記念すべき1発目の記事。
再放送で一挙放送がやっていたので新年はそれで潰れてしまいました。それだけこの作品が好きなんだぁと思いつつも、いろいろと書きたいことができたので書いていきます。
「記号的な表現って綺麗でも飽きるよ! 挑戦、挑戦、新境地! アニメーションってテンプレの代名詞か?! 違うだろ!? 命を吹き込むってことだろ!!」
1 SHIROBAKOの簡単な説明
そもそも SHIROBAKOとはどういう作品なのか知らない方もいるかもしれないので、簡単に説明します。
主人公、宮森あおいは高校生の頃にアニメ部で自主制作アニメを作っていた中の一人。いつかはこの自主制作作品を、商業作品にすることを夢見て、アニメ業界に制作進行として入社する。そこで個性豊かな登場人物に囲まれて、様々なドラブルに見舞われながらも、アニメを作り上げていく過程を描く。
SHIROBAKOの魅力とは?
この作品はアニメ作りをモチーフにしているため、たくさんの人物が登場する。高校時代の同級生だけでも5人、さらに宮森と同じ部署でも2クール合計で約10人、さらに原画、音声、演出、CGなどの自社内での登場人物は名前ありだけでも30人以上出てくる。さらには部外者やキャラクターの家族なども出てくることを考えると、名前ありの登場人物だけでも50人は軽く超える。
これだけのキャラクターを出すと個性がかぶったり、また不要なキャラクターが何人も出てくるはずなのに、本作はそういう事態になっていない。それぞれに個性があり、それぞれが違った魅力を持っていて、そして最終回などで全員集合すると一人一人の名前と顔が一致するし、ほとんどのキャラクターに見せ場があり、ドラマがある。
普通のアニメ作品のみならず、ドラマを見ても、これだけの人物をわずか二クールで描き切った作品はそうはないだろう。大河ドラマや朝の連続テレビ小説などの、長期間放送されるような作品であっても、登場人物はここまで多くはない。
基本的にはこの5人の物語……と言っていいのか迷うことも……
キャラクターのモデル
ではなぜそんなことが可能だったのかいえば、私の考えでは『実在する人物がモデルだった』からだと思う。人間一人が考えるキャラクター像というのはそう多いものではなく、同姓の人間を十人ほど造形した場合でも、一人くらいは個性がかぶってしまうことはよくある。別にそれ自体は悪いことではなく、あだち充のようにスターシステムとして、似たようなキャラクターを使いまわして作品を作ることも可能である。
だが、今作のような大量のキャラクターを扱う群像劇にした場合、同じ個性のキャラクターは使うことができない。だからと言って様々な個性のキャラクターを作り出そうとしても、頭で一から作り出そうとしたら、それは相当難しいものになるだろう。
だが、今作には様々なモデルがいることはすでに多くの媒体で指摘されている通りで、例えば一番わかりやすいのは『エヴァンゲリオン』の庵野監督だろう。少し実際よりもふっくらとしたデザインではあるが、その見た目や名前を見て、アニメファンならば庵野監督だと一発で気がつく。
他にも高梨太郎は過去の『水島努(SHIROBAKOの監督)』だと公言しているし、作中の木下監督は『水島精二監督』であり、音響監督の稲波は『岩浪美和音響監督』であり、中田恵里は『田中理恵(有名声優と有名体操選手と同姓同名ということがあり、アニメファンに有名)』と明らかなモデルがいることがわかる。これはあくまで一例に過ぎず、こんな人たちがたくさん出てくる。
もちろん外部の人間にはわからないモデルなどもいるだろう。こうした生きた人間をモデルにすることによって、キャラクターが個性を得ていき、物語を展開させ続ける。だからこそこの大人数のキャラクター造形が可能だったのだろう。
モデルがある欠点
なお、このやり方の欠点があるとすれば、『人を悪く書くことができない』という点だろう。本作のトラブルメーカーは主に木下監督、高梨太郎、平岡、茶沢の四人であり、その他のキャラクターは能力が足りなかったり、チャンスがなかったりしてトラブルに巻き込まれることがあっても、自発的にトラブルの発信源になることはあまりなかった。
水島監督がモデルになった高梨、監督と同じ役職の木下監督、そして現実の世界の住人たる平岡と(平岡に関しては後述)、明らかなフィクションの人物である茶沢の四人であり、他の登場人物が悪く描かれることはあまりない。
これは悪く書くことに引け目を感じたり、モデルがある分その人に否定的なニュアンスに取られることを避けるために、最大限配慮した結果だと思われる。今作は四人がうまくトラブルを運び、また何もしなくてもトラブルがやってくる『お仕事もの』だから問題なく機能した。
「うまくいかないことを人のせいにしてるようなヤツは辞めちまえよ!」
2 リアリティの獲得
創作活動においてリアリティを獲得するというのは非常に大変なことだ。
荒唐無稽な展開だと「所詮創作物だから」と言われてしまうし、しかしリアリティを重視しすぎると面白みがなくなってしまう。事実は小説よりも奇なり、という言葉があるが、それは創作者が一番言ってはいけない敗北宣言でもあるわけで、それを言わないために日々精進を重ねて工夫を重ねていく。
SHIROBAKOにおいて、リアリティのない描写は沢山ある。その最たるものは公道でのカーテェイスであり、また夜鷹書房に乗り込むシーンであり、人形たちと宮森が会話をするシーンである。これらは誰が見ても明らかなフィクションであり、そこにリアリティはない。
そんなシーンがそれなりにあるにも関わらず、本作はリアリティのある作品に仕上がっている。その秘密の一つは先ほど挙げたキャラクターに明確なモデルがいることであり、それにより生きた人間が織りなす物語に見えるということもある。
そしてもう一つの理由が『これはアニメ制作の会社が作り上げた、アニメ制作の物語』ということだろう。
多くの人が参加するアニメ制作の現場
専門家にしかわからないという思い
日本においては今でもプロのことはプロにしかわからないという、一種の信仰がある。プロスポーツの監督は元一流選手がなるものだ。例えばここに小説家がいたとして、十代から第一線で活躍してきた小説家と、元サラリーマンの小説家が全く同じ会社小説を書いたとしても、多くの人は後者にリアリティがあると感じてしまう。
もちろんそれは経験が生きている場合もあるが、経験がないとどんな素晴らしい作品も「リアリティはないよね」と言われてしまう可能性がある。
その点において、SHIROBAKOのリアリティはスタートの段階で抜群である。
アニメ制作の会社が、アニメを作るという、アニメを制作しているというだけでそこにリアリティがあると初めから視聴者は思い込むわけだ。
実際のところはこれほどホワイトな世界ではない、これはあくまでフィクションだというが、こういう世界だと鵜呑みにしてしまう人もいるのではないだろうか。
これほどのリアリティがある作品では、前述のように悪人はあくまでもフィクションであると見せなければならない。そうでないと本当にこんな人がいるのかと錯覚する人も出てくるからだ。
だがそれが、フィクション特有の面白さを獲得することにもつながり、作品としての娯楽性も大きくしている。これがリアリティがない作品で娯楽性を強くしすぎると荒唐無稽な笑い話になってしまうところが、強いリアリティがを獲得することで娯楽性を大きくしても良いバランスを保っている。
圧倒的な劇中作のクオリティ
そしてもう一つが、『圧倒的な劇中作のクオリティ』だ。
今作はアニメを作る過程を見せてくれる一方で、その作品がどのように仕上がったかも見せてもらえる。このクオリティの高さがとんでもなく高い。
例えば三話にて作中作のキャラクターが泣き出す場面では、その状況がどういうものなのかまるでわかっていないにも関わらず、こちらにも感動を呼ぶように作られているし、爆発のシーンではCGと手書きの爆発の違いをはっきりと見せてくれる。
極め付きが大量の馬が走るシーンで、この場面は「わあ、さすが大御所、すごい作画ですね」という台詞だけで説明することもできるわけだが、井上俊之さんという日本でもトップクラスのアニメーターを起用することで、実際に馬のシーンを見せてくれる。するとその作画エネルギーのとんでもなさに度肝を抜かれると共に、作品自体に説得力が出てくる。
これは作画のみならず、声優の演技であったり、美術背景であったりといった様々なところで見せてくれるので、その一つ一つに説得力があり、さらにとんでもないものを見せてもらったという満足感も得られる。そして作品そのもののリアリティがさらに増していく結果になる。
「僕は才能っていうのは、何よりまずチャンスをつかめる握力と、失敗から学べる冷静さだと思う。絵の上手い下手はその次だ」
3 SHIROBAKOの主題
では本作が我々に訴えたかったこととは何だろうか?
もちろん、アニメ制作の過程をわかりやすく伝えて、みんなに興味を持ってもらうこともその一つだろう。だが、本当の主題はそこではないように思う。
平岡というキャラクターがいる。
この男は後半から登場するキャラクターだが、とにかくトラブルばかりを引き起こすとんでもない男だった。それも能力がないわけではなく、態度が悪かったり、考え方が宮森などと相容れないために起こるトラブルばかりで、これは能力がない(一言多い)太郎が引き起こすものとは一味違っていた。
では平岡に与えられた役割というものが何かというと、それは『現実の制作進行の姿』なのだろう。
宮森も大変な苦労はするが、このスタジオの環境というのはクリエーターにとって最高のものだ。
能力が高く、やる気に満ち溢れ、聞けば何でも教えてくれて、理不尽な怒り方をする人もいない。これが理想の環境であることは、働いていれば誰でもわかる。だが現実はそんなことはない。
何をやっても無能な人間はいるし、やる気のないやつもいる。意味もなく文句ばかり言われるし、自分で考えろと話を聞いてくれなかったのに、そんなこともわからんのかと怒鳴られることだってある。こんなものは序ノ口で、何十時間労働やら、仕事のドタキャンやら、もっともっとえげつない話は世の中にいくらでも転がっている。 (特にアニメ業界は多い)
その被害者を象徴するのが平岡だった。
平岡の立ち位置
私は平岡の主張が間違っているとはあまり思っていない。
「クオリティを人質にすんな!」という名言があったが、仕事には納期も予算も人員も有限だ。特にテレビアニメーションは毎週納期が迫っており、それと競争する仕事でもある。そんな中、クオリティのために無茶をすれば、痛い目を見るのは自分達である。
これが映画作品であれば話はまた変わるが、テレビアニメーションで映画クラスのものを求めるのは酷だろう。(最近はそれをやってしまう制作会社もあるが)
そんな中で、ある種の抜きどころを作るというのは手法として正解である。
野球で言えば負け試合はさっさと諦らめて、次に備えて準備をするべきだ。
だが登場人物たちはそれを許さなかった。
SHIROBAKOのインタビューならやはりアニメスタイルが一番濃い!
現実の世界と理想の世界
現実の世界を生きた平岡が、理想の世界であるアニメ会社に入った場合、衝突するのは当然である。例えばこれが逆に宮森が現実世界に来たとしたら「夢ばっか語ってんな、現実を見ろ」と一喝されておしまいだ。 (むしろそんな作品はたくさんある)
そんなギクシャクした関係なんてオサラバだ、と辞めようとする平岡を止めのが社長と太郎だった。
社長に与えられた役割は理想の環境を与えることであり、迷った時の導き手だ。
普段は料理ばかりで特に何かをすることもないが、登場人物たちが本当に追い詰められた時、手を差し伸べる中に社長もいた。だが、平岡はその手を簡単に取りはしなかった。そこで救い手になったのは太郎である。
太郎というキャラクターに与えられた役割は『現実を見ない理想の世界の住人』ということだ。初期の太郎はあまりにトラブルを多く引き起こし、自らの能力を考えずに大言壮語を吐きまくり、顰蹙(ひんしゅく)をかうようキャラクターだった。だが、『能力はあれども現実を見る平岡』を救うには『能力はないけれども理想を語る太郎』でないとダメだったのだ。
SHIROBAKOの感動
SHIROBAKOにおいて感動するシーンというのはほとんど決まっていて、それは『無理だと思っていた夢が叶った瞬間』である。
例えば二話で監督が全員をやる気にさせた名演説であり、三話の無理を通して作った作品が完成した瞬間であり、十二話で大量の馬を描き切ったシーンであり、そして何よりも忘れてはいけない二十三話のラストである。
そういった現実の壁一つ一つを乗り越えていき、決して無理だと言わないのが今作だ。誰もがそこにかける情熱が相当なことを我々視聴者が知っているからこそ、その夢が叶ったシーンに誰もが涙するわけである。
だがSHIROBAKOは簡単に夢を追いかけろと言っているわけではない。
「いい作品が当たるとは限らないし、その逆もまた然り」
「結局上手くて情熱のある人しか残れないのかも」
「辛い時期のない職業なんてありません。ですからあとは、屈辱をバネにしてどれだけ自分が頑張れるかです」
「大変でない仕事はない、二重否定文」
「トライ&エラーなんて言うけど、日々トライ&トラブル、なんてね」
こういった台詞にもある通り、厳しい現実にもちゃんと触れている。だがその上において
「売り上げなんて気にしてたら、いいものなんて作れませんよ?」
「続けないと仕事って面白くならないからさ」
「失敗も貴重な財産でしょうが。若者が根拠のない自信を持たなくて何を持つんだっつーの」
「俺さ、自分の進む先が最初から見えていたわけではないんだ。気がつくと、今ここにいる。それだけ」
こういった台詞でこちらを勇気づけて、鼓舞することができる。その威力はそれまでの苦労を見ているから絶大だ。そしてだからこそ
「私、少しだけ夢に近づけました」
という台詞に感動するわけである。
夢追い人に対する最大の応援歌、それこそがSHIROBAKOの主題であり、主張だったのだろうというまとめを持って、この拙作を終えたいと思う。
余談
ちなみに好きなキャラクターは問われると難しいですが、男性は太郎、平岡、稲波さん、大倉さん。女性は矢野さん、エマ、瀬川さん、堂本さん、藤さん。あとの二人は完全にキャラデザにやられているような……堂本さんのキャラデザ、若すぎない?
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