カエルくん(以下カエル)
「新海誠を語ろうシリーズ、これがとりあえずこのブログでは最後の作品だよね」
ブログ主(以下主)
「すでに言の葉の庭は語り終えているから、これで全作品になるな……しかしまあ、語りづらい作品だよなぁ」
カエル「新海作品の中でも、中々特殊な作品だよね……まだそこまで数はないにしろ、SFの2作品が続いて、リアル指向な作品で一気にブレイクした後にこれだから、かなりの戸惑いがあるのは当然といえば当然だし……」
主「う〜ん……それもそうだけどさ、まさかここで一気に作風を変えてくるとは誰も思ってなかったよね……その上、この次ではまた作風を戻してきているしさ……」
カエル「そうだよね、ちょっと何をしたかったのかわからないかなぁ……じゃあ、感想を始めようか」
1 ジブリっぽい作風
カエル「まずは何と言っても、この『ジブリ』っぽさだけど、それについて考えていこうか」
主「まず、いきなりぶっちゃけるとさ、このジブリっぽさっていう観客の評価が個人的に嫌いなんだよね。何というか、『アニメにおけるファンタジー』がジブリっぽいっていう感じになっているような気がしてさ。
宮崎駿の作品ってジャンル分けするとファンタジーとされる作品が多いけれど、ラピュタにしろナウシカにしろ、全てオリジナリティに溢れているわけでもない。例えば、石がモチーフになっている作品であったり、巨神兵みたいな巨大なロボットが守る空中都市というのは童話における定石ではあるんだよ。宮崎以前においてもたくさん散見される。
ナウシカにしても森の世界観とかを統一して生み出したのは宮崎駿の素晴らしさだし、才能だけど、一つ一つの元はモチーフとして過去にも存在しているわけ」
カエル「そりゃそうだよね。全てにおいてオリジナルの発想というわけにはいかないし」
主「アニメにおいて有利なジャンルは『ファンタジー』と『SF』だと思うわけよ。でも、宮崎駿がファンタジーであらゆることをやり尽くして、しかも高レベルなものを作ってしまったから、もうファンタジーはやることがあまりなくなってしまった。
だから、その後に続くファンタジー調のアニメ作品って中々生まれないし、出てきても『宮崎駿のパクリ』という烙印を押されてしまうことが多い。『サカサマのパテマ』もそういった批判を聞くよね」
カエル「まあね。細田守も初期の『時をかける少女』などはSFだし、その後の作品も大別すればファンタジーだけど、現代の作品だからね。宮崎駿作品で明らかな現代劇だとトトロくらいかな?」
主「そのトトロすらノスタルジックな過去の日本だから。今時あんな田舎はどこにあるの? っていう感じだし。だから、いかにもファンタジーらしいファンタジーは、作ることが難しくなってしまったってわけ。
それだけ宮崎駿が偉大だという話でもあるんだけど、個人的には呪いだと思っている」
新海誠が目指したもの
主「結局さ、この作品が語りづらいのって、それまでの新海誠らしさがない上に、その多くが既視感を覚えるものだからなんだよね。オリジナリティが感じられないというか」
カエル「まあ、ジブリっぽいってみんな言うくらいだからね」
主「やってることは王道のファンタジーだけど、それにしても宮崎駿の影響を受けすぎじゃないって思うほどにね。いつもは宮崎駿っぽいって意見に『宮崎駿っぽいって、それはファンタジーだから仕方ないだろう!!』と言い返すんだけど、今作はそれもできない。擁護できないくらい宮崎駿なんだよ」
カエル「で、結局面白いの? 面白くないの?」
主「すごく答えに困るんだよなぁ……なんだろう、改めて見返してみると、明らかに悪い点というのは、実はあまりないんだよ。ここが致命的っていうほどのものはない。
だけど、ここが素晴らしいって点もないの。なんか特徴のない作品になっている。さっきも言った通り、オリジナリティが感じられない作品になっているね。
だからさ、Yahooレビューも3くらいなんだけど、それもわかるのよ。とりたてて面白いと思わないし、とりたててつまらないわけでもないし、じゃあ3にしようっかなって感じ。そうね……言うなれば、ゲド戦記が少しマシになったレベルっていうのかな?
まあ、個人的にはゲド戦記は嫌いじゃないんだけど」
カエル「ゲド戦記の話はいいよ」
主「でもさ、やっぱりつまらなくなった要因は同じだと思う。ゲド戦記って宮崎駿の息子の宮崎吾朗が監督をするっということになって、しかもジブリで監督することになって、みんなが求めていたジブリ像、宮崎駿を踏襲させられたわけじゃない? その結果、結局模倣の模倣になってオリジナリティが無い、何がやりたいのかよくわからなくなってしまった。
で、今作も同じ。宮崎駿からの模倣を続けるうちに、オリジナリティが失われていき、劣化コピーとなって、面白みがなくなってしまった。
これは表現者として失敗だよね。こんなことを言われるくらいなら、クソミソに叩かれるくらいの個性があったほうがまだ良かったと思う。秒速は賛と否がはっきりと分かれるけれど、それだけ『届く』作品になったんだよ。でも、星を追う子どもは逆で、誰からも非難されない代わりに、賛成もされない作品になっちゃった」
2 新海誠の『オリジナリティ』
カエル「さっきからオリジナリティって言葉があるけれど、新海誠のオリジナリティってどこにあるのさ?」
主「……はっきりというと、SFやファンタジーにおいてオリジナリティはない人だと思う。多分、元々そっちの分野に向いているタイプじゃないというか」
カエル「……ズバッと言うね」
主「例えば『ほしのこえ』の時も語ったけれど、あの作品はマクロスとか、エヴァの影響をはっきりと受けているシーンがあるんだよね。模倣する場面がさ。それはそれでいいんだけど、じゃああの作品の良さはどこにあるかというと、個人的には地上のやりとりだったり、ふたりの関係性にあると思う。
そういう現実に則した描写は唯一無二のものな気がするんだよ。もちろん、村上春樹とかの影響はあるにしろさ、アニメではあまり見られなかった部分だよ。
あとは『雲のむこう、約束の場所』はやっぱり『最終兵器彼女』や『王立宇宙軍 オネアミスの翼』の影響にあると思う。だけど、ここも良かった部分は背景描写だったり、心理描写だったりさ、そういった現実的な部分だと思う。
だから、多分SFとかファンタジーという世界観に対して、あまり強い思い入れはないんじゃないかな?」
カエル「同じ模倣であっても庵野秀明がエヴァやトップやゴジラを作るくらいまで行けば大したもんだけどね」
主「あれはまた異常だけどね。
だからこの作品においてはっきりしたのは、あまり極端な異世界描写をするよりも、現実描写をしたほうが向いているということじゃない?」
3 この作品で成長したもの
カエル「じゃあ、この作品の意味ってなかった?」
主「トンデモナイ!! むしろ、個人的にはこの作品もまた、新海誠の1つのキーポイントになっただろう」
カエル「へぇ……どんな点がそうなったの?」
主「これまでの新海作品って、ある程度以上の長編になると『短編のつなぎ合わせ』になっていたんだよね。例えばさ、『猫』と『ほしのこえ』は短編だから当然としても、『雲の向こう』にしろ『秒速』にしろ、あれは1本の映画になっていないんだよ。
なぜなら、急に場面や時代が転換して、全く違うお話になってしまうから。だからこの2作は長編映画というよりも、連作短編といったほうがいいと思っている。その意味では、今回初めて長編映画で1本の映画として完結しているんだよね。これは素晴らしいことだよ」
カエル「へぇ……」
主「確かに、抑揚がなかったり、主人公に明確な理由や成長が見えなかったりと課題点は多いけれど、一気にぶつ切りにすることなく描き切ることができた。これにおいてしっかりと成長することができたと思う。
さらには次作の『言の葉の庭』の話をするけれども、この作品において新海誠は『展開』させることを身につけた。つまり、たった一瞬で二人の関係性が変わるという、物語における面白みを身につけたんだよ。
だから、この後半2作において、雰囲気だけではなく、物語性の成長も一気に見られたことになる。この武器を手に入れたことは非常に大きいね」
カエル「確かにね」
主「あと、もう一点あるとしたら、やっぱり新しいCGなどの表現のみならず、昔ながらの作品作りができるようになったところじゃないか?
言の葉の庭と同時上映をしていた、『だれかのまなざし』だったり、みんなのうたで放送された『笑顔』だったりに生きている。
そしてこれが、個人的に『君の名は』が傑作だと確信している一番の理由なんだけど、それがZ会のCM『クロスロード』があるからなんだよね」
カエル「この作品の何がすごいの?」
主「たった120秒でまとめるというのは短編向きだったからできると思うけれど、きっちりとしたドラマがあり、日常描写のノスタルジックな雰囲気もあり、都会の寂しさもあるんだよ。それまで獲得した色々なものが積み込まれているんだけど、さらに女の子がコミカルに描かれているでしょ?
今まではそういうコミカルな描写は新海誠は描くことができなかったんだけど、このCMにおいてそれができるようになっているんだよね。それはさ、おそらくこの作品で得たものがあったからじゃないかなって思いがある。
それまで一面的な表情描写を重ねていた新海誠が、さらに新たな表情を獲得した……そのために必要な……『回り道』というか『模倣作品』だったような気がするんだよね」
最後に
カエル「というわけで、これで主だった新海作品は全てレビューを終えたわけだけど、今のお気持ちは?」
主「とりあえず、『君の名は』はすごく楽しみにしているよ!!
これとシンゴジラはこの夏、一気に邦画界、そしてオタク界を一変させる力があると信じているから!
シンゴジラはマジで事件だったけれどね」
カエル「最近は邦画もなかなかいい作品が多いしね」
主「実写もアニメも明るいエンタメ路線ではハリウッドに遅れているかもしれないけれど、それとはまた違う、独特の存在感を見せつけるような映画が公開されているからね。
まあ、問題はそんな映画が中々流行らないことだけど(笑)
アニメオタクの意見として、細田守ばっかり注目されるアニメ映画界は面白くないんだよね。押井守や出渕さんがいたからこそ宮崎駿がより目立ったように、新海監督や吉浦監督のような若手にはすごく期待している。あとは『心が叫びたがってるんだ。』がすごく良かったから長井龍雪監督もそうだけど、まずはガンダムか。
他にも原恵一監督とか、湯浅政明監督とかいい人はたくさんいるから、日本アニメ界の実力をもっと知って欲しいよね。
その先陣を切るのが新海誠と『君の名は』だと思っている」
カエル「じゃあ、これでとりあえず新海誠特集も終了ということで、次は誰にする? 押井守でも手を出してみる?」
主「押井さんか……ファンも熱いし怖いけれど、実は今語りたいことも多い監督だから、いいかもね。まずは『スカイ・クロラ』から語ってみようかな」
カエル「お! 賛否が分かれる作品から!!」
主「そのためには日本の歴史を振り返る記事は2万文字は書かないといけないから、いつになるかわからないけれど……」
カエル「……その情熱を少しは小説に向けられたら、君、きっと今頃作家になれているんじゃないかなぁ?」
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