カエルくん(以下カエル)
「ちょうど1年かけて、傷物語の3部作も終わったねぇ」
ブログ主(以下主)
「このブログとしても感慨深いものがあるな」
カエル「当時はこの形式でこそなかったけれど、このブログを開設して1番始めの映画感想記事が傷物語だったからね」
主「それがこうして終わるというのは、少し寂しいものがあるな。まあ、公開するかどうか何年も待ったから、という特別な感情もあるのかもしれないけれど。
傷物語でこれだから、新エヴァが終わったとしたら、もっと色々な感情が巻き起こるかも。エヴァは終わらないからこそのコンテンツでもあるけれど」
カエル「エヴァの話はここまでとして、シャフトらしさに溢れた意欲的な作品だったしね。その意味では……最終章の公開は年明けだけど、まさしく2016年のアニメ映画大豊作の1年に名を連ねるにふさわしい作品だったよね」
主「京アニやシャフト、東映、ジブリ、ディズニー、ピクサー、ユニバーサルなどの色々な売りを持つ力のあるアニメ制作スタジオがアニメ映画をたくさん発表した1年でもあったんだな。
それぞれの個性だったり、強み、あとは変化なども楽しめていい1年だったと断言できるよ」
カエル「それじゃあ、感想にはいろうか」
ここまでのあらすじ
(過去の章のネタバレを含みますので、非常に大雑把に、言葉を濁しながら書いていきます)
主人公、阿良々木暦はある日、地下で苦しむ謎の美女を見つける。彼女は『キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード』と呼ばれる吸血鬼だが、ハンターに襲われて四肢を失う大怪我を負う。
そしてそれを救うために大きな変化を迎えるのだが、元に戻るために、彼女の四肢を手に入れてキスショットを完全体に戻すことを約束する。すったもんだの上、なんとか四肢を手に入れたのだが、衝撃の事実が暦を待ち受けていた……
1 ネタバレなしの感想
カエル「まあ、この映画を見る人の多くは原作を読んでいるだろうから、ネタバレをしない意味があるのか? という思いもなくはないけれど、一応ね」
主「アニメ版以外は見ません! って人もいるかもしれないからな」
カエル「で……感想としては、やっぱり1作目、2作目と似たようなもの?」
主「2016年も色々な映画が出てきて、クオリティも高かったし、映画業界の話題の中心にアニメがあると言っても過言ではない1年だったけれど……もちろん、3部作という事情を鑑みれば、他の映画と単純に比べることはできないけれどさ『特徴的な絵作り』という意味では、2016年でもNo,1だったかもしれない。
海外の作品とかまでは網羅できていないけれど、日本のアニメ会社が作った作品では、傷物語が1番わかりやすく尖っていた」
カエル「今や『シャフト演出』なんて言われるくらい、誰にでもわかりやすい異様さを誇っている制作会社でもあるからねぇ」
主「尾石達也監督の味が出たシリーズだよね。少しだけ解説すると、シャフトの中でも特徴的な作画やセンスを誇る人で、常識から外れた作品を作り上げる人なんだよね。その人の初監督作品でもあるけれど……これだけ作家性が出ていたら、もう誰もが認めざるを得ない、超人的なセンスを持つ監督の1人になったと思う。
ただ、それが映画としてのクオリティ云々となると話は変わるけれど」
カエル「……含みを持たせるねぇ」
結局、面白いの?
カエル「まあ大事なのはこの部分だよね」
主「……正直なことを言うと、エンタメとしては若干難がある作品になったかな。
かなり芸術性が高いと思うし、海外でも絶賛されると思う。こんな特徴的な作品はほとんどないし、水墨画がアニメとなるようなシーンもある。アニメーションの未来を切り開く1作に仕上がっているのは間違いない。
ただ、その高い芸術性が世間に受けれ入れられるような……言葉は悪いけれど、ある種の低俗なエンタメ性を獲得しているか、と言われると……どうだろうね? って思いがある」
カエル「絵はすごいけれど、お話としては一般受けしないってこと?」
主「というか、傷物語を3部作にして公開すること自体が結構無茶振りなわけだよ。さらに言えば、西尾維新の物語シリーズをアニメ化することが無茶振り。言葉遊びの要素が大きいしね。
だけど、それを見事にこなしたのがシャフトなんだけど……傷物語って、エンタメ作品としては結構致命的な部分があると思う」
カエル「致命的な部分?」
主「シリーズの人気キャラクターがほとんど出てこない。
EP0だからっていうこともあるし、シリーズ2作目だから仕方ない部分もあるけれど、キャラクター自体は両手で数えられるぐらいしか出てこない。
それでドラマを……しかも90分前後の映画3本分のドラマを作れっていうことは、非常に難しいわけだ」
カエル「人気キャラクターを総出演させて、お祭りムードの映画っていうのができないわけだしね」
主「だから、5年かかったというのもわかるよ。それでいてカットするのも難しいし、原作から3段構成になっているんだよね。出会い、戦い、ラスト、という序破急の流れに沿って、ちゃんとした構成になっている。だからこそ、1つ1つをおろそかにできないし、そのまま全てを映像化すると長くて冗長になるか、テンポが速すぎちゃう。
だから結局、この3部作という形になるのも理解できるけれど……そのせいでエンタメとして、少しケチがつく作品になったと思う」
色々なハードルが高い作品
カエル「ここでは何を語るの?」
主「どの映画もそうだけど、やっぱりこの映画を見て思うのは『求められていることのハードルがわかりやすく高いなぁ』ということ。
例えば声優でいうと、1部ごとの長尺を数人で演じなければいけない。特に顕著なのが神谷浩史と坂本真綾で、この2人は相当難しい役どころだな、と思ったよ」
カエル「坂本真綾の演技は素晴らしかったよね。各年代によって声色が全然違うけれど、同じ人という感じが出ていてさ」
主「個人的に坂本真綾の当たり役って『四畳半神話大系』の明石さんだと思っていたけれど、それを更新したかも。やっぱりこういう神秘的な役を演じるとうまいなぁって思わされた。元々『歌手』坂本真綾のファンっていうのもあるかもしれないけれど。
そして神谷浩史はほとんど出ずっぱりなわけじゃない? しかもこれだけ力のある作画に負けない演技をしないといけないからさ……見ていて声優の力が劣っている、と思わなかったんだよね。これほどの絵なのに。
それが本当にすごい」
カエル「それはどの音楽とかも含めて、すべてで言えるかもね」
主「力が入った作品だけど、だからこそ見終わった後に疲れる作品にもなっていて……気楽に見よう、って感じにはならない。
制作サイドと観客の『アニメの果たし合い』をしているような気分だったよ。それが魅力でもあるけれど」
以下ネタバレあり
2 生きること
カエル「さて、じゃあここからネタバレありだけど、結構エログロな話なわけじゃない?」
主「それは絶対に必要な描写だと思うよ。
この3作目の主題って『生きるべきか、死ぬべきか』ということでさ……人間を食料としてみてしまうことに恐怖を抱くことが描かれている。
それに対する対抗策として『エロ』は必要だったんだよ」
カエル「結構激しいというか……長かったから、居たたまれない思いもしたかも……」
主「あの堀江由衣の演技もここまでやらせるかぁ……とびっくりしたしな。
『お願い』のセリフで、個人的堀江由衣のNo1の当たり役であるシスプリの咲耶を思い出したよ。神回オブ神回の1つ『シスター・プリンセスRe Pure』を……」
カエル「はい、そんな個人的感傷はいいから、作品に戻ろうね」
主「……このお話において重要なのは『人間を食料として見るか、それとも性の対象してみるか』ということで、その象徴が羽川翼という存在なわけだ。彼女を『人間』として愛するのか『食料』として愛するのか、の違いだね。
だからあの性の描写って絶対必要なわけ。暦が『俺は食料としての羽川を愛するのではない!』という確認でもある。結局チキンだったのは、まあそれはアニメ的演出だったり都合だけど……
でも『食料』という死の世界を振り払うには『性』という生の世界の対比が必要だったわけだ」
カエル「だからこそ、それだけ執拗に描かれていたわけだね」
物語のロジック
カエル「この項目は?」
主「結局、この映画においてなぜあのような結論に至ったのか、ということなんだよ。
それはもちろん、暦がどうしようもなくお人好しだとか、そういうこともあるけれど……ロジックとしては、あの羽川とのやりとりにおいて『生』を選択したわけだ。
そして自らが吸血鬼として存在し続ける中で、人間に戻るためには『死』を与えなければいけないという……この矛盾に苦しむ。
西尾維新のすごいところでもあると思うけれど、単純な2元論とかでは収まらないんだよね」
カエル「怪異が悪のようには描いていない、ということだね」
主「単なる妖怪退治の話じゃない。それはメメが言及していることでもあるけれど……
そして死を与えるという行動は、考え方によっては『食料として人類を食べる』というこということを否定したのに『怪異を始末する(血を吸う、食べる)』ということになりかねない。
ある意味では論理矛盾になるわけだ」
カエル「生を選んだから、死を与えることができなくなった、ということだね」
3 物語としての傷物語の凄さ
主「だからさ、個人的にこの作品が先進的だなって思うところは、大きくみればこの
お話はよくある勧善懲悪にもなりかねないんだよ。自分が救った存在が悪だったから、それを退治しました、というね。
だけど、この作品はそんな怪異すらも助けてしまう。
それだけではなくて……最後の選択って作中でも言われているけれど『誰も幸せにならない、思い通りにならない終わり方』なわけじゃない?
みんなが等しくバットエンドを迎えるという」
カエル「それは作中でも言及されていたよね。物語としてのカタルシスがあまりない終わり方で……」
主「そこも含めて傷物語ってエンタメに徹しきれない部分であり、芸術的だよなぁって思うけれど……まあいいや。
それで、考えてみたらさ。この選択って『生きること』を選択したからこそのバットエンドでもあるわけじゃない?
これってすごい話だよね」
カエル「……生き残ることがバットエンドか」
主「普通は生きることを選択すること、誰も死なないように尽力することってハッピーエンドなんだよ。悪は滅ぶか改心して、主人公は望みのものを手に入れる。でも、そうなっていない。
この物語と類似する物語が……思い浮かばないんだよね。もちろん、エンタメとしては『勝利』の過程が弱いから、名作になりづらいというのもあると思うけれど」
カエル「……死を選んだ方が正解だったかもしれないね……」
ハッピーエンド? バットエンド?
カエル「結局、何度も語っているけれどこの終わり方ってハッピーエンドなの? バットエンドなの?」
主「……そこに関しては色々な意見があると思うけれど、個人的にはその基準は『登場人物が、特に主人公が納得しているか』ということに尽きると思うんだよね。
例えば、最後に悲劇的な結末を……それこそ死んでしまうような結末を迎える物語があるとする。だけど、それを主人公が受け入れているのであれば、それはきっとハッピーエンドなんだよ。
だけど、例え億万長者になって、家族に囲まれて、不自由1つない生活を送っていたとしても……それに納得していなければ、バットエンドじゃない?」
カエル「じゅあ、この映画の暦を考えると……」
主「キスショットは納得していないけれど、暦とかは納得しているからさ。状況としては最悪だけど、実はハッピーエンドと言い換えることもできる。
そのあたりの『中途半端さ』っていうのも、ヨーロッパ映画のようで個人的には好きだけど、売れないだろうなぁ……って思うよ」
カエル「ヨーロッパで絶賛されそうだね」
最後に
カエル「じゃあ最後になるけれど」
主「すごく印象に残ったのが『これは傷物たちの物語』みたいな台詞があったと思うけれど、西尾維新風に言えば『傷者たちの物語』でもあったということだよね。
あとは『今日を生きる』っていうのは『凶を生きる』でもあり『狂を生きる』だったり。原作ではどうだったか忘れたけれど、ここのアクセントつけ方とか、うまい! って思わず唸っちゃった」
カエル「EDも含めてすごく良かったしね」
主「あれ、真綾に歌って欲しかったなぁ……シングルでも個人名義でもいいから! って思いはあるけれど、こればかりは仕方ないよね。
ファンなら誰でも思うことかな?」
カエル「何はともあれ、物語シリーズの序章がようやく完結、という運びになりました、と」
主「これだけシリーズが続いて、今更序章が終わるというのもすごい話だよねぇ。でもこの先も続くんだろうし、尾石監督の次回作も楽しみにしたいし、いろいろ言われるけれどシャフトにはこのままでいてほしい。
もっと挑戦的な作品も見たいかな」
カエル「夏に大きな作品もあるしね」
主「2016年は京アニも大きな存在感を見せつけたけれど、2017年はシャフトが中心の一年かもしれないな」
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