注目を集めるスタジオポノックの新作が公開です!
短編集じゃから、結構楽しみじゃな
カエルくん(以下カエル)
「『メアリと魔女の花』は結果的に成功と言える興行収入を収めたけれど、ここからが大事なわけだしね」
亀爺(以下亀)
「短編アニメ映画は基本的にヒットはしづらいからの。どこまで計算しておるのかは知らんが、上映回数も決して多くない」
カエル「じゃあ、そのポノックの最新作がどうだったのか、感想記事を始めるとします!」
感想の前に
まずは、最初に語っておきたいことがあります
これは別の記事でも語ったことの繰り返しになるがの
カエル「本作のような短編のアニメ映画が注目を集めるのは、とても嬉しいという話だね」
亀「今の日本アニメ界はどうしても長編ばかりに注目が集まってしまう。それはどの業界、どの表現分野でも同じかもしれんが、若干悲しいものがある。
本来短編アニメと長編アニメというのは両輪であると、わしは考える。
つまり、芸術的だったり、進歩的な表現で新しい手法を模索する短編と、それをまとめて興行やエンタメ性を確保する長編。
この2つがあって、アニメ業界はさらに豊かなものになると信じておる」
カエル「例えば『ほしのこえ』『秒速5センチメートル』『言の葉の庭』と短編で美しい映像技術や物語を模索しつつ、『君の名は。』などの長編でエンタメ性やそれまで積み上げたものを見事に昇華した新海誠はその象徴かな。
あとは『フミコの告白』などの自主制作で頭角を現し、長編アニメ映画の『ペンギンハイウェイ』で多くの人に知られる存在となった石田監督などもそうかな」
亀「この両者などが特に顕著じゃが、スタジオジブリもジブリ美術館で短編などを製作しておる。短編アニメは作家性などを発揮しやすいこともあり、絶好の腕試しの機会だとわしは思う。
日本のアニメ界の発展のためにも、このような短編アニメ作品がもっと注目を集めることを望み、だからこそ本作には興行面での成功を他の映画以上に願っておる」
感想
それでは、いつものようにTwitterの短評です
まあ、予想の範疇は超えなかったかの
カエル「う〜ん……短編作品だし、元々ジブリにいたスタッフたちや、ジブリを多く意識しているスタジオポノックの面々ということを知っていたら、まあこんなものかな、と考えてしまうかもねぇ」
亀「まず間違いなく言えるのは作画や演出面のレベルが高い。
ただし、短編アニメは長編に比べると冒険心に富んだ意欲作が多いために、ハードルそのものが上がってしまう。
もちろん本作も決して悪い作品ではないし、言葉はあれじゃが『技術を見せつける作品たち』という意味ではとても成功しておる。
しかし、その技術を超えた、万人に届く推しポイントを創造できているのか? と問うと、残念ながらそれはできていないと言わざるを得ない」
カエル「……こりゃまた厳しい意見で」
亀「特に全体を通してちぐはぐな印象はどうしても拭えん。
劇場にいたのは時間もあるじゃろうが大人たちばかりであった。そこで流れるスタートの、明らかに子供向けの『ポノック〜♪』という音楽が流れる様子はかなりシュールじゃったな。
そして作品のテイストも3作それぞれが違うのは褒めるポイントじゃろうが、対象年齢を絞り切れていない印象を抱いてしまった。
そのちぐはぐさがわしはとても気になってしまったかの」
カニーニとカニーノ
まずは米林監督の作品からです
最もやらかした作品のようにも感じた
カエル「一番子供向けを意識している作品だよね。川の映像であったり、冒頭のトンボのキャラクターは本当に素晴らしいけれど……なんか、それ以上の印象に残らないというか」
亀「う〜む……なぜあれほど魅力的な作画や演出がありながら、ここまでワクワクしないのか?
会話がない作風などは『レッドタートル』を思い出したかの。あの作品も作画面などは確かに特徴があったが、会話がないままに物語が進行してしまい、エンタメ性などに劣る評価になってしまったの」
カエル「確かに素晴らしい映像が続くのに、何でこんなに微妙な物語なんだろう?
なんていうか、子供むきすぎるのかな?」
亀「それもあるじゃろうな。
会話がなく、絵の力だけで表現するという志は本当に素晴らしい。
しかし、その心意気がどこ向けなのかわからなくってしまった印象もある。
この演出を行うのであれば、もっと大人向けにするべきではないかの? 物語はわかりやすく子供向けなのに、会話のない演出などは大人向きというアベコベなことをしているように感じてしまったのが残念なポイントじゃな」
サムライエッグ
高畑勲イズム全開の作品だね!
最もわかりやすく、アニメらしくない作品じゃの
カエル「卵アレルギーを抱える子供とお母さんの親子愛と病気の克服までを描いているけれど、とてもわかりやすい話でよかったんじゃないかな?」
亀「アニメとして特別なことは一切起こらない。この脚本のまますぐに実写でも撮影できるし、むしろアニメで表現するのには勇気のある物語と言えるかもしれん。
それを晩年の高畑勲作品を思わせる水彩画のような手法で描きつつ、しかも動きも非常に細かいというのが面白いポイントじゃな」
カエル「最も盛り上がるシーンでは『かぐや姫の物語』を思わせて……大変なことが起きているという躍動感も伝わってくる作品だったね」
亀「一つ苦言を呈するのであれば、このテーマ自体が確かにとてもいいのじゃが『カニーニとカニーノ』と同じように子供目線というか、道徳的すぎるように感じてしまったとこるかの。
もちろん、卵アレルギーを抱える少年を描いている以上、迂闊な描写はできん。それは重々承知しておる。
しかし、ここまで道徳的すぎると、それはそれでわしなどは退屈してしまう。宮崎駿作品も、高畑勲作品も少しは賛否が分かれそうな持論を物語に組み込んだり、あるいは性癖とも受け取れるような趣味を取り入れておる。
そのような、ある種の雑味と言っては失礼じゃが、綺麗すぎない物語の方がわしはよかったと思うがの」
カエル「何というか、子供向けを意識しすぎて子供をバカにしているというか、よくある児童書などを超えない印象なのかなぁ」
透明人間
そして最後に透明人間です!
3作品の中ではもっとも好きな話じゃな
カエル「なんというか、大人向けに振り切っているよね。逆にこの作品を見に来た子供達はどう思うんだろう? と疑問に思う部分もあるけれど、哀愁が漂う作画も見所の1つだね」
亀「本作が素晴らしいのは”透明なのに人間がいると伺える作画”じゃな。
輪郭などの明確に人間を示すような描写はなく、予告にもあるように眼鏡をかける、ネクタイを締めるなどの基本的な動作ではあるが、人間の体などがないのにもかかわらず人間がいると思わせる作画じゃな。
いやいや、これはものすごく大変だったということがとても伝わってくるような作品じゃった」
カエル「これこそ短編向きだよね。
透明人間というのは、キャラクターデザインという物語で重要な、観客の心を奪う要素を全て放棄しているわけだし、もちろん作画自体も大変だし……」
亀「汗などの体液や、ちょっとした葉っぱなどが体に付着する様子、また空を飛び始めた時の衣服や物の様子からそこ人間がいると確実に思わせる技術を見せつけるには最高の作品じゃったの。
これを90分を超えるような長編でやれと言われたら、目を丸くするじゃろうが……それはこの3作品も全て同じか。
短編だからこそできる魅力に溢れた作品だったと言えるのではないかの?」
全体を通して
じゃあ、全体を通して一言
ポノックがとてもつもない技術を要しているのはよく伝わってきた
カエル「確かにこんなアニメを作れる会社ってそうそうないかも……なんだかんだ言ってもジブリの後継者となろうとしているように感じられる米林監督や西村プロデューサーの意地が垣間見えたね」
亀「ただし、3作品ともにやはり作画技術を見せつける作品になっており、わしは物語として面白いとは、あまり言えなかった。
『サムライエッグ』は関西弁の会話なども多く入っておったが、他の2作はあまり会話がなく、説明も少ない。
もちろん、それはそれでいい。絵や動きで全てを見せてやろうという意気込みを感じさせてくれる。
ただし、エンタメ作品として、そして子供向けの作品として考えた場合はどうなのか? という問題があるように感じられたの」
カエル「これもよくある話だけれど、アニメーター出身の方は当然自分の描きたい絵があるから、それを優先する。その結果、物語自体が辻褄合わせのようになってしまい、カタルシスが生まれなくなる、という現象だね。
実写のアクション映画だけれど、最近ではアクションシーンを先に撮ってから物語を繋いでいったという『ミッションインポッシブル フォールアウト』みたいな作品」
亀「それを見せつけたいというのは、まっとうな感覚であり、短編の意義に合っておる。
ただし、こうやってまとめた時に、どのように映るかというバランスには欠けておったし、最初に述べたように子供向けの牧歌的な曲を流しながらも、このテイストでいいのか? という疑問もあったかの」
カエル「技術は本当に素晴らしいんだけれどね」
亀「悪くはない、予想の範疇の映画だった、というところかの」
まとめ
この記事のまとめです!
- 子供向けのようでありながらも、子供には難しい描写も……
- 短編映画らしく挑戦的ですばらしい作画や演出が!
- 物語性をいかに持たせるかが今後の課題?
この先もあれば観たい……とどれだけ思わせられるかが勝負じゃな
カエル「う〜ん……正直、興行的にも厳しいだろうな、と思っちゃう出来だったからねぇ」
亀「約1時間を切るほどの短さも魅力じゃが、果たしてこれがどれだけ受け入れられるのかわからんからの。
できればポノックにはこの先も頑張ってほしいが、第1弾としては少し思うところがある作品になってしまった。
しかし後進の育成などにも向いた企画なので、今後も注目していこうと思うぞ!」