今回は新海誠監督の『天気の子』について語っていきましょう
……君の名は。の次だし、色々と難しい作品になりそうだな
カエルくん(以下カエル)
「色々あってまだ切り替えることができていないのが実情だというのは先に語って起きます」
主
「1割ぐらいはTOHOのせいだけれどね!
去年の『未来のミライ』もそうだったけれど、EVAの情報を予告で流すのは反則だからな! そっちに気を取られてしまう部分だってあるんだからよ!」
カエル「思わず『え、まじで!』って声が出てしまったもんね。
でもラストで告知をしても余韻ぶち壊しだし、しょうがないんじゃない?」
主「嬉しいよ!?
嬉しいけれど、しかも6月かよ! あと1年弱もかかるのかよ!
待つよ、絶対待つよ、ちくしょう!」
カエル「なんで怒っているのかもわからないし、EVAの話が中心になってしまっているので、さっさと感想記事を始めましょう!」
作品紹介・あらすじ
歴史的な興行収入を記録し、大きな話題を呼んだ『君の名は。』の新海誠監督の最新作。今作では監督・原作・脚本・編集などを担当している。
プロデューサーには川村元気、キャラクターデザインは田中将賀、音楽のRAD WINPSなど『君の名は。』に引き続いて参加するほか、作画監督にはスタジオジブリで活躍した田村篤が務める。
キャストには醍醐虎汰朗と森七海が主演を務めるほか、小栗旬、本田翼、平泉成、倍賞千恵子などのドラマや映画で活躍する面々のほか梶裕貴、佐倉綾音などの人気声優も出演する。
離島から家出し東京にやってきた高校生の森嶋帆高(CV醍醐虎汰朗)はいくあてもなく東京を彷徨っていた。そんなある日、食事と時間つぶしのために入ったマクドナルドにて天野陽菜(CV森七海)と出会うものの、その場ではすぐに別れる。その後帆高が手に入れたのは偶然知り合った須賀圭介(CV小栗旬)と夏美( CV本田翼)の元でのオカルトライターの仕事だった。”100パーセントの晴れ女”と呼ばれる少女を探している最中に陽菜と再会するのだった……
感想
では、Twitterの短評からスタートです
#天気の子
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2019年7月19日
そうだよなぁ…君の名は。の次だもんな、苦しかったよなぁ
新海誠が背負った作家性との戦いは開き直りとも受け取れるけれどでもこれはこれで正解でしょう
本当に真面目でいい人だなぁ
映像面は文句なし、2019年屈指の傑作
あとは色々なお遊びも感じられて楽しめた初見でした pic.twitter.com/rhOzd7eQVv
苦しい思いがすごく伝わってきたけれど、紛れもない傑作だね
カエル「その苦しい思いってなんなの?」
主「やっぱりあの『君の名は。』の次だからさ、色々と難しい部分があったと思う。色々好き勝手語られて……まぁ、それは自分も絶賛方面とはいえ同じことをしたんだけれど、中には人格否定みたいなことまで言われてさ。悔しかったと思うよ。
それに対してアンサーを繰り出してきたけれど、その答えがすごく苦しい。
でも、間違いなく正解」
カエル「えっと……それって爽快感がないとか鬱エンドとかそういうこと?」
主「いや、そっちではないよ。
どちらかといえば……表現者として背負ってしまった”作家としての業”の問題。
最近も語ったけれど、立川談志の言葉を少しアレンジさせて貰えば、表現とは人間の業の肯定だと思うんだよ。
そして今作は新海誠という作家が背負ってしまった業や作家性を全面的に肯定した。
それと同時に『君の名は。』という作品がもたらしてしまったある種の呪いは否定した。
だから理詰めで考える自分としては物語の作り方としてはかなり問題がある。
でも、感情で考える自分としてはこの作品を全面的に肯定したい……
そんな難しさがある作品だな。
あとは……EDクレジットロールの最後まで見て欲しいです。
これは何かがある訳ではないですが……たぶん、今はその意味合いが大きく変わると思います」
もう少し客観的な視点の評価
えっとさ……もうちょっと客観的な評価では?
映像面は間違いなく2019年屈指の作品だよ
カエル「2019年はアニメ映画大豊作で多くのクオリティの高い作品が生まれていますが、今作も当然負けていません。この映画を1番に評価する人も当然いるだろうな、と思うレベルで素晴らしい作品だったね」
主「それこそ、何を評価するのか? という柚だけの違いになるんじゃないかな。
自分は2019年No1に推したい気持ちもあるけれど、他にも素晴らしい作品が続いたからなぁ」
カエル「今回は『君の名は。』でも発揮されていた誰もが認める映像表現の美しさや、光の描写も健在なのはもちろん、人間の体の動きなども滑らかで非常に驚かされます」
主「個人的に印象に残ったのはやっぱり水の表現。
新海監督は特に雨の描写にこだわっていて、それが売りのようなところがあるけれど、今回は”カメラのレンズ”を意識した表現なども用いられていた。つまり、水滴がカメラのレンズについて、明らかに”カメラが存在しますよ”という表現になっているんだ。
これって過去の新海作品にはなかった……はず。少なくとも自分は覚えていない」
カエル「この辺りも新しい挑戦と言えるのかもしれません。
あとは無形の存在である水を自由自在に扱うことによって、様々な形にしていたりするのも良かったね。
色々な生物に見えたりしてさ」
主「予告にもある雲と空の表現もそうだし、何よりもRADが作った歌が合わさった時の快感は見事という他にない。この辺りは新海誠の真骨頂であり、もしかしたら今回もPVだと言われるかもしれないけれど、それが物語に大きな快楽性を生み出しており、見事な味になっている。
自分も鳥肌が止まらないシーンもあったし……今作は何回か見に行くかもしれないな」
声優について
色々語られそうですが、声優についてはどうだった?
……正直、とりたてて語ることはないんだよ
カエル「え? それって下手だったこと?」
主「いや、逆。
ほとんど違和感がなかった。
今作のようなアニメを多くやる声優とテレビなどで活躍する俳優が声優をやると、違和感がとても大きいことが多い。一部では公開前から誰々が下手だ、とか言われていたようだけれど、今作はその違和感がほとんどない。
言うなれば小栗旬とか平泉成は、いつもの演技そのまんまで顔も思い出すんだけれど、それは自分の場合人気声優だったら同じだから……しかも役ときちんとあっていて、実写化したらそのままできるように考えられているかのようなキャストなんだよね。
それは『君の名は。』でもそうだったけれど、もともと新海誠の作品がアニメを専用とする声優を多く使う作品ばかりでないってのもあるかもね」
カエル「それだけうまくコントロールされていたってことなんだろうね。
醍醐くんなんて他の新海作品……特に『秒速5センチメートル』などの語り口に似ていたんじゃないかな?」
主「元々監督の台詞回しなどがポエム調だからねぇ。
かなり参考にしたと思うし、それは監督の意図としてもあったのではないかな?
キャスト全員は”命を吹き込む”作業の1つ、声を当てる仕事を見事に果たしたし、決して堕とされるべきものではなかったよ」
以下ネタバレあり
作品考察
他作品の影響
では、ここからはネタバレありになります
自分が気になったのは”他作品”の影響なんだ
カエル「えっと……2016年の『君の名は。』の時は新海監督の過去作品の影響が非常に大きくて、句読点(。)はそれまでの自身の作品の集大成としての意味があると本人も語っていたよね。
今作もそういうことがあるの?」
主「いや、それはそれで否定しない。
特に今作は明確に『君の名は。』のアンサーでもあるんだけれど……それ以上に思うのが、ここ数年の夏アニメの影響を強く受けている。
新海監督って模倣の監督でもあって、いいと思った表現はそのまま取り入れることに躊躇がない。ジブリ的な表現を入れたりしたこともあるしね」
カエル「具体的にはどういうところ?」
主「確実に1つ言えるのは今作で登場する弟の凪は『聲の形』の結絃を強く意識しているだろうね。
多分、新海監督が大好きなキャラクターだろうし、京アニ作品が好きだとなんどもTwitterなどで公言している。
なにせ立ち位置から性格から話し方から何まで、本当にそっくり。
違うのは性別くらいじゃないかなぁ……」
カエル「あくまでも憶測ですよ〜
理想的な少年(姉を支えるショタ系の子供像)の典型ということもできるだろうし……」
主「あとは『未来のミライ』『ペンギンハイウェイ』もあるだろうね。未来のミライは子供の描写と動きだから、それはアニメーターの工夫と言えるかもしれないけれど。でもマンションで子供がじっと雨の空を見るシーンとかはくんちゃんみたいだったように見えた。
ペンギンの場合は草原のような草むらで須賀の娘と遊ぶシーンがペンギンを強く連想した。須賀の娘さんが青いワンピースを着ているけれど、あれって『ペンギンハイウェイ』に出てくるカワモトさんという女の子の衣装にそっくりに見えるんだよね。
いろいろな衣装パターンがあるけれどさ。
もちろん、これは自分の勝手な思い込みもあるけれど、多くの近年公開された傑作作品の表現を模倣しながら、自分の表現として模索しているのではないかな?
これはパクリなどではなく、表現として純粋な戦い方だと思うよ」
”苦しい戦い”の理由
さっきから語っている”苦しい戦い”って一体なんなの?
……やっぱりさ、新海誠の作家性って色々と難しい部分があるんですよ
カエル「君の名は。ではその作家性を犠牲にしたとも言われているしね」
主「そんなわけないじゃん、あれは作家性の塊だって。
ただマイルドになっただけでさ、それを作家性の犠牲とは言わないと思うけれどね。
『君の名は。』は売れすぎて、呪いのようになってしまった。自分は一度短編に戻るべきだ、と語ったけれど、そうは大人の事情が許さないのかもね。
アニメ映画界がどことなく”君の名は。っぽいものを”というリクエストもあるのでは? と憶測もある中で、その流れに1番唾を吐いたのが当の本人である新海誠であったというわけ」
カエル「この映画って結構問題行為をたくさんしているんだよね。だけれど、それについてはほとんどお咎めなしというか……いや、最終的にはちゃんと罰を受けるんだけれど、物語としては許容している部分があるというか……」
主「そもそも物語ってそんなお利口さんのためのものだけではないから、これはこれで良いんだよ。
禁煙はさせてタバコ描写を控えさせながら、もっと危ういことをしているのは最高のポイント。誰に対しても喧嘩を売っている。
でもそれは闇雲に喧嘩を売るのではなく、エンターテイメントとして見事に消化している。
それは音楽や映像の力を使って、観客を楽しませながら”お前らが見たがった『君の名は。』っぽいものは見せねぇよ”という覚悟に満ちている。
それと同時に新海作品の中では比較的語られずらい作品……自分も失敗作と語りがちな過去の長編作品である『雲の向こう、約束の場所』や星を追う子供』のリベンジをしており、さらにそれにかなり力づくながらも成功している。
だから今作は……『君の名は。』が新海作品の表の集大成だとしたら、今作は裏の集大成と言えるかもしれない」
セカイ系作家として
結構セカイ系作家として語られることも多い監督だよね
いうほどセカイ系ばかりをしているわけでもないとは思うけれどなぁ
カエル「今作の誰もが印象に残る須賀の世界に対する発言などは、明らかにセカイ系作家としての自信を肯定しているよね」
主「いや、まじで力技だよ。
世界の滅亡と2人の恋愛のどちらを選ぶか? というのが一般的なセカイ系の定義として語られているけれど、それに対してあのような結論を下すというのはかなり痛烈。
でもだからこそ面白い。
いや、そりゃ戸惑うよ? だって『君の名は。』があれほど美しく世界を救ったのに対して、今作はその真逆を行くような作品になっているんだから」
カエル「でもそれがいいと?」
主「いいというか、それ以外ないんだよ。
前回と同じことをやるというのが1番だめで……自分は今作はスターウォーズのEP5だと思っている。というのは、ルークたちの勝利を描いたEP4に対して、5は帝国軍の勝利を描いたじゃない。それは正解なんだよ、何故ならば勝利、勝利、勝利! と描いていくと単なるインフレになって物語としてメリハリがなくなる。
だから一度逆転させるわけだけれど、新海作品の場合は王道の次に……監督の抱える負の、というか失敗したとも言われる作品の業を全てつぎ込んできた。
だからみんなに喧嘩を売っているというのはそういう話になる」
カエル「ふむふむ……」
主「正直、自分は『君の名は。』のヒットで新海監督はかなり厳しい戦いを強いられることになると思ったよ。あれ以上のヒットは難しいから。
でも、今作を見て安心した。
自分の立ち位置やどのように振舞うべきか戦略がきちんとあることがわかった。
だからこそ、この次がどうなるかだよ。
『君の名は。』『天気の子』という表と裏のベストを作った後、さあ次はどうなるか?
本物のベストになるのか、それともまた外すのか……それについても期待したいね」
ひと休憩します
えー、時間の都合上ここで一度記事を終わらせていただきます
もう少し語りたいことがあるので、それはまた後ほど追記する予定です……
カエル「時間の都合上申し訳ありません」
主「多分追記するよ! まあ、そう言いながらしなかった記事もあるにはあるんだけれど……今作の場合はこれからどれだけ語りたいことと語り口を見つけられるか、勝負することになるのかな」