カエルくん(以下カエル)
「……今回は久々に新作映画はとりあえずほっぽり出して君の名は。について語るのね」
ブログ主(以下主)
「しょうがないじゃん。また見たらさ、それだけでも大きな発見がいくつもあったし、そんな発見があったら書きたくなるし。案外備忘録としても重宝しているのよ、このブログ)」
カエル「この前もあったもんね、『あれ? こんな映画見たっけ……あ、あったあった!』ってことが」
主「やっぱりこれだけ色々見て書いていると忘れるもんだよねぇ」
カエル「そうだよね。たまに見返して『へぇ、こんな意味があったんだぁ』とか自分で言っているもんね」
主「まあまあ……それはそれとしてさ、今回は『君の名は。』がこれほど大ヒットしている理由を探るとともに、さらに見返して発見したことをつらつらと書いていくよ」
1 ヒットの要因を探る
亀「では、まずはわしからスタートじゃの。
『なぜこれほどヒットしたのか?』という点についてじゃが……これに関しては色々な論評があるが、主はどう評価する?」
主「理由ね……もちろん、作品クオリティの高さとかもあるけれど、それは抜きにして語ると……まず、このヒットの要因を語っているのが結構年配の人達だと思うんだよね。メインターゲットである10代、20代の実情から語る人は少ないから、そこを意識して語りたいと思う」
亀「わしはもう老齢じゃがな」
主「……話がややこしくなるなぁ」
亀「それについては過去にもこの記事で語っておることを再び繰り返すことにもなるの」
アニメは過小評価?
亀「まずはここに辿り着くわけじゃな」
主「そう。今の若い層と年配の方との認識の大きな違いって、たぶんここなんだよね。例えば『新海誠はマイナーなアニメ監督だった』とよく言われるけれど……そしてそれは、ある意味では正解だけど、そこが過小評価されていると思うんだよね」
亀「オタクにしか知名度のない監督と言われておったの」
主「それはそうなんだけど……それが違和感の正体かもしれない。つまり、ヒットの要因分析って映画評論家とか、実写映画が好きな人が主に語るわけだけど。
日本の監督と、例えば是枝裕和や三池崇史とかと比べて、新海誠の知名度がどれだけあるのかと言われると……実はそう変わらないかもしれない」
亀「ふむ……つまりあれか。この映画のヒットの理由を探る評論家は実写映画の監督には詳しいが、アニメの監督には詳しくないから『マイナーな監督』とされてしまうというわけか」
主「さらにいうとさ、普通の人が……実写映画を見に行く、一般の観客が監督をどこまで注視するかというとそれはわからないんだよね。アニメは監督を重視する文化がある。それを考えると、実は新海誠の知名度というのは、元々ある程度は高かったかもしれない」
すっかり有名人の仲間入りを果たした新海監督
若者が熱中するものは?
亀「アニメという表現媒体のファン数に対する認識の違いもあるかもしれんの」
主「そうね。最近は若者の車離れとか、恋愛離れとか、テレビ離れとか色々叫ばれているけれど……じゃあ、その分その若者は何に集まっているのか、という疑問があるわけだ」
亀「それは趣味の多様化もあるから一概には言えんが……アニメオタクは増えておるかもしれんの」
主「その車とか恋愛とかに使っていたお金を、アニメに使う若者が増えているんだよ。そしてそれは男女の差もなくなっている。だから女性ファンも多い。おそらく、年配の評論家が思う以上に、若者にアニメが浸透している。
やっぱりさ、アニメって……どうだろう、10年ほど前くらいまでは一部のアニメブランドを除いて……ジブリを除いて、子供が見るものという意識があったわけじゃない?
でも今は、むしろ子供が観れる時間帯にアニメはやっていなくて、劇場公開されるような作品は深夜アニメから人気が出た作品が多いわけだ。
一時代前ではドラマやテレビ番組が学校の話題だったように、今ではアニメが普通に学校の話題になっている……もしくは、なっていた世代がお金を落とすようになったんじゃないか?」
亀「つまりアニメに対するハードルが格段に下がったということじゃな」
主「そう。一部の映画評論家などは『青春映画だから若者に受けた』と言っているけれど、そうじゃなくて『アニメだから若者に受けた』とする方が実は正しいのかもしれない」
亀「それは聲の形のヒットからもわかるかもしれんの。あれも上映規模を考えたら、異例のヒットをしておるが、それも『京アニ』というブランドというのが、大人やメディアが考える以上に強く、さらにアニメという媒体が好まれているという証拠かもしれん」
主「2017年で語るとそれを象徴するのが『劇場版SAO』が全世界30億円を超えるヒットだったけれど、本作を鑑賞した人は深夜アニメを愛好する人がメインでしょう。おそらく……普通の人というと語弊があるけれど、アニメを観ない層や小さい子供づれの親子などは見に行っていない。
それでも日本だけで20数億円、全世界で30億円を超えるほどの大ヒットになったわけだ」
亀「ふむ……実は家族向けキャラクターアニメ以外でもアニメの存在感はじわりじわりと増しているということじゃな」
主「『夜明け告げるルーのうた』はあまり入らなかったけれど、あの作品は逆にオタク層があまり見に行きづらい映画とも言える。印象としてはファミリー層向けぽいところがある。
で、君の名は。に関してはちょうど中間。
オタク向けでもありつつ、ファミリー向けや一般向けでもあるという奇跡的なバランス感覚の上に成り立っている。
それは作画監督がジブリを支えた安藤雅司であり、キャラクターデザインが深夜アニメを中心に評価された田中将賀という2人を起用したことにあるんじゃないかな?」
亀「いわゆる座組の良さ、の1つじゃな」
2 新海誠の知名度
亀「そしてそれだけオタクが増えたからこそ、オタクしか知らなかった新海誠の知名度も、分母が増えた分、絶対数で見ると実は高かったんじゃないか、ということも考えられるの」
主「そう。これは細田守が『時をかける少女』から少しずつ上映館数を伸ばし、テレビ局をバックにして知名度や規模を上げていったのとは別に、新海誠はずっと小規模上映でやってきたんだよね。
だから数字からの人気、知名度というのははっきりとは見えてこなかった。新作を上映しているから見に行こうとしても、大都市圏しかやっていないし、そこまで足を伸ばす気もなかったということもあると思う。
さらに、考えてみればさ……例えば『言の葉の庭』が1億5千万とか2億とかの売り上げを23館で達成したと言われているけれど、それって短編だったから映画料金が安い上に、劇場では公開日からDVD,BDが発売されていたんだよね。儲ける気がないの? っていうくらいのことでさ。
だから余計に熱心なファンは映画館に通わないからリピーターは少ないしということで、数字として現れなかった」
亀「それを考慮すると、新海誠の知名度や人気というのは相当に大きいかったのかもしれんな。それこそ、これだけ大規模に上映すればヒットするくらいには、の」
主「ここまでとは思わなかったし、250億が全てファンの影響によるものだとまでは言わないけれど、それだけの下地はあったと思う」
一般層、オタク層の両方に受けそうなビジュアルとキャラクター
SNSの存在
亀「本作でよく言われておるのは、このSNSの存在じゃの。テレビ局で宣伝に入っていない作品のメガヒットの凄さというのが指摘されておる」
主「それは『シン・ゴジラ』も『聲の形』そうだよね。驚異的なヒットとされる作品だけど、テレビ局はあまり推していない作品が並ぶわけだ。これをSNSの存在抜きに話ことはできないよね、やっぱり」
亀「つまり、それだけ熱心なファンが宣伝したということもあるの。
江川達也が語っておったが『(作品を)絶賛している人が、面白くなかったと言う人を凄くディスるんですよ。見なきゃダメだよ、とか言って』というのは極論じゃが、そのように口コミの輪ができておるのも事実じゃろうな」
主「見に行きやすいからね。デートでもいいし、ファミリーでもいいし、ひとりでもいいし、そこまで人を選ばない作品だから。わかりやすいし。
バカにも受けるとか色々言われているけれど、それだけ大衆性がある作品なの。
あと、こういうブログ書いているとわかるけれど『絶賛する人が、面白くないという人をすごくディスる』作品は確かにあるよ。シンゴジラもそれで炎上した記事もあったし。うちは大絶賛したから免れたけれど。
でも、君の名は。はまだ否定しやすいと思うけれどね」
3 大衆性と作家性の両立〜売れるデメリット〜
亀「これは、確かに色々と叫ばれておるの」
主「これだけ売れちゃうとさ、色々な人が色々言うんだよ。バイキングでも取り上げられたらしいけれど、お昼の番組にアニメ映画が取り上げられるってことが、いかに影響力を持っているかわかるよね。
さらに、売れたら逆に評価しないという人もいるしね。じゃあ、今、自分が見たらどういう評価をすると……もしかしたら絶賛しないかもしれない。『いい作品だけど、ここまで評価されるほどじゃないよなぁ』とか言ったかも。
それはさ、オタクの性というか、そういうことを言う人は絶対いるよ」
亀「それはあるかもしれんの。自主制作で作られた映画だと、少し粗があっても『頑張ったね』とか言いたくなるものじゃが、大資本だと『なんだこの粗は!』と言いたくなるのも人の性じゃからな」
主「そう売れたものに逆らいたいという人は確かにいるんだよ。特に200億クラスだとさ、それだけの感動があるってハードルを高くするから。
その典型がキャメロンでさ。『タイタニック』『アバター』と大ヒットしているけれど『世界一、二位の興行収入クラスではない』とかって言われるじゃない? 売れたというだけで自然にハードルは上がってしまうものなんだよねぇ」
圧倒的な美しさは健在
新海誠の作家性は失われたのか
亀「さて、実はこの記事で主が一番語りたい部分であるが……この作品において、新海誠の作家性というものは失われたのかの?」
主「難しい問題だよね……個人的な感想としては『失われていない』と言いたい。
だけど、失われたという意見もわかるんだよ」
亀「その心は?」
主「新海誠に何を望むかという話でもあるんだけど……『秒速5センチメートル』や『言の葉の庭』がやっぱり基準になると思うんだよね。代表作というとこの辺りだから。
ここを期待していたら、そりゃ作家性は失われたというよ。全然作風も違うしさ。
だけど、世間的には評価されないけれど……映画としてはそこまで良くないけれど『星を追う子ども』を新海誠の転換点としている人間には、この作風もまた新海誠の作家性だと思うけれどね」
亀「新海誠の何を見て、何を基準にするかというのは大切な要素じゃな」
主「そう。前にも紹介したけれど、下のCMも見て欲しい」
主「自分はこのCMを見て新海誠の変化と作家性を感じたし、この続編を見たかったからさ、君の名は。を違和感なく見れた。他にもみんなのうた『笑顔』のPVとか『だれかのまなざし』とかも見て、これもありだなぁと思っていたのね。
そういう人間には『君の名は。』は間違いなく新海誠の作家性の出た作品だよ、と言える。だけど、こういう作品を見ていない人……特に映画しか見ていない人には、当然のように作家性は違うと思うかもしれない」
亀「あとは色々な人が入ったことにより、それまでの作家性が薄められたと思うかもしれんの」
主「今までが異常だったからね。少人数で創ってきたという状況で、監督の個性とか作家性が濃い形で出ていた中で、これだけの大規模でしかも腕のあるクリエイターと組んだら、そりゃ監督の個性や作家性は薄まるよ。
それは今までと制作スタイルの違いもあるから、仕方ないところだと思うけれどね」
4 アニメにおける『物語の嘘』
カエル「さて、ここからは選手交代で僕が担当するけれど……この『物語の嘘』って何?」
主「ここ最近よく思うけれど、アニメって基本的に評価(レビューサイトの評価)が高めで安定するような気がするんだよね」
カエル「それはオタクな人達が高評価をするから?」
主「それもあるけれど……
もともと絵が動くという、ある種の『嘘』で成立している表現方法じゃない? だから、許容される『物語の嘘』の幅も広いと思う」
カエル「……物語の嘘?」
主「例えばさ、実写だと『こんなセリフ言わないよ』とか、『こんなやついないよ』とかいう、物語のためのご都合主義設定が目に付いたりする。それはリアルを売りにすればするほど、現実と……観客の常識から外れた人物の異常性が際立たされるよね? そこが違和感として残ると、一気に冷める。『ああ、これは作り話なんだなぁ』って気持ちになっちゃう。
だけどアニメはある程度キャラクターデザインなどで取り繕うこともできるし、さらに言えば、誰も本当にあったことだと思って見ているわけではないじゃない?
『ここでこんなこと言わねぇよ』『こんなやついないよ』という違和感も、アニメという表現技法がすでに……違和感というか、嘘があるから、それをすんなりと受け入れることができる。だから作劇がしやすいのかも」
君の名は。でも相当無理のある演出などは指摘されているが、それをスルーできてしまう何かがある
表現技法による『物語の嘘』
カエル「……わかるようなわからないような」
主「例えばさ、舞台演劇を思い浮かべてみてよ。あんなにハキハキと、説明台詞を喋り、大きな身振り手振りで話す人なんていないじゃない? 歌舞伎なんてリアリティを感じていない。
だけど、だからこそ『物語の嘘』が許容されるから、大きなハッタリとか嘘をつぎ込んでも気にならないんだと思う」
カエル「ふぅ〜ん。脚本とか、設定とかそういうこと?」
主「そうそう。だからさ、例えば……『時をかける少女』のアニメって結構ストーリーが辻褄合わないし、そもそもあんなタイムリープなんて起こりえないじゃない?
宮崎作品なんて整合性がある作品なてほとんどなくて、脚本という視点で見れば結構辛口になるんだけど、そこを『アニメ表現』によってカバーできる力がある。
なんで漫画やアニメを実写化するとコケるかと言えば、それが実写向きのストーリーになっていないからだよ。名作漫画やアニメをそのまま実写化すると、やっぱり『物語の嘘』の粗が目につくんじゃないかな?
例えば最近だと……うまくいった例では『ジョジョ』や『銀魂』は比較的うまくいっていると思うけれど、これは世界観の構築がまずうまいというのが大きい」
カエル「そこをカバーできたらいい作品になるのね」
主「漫画やアニメの実写化が悪いんじゃなくて、そのまま実写化するのではなく実写寄りの脚本にするか、アニメ的に撮るか、どっちかにすればいいんじゃないのかなぁと思うけれど、結局中途半端にするから駄作になる。
まあ、予算がないとかの理由もあるんだろうけれどさ、世界観の構築が甘いことも多い。
これがアニメが評価が高くなる理由じゃない?
だから、君の名は。も無理な設定や展開やキャラクター描写もあるけれど、それがアニメという表現技法に紛れて、『物語の嘘』として処理されるし、さらにエンタメ性を感じる抜群の部分でコントロールされているからだろうね」
RADの楽曲の効果は非常に大きい
RADと新海誠の相性
カエル「さて、今回追記するのはRADと新海誠の相性ということだけど……これはもう映画の評価がこれだけいいから、抜群に良いに決まっているよね」
主「結論を言うとそうなんだけどさ……元々、新海誠とRADが表現したことって、そんなに離れていないと思うんだよね」
カエル「……? アニメ映画と音楽の違いがあるのに?」
主「例えばさ、RADを知らない人に勘違いされるのがBUMPでさ、よく似てると言われるけれど……あ、一応言っておくけれど自分はRADもBUMPもライブに行くほど好きだから、どちらかを贔屓するとか堕とすつもりはないと言っておくけれど……確かに似ている部分はあるかもしれないけれど、まったく違う『世界観』を持っているんだよね」
カエル「世界観?」
主「そうそう。BUMPって今の20代……後半くらいかなぁ? から30代くらいの人にどハマりしたバンドで、その影響下にあるバンドって沢山ある。個人的には『BUMP系』って言いたいくらいなんだけど、RADとBUMPだと歌詞が全然違う。
こういうとなんだけど、自分は作曲の良し悪しとか上手い下手がよくわからなくて、歌詞に注目する人間なんだよ」
カエル「ブログもそうだけど、言葉の表現が好きな人だしね」
主「歌詞を聴くとよくわかるけれど、BUMPって……というよりも作詞作曲をしているボーカルの藤原基央は、結局自分のことを歌っているんだよね。自分のことを物語調にしたりして歌っているわけで、そこが個人の内面的部分と、物語の普遍性を音楽に載せて歌うから多くの人に届きやすい。
これを言うと誰にも理解してもらえないけれど、中島みゆきとさだまさしと BUMPは似たような存在なんだよ。個人の思いを物語調にして、音楽に載せて歌っているからね」
カエル「……これ、アップして大丈夫かな?」
主「あくまで1ファンの戯言だから。それで、肝心のRADの話だけど、こちらもほぼ作詞作曲をしている野田洋次郎の世界観はさ『僕と彼女の世界』で構成されている。
じゃあ、洋次郎が誰に向けて作曲しているの? って言われたら、それは多分、ファンじゃない。たった一人の彼女なんだよ。その思いを寓話的に語ることなどによって世界観を構築されている。
で、これって新海誠と同じじゃない?」
カエル「まあね。どの作品も恋愛作品といえば恋愛作品になるし」
主「だからさ……もちろん前前前世とかは当然映画のために作られたから完璧な曲なんだけど、『オーダーメイド』とかさ、『有心論』をこの映画でも、過去の映画でも使っても違和感はないだろうね。
例えば今作のOPも……そうだな『最大公約数』とか『ふたりごと』を使って、一番盛り上がるところで『25コ目の染色体』とか『トレモロ』でもそこまで違和感はないと思う」
カエル「いや、さすがに違和感はあるでしょ。しかも有心論だったら映画の内容が大きく変わるし」
主「それは完成版を知っているし、しかも既存の曲を基に映画を作り上げたからであって、少しアレンジするだけうまく行く気がするけれどねぇ……『星を追う子ども』なんて、オーダーメイドが主題歌だったら評価が大きく変わったんじゃない? 後味が全然違うけれど」
カエル「まあ、戯言は置いておいて、まとめるとRADと新海誠は同じようなことを表現しているから、相性が抜群にいいってことね?」
主「そうそう。表現していることは似たようなものだよ」
5 三回目の鑑賞で気がついたこと
カエル「三回目の鑑賞の感想はどうだった?」
主「まず、約1年ぶりに鑑賞したkれどさ、初回などよりも確実に感動した。意外と先がわかっていた方が、ゆっくりと感情移入できるからなのか、感動したね」
カエル「じゃあ、ここまでは座組みなどや、新海誠、アニメ界をめぐる映画界について語ってきたけれど、ここからは『なぜ君の名は。はここまで流行ったのか』ということについて、作中の描写を参考にしながら考えていくけれど……まず、大雑把に言うとどういうことなの?」
主「簡単に言うとエンターテイメントとして非常に工夫されているし、楽しめるように計算されている。
『バカでもわかる』という意見もあったけれど、言いたいことはわかるんだよ。つまり『誰が見ても面白いと思える物語を作る』ということができているわけだ。
これができる作品はなかなかない」
カエル「簡単にそれができるんだったら、新海監督ではないけれど『じゃあやってみれば?』って話になるからね……」
主「ここからは細かいところ参考にしながら考えていくよ」
OPから一気に引き込まれる
メリハリのついた構成
カエル「構成について考えていくけれど……まずは序盤だよね」
主「まずさ、改めて観てみると序盤の構成が結構大胆なんだよ。
多くの映画
日常→事件(入れ替わり)→日常(元に戻る)→ドタバタ
となりがちなんだよ。だけれど、君の名は。に関しては
君の名は。
ナレーション(未来からの回想)→OP→事件(入れ替わり)→日常→ドタバタ……
と続いていく。
ここだけでも本作のうまさははっきりと出ていると感じた」
カエル「ふむふむ……まず、いつも言うのは『OPは作品世界観に没入するために必要』ということだよね。例えば2016年のアニメ映画だと他にも『ズートピア』『聲の形』『この世界の片隅に』などもOPがある。
特に新海誠は過去作も音楽と映像の融合で一気に注目を集めてきただけに、RADの曲と合わせて非常にキャッチーなスタートを切ることに成功している」
カエル「やっぱり音の使い方とか、場面展開のうまさが引き立っているよね」
主「山の上での音楽や盛り上がりが一気に消えてしまうとかね。ここでさ、瀧が忘れてしまったという絶望感を、こちらも味わうことになるんだよね。
序盤に話を戻すと、もっと説明的になりそうな部分をあえてカットすることによって、リズム感を生み出している。これが本作がわかりづらいと言われる理由かもしれないけれど、飽きさせないように余計なシーンは極力カットしている。
序盤は伏線を張りつつ、2人の環境の違いを見せつつ、他のキャラクターも説明しつつ、しかも説明台詞もあるけれどそれが気にならない。
改めて見返してみると、こういった演出上のメリハリがしっかりとしていてさ、本当にうまいなぁって感心した」
カエル「あとRADの曲をしっかりと歌詞を聴くと、ちゃんとお話にリンクしているから、これもグッとくるよね。さすが、この作品のために書き下ろしたというだけのことはある」
三葉の可愛らしさも本作のエンタメ性の魅力の1つ
わかりやすい作画の力
カエル「……わかりやすい作画の力というと、どういうこと?」
主「これはさ、何度も語っているけれど、この映画って『バカにもわかるエンタメ性』を兼ね備えているんだよ。じゃあ、それって一体何? ということだ」
カエル「作画のよさといっても、アニメオタクでない人は全く気にしない人もいるだろうし、違いがよくわからなかったりするよね。そういうファン層を巻き込まないとあれだけのヒットはないだろうし……」
主「君の名は。ってさ、作画の良さがすごくわかりやすい。
だって、彗星がすごく綺麗でしょ?
新宿の街並みがすごく綺麗でしょ?
ああいうのは目に見てはっきりと理屈じゃなくて伝わりやすい。
そしてその工夫はキャラクターにもあるんだよ」
カエル「キャラクターに? 確かに2人とも可愛らしくて多くの人に受けそうな外見だけれど……」
主「スタートの段階ですでに入れ替わっているという、キャラクターの面白さもさることながら、まず三葉の……ちょっとしたセクシーなシーンからスタートしたでしょ? そこも直接的にキャラクターの魅力を全面に押し出している。やっぱり、あのような描写……ある種の萌え描写って、キャラクターの魅力を伝えるのに有効だからね。
だけれど、それが入れ替わりということもあって決して下品であったり、いやらしいものではない。まだ少年漫画的な、ギャグとして通用する嫌らしさに抑えられている」
カエル「揉むシーンで男女問わずに笑いが起きるからねぇ。ド下ネタなのに、すごいよねぇ」
主「もちろん日常的な描写とともにギャグもきっちりと入れていて……これは多くの人に伝わりやすいキャラクター演出をしてきたなぁ、と感心した」
彗星と新宿の街並みの美しさは誰にでも伝わりやすい作画の力
RADの音楽
カエル「やはりここは語っておかないとねぇ」
主「本作がなぜここまでヒットしたのか? というのは、間違いなくRADが音楽を担当していることもあるでしょう。
もちろん、タイアップだったら全く珍しいものではないけれど、本作はRADの野田洋次郎が作中の歌だけでなく、BGMも含めて全て制作している。
これはファンだったら初日に観に行きたいよね。ましてや、RADはアリーナを埋めるクラスであり……ドームはまだないけれど、人気は日本でもTOPクラスであることは間違いないだろう。
ちなみに自分は新海ファンであり、アニメオタクであり、RADファンなので当然初日に行きました。その前に試写会も行ってます」
カエル「RADは特にファン層が若いし、この映画にドンピシャだよね」
主「多分さ、初日の動員に関してはこのRADが音楽を製作しているというのは非常に大きかった。
そして普段アニメ映画を見ないであろう、RADのファン層が駆け付けて、そしてこの映画にグッと引き込まれたわけだ。
さっきにもあげたけれど、本作は『バカでもわかる』と言われるほどにエンタメ性に特化している。入れ替わりの面白さ、キャラクターの可愛らしさ、派手でわかりやすい作画の力……そういったエンターテイメントとして非常にすぐれている作品だからこそ、普段アニメを積極的に観ないRADのファン層の印象に強く残る。
そして口コミもあって学校などで流行って、あとはメディアが宣伝して……というサイクルになったわけだ」
カエル「宮崎駿とジブリ以降の穴にも見事にハマったしね」
主「作家性がないと批判する人もいるけれど……自分はそうではないけれど、でもそういう人もいるほどまでにエンタメとして計算し尽くされている」
上白石萌音のカバーバージョンも評価が高い
彼女の声質や演技もまたこの作品の魅力
メッセージ性
カエル「ここも複数回観て展開を知っていると、グッとくるものがあるよね」
主「まずはさ、序盤で『文字は消えても伝統は残さんといかん』という台詞があるんだけど、その行われている行事の意味などが失われて、なぜそうしているのか誰にもわからないけれど、伝統は残そうというのが、なんだか震災とかと被ってさ。
あれで色々な記録は無くなったけれど、我々の普段の生活だったり、色々な伝統は残していこうっていう言葉にも思えて、考えるものがあるよね」
カエル「あとは何と言っても『生きていて欲しかった』という台詞だよね」
主「311という規模の大きな災害を経た後だと、やっぱりこの言葉と現実をリンクして考えちゃうよね。
上記のようにエンタメ性に配慮しつつも、311映画としてもきっちりとメッセージ性を持っている。だから上記のエンタメ性に引っかからなかったとしても、こちらで強く印象に残るかもしれない。
単なるゲラゲラエンタメではなく、しっかりとしたメッセージ性も持っている。そしてそれがわかりやすいんだよ。だから……また言葉は悪いけれどさ、『バカにもわかる』ものになっている」
ラストの秒速とのつながり
主「今回不思議だったのが異様に扉の開閉のアップが多いんだよ」
カエル「そうねぇ。電車の扉の開閉とかならまだわかるけれど、家の扉の開閉とかでもたくさん描写されていたからね」
主「秒速でも印象的なシーンだったわけじゃない、電車の扉の開閉って。あそこで一歩踏み出して、山崎まさよしの歌が流れる瞬間に一気に引き込まれるというか……こうじっくりと伏線を張っていたという意味なのかな?」
カエル「ラストのポエムも秒速オマージュだったしね」
主「そうそう。『ずっと誰かを、何かを探している』というのはさ、秒速における『この数年間、とにかく前に進みたくて……』から始まる部分と全く同じように重なるんだよね。ただ、違いがあるとすれば就職しているか、就活中かということだけでさ。
何かを探し続ける貴樹と瀧は同じような存在だったんだなぁということがより強調されていてさ、そこも含めてグッときたね。
これでかつての新海ファンも虜にするわけでしょ?」
カエル「もちろん雪ちゃん先生であったり、過去の新海作品のファンでも『あ、このシーンはアレっぽい!』なんて思う人もいるわけで……」
主「どの人にも受け入れられやすい作品に仕上げてきたねぇ……」
まとめると
カエル「では君の名は。が流行った理由をここまで考察した結果をまとめると以下のようになります」
- 誰でも受け入れやすい作画の美しさ、テンポの良さなどのエンタメ性
- キャラクター描写があざとさを感じるほどに魅力的
- RADの楽曲を使うことで普段アニメ映画を観ない層も映画館に呼ぶ
- 311などを意識したわかりやすいメッセージ性
- 絵の細部や過去作とのリンクなど複数回の鑑賞で新たなる発見
- ジブリが抜けた後のアニメ映画の穴にそのままハマる
主「もちろん、細田守だったり他の監督も夏のアニメ映画を撮ってきたけれど……原恵一監督とかは、アニメファンには高い評価を受けるけれど作品の素晴らしさを映画を観ない層にアピールするのは難しいんだよね。
それは2017年で言えば湯浅政明の『夜明け告げるルーのうた』でもよくわかる。
普段映画を観ない層を引き込まないと50億はなかなか行かないし、ましてや250億なんて絶対不可能。
しかもめんどくさいのは、アニメファン層とオタク層はまた若干違うんだよ!
でもRADに楽曲を制作してもらい、それ目当てで見た人をきっちりと掴んだ。これは非常に大きい出来事だと思うよ」
カエル「あとはここまであざとすぎるくらいにエンタメ性に特化した作品もそこまでないよねぇ」
主「脚本をグラフにして感情的な波がどうなるのかを計算したと新海監督は語っているけれど、それにもすごく納得。波が激しくてジェットコースターのようなテンポとリズムになっている。
で、ここに持ち前の音楽と作画を合わせるセンスと、神作画陣の作画でしょ? これは大ヒットするわ……と言いたいけれど、やはりこれだけ当てたのは本当にすごい」
最後に
カエル「さて、この記事はリテイクも含めて2記事をまとめた記事だけれど……」
亀「相当長くなってしまったがの、君の名は。がなぜ流行したのか? ということにはある程度の答えが出たのではないかの?」
カエル「まあ、一言で表すと『エンターテイメントとして完成している!』ということになるんだろうね」
亀「3Kアニメ……『君の名は。』『聲の形』『この世界の片隅に』は3作とも素晴らしいが、その方向性が全然違うのじゃよ。
君の名は。は圧倒的なエンタメ性で豪華に演出された作品。
聲の形は繊細に、邦画のように演出された作品。
この世界の片隅には、ドキュメンタリーのような作品じゃ。
この3作品がこうやって同じ年に出てきたということは、すごくエポックメイキングなことじゃと思うがの」
カエル「ふう〜ん……
Twitterでも語ったもんね」
ちなみに昨年君の名は、シンゴジラ、聲の形、この世界の片隅に、の4作を絶賛したのは小さな自慢
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2017年8月5日
この世界の片隅に、はともかくとして、他の3作は賛否荒れやすいから全部絶賛した人は意外と少ないんじゃないかな?
映画の評価は自由だし、だからなんだと言われたら……そうだけどさ
亀「映画の評価は自由じゃがな。観る目があると自分では言わんし、馬鹿にする人もおるじゃろうが、わしはこの3作品は歴史に残ると思っておるし、後々重要な意味合いを持つ3作じゃと思うがの」
カエル「まあ、歴史に残ったのは間違いないよね。
公開初日に見た人は自慢してもいいと思うよ」
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