物語る亀

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物語愛好者の雑文

映画『傷物語 鉄血編』ネタバレ感想 これは評価割れるわな

 

 

 2016年初の映画鑑賞にして、当ブログ初の映画感想記事。

 傷物語鉄血編を見ましたので、感想を書いていきます。

 ちなみに私は原作を数年前に読んでいますが、内容はふんわりとしか覚えてないので、そこそこフレッシュな状態で見た印象になります。

 では、感想開始。

 

 

 

 

前置き

 

 私は物語を語る上でどれだけの物差しを持っているかが大事だと思っている。

 

 どういうことか? 

 人は物語作品を見た時、何を基準にして面白さを決めているのだろうか。

 

 例えば脚本の面白さと一言でいっても、会話の面白さ、ストーリーテイリングのうまさ、伏線の引き方と回収方法、設定の濃さ、矛盾のない破綻していない進行……などと細かく分析することができる。

 しかも脚本以外の部分、例えば演出、絵の作り方、キャラクター、役者、音楽、効果といった要素や、その表現方法が斬新か否かということも評価に関わってくるだろう。

 そういった要素を一つ一つ分解し、頭の中で考えて、それぞれの物差しで測ることでできるか否かということが物語を見て語る上で大事なのだ。

 もちろん人によって趣味が違うし、脚本や演出の矛盾がたくさんあるにも関わらず名作と呼ばれている作品もあるし、逆に不備は見当たらないのにつまらない作品もあるから、この物差しでうまくいっている作品が必ずしも名作とならないところが物語の奥深さであり、面白さだろう。

 

 前置きはここまでにして、それでは鉄血編の感想。

 これは評価がはっきりと割れる作品だ。

 

 そもそもこの映画も見にいく人は化物語という作品のそれなりのファンだということを前提にしてこれから話していく。

(化物語シリーズを見たことがないけれど、映画は見てみようという人はあまり想定されていない。もちろん見ても問題ないし、時系列からしたら一番初めのお話だから、頭には入ってきやすいと思う)

 

 

 

傷物語の問題点

 

1 登場するキャラクターが少ない

 

 そもそもこのお話は主人公の暦が怪異と出会い、関わっていくスタートを描いた、いわばエピソード0の作品である。

 そのためにたくさんのキャラクター達と出会う前であり、ヒロインである戦場ヶ原も、八九寺も神原も仙石も出てこない。出てくる主要登場人物は暦、羽川、キスショット(忍)、忍野メメぐらいだ。

 

 それぞれのキャラクターが強烈な個性を持ち、強い印象を残す西尾作品において、このハンデというのはそれなりに大きい。

 もともと化物語シリーズが一話完結の連作短編方式であり、一話ごとに登場するキャラクターの数に差があることを鑑みても、キャラクターのインパクトは少し弱いように感じる。

 最も、西尾維新からしたら本作はシリーズの中でも二作目であり、今書き直したらまた違うものになるのだろうから、誰を責めるという話でもないのだが。

 このせいで戦場ヶ原などのキャラクターを期待して見に行った一部の方は残念な思いして帰ることになる。

 (みんながみんが原作を知ってから行くなら問題ないけれど、アニメしか見ないでいく人もそれなりにいるだろう)

 

 

2 話自体が長く詰まっている

 

 このお話を二時間でまとめるにはそれなりの分量が必要なはずだ。

 

 傷物語という作品は、日常→出会い→説明→対決→忍野との出会い→一人一人との対決→ラストというかなり多くの場面があり、それらを全て消化するには二時間では少し短い。

 

 これはどちらかというと商売上の事情や映画館の上映館数を増やすための処置だと思うが、脚本の段階でどこを削ってどこを膨らませるかということを考えると、結構切りどころが少なくて難しいため、三部作になったということはそれなりに納得がいくが、そもそも一冊の本として上梓されているものを三つに分けるというのは非常に難しく、どこかしら中途半場になってしまうのは致し方ないように思う。

 しかし観客からしたらそんなことは知ったことではない。

 傷物語を三つに切れと言われたら自分も同じ場所で切ると思うが、どうしても歯切れが悪くなってしまうものだろう。

 

 

 以上の二点において、キャラクター、物語という点ではペケがついてしまった。

 この二つは特に物語を測る物差しの中でも重視する人が多いため、ここに期待する人は厳しい意見になってしまうだろう。

 では次に良かったところを挙げていく

 

 

 光ったシャフト演出

 

 もともと化物語自体がシャフトという最も尖った作風の会社(というよりも新房総監督と尾石監督?)とぴったりマッチしている作品だったが、今回の映画版はさらにそれがいい効果を生んでいた。

 

 映画が始まって少しした後、ほとんど白黒の画面に重厚な音楽が流される中、スタッフの名前が映し出されている演出だけでも古い白黒映画が大好きな身としては震えるものがあった。

 

 あの場面の迫力で、私は完全にやられてしまったのだ。

 そして誰もが気がついただろう、圧倒的な背景映像の美しさ。実写のような絵に明らかな二次元の絵を被せているのだが、その美しさでまたこちらを圧倒、単なる会話のシーンに関わらず印象に強く残った。

 極め付けはキスショットとの初対面のシーンで、あんな人のいない地下鉄のホームや、下りしかないエスカレーターなど現実味が一切ない空間に関わらず、それが怪異と初遭遇するおどろおどろしさを見事に演出していた。

 

 演出を物差しとして重要視する人であれば、大満足な作品だろう。

 その二人の会合シーンというのは神谷浩史と坂本真綾の演技力も相まって、その絵の力でとんでもない印象を与える作品になっていた。

 

 

 

 

演出が濃い難点

 

 だが、難点を挙げるならばそのシャフト演出があまりにもくどい。

 一つ一つの描写の情報量というよりも、カロリーが高すぎるために、ずっと見ているとこちらが胃もたれをしてくる。正直なところ一時間でもお腹いっぱいだったから、これを二時間見せられたら相当きついものになったかもしれない。

 それから建物を始めとした世界観がテレビアニメと違ってあまりにも独特すぎてついていき辛かった。

 

 しかし、斬新な演出が多いことに変わりなく、全く新しいことをやろうとしているのは高く評価することができるし、あの映像体験は今まで味わったことがないものだった。

 その点においては非常に高評価で、私は1500円払って見に行く価値があるかと問われると、アニメが好きで化物語が好きなら十分価値あるよ、と答える。だが、テレビシリーズのファン向け映画として見ると、演出やキャラクターデザインが変わりすぎていることもあり、拒否反応を示すこともわかる。

 

 

 何せまだ一話目である。

 ここで判断するにはあまりにも早すぎるので、次回作が公開させる夏、そして三部作が完成した時に評価が決定するべきである。

(多分この演出だと三話目の印象は非常に強くなるんだろうな)

 

 

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