日本の夏、アニメの夏の到来です!
今週だけで3作品めのアニメ映画……しかもこれで全部じゃないんだよねぇ
カエルくん(以下カエル)
「しかも今回は非常に面白い企画だしね!」
主
「今週は日米ヒーローアニメがあったり、大きいアニメ映画が続いているけれど、実つ事前に1番楽しみにしていたのは今作なんだよねぇ」
カエル「では、そんな楽しみだった作品にどんな感想を抱いたのか、早速記事を始めましょう!」
感想の前に
いつもと違って、今回は少しこの企画自体に一言あるようです
こういう企画はぜひ続けて欲しい!
主「日本アニメ界の発展のためにも、世界のアニメーション界のためにもこの企画の成否は非常に大事になってくると考えます!」
カエル「お! それはなんで?」
主「主にこの2点において優れた企画だと考えている。
- 短編アニメ発表の場として
- 世界のクリエイターとの合作
まず、日本において残念に思うのは、オリジナルの短編アニメの発表の場が限られているところ。本来は短編のオリジナルアニメでクリエイターの作家性や、実験精神に溢れた作品を製作して、それを長編に取り入れていくというのが理想だと考えている。
だけれど、短編アニメの発表の場はあって、その注目度はあまり高いとは言えない」
カエル「庵野秀明などが立ち上げた『日本アニメ(ーター)見本市』もあったけれど……もっともっと欲しいね」
主「もちろんアニメはお金がかかるし、商業の場であることは間違いない。その中で制限もあるだろうけれど、新しい表現を探す場として、より多くの注目を集めて欲しい。
その意味ではオリジナル短編である『詩季織々』と、8月に公開されるスタジオポノックの短編アニメ映画には、特別な成功を果たして欲しいと強く望んでいる」
非常に期待しています!
世界のクリエイターとの合作
カエル「そして本作が特徴的だけれど、世界のクリエイターとの合作も期待したいところだよね」
主「いまの日本アニメ界のクオリティの高さは、もちろん贔屓目もあるかもしれないけれど世界でも屈指のものだ。多分日本と競える国なんて、アメリカくらいしかないんじゃないかな。しかもやっていることは全く違う。
だけれど、日本のどの分野も同じことだけれど、ガラパゴス化しやすいという欠点がある」
カエル「独特の進化を遂げているけれど、それは孤立したからこそとも言えるかもね。まあ、日本のアニメがスタンダードなところもあるだろうから、少し難しいところだけれど……」
主「近年では『君の名は。』が中国で爆発的ヒットをしたこともある。今作のリ・ハオリン監督曰く、新海誠の作品の1シーンがケータイやスマホの待ち受け画像として人気があって、それを巧みに宣伝に利用したという話だ。
これは新海誠の魅力を、日本が知らない間に中国に広まっていたということもできるよね。
アメリカや中国、その他のクリエイターとの交流を図ることで新しい表現などを模索して行き、その結果が豊かな作品ができる。
そして日本側も他国に監督や作品をアピールして行き、もっと大きな興行収入などを得ていく。
相互交流による質、資本両方の面でのメリットはとても大きいと思うんだよ。その足がかりとして、この企画にはとても高い関心を寄せています」
感想
では、ここからが作品の感想ですが、まずはTwitterの短評からスタートです!
#詩季織々
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2018年8月4日
見ている最中は色々考えたけれど見終わった後は満足感もある
新海誠らしさを模倣しすぎな印象もあるけれど好きか嫌いかの二択なら好き
なんだかんだ言っても3作目が一番好きかなぁ
中国アニメがこの先どうなるのか期待したい pic.twitter.com/w42NwuPppp
なんだかんだ言ってもいい作品だったのかな?
カエル「独立した短編作品3つなので評価は難しいところもありますが、見終わった後の満足感は結構高めだったね」
主「特にこの作品は新海誠に影響を受けた作家たちが作るということもあって、他とは違う独特な部分もある。
これはこの企画に対しては少し無茶苦茶な文句かもしれないけれど、もっと個人個人の作家性を強く出して欲しかった、という思いがあるかなぁ」
カエル「……どうしても新海誠らしさを感じてしまうところはあるよねぇ」
主「もちろん、そういう企画なのはわかる。だけれど、模倣は確かに進歩のために重要だけれど、コピーはあくまでもコピーでしかなくて、オリジナル超えることはない。新海誠だって村上春樹や岩井俊二の影響を大きく受けているということは公表しているし、その要素は台詞回しや映像、物語の作り方からガンガン伝わる。
それをあくまでも新海誠はコピーではなく、ある種のオリジナルな部分まで磨き上げたからこその、いまの評価がある。
その意味では、本作は少し新海誠のコピー感が強すぎる作品もあったように感じたかな」
生活感のある物語
監督は今作のコンセプトに『衣食住行』という中国のことわざをあげています
日本で言えば衣食住みたいなものかな
カエル「本作は1作目の『陽だまりの朝食』が食、
2作目の『小さなファッションショー』が衣
3作目の『上海恋』が住に相当する物語であり
その全てをまとめるエピソードが行の物語です」
主「今作で特徴的なことはいくつもあるけれど、その中の1つが『日常的なお話』だということだ。
日本のアニメはどうしても爆発や兵器、ロボットや美少女が多く出てくるような作品に人気が出やすいし、実際アニメの強みもそういう作品だとされている。それはアメリカも同じで、ピクサーやディズニーもバトルや楽曲とのコントラストで楽しく見せる、大雑把に分類するとアクションやファンタジーに該当するような作品を多く発表している。
一方で、この作品のような日常的なお芝居は、アニメは苦手とされてきた」
カエル「それこそ新海誠の登場や、京アニをはじめとした各社が日常的な物語を多く製作しているけれど、それも近年になって目立つ流れなのかな」
主「これはネタバレじゃないと思うけれど、今作は爆発もロボットも出てきません。
美少女は出てけれど、日本人の語る萌えというよりも、より自然な魅力に満ちた少女像になっている。
これは冒険だよね。
短編とは言え、アニメでは難しいとされてきている人間の演技に注目し、衣食住に注目しながらも、描くのは『人生』と『生活』という、とても曖昧で大切ものだ。
そこに挑戦したことも評価したいし、それぞれの魅力は見えてきたのかなぁ」
以下ネタバレあり
全体について
では、ここからはネタバレありで感想です
まずは全体を通して語りたいことがある!
カエル「はあ……」
主「今作を見てよくわかったけれど、やはり新海誠の脚本能力というか、セリフを作り出す能力は非常に高い。
叙情的で見ている人に伝わる感情的な会話がうまく生み出せている。
もちろん、これは相性もあるから、逆に新海節が苦手という人もいるかもしれないけれど……
その叙情的で直接的に訴えかけるからこそ、モノローグは有効である。
その意味では、今作はやはりモノローグが少し作品全体の味わいを損ねるような印象もあった」
カエル「ここはモノローグという手段の難しさも出てきてしまったのかなぁ。決して悪いというわけではないんだけれどね」
主「モノローグは間の使い方やセリフのチョイスがとても難しいんだよ。
例えば『秒速5センチメートル』の3話での貴樹の独白がある。エレベーターや都会の寒々しい日常の中を、ポツリポツリとモノローグで話す。この間とセリフのチョイス、映像との融合などで感情を深く揺さぶり、最後のあの曲でトラウマを呼ぶ。
それに比べてしまうと、どうしても本作はモノローグが多かったり、間がない作品も見受けられたという印象がある」
カエル「う~ん、いきなり苦言かなぁ」
主「ただ、生活を描くという試みは成功しているし、自分も作家性の強い短編作品ではなくて、ほかの映画と同じような商業作品という枠組みで話をしている。
今年トップクラスの興奮が……とは言わないものの、みるべき価値のある作品だったし、新海誠ファンからすると、こんな作品を観たい! と思っていたものでもあるので、それは満足です」
各話について詳細な感想
圧倒的な食の作画!
(C)「詩季織々」フィルムパートナーズ
『陽だまりの朝食』
まずは1話目の陽だまりの朝食についてです
良いところと悪いところがハッキリ出た作品でもある
カエル「衣食住だったら、うちは一番注目するのは食なんだよね。
pその趣味の問題もあるのかもしれないけれど、実は1番好きな作品はこれかも……」
主「この作品で出てくるご飯はどれもすごく良いです!
近年はグルメアニメも増えているけれど、料理の作画ってかなり難しいと聞いているけれど、本作はとても美味しそうで、観終わった後に中華を食べたくなった!」
カエル「これはどの作品もそうだけれど、風景描写などもよかったし、出だしとしてすごくよかったんじゃないの?」
主「ただし欠点があるといえば、物語が若干バラバラなことか。
今作は主に主人公の少年が幼い頃から食べてきたビーフンを通して、成長と田舎と都会、時間の流れを感じることを表現しているんだけれど、中盤で違う家族の物語が入る。
もちろん、その意味だってちゃんとあるんだけれど、そのせいで物語が少年のものではなくなってしまった印象がある」
カエル「好きだった女の子のお話も、さすがに過ぎ去った一瞬の淡い思い出とは言え、描写が少なすぎたかもね。あれだったらビーフン屋のおばさんの方が、ヒロイン感あるかも……」
主「そこは少しもったいないかなぁ、と感じた。
あとは先にも述べたように、新海誠感が強すぎてどうしても比べてしまい、違和感が生じてしまった部分もあるかな。
でも物足りない部分はあっても、好きな作品です」
『小さなファッションショー』
姉妹の物語
(C)「詩季織々」フィルムパートナーズ
続いては2話の小さなファッションショーです!
ある意味では1番評価するし、1番評価しない作品かも
カエル「……またそんなわけのわからないことを」
主「少なくとも、この3作の中で新海誠から抜け出してオリジナリティを発揮しようと模索していたのは、間違いなく本作だから。
キャラクターデザインの変更や、姉妹の物語にすることによって、それまで新海誠が表現してこなかったことを表現しようという心意気は感じた」
カエル「……あれ? 確かに新海誠の過去作では姉妹の物語ってないかも。もちろん『君の名は。』や『秒速』のように姉妹の描写がある作品はあるけれど、あくまでもメインはそっちじゃないもんなぁ」
主「1話目と3話目が新海っぽさが非常に強かったから、この作品が出てきたときにはちょっと安心した、まである。せっかくの短編集だから、全く違う物語だって観たいじゃない?
ただ、物語として面白かったか? と問われるとちょっと微妙な評価になる。
説明が多かったり、物語が唐突だったりしかなぁ。
例えば、途中でお姉ちゃんが無理をしすぎるシーンがあるけれど、そのシーンを『無理をしないでね』というセリフだったり、急に体調を崩すシーンなどを描いている。でも、その少し前では元気にお酒を飲んだり、食事を摂っているんだよね。
もちろん時系列で言えば時間も進んでいるけれど、そこが違和感が働いてしまった。
脚本自体には言いたいことはあるかな」
カエル「う~ん、女性2人のお話として悪くなかったとも思うけれどね」
主「それと肝心のファッションショーの衣装が『素晴らしい!』と激賞できなかった。
この作品最大の見せ場だから、もっと良いデザインのものだったら……見ただけで圧倒されるような作品だったら、高評価だったかも。
でも音楽が天門を意識しているような印象もあったし、この3作の中で最も作家性が出ていたのかな?
なんだかんだ言っても、ラストシーンはとても良かったし、ちょっと感動しました」
『上海恋』
新海ファンが最も待ち望んだ作品では?
(C)「詩季織々」フィルムパートナーズ
では最後を飾る3話です
一番完成度が高い作品だよね
カエル「お! これは高評価!?」
主「ただし、新海誠感が1番強いのも本作。
みんなが見たかった秒速がこの作品なんじゃないか? という思いもある。
今作では住が大事なアイテムになっているけれど、その雰囲気作りも良かったものの、スタートの家族の喧嘩のやり取りのシーンなどは、大成建設のCMを思い出す部分もあった。他にも秒速オマージュのシーンも特別多かった。
歩道橋が大事な意味を持つシーンがあるけれど、その辺りは完全に秒速だったね」
カエル「でも完成度は高いんでしょ?」
主「ただ、監督のオリジナリティがどこまで発揮されたのか? という問題もある。
とてもいい作品だし、後半の展開はちょっとウルっとした。
さらに言えば、この作品の最大の見どころである、ある思いが時を超えて伝わるシーンなどは『ほしのこえ』のようで、この3作品の中でも最高のシーンだと断言する。
だけど、それはあくまでも新海誠の影響下にあるものだからさ。中国の町並みや、物語の構成などは結構面白いものがあったけれど、でも監督の売りが見えてこなかったのが残念かな」
カエル「クオリティは高いのにケチをつけるってのも変な話だね」
主「変な話だけれど、例えば新海監督が、あるいは、リ監督がこの企画など関係なくこの作品を秒速前に公開していたら、いまほど話題になっていたのだろうか?
この3作すべてに言えるけれど、物語が見やすくて素直な分、引っかかりはそこまで多くない印象があった。
新海作品は独特の恋愛観などが賛否を生むけれど、それが大きな個性になっている。この企画の今後の課題は、製作する監督やスタッフの個性をどのように発揮していくのか? ということになるんじゃないかな?」
まとめ
では、この記事のまとめです
- とても意義がある大事な企画!
- ただし新海誠に対するオマージュが強すぎる?
- 欠点があれども、全体的な満足度は高い!
いろいろ言ったけれど、いい企画です
主「もともとこの30分弱という時間の枠組みの中で、日常的な物語をオリジナルで表現する機会もそんなに多くないと思うし、この先があるかはわからないけれど、スタートしてはいい出だしだったんじゃないかな?」
カエル「この手の企画はもっとやってほしいよね」
主「日本では『ポスト宮崎駿』のように、宮さんの後を追うようなアニメはたくさんある。だけれど、日本のアニメはもっと色々な魅力があるからさ。
自分が見たいのは『ポスト今敏』であり、今敏に影響を受けたクリエイターの短編作品かな」
カエル「いっぱいいいクリエイターはいるから、若手の模倣と勉強も兼ねてどこかでやってほしい企画だね。
これからの中国のアニメ業界の発展も大いにありそうだし、その流れにも注目していきたいな」
主「中国アニメは見る機会は少ないけれど、クオリティも高い作品が次々登場していると聞くしな。日本が抜かれる日もあと数年どころか、もっと早いという話もある。
だからこそ、より交流を深めて世界のアニメーション界のレベルを高めてもらいたいという願いを込めつつ、この記事を終えます!」