物語る亀

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物語愛好者の雑文

新千歳空港国際アニメーション映画祭 2日目のレポート〜長編コンペからTRIGGERのトークショーまで〜

 今回は『新千歳空港国際アニメーション映画祭』の模様について、簡単なレポ記事となります。

 なんか、本来あるべきブログって感じ!

 

 

 

 

 

 

新千歳空港国際アニメーション映画祭とは?

 

 まずは新千歳空港国際アニメーション映画祭とはどのような映画祭か、ということについて軽くお話ししましょう。

 世界でも類がない”空港で行われる映画祭”として今年で第6回を迎えるアニメーション映画祭であり、アニメーション研究家として有名な土居伸彰氏が運営の中心となるフェスティバルディレクターとして活躍している。

 ちなみに自分は世界のアニメーションの現状について非常に疎いため、土居さんの『21世紀のアニメーションがわかる本』で勉強し、非常にタメになりました。

 

21世紀のアニメーションがわかる本

 

 映画祭は本来は短編アニメーションが中心となり、コンペディションを行っていくのが一般的だそうで、やはり新千歳もその方針は感じられる。それでも”日本発のアニメーション映画祭”ということで、アジアや日本の作家達をもっと広くアピールしよう、という意識が感じられる。

 

 自分は短編アニメーションは正直苦手だ。芸術的であるからこそ高い感性と確かな知識が必要な気がしている。一方でアニメーションというのはここまで幅が広いのか! と驚愕することも多く、またドン・ハーツフェルトのような作家が現れると雷で打たれたような衝撃もある。

 

メランコリックな宇宙 ドン・ハーツフェルト作品集 [DVD]

 

 自分の目的は長編コンペディション、及び日本のアニメのクリエイター達のトークショーだ。

 

 日本はアニメ大国でありながらも、アニメーション大国ではないと感じている。国産のアニメ、あるいはディズニー/ピクサーなどのアメリカ産アニメーションは劇場公開をしてくれるのだが、それ以外の国のアニメーションとなると公開自体されないケースも多い。そのため、自分のような日本語以外わからんちんには、こういった映画祭にて鑑賞することで世界のアニメーションを知ることが重要となる。

 

 また新千歳では一流のクリエイターを招いての裏話やトークショーを行っている。自分が参加を始めたのは昨年、2018年のことだが、最大の目的は『聲の形』の上映と山田尚子のトークショーだった。

 2019年は『プロメア』と中心としたTRIGGERがピックアップされている。

 直にクリエイターの話を聞くことができる貴重な機会の1つであり、こちらにも注目している。

 

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blog.monogatarukame.net

 

 

新千歳空港へ到着!

 

 今年は映画祭2日目の11月2日と、11月3日滞在の予定だ。

 本来ならば1日目から来たかったし、最終日である4日まで居たかったが、東京国際映画祭と京都アニメーションのイベントが被ってしまっっている状況のために断念せざるを得なかった。

(今年は森達也監督のQ&Aに参加できたので、いい体験もしているしね)

 

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 いきなり余談だが、今回のスケジュール決めはギリギリまで迷っていた。東京国際映画祭のスケジュールや参加できそうな作品の選定及び、京都アニメーションの追悼式典がどのタイミングでどのように行われるか読めなかったためだ。

 そのため、結局飛行機のチケットを予約したのは10月の末ごろとなり、値段は高くなってしまった。まあ、お金で解決できるならばそれでもいいかな。

(2018年は地震の影響もあったのか、4日前くらいまでは1万円を大きく割るほど飛行機代が安かったので油断しすぎたかも……)

 

 新千歳空港ではアニメファンに向けたイベントや展示も開催中で『プロメア』のガロとリオの展示もあった。もしかしたらチネチッタから来たのであれば、個人的には久々の再会になる。

 

 

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 他にも北海道を舞台にし、テレビアニメも制作されている『波よ、聞いてくれ』の原画展示コーナーや、北海道在住の宇木淳也監督が中心となった作品『センコロール コネクト』の展示もあった。

 北海道に密接した映画祭にしよう、という心意気が感じられる。

 

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 整理券を獲得してひたすら時間を待つ。

 昨年は整理券がなく、並んだ順に案内されていたので個人的に山田尚子トークショーと並ぶ期待作だった『Funan』を見逃すという事態になってしまったので、今回の改善は非常にありがたかった。

 

 

Funan (Bande originale du film)

 

 

 

作品鑑賞 

 

1作目 センコロールコネクト

 

 2日の朝一で鑑賞したのは『センコロールコネクト』だった。

 北海道在住のクリエイター、宇木敦哉監督がほぼ個人で原画・脚本・監督などを担当して作り上げた作品『センコロール1』と、そこから10年がすぎて完成した続編の『センコロール2』を合わせた作品だ。

 東京でも上映されていたのだが、新宿へ見にいった日が満席となってしまい、他の日に行くことができず泣く泣く諦めた作品だ。今回、このような形で鑑賞できるとは夢にも思っておらず、非常に嬉しいサプライズだった。

 

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 『つり球』や『デジモンアドベンチャーtry』でもキャラクターデザインを勤められた宇木監督の絵が生き生きと動き回る。ほぼ1人で手がけた前作の『センコロール1』の時点でも、個人制作のアニメとして高いクオリティにあると驚愕したが『センコロール2』は動画や仕上げを手伝ってもらったということで、完成度がかなり高くなり違和感を一切抱かないほどだった。

 

 花澤香菜や高森奈津美の演技も合間って、女の子の可愛らしさも目に付くが、何と言ってもこの作品の中核を担う存在である”センコ”のキモ可愛いルックスに惚れてしまった。マスコットとしていい味を醸し出している。

 また音響が自然音中心のためか、叙情的な雰囲気を出すことに成功しているように感じられた。

 トークショーで印象に残ったのは『新海監督のような超リアルではなく、イラストを動かすという持ち味を発揮できたのではないか』ということだった。同じ個人制作としてどうしても比べてしまう部分もあるが、アニメの持つ快楽性を発揮した作品となっている。

 続編が制作決定しているということだが、年明けから作業を開始して今度は10年待たずに完成するだろう、とのことだった。

 

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キモかわいい、センコ。

監督がセンコのぬいぐるみを持っていたのが印象的でした。

監督も親近感がわく、可愛らしい人!

 

 

押山清高トークショー『SHISHIGARI』にいたるまで

 

作画添削教室 神技作画シリーズ

 


「SHISHIGARI」trailer [Animated Short Film]

 

 

 次に参加したのがスーパーアニメーター、押山清高監督のトークショーだ。『電脳コイル』などの作画監督も務められた他『フリップフラッパーズ』ではオリジナルテレビアニメの監督もされている。

 最初は緊張していた面持ちだったが、徐々にエンジンがかかってきたのか高瀬康司氏の質問に被せるような形でトークがとまらなくなっていく姿が印象的だった。

 アニメ制作の流れや過程、個人でアニメーションを作る際に使用したソフトなどの話が多かった印象。特に本作は一部背景や仕上げ、撮影以外をほぼ一人で制作されており、約17分の短編アニメを作る際の工夫などを話されていた。

 

 正直、ソフトなどの話はデジタルに疎い自分にはわからんちんだったが、アニメが作られる過程やソフト選びなどの悩みなどの業界のリアルな裏話を聞けて満足度が高い。また、個人作家⇨商業作家になられた方は『ペンギンハイウェイ』の石田監督など幾人も思い当たるが、商業作家⇨個人作家になられた例は思い当たらず、押山清高監督の今後の活躍に注目したい。

 なお、『SHISHIGARI』は日本コンペでも上映されているのだが、今回はタイミングが合わずに断念……今回最大の失敗だったかなぁ

 

 

 

 

コヤマシゲトトークショー〜食べたら阿寒湖!〜

 

 プロメアなどのデザインを担当したコヤマシゲトを中心とし、今石監督・若林広海ディレクターなども交えたトークショー。

 

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掲載許可を出してくれた、コヤマ氏の即興で書かれた絵。

連写の音が印象的だった……

 

 

 こちらはレポ禁止令が出されました!

 8割ほどは馬鹿話だったようにも思うけれど、中にはガチでやばいネタ(とは言ってもネットでも見たことある話である)などを話されていた。しかし、TRIGGERが持つでたらめとも言える熱さや勢いなどが、このスタッフのもとで生まれたのだということがわかるいいトークショーだった。

 真面目な話でいうと今石監督の作家性の根幹となる部分が聞けたのが嬉しかった。

 なるほど、テーマは”緊縛”ですか……

(SMの話から発展しただけにここだけだと不穏だけれど、実際は目から鱗の真面目な話です)

 

長編コンペディション〜失くした体〜

 

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 長編コンペディションのノミネート作品。

 フランス制作、監督はジェレミー・クラバン。

 体から切り離された手が手首から先だけで動き出し冒険するパートと、親を失った青年のパートが交互に描かれている。

 こちらはNetflixでも11月から配信開始されるので、興味がある方はあと少しで見られます。

 

 こちらは何よりも物語が面白い!

 手がどうやって周囲を視認するのか? などの疑問はどうしてもあるものの、まるで蜘蛛のように動き回る中で動物や人の目などの様々な危機と対峙する。そのピンチの描き方と解決の手法がうまく、ドラマ性に見応えがある。

 また青年のパートでは親を幼い頃に失くして孤児となった青年の日常を描きながらも、人生賛歌として受け取れる内容だ。

 会話シーンが少なく、絵で説明されることもあり、また解釈も多様であるだろうが多くの人を惹きつけるだろう。

 エンタメ作品に見慣れた体では終盤の展開が弱い印象を抱き、疲れが出てしまった感もあるが評価されるべき作品だと感じた。

 

 

アジアンショーケース

 

 こちらは短編アニメーションの中でも、アジアの作家に迫った作品。

 1作目は台湾の『Goldfisf(金魚)』からスタートしたのだが……こちらがかなり曲者。というのは、おそらく中国共産党を批判しており、台湾らしい自由を謳った作品であるのだが……なかなかに過激で途中で気分が悪くなるようなシーンも。

 その次の日本の『何度でも忘れよう』も若干グロテスクに思えるシーンがあり、この時点でダメージ大!

 

 後半になるに連れて自分好みの作品が増えていき、日本の『そばへ』という広告も兼ねた? 短編アニメは完全に見慣れたアニメ表現だったので安心も、この並びだと変な作品に見えてくる……

 ラストの監督の『Mascot』は現代の韓国社会を痛烈に批判した作品であり、物語として1番面白かった。(ただ、アニメーションよりは実写向きな印象も……)

 1番のお気に入りは日本の『COMET』という作品で、まるで『星の王子様』のような感動を味わえた。

 なんか、社会批判などが多くて全体的に暗かったんだよなぁ……だから『COMET』が気に入ったのかもしれない。

 

 

 

 TRIGGERのお話、パート2

 

 『爆音上映プロメア』で舞台挨拶もあり、そちらも興味があったもののチケットが事前予約制でも瞬殺、抽選の結果落選する人も出てくるなどの驚異の人気!

 プロメア旋風、おそるべし!

 

 

 コヤマ氏のトークショーでも思ったが、女性の割合が非常に高くて驚愕した。あれ、ガイナックス時代から含めていつの間にこんなに女性に人気のスタジオになったの? という疑問も……

 こちらは真面目な話であればレポOKということで簡単にご紹介を。

 

 まずTRIGGERの歴史と今石監督らがいつから制作に携わっていたのか? という話されていました。『キルラキル』の終了直後だから約5年ほど前から企画は動き、1年くらいは何も進まなかった時期もあるそう。

 また表には出ていない、初公開の設定なども次々と明らかになったり、あるいはデイグマ制作過程で重視されたガロの髪の毛へのこだわりなどファン垂涎の内容に。海外版(英語版)の本編映像も一部公開され、声優陣の演技が日本版に近くなるようにTRIGGERも関わりながら役者を選んだという話が印象的だった。

(ちなみにガロ役の声優に”歌舞伎らしく”は通じないために、苦心した結果『チャニング・テンタムとザック・エフロンを足したような感じで』という話は、会場のお客さんはピンときていないようでしたが自分は爆笑でした)

 

 Q&Aでは非常に熱い質問が相次ぎ、スタッフ陣がタジタジになる場面も。

 

Q ラスト付近においてリオの左手の薬指が無くなっていたのは誰の発案であり、どんな意図があったのか?

 

A それはお答えできません。

(自分も2、3回見たけれど左手の薬指は一切気がつかなかった……)

 

Q 前日譚と本編の時間はどれだけ離れているんですか?

 

A 明確には決めていない。プロメアはそこまでガッチリと設定を決めているわけではない。

 

Q ガイナ立ちはいつ、どのような経緯であのタイミングで行うと決められたのですか?

 

A 若林氏の『入れなくてはダメじゃないか?』という意見を経て入れた。あれは勝ち確定演出でもあり、プロメアは”ドリル(グレンラガン)とマトイ(キルラキル)を経てガロがリオを救う話”とファンが受け取れる話でもある。

 

 

 残念ながらそこで自分が次のプログラムへ向かわなければ行けなかったため、時間切れで退出しましたが、非常に聞き応えのあるイベントでした。

 

 

長編コンペディション〜The Wolf House〜

 

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 物語の説明がしにくい……

 チリのアニメーションであり、その映像表現が圧巻! 家をキャンパスに壁に登場人物などが描かれたかと思いきや、2次元から3次元(クレイアニメを想像して欲しい)へと移行するなどの見たことがない作品。

 この表現はあまりにもすごい……と圧巻の出来。

 物語はチリの風土的なものがあるのか、わかりづらいところも多数あり、また宗教的な要素も多々あったために、体力や知力をガンガン奪われていったものの、色々と予習。復習をした上で改めて挑みたい作品だった。

 

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一部の映像はこんな感じ。

ホラー要素と美しさが同居したアニメーション。

 

 

 

余談

 

 以上でレポ終了です。

 

 なお、新千歳空港で食べたうまうまは以下の通り

 

 

 

 夜は劇場の真向かいにある温泉施設で寝ます!