カエルくん(以下カエル)
「では! 今回はいつもと趣向を変えまして、美術館に行ってきたのでその感想をあげていきます!」
ブログ主(以下主)
「……まるでどこかの美術ブロガーみたいだなぁ」
カエル「でも見に行く題材がやはりうちのブログらしい内容です!
『新海誠展』に行ってきました!」
主「……ついに国立の美術館でアニメ監督の展覧会が行われるようになったのかと思うと、クールジャパンもとんでもないところまで来たなぁ、という思いがあるよ。
でも国立新美術館以外でも、例えば『EVAと刀剣』みたいな展覧会であったり、アニメ監督の展示などもあるんだけれどね。
国立の美術館で単独のアニメ監督の展覧会は初らしいけれど」
カエル「以前にも国立新美術館に来たことがあるけれど、その時はゲームの展示だったり、漫画やアニメの歴史についてまとめた展示だったから、実はちょこちょこオタク系の展示の実績もある場所なんだよね」
主「たくさんの名アニメ監督がたくさんいて、もちろんもっと大御所のアニメ監督もたくさんいる。
その中でも新海誠を選んだというのは、それだけ意味が深いことなんだよ。
その辺りも含めて注目していきたいね」
カエル「では記事の始まりです!」
国立新美術館と新海誠
カエル「というわけで、まずは国立新美術館に到着したけれど……意外と人はそこまで混んでないね。もっとごった返しているかと思ったけれど……」
主「時間が夕方だというのもあるのかもしれないな。自分は美術館の相場がよくわからんからあれだけれど……」
カエル「でもさ、安藤忠雄展もやっていることもあるだろうけれど、意外とそこまでオタクって感じの人は少ない印象だなぁ。
外国人さんもいるし、普通のカップルや年配の方もいるし……
1番汚らしいのは主かもねぇ。六本木の街に、この寒空の中サンダルで歩き回る人ってそこまでいないし……」
主「あんまり気にしないで行こうか」
カエル「まず、国立新美術館と新海誠というと、やはり『君の名は。』でも注目を集めたあのカフェだよ!
やっぱり写真を撮っている人が何人もいるね!」
主「ただ単に美術館に来ただけなのに、こうやって聖地巡礼になるのは面白いよなぁ。
どれどれ、自分も1枚撮っておこうかな」
入場、特別OPへ
カエル「さて、いよいよ入場だよ! いったい何があるのかなぁ?
あ、いきなり暗幕がある!
中では今回のために制作された特別OPが公開されているね!」
主「今回新海誠の過去作を全て網羅した展示となっていて、『君の名は。』以外も見たことがある人だとかなりグっとくるような構成になっているな。
特に初期から追いかけている自分としては、これだけで涙が出てきそうになってくるよ……」
カエル「内容に関してはネタバレしないので是非鑑賞してください!」
ほしのこえ
カエル「ではいよいよ展示スタート! まずは『ほしのこえ』からだけれど……
絵コンテや当時の制作風景などが貼ってある!
しかも公開された下北沢のトリウッドの様子などの写真もあって……いや、すごく綺麗だね。昨年行ったけれど、これ、昔の写真なのかなぁ? こんなに綺麗な映画館ではなかったような……」
主「トリウッドは日本でも珍しい47席しか座席数がない小規模の映画館で、新海誠を1番は役に見出したとされる映画館でもある。
そしてそういった伝統は今でも続いていて、今でもアニメ作品のみならず、多くのインディーズ映画を上映している映画館で……この映画館に行けば、必ず他の場所では公開されていない作品を見ることができる場所でもある」
カエル「昨年も自主制作作品アニメを見に行ったし、これから先の公開予定の作品を見ても、見たことも聞いたこともないような作品がたくさん上映予定に並んでいる映画館だ」
主「このような小規模映画の、尖った映画館から新海誠の成長は始まる。
世間では『君の名は。』がなぜここまで流行ったのか? ということを話題にしているけれど、実は新海誠が異例の話題作を生み出したのはそれが初めてじゃない。
むしろ自主制作、個人制作の作品がトリウッドで上映されて、ここまで話題になったこと……このことの方が奇跡なんじゃないか? という思いもある」
新海誠の衝撃
カエル「ガンダムなどで知られる富野由悠季との対談であったり、黒田洋介や藤島康介などが受けた衝撃について話している記事があるけれど、当時のアニメ業界に与えた影響は計り知れなかったんだね……」
主「まず個人でアニメが作れることが驚愕だったし、それからそれがCGの技術を見せつけるのではなく、キャラクターの心情を叙情的に描いたこと……つまり『物語』を描いたことが衝撃だった。
今見るとちょっとショボく感じることもあるかもしれない。この前『日本の短編アニメたち! おすすめしたい傑作短編アニメを紹介していくよ!』という記事を書いたけれど、現代のネット上に転がっている短編アニメの方がクオリティもはるかに高い。当たり前だよね、20年近く前の作品だからさ。
だけれど、ここまでの叙情性をアニメにのせることができる人は中々いなかったし、新海誠作品に通じる根幹が全て出ている作品になっている」
カエル「個人でアニメを作ることができる時代、かぁ……」
主「エヴァに似ている作品だけれどさ、これも納得なんだよ。なぜならば、エヴァってテレビシリーズは明らかに制作時間が足りていない、だけれど、その足りない制作時間でどのように魅せるのか? それを苦心した結果、あのような25、26話になった。
文字演出なども絵を描く必要がないんだから、楽じゃない?
個人で制作する以上はある程度枚数は制限されてしまう。
その中で考えられたのが、モノローグ中心の会話だったりという工夫であり、そしてそんな制限があっても『物語』を提示してしまった。
それが新海誠の功績だね」
雲の向こう、約束の場所
カエル「次は『雲の向こう、約束の場所』だけれど、あの新海作品の代名詞とも言える背景の作り方なども途中経過を含めて展示されているね」
主「勘違いをしていけないのは、新海誠は決して1流のアニメーターであるわけではない。
むしろアニメーションを制作するアニメーターの腕としては、そこまで高くないよ」
カエル「……またそんなに文句の出てきそうなことを」
主「別に絵がうまいアニメーターがみんな監督になるわけじゃない。もちろん、宮崎駿のような天才アニメーターが監督になるケースだっていくらでもある。だけれど、新海誠の特殊性というのは『アニメ業界出身ではないアニメ監督』というところにある。
だからアニメ制作に関してはど素人だったわけ。
ど素人が、あそこまでの作品を制作してしまったこと……だからこそ『ほしのこえ』は傑作だと賞賛された。
だけれど、これは新海誠自身が語っているけれど……そして当たり前の作品だけれど、新海誠1人で作ったとされる作品は『ほしのこえ』だけなんだよ」
スタッフとともに……
カエル「そのあとは当然のように色々なスタッフが入り、そして背景スタッフには丹治匠や渡部承などのような美術チームを結成することによって、作品が完成していくんだ……」
主「アニメ制作としては当然の流れだよね。1人で長編作品を制作することは相当難しいし、粗が生まれてしまう。
ほら、ここで初めて見慣れた原画で出てくる。ほしのこえとはまた違う変化だよ。
監督は絵コンテなどの作品の根幹になる部分をがっちり握って、自分の味を出すことに専念してもらい、全体の制作のチェックするのが役割であって、絵を描いたり美術を描いたりするのはその専門家にやってもらえばいいんだからさ」
カエル「この作品も新海監督らしさが出ている一方で、1作の作品としてはそこまで評価が高いわけではなかったよね?」
主「う〜ん……やっぱり新海誠の物語を作ることへの稚拙さというのが出てしまった作品だろう。
もちろん、持ち味は出ているし、少人数作品としては驚愕の内容でもある。でもやはり2作の短編をつなげた作品であって、ストーリーとしてはケチをつける。
長編って難しいんだよね。構成力なども問われるし、新海誠にとって初の挑戦となる上で、しかも全くの経験がない中でこれだけの作品を作ったといえば驚愕なのかもしれないけれど……でもやっぱり稚拙さはある」
カエル「味はしっかりとある作品なんだけれどね」
秒速5センチメートル
カエル「さて、ついに秒速のパートだよ!
新海誠の名前が日本中のオタクたちに広まり、そしてみんなを大号泣の渦へと招き入れた秒速の世界だよ!」
主「……(うるうる)」
カエル「え!? もう泣いているの!?」
主「いやー……ここはダメだわ……すごく涙腺を刺激してくる……」
カエル「大好きな1作だもんねぇ。
まず目につくのは、ロケハンの写真と実際の映画のシーンの比較した展示だけれど、そっくりに作り上げているね! また元々の写真の構図がいいんだなぁ……」
主「ここで注目をしてほしいのが、ロケハン通りにトレースしているだけではないということ。
例えば、駅の写真があるけれど、ロケハンの時にはない電光掲示板が映画の中では足されている。もしかしたら製作中に設置されたなどの事情があるのかもしれないけれど、それ以上にこの作品で最も重要な意味を持つ『時間』を強く意識させるように改変されているのがわかる」
カエル「いつになったら明里に会いにいけるんだろう? というドキドキ感がある作品だからこそ、時間を気にするようになっているんだね」
主「そしてここで導入されたのがphoto shopである。
色の塗り方などについてこだわりを持たせるために、多層的に色を重ねていくけれど、それがいかに細かいものなのか、というのが制作過程とともに明かされているね」
カエル「気が遠くなる作業の上に、しかもなんであの適当なようにベタッとした塗りから最終的に綺麗な桜模様になるのか、全く理解できないよ……絵かきの人たちのセンスだよね……
以前に背景を描くところをテレビなどで見たことがあるけれど、色の塗り方とか全く理解できなかったよ」
主「それから展示されている原画に対する監督の指示なども読むと色々と面白いことが見えてくるよ。
今回の展示で絵コンテやビデオコンテなどの、あまり見る機会の少ない制作過程をじっくりと眺められるから、アニメがどのように出来上がっていくのか、という意味でも注目の展示になっているね」
作品としての秒速
カエル「ではちょっとだけ作品論に入ろうか」
主「秒速5センチメートルにて、新海誠はその作家性を最大限に発揮することに成功した。
やはりアニメって『ファンタジー』か『SF』の作品が喜ばれる分野だし、最もその力を発揮することができるものになっている。
魔法の表現とかSFの飛行機や爆発の作画などだね。だけれど、新海誠はそこを1回やめて、難易度の高い日常的な作品を生み出していこうとするわけだ」
カエル「そしてそれが特有の叙情性などとぴったりとハマったんだね」
主「この作品の最大の素晴らしさは背景にあるということは、誰にでも納得してもらえると思う。緻密にロケハンし、田舎と都会の両者を出すことによって圧倒的にリアリティと叙情性を獲得した。
だから貴樹と明里に感情移入してしまう人が多かったし、その心情を理解するようになっていく。
彼らを『アニメーションのキャラクター』ではなくて『現実に暮らす自分たち』と思うようにできている。
それが届く人にはとんでもなく響いてしまうし、その心の奥に閉じ込めていた感情や記憶が思い起こされてしまうんだ」
カエル「だから多くの人が『鬱映画』って言っちゃうんだね……まるで貴樹のような心情になってしまうという……」
主「これは監督の意図を伝えるという意味では成功なのか失敗なのかは難しいけれど……物語の中の貴樹はまるで吹っ切れたような笑顔で終わる。だけれど、それを観客はその思いに踏ん切りをつけられていない……という言い方はあれだけれど、過去の体験などを呼び起こされてしまって、最後に昇華することなく終わってしまう。
カタルシスを与えてくれないんだよ。
そして天門の音楽が鳴り響いて、まるで自分は置いてけぼりにされてしまったように思う……だからこそ、伝説的な名作に仕上がっているけれど、多くの人の心に爪痕を残すような作品に仕上がっているわけだね」
星を追う子ども
カエル「さて、次は新海作品の中でも最も語りづらい作品でもある『星を追う子ども』だけれど……」
主「今までのデジタルを用いた作品の雰囲気とはちょっと違うよね。
例えば絵コンテ1つ見ても、書き込みが増えているように思わない? 画力が上がっているとかさ、小物1つ1つまで丁寧に描写している。それから展示されている資料を見ても、小物の設定などもしっかりとしているよね」
カエル「『伝統的なアニメを作る』という意気込みがあると書いてあるけれど……」
主「それまでデジタルの申し子であった新海作品だけれど、そこを追求するのではなくて、あくまでもアニメとしてどうすれば魅力的になるのだろうか? ということに注目をしているわけだね。
それまではあまり見られなかった……というと語弊があるけれど、デジタルな印象もあったイメージボードも手書きになっている」
カエル「おお! これだけでも芸術品だよね!」
主「自分なんかはオタクだからさ、下手な展示会にあるような芸術品よりも、こちらの草原の風景などのイメージボードのほうが感動したりするけれど……まあ、それは置いておくとして!
ファンタジーを作るというのは、その世界観を作るということなんだよね。
それまでの新海作品というのは現実の日本を舞台にした作品が多かった。
『雲の向こう』も政治情勢は全然違うけれど、北海道という意味ではやはり日本なんだよ。
だけれど、この作品はファンタジー作品ということでその世界を1から創造しなければいけない。これが……相当なハードルの高さだったことは間違いない」
カエル「特に宮崎駿の影響などもあるからねぇ。日本では『ファンタジーアニメ映画=ジブリ』みたいなことを思う人ってたくさんいるし」
主「宮さんがアニメーターとして天才なのは、その世界観に最大の説得力があるところなんだよ。誰も見たことがない世界、生き物、魔法……そのようなものが本当に知っているように見えてくる。アニメーションの快感原理を知り尽くしている。
だから作品としては、物語としては粗があっても全く気にならない。その粗すらもカバーしてしまうくらいの説得力……それが宮崎ファンタジーだ。
そしてそのレベルには達していない……というか、多分この先も誰も達することができないよ」
作品としての星を追う子ども
カエル「以前に語った時も厳しい論調にはなったよね」
主「だけれど、自分はこの作品は『偉大なる失敗作』だと思っているんだ。
それまでの新海作品というのは連作短編であって、1作の長編ではなかった。比較的上映時間の長い作品ですらも、時系列がある瞬間に一気に飛んでいってしまう。だけれど、この作品はシームレスに流れている。
自分は今でも……『君の名は。』があれだけのヒットをした後でも、新海誠は本質的には短編向きの作家だと思っているし、あの叙情的で詩的な世界観を最大限に生かすには短編の方がいいと思う。
それは新海作品の代表作を見てもわかるじゃない?」
カエル「『君の名は。』を除くと、それまでの新海誠の代表作とされるのは『ほしのこえ』『秒速5センチメートル』『言の葉の庭』と短編ばかりだね」
主「そんな人が一気に長編を、しかも世界観を作りこまなければいけないファンタジーに手を出してしまった……そりゃ失敗するよ。
でも、この失敗は偉大なる失敗である。
なぜならば、明らかにできないことに挑戦していったから。
本作がなければ『君の名は。』は生まれなかったし、それまでの殻を破ることはできなかったことは間違いない。
だからこそ、自分はこの作品を制作した意図は高く評価します」
その他の作品たち
カエル「さてお次は……新海誠が手がけてきたCMなどの短編作品であったり、小説などを紹介するコーナーだね」
主「今回は語られないけれど『彼女と彼女の猫』は実は自分が1番好きな作品なんだよね」
カエル「新海監督の初期の作品だね」
主「5分くらいなんだけれどさ、猫が可愛らしいのと、女性の生活感がよく出ている。それに新海監督がアフレコをしているけれど、その朴訥とした声がまたいい味を出しているのよ。
是非とも鑑賞してほしい1作だね」
カエル「それから、テレビCMなどもあるけれど、重要なのが『Z会 クロスロード』だね」
主「この作品は直接的に『君の名は。』のプレ作品となっているのでファン必見だし……正直、これを長編で見たかったという思いもまだ捨てきれないんだよねぇ」
カエル「……贅沢な話だね」
言の葉の庭
カエル「では、言の葉の庭のパートに入っていくけれど……」
主「ここまでくるとかなり完成度は高くて、特に語ることもないよなぁ……」
カエル「なんだかんだ言っても専門的なことは知らないからねぇ」
主「ここで強く印象に残るのはやはり『雨』の描き方だよ。本作は雨が第3の主人公と語れるくらい、雨が強く印象に残っている。その描き方も単純に同じように降らせるのではなくて、強弱なども含めて様々な描き方をしている。
そこを注目してほしいね」
カエル「そして分かっているなぁ、と思うのが、足の描写だよね」
主「今作で最大の見所であるのが靴をの採寸を図るために足のサイズを測るシーンでさ、あそこはフェチズムあふれるシーンに仕上がっている。すごく美しいんだよ。
女性的な細い足のフォルム、年上の美しいお姉さんに初めて触れる童貞高校生のちょっとした仕草、親指の先に触れる時の官能的な原画……これらを見てほしい。
エロティシズムであったり、官能的な描写というのがどういうものなのか『萌え』に頼らない女性の美の描き方などが、はっきりと絵になっているからね」
作品としての言の葉の庭
カエル「ちょっと展示の内容自体は薄くなってしまったけれど、言の葉の庭という作品について語っていこうか」
主「新海誠の成長が感じられる作品だよね。
今作で最も重要視しているのが、物語を大きく展開させてきたこと。
それまでは時系列を飛ばして別の物語にしてしまうという方式を取っていたけれど、そこをシームレスに、しかもたった一瞬で大きく変化するように描いている」
カエル「これは展示内容を見て気がついたけれど、ここも『すれ違い』なんだよね。新海作品によるすれ違いってとても大きな意味を持っているけれど、そこに物語的な意味を付け加えていて……」
主「あの独特の詩的表現というものを全く失うことなく、現代女性の描き方も……男性から見た女性像かもしれないけれど、中々クオリティが高い。
新海作品が進化しているという証拠だよね」
君の名は。
カエル「そしてみんな大好き『君の名は。』だよ!
さすがに人も1番多いね!」
主「もうここは語ることが多いので、抜粋して語っていくことにします。
キャラクターの身長などを等身大にしたパネルなどもあって、背比べしている人もやっぱり多いな」
カエル「テッシーて結構身長高いんだねぇ……」
主「ここで注目していきたいのは、やはり神楽舞のシーン。この刺激的なヌルヌルとしたアニメがどう作られているのか、というのが紹介されているけれど……やはりロトスコープなんだな」
カエル「ディズニーなどでも使われている手法で、役者などが実際に演じた動画を元に絵を描く、という手法だよね。
それをなぞるように書くけれど、実際にアニメとして魅力的な絵にするためにはどのように魅せるのか、どの線を選択して、どの線を捨てるのかというのが重要になってくるわけで、アニメーターの個性も出てくるという話だね」
主「ここは原画だけでなくて、動画も含まれているからその流れを見ることができるけれど……この動かし方がまた面白い。
アニメの基本として動きを等間隔にするとメリハリのない、ロボットのような動きになってしまう。だから早い動きの時は動画を少なめに、遅い動きの時は多めにしてメリハリをつけているけれど、どのように動きを選択したのか、というのが見えてくるようになっている」
カエル「原画集だったら見る機会はあるけれど、動画までになるとその機会もほとんどないから、結構貴重な機会だよ。特にロトスコープだと、ほとんど見る機会がないんじゃないかな?
これも展示ならではだよね」
男性らしさ、女性らしさ
カエル「本作は男女が入れ替わるということで、その動きなども注目してほしいけれど、作画監督の安藤雅司が手がけた資料があるね」
主「男性キャラクターが女性的な動きをすること、またその逆をすることというのは、下手をすると気持ち悪さにもつながってしまう。だけれど、そこが本作のキモなわけで、気持ち悪くなくて快感があり、そして性差を感じるためにどのようにするのか、ということが示されている」
カエル「例えば瀧くんの中に三葉が入った時は、足が内股になって走るときに手がちょっと伸びているだよね。
一方で三葉の中に瀧くんが入った時はアスリートのようにしっかりと足を上げて、手を曲げて走っている。
こういう細かい体の動作1つで男性らしさ、女性らしさを表現しているんだなぁ」
主「男女の動き方の違いなども確認することができるし、同じキャラクターで比べると分かりやすいところもあるから、一般人の我々が見るには貴重な機会だな」
カエル「それから光のレイアウトのつけ方とか……もう見どころが本当にたくさんあって!」
主「これは是非とも実際の展示で感動を再び体感してほしいね」
EDムービー
カエル「さて、そろそろ終わりかなぁ……あれ? まだ何か暗幕があるの?」
主「今回のために作られたという特別なムービーがあるという話だけれど……ちょっと見てみようか」
鑑賞後
カエル「いやー、ファンにとってはたまらない映像だったね!
それまでの新海作品を全て余すところなく2分くらいの映像にまとめられていて……って、あれ? 主?」
主「……グスッ」
カエル「……え? 嘘、泣いているの!?」
主「いや、だってさ……『君の名は。』がこれだけ大ヒットしてさ、国立美術館で展覧会になるほどの人にまで成長して……
それまではサイン会などにも行けたんだよ。交流する場が全くなかったわけじゃない。だけれど、これだけ現代を代表する作家になってしまうと、それはもう難しわけで……倍率もとんでもないことになるだろうし。
やっぱりさ、遠くに行ってしまった気分っていうのはどうしてもあったんだよねぇ」
カエル「もう時代を代表するクリエイターの1人だからね……」
主「でもさ、あの映像を見て……特に締めを見て、もう感涙ですよ!
多くの『君の名は。』から入った人にはなんてことのないムービーなのかもしれない。
だけれど、ずっと新海誠を追いかけてきて、それこそ『彼女と彼女の猫』も含めて愛していた人間にだけ届くメッセージ……それが詰まっているんだよ!
この新海誠という人間のフィルモグラフィーを締めくくるラストのムービーで選択した、そのラストであれを選択したこと……その事実だけでもう感激でしょう!
あの新海誠はやっぱりいたんだよ!
遠くになんて行っていないんだよ!」
カエル「……すごく熱く語りたくなる出来だったんだね」
新海誠の展覧会の意味
カエル「では、一通り見終わった後でのまとめだけれど……」
主「まず、新海誠の展覧会が開かれたことに大きな意味があるということは伝えておきたい。
自分は以前にアニメ史100年を代表する重要なアニメを10作品選んでいるけれど、その中に『君の名は。』も入っているんだ」
カエル「でもさ、なんで100年の中で『君の名は。』を入れたの?」
主「これからのアニメ界の運動を象徴するのが、新海誠なんだよ。
まずはデジタルの申し子だということ。デジタルによって注目を集めてきた監督であり、パソコンでアニメを制作するということを実践してきた監督でもある。
そして伝統的なアニメスタジオに入ることなく、独自の動きでアニメを制作してきたという経歴だ。
アニメ制作を行う上ではどうしてもどこかのスタジオに入り、例えば動画、原画、作画監督、演出などとランクアップしていって監督になる。普通ならば……まあ余程の大抜擢がないと40前後で初監督とかになってくるのかな?」
カエル「各スタジオの事情やその人の資質などもあるけれど、下積みなどは長いよね。誰でもかれでも監督になれるわけじゃないし……」
主「だけれど、新海誠はそのような経緯を一切踏んでこなかった。だからこそ苦労した部分もあるけれど、アニメ界の中で特異な立ち位置にいた監督でもある。
自分は何回でも言うけれど、日本にはプロアマ問わず素晴らしいクリエイターがたくさんいる。だけれど、彼らがその実力をフルに発揮できていますか? と言われると、そこまで思えない現状がある。
日本アニメ界は似たような記号的表現であったり、萌えに特化した作品ばかりになっていて、ガラパゴス化しているように見える時もある。もちろん、その中にも名作や歴史的な作品もある。
新海誠も伝統的なアニメ制作であれば、おそらく世に出てこなかったであろうクリエイターなんだよ」
カエル「少なくとも今の歳でこれだけの成功を収めることは難しかったのは間違いないね」
主「だけれど、ネットやデジタルを駆使して一気に注目を浴びてここまで活躍している。新海誠の次を走る人がいないという問題はあるけれど、この動き自体にもっと注目を集めてもいいのではないか?』
『2回』の奇跡を起こした新海誠
カエル「2回? 1回は君の名は。だとして、もう1回は?」
主「それこそ『ほしのこえ』だよ。現代のネット社会でもこれだけ話題になる個人制作アニメはないし、あったとしてもその先で順調にアニメを作り、徐々にメジャーになっていく人はほとんどいない。
まず『ほしのこえ』がここまで高く評価されたこと、それが1回目の奇跡なんだ」
カエル「……それは新海誠だからなの?」
主 「そうかもしれない。この後が続かないことを見ても、もしかしたら偶然の産物だったのかもしれない。
だけれどさ、この現象を『奇跡』にしない方法って色々あると思うんだよ。それこそ動画投稿サイトにアップしたり、クラウドファンディングを活用したりさ。
これは特異な現象かもしれないけれど……でも特異な現象という言葉で終わらせてはいけない。この後に続いて欲しい。
新しいアニメーション、新しい表現が生まれる土壌が日本にはある。ただそれが注目を集めないだけだ。
個人制作がアニメの歴史を変えるということが夢物語ではないことを証明した人……それこそが新海誠である。
だからこそ意義があるし、重要な立ち位置にいる監督でもあるし、そんな人物の展覧会が行われたのは大事なことだね」
最後に
カエル「最後のムービーを見た後でもちょっとしたお楽しみもあるので要注目ですよ」
主「それから、ブックレットというのかな? 新海誠展の本が売っているけれど、これは是非とも買ったほうがいいです!
それまでの新海作品の原画なども載っていて、重要なクリエイターや氷川竜介などのアニメ研究科の評論なども載っていて、もちろん新海監督のインタビューも掲載して立ったの2500円!」
カエル「この値段だけ見ると『高いなぁ』と思う人も多いかもしれないけれど、正直破格です。これだけ詰まっていたら、5000円を超えていても全くおかしくないので……」
主「設定資料集とかってカラーになってしまうし、数もそこまで出ないことがあるからどうしても1部あたりの単価が高くなってしまうんだよね。
この展覧会の内容が簡単に網羅されているし、しかもちゃんとポイントは押さえていて……必見の資料集になります!
いや、本当にお買い得なんで、むしろ展覧会に入らないでこの本だけ買ってもいいくらいです!」
カエル「……そんな人いるの?」
主「いないだろうけれど、それくらいの本なので、ぜひファンの方はお買い忘れないよに!」
カエル「……なんかマージンもらっているくらいに押しているね」
主「そんなわけないだろう!
でも新海ファンとして、アニメオタクとして満足度の高い展示だったのでぜひ興味ある方は美術館へ!!」
今週のお題「芸術の秋」