オナニーしろ、少年』〜消費者からクリエイターになる物語〜

 

これ、Googleやはてなの規約に引っかからないといいなぁ……

 

いやいやいや、非常に重要な部分なんですよ!

 

主「この映画の肝の1つが”消費者からクリエイターへの変化”なんだ。

 クリエイターになることによって、初めて天才少女2人と対等に戦う物語になる。

 だから前回の記事で『テレビシリーズでは最低のプロデューサー/ディレクター』って語って罵倒したように聞こえたかもしれないし、実際その意図もある。

 でも倫也は作品を完成させた。

 アマチュアで人間としてはともかく、仕事としては最低の選択をしたかもしれないけれど、プロデューサー/ディレクターとなった。クリエイターの一歩を踏み出した。

 勝負して舞台に上がったんですよ。

 ここだけでも偉大な変化なわけ!

 

カエル「何かを創作した方なら重々承知でしょうが、物語を作るって何のジャンルでも完結させるだけで大変なんだってことだね」

主「オナニーでいいんですよ、そこから始まるんです。

 それを恥ずかしがっていたらダメなんだってこと。

 そして、さらにクリエイターとして高いレベルに……代理とはいえ商業作品にも関わり、はじめはただの消費者だった少年が、なんだかんだありながらも経験を重ねながら成長していく。

 それがこの作品なんだよ」

 

 

 

 

 

『好きな人と恋人になるのは生ぬるいとは違うと思う』〜恋愛面での冴えカノ〜

 

結婚から恋愛関係へと発展する物語

 

ここからも長いでしょうが、いよいよ恋愛面について語っていきましょうか

 

もう倫也と恵の2人ってとっくに結婚していたんですよ

 

カエル「実際のところはあれだけれど、精神的にってことだね。テレビアニメ版からも正妻オーラが全開だったもんねぇ」

主「この作品を恋愛面で語るならば”結婚から恋愛関係に<発展>させる物語”なんです」

カエル「……あれ、結婚から恋愛って発展なの?」

 

主「2人は長い月日をクリエイターとして共同で活動することにより、強い結びつきが生まれていた。これは既に結婚なんですよ。

 それはこの映画版のスタートから現れていて、あの朝の台所の一連のシーン……あれなによ? 

 あんなサンドイッチのやり取りは夫婦ですらやらないんじゃない?」

カエル「独身が語ってもなんだって話ですが、夫婦っぽさがすごかったねぇ。これが付き合いたてのカップルならば分かるけれど、倫也も『うわ〜! 恵の朝食だ!』って感じでもなく普通に食べて、しかも残すというね。

 またサンドイッチというのが絶妙だよねぇ……付き合いたてだったらもっと手の込んだ朝食を作りそうだけれど、サンドイッチそこまでは手間はかからなそう。それでも朝食としては十分すぎるくらいの手間と愛情が感じられる料理で、2人の関係を強調するっていうか……」

 

あの一連のシーンの実感の込もった描き方こそが、この映画のリアル感の正体の1つだろう

 

カエル「そう言ったシーンの積み重ねがあって”2人は結婚している”という評価になるんだ?」

主「実写映画ならば倦怠期の夫婦のお話なんだよ。

 『お父さんと別れます!』って年老いた母が言って、なんやかんやあってまた恋愛して夫婦関係に戻るっていうさ。

 

母『お父さんから愛している、なんて言われるの初めて』

父『そ、そうだったかな?』

 

 なんて会話があったりしてさ。

 それを10代の少年少女でやっているわけだ。

 どう見たって両想いなのに、恋愛を経ずに精神的に結婚したからこそ、また恋愛関係に戻るのはとても大変なことなんだよ

 

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色彩を暗くして2人は一度精神的に別れる必要があった……

(C)2019 丸戸史明・深崎暮人・KADOKAWA ファンタジア文庫刊/映画も冴えない製作委員会 

 

象徴的な手や足の作画

 

この映画の映像面で注目するポイントは?

 

やっぱり手や足の作画かな

 

カエル「特に手を握るシーンは素晴らしかったよねぇ……」

主「確か電車を待ちながらのシーンだったと記憶しているけれど……違ったらごめんなさい。

 以前から語っているけれど、電車というのは運命のメタファーなんですよ。

 あそこで電車を待ちながら手を握る、しかもそれがかなり情熱的にってことは”2人の運命が結びつく”という意味合いにも受け止められる。

 あのシーンは自分に言わせてもらえば精神的なSEXなんだ

 

カエル「肌を露出せずに見せることができるラブシーンだね」

主「こういうシーンがあると”映画”って感じがするよね。

 他にも足のシーンであったり、あるいは顔を見せない演出なども多く散見される。以前にも語ったけれど、この手の演出っていうのも色々な意味を持つし、すごく京アニ……特に山田尚子っぽいな、と自分は感じる。

 パンフレットの監督インタビューで『シナリオから汲み取った感情をどう弄ってやろうか?ということを考えながら描きました』とあるけれど、行動や表情、そして”顔を見せないことで感情を見せる”という表現の1つ1つがものすごく濃厚に詰まっている」

 

冴えカノって足の肉つきなどのエロさのこだわりがすごかったけれど、そういったのとはまた違った良さだよね

 

特に”見せないからこそ見える感情”だと英梨々のあるシーンがとても素晴らしかった

 

カエル「2人が急接近して学校に一緒に登校するシーンだね。

 出海が目撃して『なんかあの2人……』と言ったら間に英梨々が入っていくシーン」

主「そのシーンは3人の後ろ姿を描いているし、英梨々に関してはほぼ描写されていない。だけれど、あの英梨々のことだから、2人の関係性の変化に気がついているだろうね。

 英梨々ってバカじゃない。ただ、意識的に認めないようにしているだけ。

 だから2人の間に入るんだよね。

 じゃあその時の表情は?

 英梨々は焦りなどかもしれない。

 じゃあ恵は? 倫也は?

 そういったことを想像させる演出……それらが生々しさやリアル感を持って伝わってくるわけだ

 

 

 

 

名シーンを支える王道の演出

 

そして紆余曲折を経て、サビの入り方も完璧なこの映画最大の見どころのシーンへと入ります!

 

一度喧嘩してある種別れて、そして再びくっつくという王道ながらもキュンキュンする名シーンだ!

 

カエル「ここは普段恋愛映画に対して『ふぅ〜ん……』という態度をとりがちな主もキュンキュンしてしまったシーンです!

 まあ、元々ドロドロ系恋愛よりはキラキラ系恋愛のほうが好きな人なので当然といえば当然なのか?」

主「いや〜……もう反則的な演出の繰り返しだからしょうがない!

 『ヒロインにな〜る〜♪』のその直前の転調も場面に見事に合っているし、曲調や歌詞も完璧なわけではないですか!」

 

カエル「それで、ここで語る王道演出ってその音楽のこと?」

主「それもあるけれど、やっぱり三叉路ってのが大きいよね。

 三叉路というのは”この先の人生の選択肢”を示している。

 つまり、あそこで恵を止めることができなければ2人の関係は暗い道に進んでいたわけだ。そこを夕日で照らされている横道をバックに、2人のあのシーンを見せつけられて『爆発しろ!』って言いたくなるでしょ!?」

  

 

カエル「……ちょっと初日舞台挨拶に引っ張られてますね」

主「でも松岡くんが語っていたけれど、あのラストがifの可能性に感じられるっていうのはスタッフサイドも想定しているのではないだろうか?

 ギャグと同時に2人のifを描き出す。

 あの締めるべきポイントでギャグを入れるのもらしいといえばらしいけれど、でもちょっとは作り手側の照れもあるような気がするんだよねぇ……」

 

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三叉路の先の未来

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『特別でもないけれど普通でもない』〜それぞれの思いについた決着〜

 

一方では悲しい思いをしてしまった人もいるわけで……

 

”決断”の映画だったんだなぁ……

 

カエル「特に英梨々はあれだけの辛い思いをしているから、グッとくるものがあるよね……」

主「この映画は全員の……と言っても倫也、英梨々、詩羽の3人が中心で正妻戦争に加わることすらできなかった2人はちょっと可哀想ではあるけれど、その3人のけじめをつけさせる物語なんだよね。

 過去ははっきりと出ていないけれど詩羽なんかは倫也に振られていて、あとはそれをどう受け止めるのかという問題だった。そして……英梨々も同じようなことになってしまった。

 多分、ずっとわかっていたんだけれど認めたくない、認められない気持ちを直視してあの涙につながった。

 一方で倫也は自分の気持ちを直視して、どのようにケリをつけるのか、という課題を解決した」

 

 

カエル「……切ないお話だったね。結局、2人は特に何もすることなく恋路は片づくわけだし……」

主「『特別でもないけれど普通でもない』っていうのは、前回語った冴えカノの残酷性①にも繋がってくる。

 倫也ってどっちにもなれたんだと思う。

 もしくは、どっちにもなれなかったという方が正しいのか?

 そして特別じゃないけれど普通でもない同士だからこそ、2人はくっつき、少女2人は傷つくことになった……これもまた、残酷なお話だよね」

 

 

 

 

”妄想まみれの現実”を描いた冴えカノ

 

個人的な冴えカノの解釈

 

恋愛面の冴えカノという物語をどのように解釈するの?

 

自分は”オタク少年が妄想から現実に向き合うまで”を描いた作品だと思うよ

 

カエル「え? これだけ妄想にまみれたお話なのに?」

主「これは『恵というキャラクターが後半大きく変化している』とパンフレットの丸戸史明のインタビューでもあるけれど、最初から彼女は現実の少女のモチーフなのではないか?

 それこそ、ギャルゲーの宿命に挑んだ作品というのはそういうところで……

 例えば澤村・スペンサー・英梨々、霞ヶ丘詩羽という名前と比較しても、加藤恵って可愛けれど地味な名前じゃない。

 自分は普通の名前すぎて一発で覚えたくらいだよ。

 他のキャラは今だに怪しいのに」

 

カエル「……まあ、あなたは固有名詞を覚えるのは苦手だから映画を見ても”主人公くん、ヒロインA”みたいに役割で記憶している部分があるよね」

主「それは設定もそうで、金髪ツインテール幼馴染だったり黒髪ロングの美女の先輩などの設定が山盛り。いかにも美少女ゲームのヒロインみたいな設定がたくさんある。

 これをどのように解釈するかってお話」

 

つまり、英梨々と詩羽は2次元の象徴であり、恵は3次元の象徴とも言えるわけだ

 

主「これが英梨々と詩羽との恋路であれば特別なイベントが発生して特別な恋愛になったかもしれない。

 だけれど、恵との恋愛ってすごく劇的に見えるけれど、やっていることは高校の同級生とサークルを始めて、サークル内恋愛に発展するという、とても普通の物語だ。

 だけれどこの”普通”というのが冴えカノの重要なポイントな訳」

 

カエル「以前に読んだ小説で……作品名は忘れたけれど『ドラマのように劇的な恋愛ではなく、どこにでもある平凡な恋愛だけれど、でも私の平凡な恋愛が劇的な恋愛に劣るなんてことは絶対ない』みたいな台詞を思い出すね」

主「倫也は加藤恵という普通の少女(3次元の象徴)と出会うことで、英梨々と詩羽(2次元の象徴)との出会いもあり、絵の才能も文章の才能もないと理解するけれど、消費者であることやめて現実の世界でクリエイターとして勝負する……それが冴えカノという物語だ。

 まあ、それをやりきるには恵が可愛すぎるんだけれどね!

 

カエル「そりゃ可愛くないとメインヒロインたりえないからしょうがないじゃん……」

 

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『私たちに恋をしていた』〜作品からの祝福〜

 

でもさ、その解釈って一歩間違えると愛したオタク文化否定にも繋がらない?

 

だからこそ、英梨々と詩羽の台詞に繋がるんだよ

 

カエル「朝焼けの坂道を2人で歩きながら語るシーンだね」

主「自分はこのシーンもグッときて泣きそうになった……というか、全シーン泣きそうだったんですけれどね。

 ここは朝焼けの中を歩くというのは、やはり2人の明るい未来を指し示すとともに2人の物語はここから始まる、という意味があるのだろう。

 また一本道の坂道というのも意味深だ。

 2人には選択肢は与えられていないんだけれど、そして険しくて苦しい思いをする坂道かもしれないけれど、でもその先に明るい未来が絶対に待っている……

 これはクリエイターに対する最大の敬意にも感じられるでしょう

 

ここが感動するシーンっていうのはどういうことなの?

 

このシーンはオタクやファンへ送る、作者や作品からのラブレターなんだ

 

主「倫也はクリエイターとしては鈍感な部分もあったけれど、確かに2人の作品のファンだった。

 詩羽の小説を見つけて惚れてくれた。

 英梨々は倫也にとっての1番の絵描きになれた。

 確かに恋愛感情は恵に向いたよ。だけれど、消費者としての、そしてクリエイターになるにあたっての最大の武器となるであろう知識や感動をくれた作品たちに対して倫也の心が変わったわけじゃない。

 彼はずっと作品たちを愛してきたんだ

 

カエル「言葉を変えれば3次元でちゃんと好きな人ができて、脱オタするかと思ったけれど、でも愛した2次元も心に刻み込んでいるってことだね」

主「2次元や作品は3次元に勝てない部分もある。いつかは好きな人ができて、卒業する時があるかもしれない。

 だけれど、愛してくれた思い出は残る。

 そしてファンが愛してくれたことを糧にクリエイターも新たな道を歩める。

 だから、その愛は一方通行じゃないんだよ。

 相互にとって、とても重要な愛なんだ」

 

 

 

 

丸戸史明の私小説要素も混じった作品に?

 

やっぱり原作者の思いってのは想像してしまうよね

 

パンフレットのインタビューでも答えているように、倫也は丸戸を投影している部分もあるのだろう

 

カエル「どのクリエイターも主人公には自分の感情を投影しているものだとは思うけれど、本作もやっぱりそうなんだね」

主「ゲームクリエイターとして、物書きとしてキャリアを積んできたからこそ出せるリアリティというのもあったし、オタクだからこそ書ける思いもあったのだろう。

 自分はこの作品しか観ていないけれど、おそらく多くを計算で書いているタイプの作家だと思う。

 パンフでは『天才』と称されているし、それは決して間違いではないのだろうけれど……天才を『思いついたから書きました!』ってタイプとするならば、丸戸は裏には念密な計算と経験から裏打ちされるものがあっての才能であり、自分は秀才タイプな気がしている

 

カエル「ふむふむ……」

主「でさ、やっぱりこの作品がリアリティを感じるのはその思いが反映されているから、というのは大きいよね。

 それこそ『SHIROBAKO』『カメラを止めるな!』『アオイホノオ』もそうだけれど、その表現ジャンルの専門家が自分のジャンルについて書いたら、熱いもの入るし物語やキャラクターにデフォルメがあったとしても内容は現実的なものになるんじゃないかな?

 くっついた時の倫也の照れとか、あのラストもそのあたりの自意識からの照れが見えるような気がするんだよなぁ

 

カエル「最初に語った階層でいうと2と3の倫也の視点と現実の作者の視点が噛み合った上でのリアルな物語ってことなんだろうね」

 

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余談〜憧れと諦念が入り混じり見つめる物語〜

 

いよいよ長い記事もラストになりました!

 

自分にとっては、この作品は複雑な作品です

 

主「やっぱりさ、クリエイターっていいよなぁ……て憧れがどうしてもある。特に自分は作家志望崩れだから、その思いは強いのかもしれない。

 この作品を”オタクの妄想”という意見も当然あるだろうし、それも間違いではないけれど、自分は消費者がクリエイターに成長していく世界の方が女の子に囲まれる生活の何倍も羨ましいな

 

カエル「……今、何万倍って書こうとして消したのは黙っておいた方がいいのかな?」

主「同時にこの中に入れなかった悔しさもあるし、まだ諦めきれない思いと、もう諦めるべきだという思いもある。

 そんな複雑な感情が交差するんだよね。

 それほどまでに素晴らしい作品だった。

 『バクマン。』『SHIROBAKO』などを見た後のような”自分も頑張ってやるぞ!”という気持ちもありつつ、どこかで吹っ切れて、ありがとうございますって気持ちもある。

 それだけ深く自分と絡み合った作品であって……だからこそ、冷静に評価できていない部分もあるんだろうな」

 

 

 

 

まとめ

 

では、長くなった記事のまとめです!

 

  • クリエイターとしての成長を描ききった物語へ
  • 丁寧な演出と作画が2人の恋愛を描き出す
  • 成長しても好きだった作品や作者への思いは絶対に消えない!
  • リアルと妄想の間で”愛”を描ききった作品に!

 

2019年屈指の傑作といった理由を全部つぎ込みました

 

カエル「いやー……今回は疲れたね……

 これで1週間チャレンジ3日分くらいにしたいくらいの文章量ですよ……」

主「甘いものが欲しくなってきた……炭水化物をくれ!」

 

カエル「ちなみに、誰推しだったの?」

主「終始詩羽先輩です!

 むしろ彼女以外の選択肢がないくらい、ドストライクでした」

カエル「……結局黒髪ロングのお姉さんタイプという、オタクが大好きな理想像にいくんだね」

 

 

 

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