それでは、今回は『冴えカノ』の劇場版が公開されたので、その感想記事になります!
いやー、慌てて26話全部一気見したよ!
カエルくん(以下カエル)
「あれ? テレビシリーズ放送時は見てなかったの?」
主
「1期の1話だけ見て、いきなりの温泉回だったから『よくわからないけれど、女の子が可愛いし萌えで視聴者を釣るような作品なのだろう』ということで、あんまり真剣に見てなかったんだよねぇ」
カエル「あ〜……勿体ないとは思うけれど、1期も2期も1話は過剰とも思えるくらいのエロティックな萌え描写が満載だったから、あれが合わないって人はいるかも……」
主「それで、この1週間で全2クールみたんだよ。
2期の最終話は公開日の朝に見終わったんだけれど、一気見してしまうほどハマった!
おかげブログの更新は全くできなかったけれどね!」
カエル「自分の怠惰を冴えカノのせいにしない!」
主「というわけで、今回はテレビアニメ版の自分の視点も書いているので、そこを踏まえた上で映画版の論評に入りたいと思います!
ただ、だいぶ長くなるので……映画のネタバレありの評は別記事にする予定です」
カエル「はい、では感想記事のスタートです!」
ネタバレありの全力感想、考察はこちら!
相当読み応えがあります!
作品紹介・あらすじ
PCゲームなどの脚本も手がける丸戸史明が原作のライトノベルを書き、2015年と2017年にフジテレビ・ノイタミナ枠でテレビアニメも放送された『冴えない彼女の育てかた』の最終章を描く劇場版作品。
テレビアニメ版の監督を務めた亀井幹太は劇場版では総監督を務め、演出を手がけた柴田彰久が監督を担当する。丸戸史明はテレビアニメ版と同じく脚本を担当する。
キャストはテレビシリーズと同じく松岡禎丞が主人公の安芸倫也を演じるほか、安野希世乃、大西沙織、茅野愛衣、矢作紗友里、赤崎千夏、柿原徹也などが声を担当する。
テレビアニメシリーズにて高校生の安芸倫也は、同人サークル「blessing softeware」を結成し同人ゲームを完成させたものの、中心スタッフであった小説家としてもデビューしている霞ヶ丘詩羽と幼馴染の人気同人絵師の澤村・スペンサー・英梨々が人気クリエイター紅坂朱音に引き抜かれてしまった。
メインヒロインと見出した加藤恵や永堂美智留、波島出海と共に新しくゲームを開発し始めるが、慣れない作業にスケジュールは押していく結果に。そこに現れた紅坂朱音の罵倒まじりのアドバイスもあり、ゲーム作りは順調に動き始めるかと思ったのだがトラブルが舞い込んでしまう……
劇場版「冴えない彼女の育てかた Fine」主題歌『glory days』音源解禁
感想
それでは、Twitterの短評からスタートです!
#冴えない彼女の育て方#冴カノ
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2019年10月26日
観たかったものを全て見せてくれただけでなくテレビシリーズの疑問点すらも昇華させてくれた
繊細な人間描写によりキャラクター達の心情が胸に染み渡る上にシリアスとギャグのバランスも良く、作劇上の冒険も忘れていない
年間ベスト級の傑作! pic.twitter.com/5tydaQpid3
これはもはや萌えアニメの垣根を越える、2019年屈指の”お仕事”ムービーだ!
カエル「Twitterの短評だと2019年屈指の傑作アニメ映画という評価なんだね!
僕が言うのもなんだけれど、この手のアニメ映画でここまでの評価をするのはちょっと異例というか……ほら、どうしてもテレビアニメの劇場版作品ってテレビアニメの延長線上にあって、ストーリーが走りがちだったり、色々な問題がある印象もあるけれど、今作はそんな不安は吹き飛ばしたんだね」
主「まあ、確かにテレビアニメも原作も見ていません! という人にこの感動が伝わるか? というと、だいぶ疑問はある。
しかも、多分自分の場合はこの作品のファンとはちょっと違う視点を持っているかもしれない」
カエル「その視点の話に入る前に、ざっくりとどのような点を高く評価しているわけ?」
主「まぁ、言ってしまえば全部なんだけれど……自分はこう言ったストレートに描かれる恋愛作品はあまり得意ではないんだけれど、この作品はすごく心に響いた。
それはなぜかというと、多層的な構造を持つ脚本、特に会話だよね。ここの作り込みがすごく気に入ったし、また作画面、演出面もすごく凝っていた。
この映画版はテレビアニメほどの過剰な萌えやお色気描写というのは少なくなっている。というか、テレビアニメの1話がなかなかやりすぎなくらい攻めていたし、今作もそう言った要素も当然あるんだけれど、それ以上に”肉体描写が交わす言葉”が豊富なんだよ」
カエル「う〜んと……他作品でいうと『リズと青い鳥』みたいなこと?」
主「そうそう。
今作ってテレビアニメ版はシャフトの影響を感じられて、亀井監督が新房監督と組んでいた時期もある影響かなぁ? と邪推するんだけれど、今作はそれは比較的抑えめになっていて代わりに? 京アニっぽい肉体での感情表現がなされている。
他にも様々な演出がなされており、それがすごく丁寧。
また音楽面も良くて、CDを目当てに特装版パンフレットを購入するほど。
シリアスとギャグのバランスも良く、何よりも驚いたのが”映画”になっていたこと!
これが本当に驚いたねぇ……ただの萌えアニメかと思って侮っていたら、大変なことになっていたよ!」
カエル「……オタク全開の早口解説、ありがとうございます」
個人的な冴えカノの見方〜クリエイター讃歌作品として〜
そういえばこんなツイートもしていたよね
冴カノさもう女の子も恋愛もどうでもいい
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2019年10月25日
クリエイター論として面白すぎる
映画はそっちやってくれるかなぁ
個人的には萌え描写は、この作品におけるお飾りのようなものだと言わせて欲しい
カエル「……あれ? 多くのファンはそのお色気描写も含めた萌えるキャラクター描写を目当てに来るんじゃないの?」
主「確かにそれも間違いじゃないどころか、多くのお客さんはそれが目当てだろう。あるいはキャラクターたちの恋愛描写について胸を熱くさせているだろうけれど、自分は違う。
自分の場合は”クリエイター讃歌”であり、お仕事もの映画として見ていたんだ」
カエル「ということは……『SHIROBAKO』と同じ枠組みってこと?」
主「そう。全く同じ枠組み。
どちらもアニメ制作やゲーム制作のリアルを全て捉えたわけではない。
創作を物語として見せるための誇張は多く含まれているし、詳しい人から見れば『これは違う!』と怒るかもしれないね。
でも、自分はこの2作は……込められたもの、魂というべきものがしっかりと感じられた」
カエル「今作の原作・シリーズ構成・脚本を務めた丸戸史明はPCゲームで多くの傑作を生み出しています。2000年代の同人ゲームやPCゲームから今に繋がるムーブメントや人材が生まれているけれど、その中の一人と言える人だよね。
だから、他のラノベ作家とはちょっと違うというか、ゲーム作りに関しては何度も経験されている方なんだよね」
矛盾しているようだけれど、この作品は”妄想ばかりの現実”を描いているんだ
カエル「……妄想ばかりの現実?」
主「多くのハーレム作品や、この手の高校生を主人公としたラノベ作品は”現実離れの妄想”を描いていると言える。
それは批判のようだけれど、現実を忘れるための創作ならば決して間違いではないけれど、リアリティというものはほぼなくなってしまう。
実際のところ”学校の先輩が人気美少女ラノベ作家”や”幼馴染の美少女が人気同人絵師”ということはありえないし、現実感の欠片もないけれど、面白くするためにはその選択は当然のものとも言える。
言ってしまえばありがちなオタクの妄想なわけだよ」
カエル「あんまりリアルすぎても売れないだろうしね」
主「それは1期もそうでさ、自分は1期を見たときは”出来はいいけれど普通のラノベアニメ”という評価だった。面白い部分もあるなぁ……というくらい。
でも2期でその評価を覆された。
一気にクリエイター論を深めてきたんだよね。
そしてこの劇場版はもう既に”現実離れの妄想”から完全に脱皮し”妄想まみれの現実”を描き出した。
似ているように思われるかもしれないけれど、これはとても大きな変化だ。
どんなに妄想が入ろうと、願望があろうと、描いているのは現実。
そしてそれは優れたお仕事映画や物語に必要不可欠なものだ。
その描き方に、自分は涙すら出てきたよ」
カエル「その辺りは詳しくネタバレありパートで語りましょう」
テレビアニメ版の冴えカノの評価
冴えカノの見方①〜持つ者と持たざる者の残酷な物語〜
まずはテレビアニメ版の冴えカノという作品をどのように見ているのか、ということを語りましょうか
可愛い女の子に誤魔化されているけれど、どうしようもなく残酷な物語だよね
カエル「え? これだけ可愛らしい女の子がたくさん出ているのに”残酷”って言葉を選択するんだね」
主「先にも語った”現実”にも通じるものがあるんだけれど……まず下にまとめるとこのようになる」
- 霞ヶ丘詩羽→美少女高校生小説家・天才
- 澤村・スペンサー・英梨々→美少女高校生絵師・天才
- 永堂美智留→大きな実績はないが美少女バンドマン・天才寄り
- 波島出海→急成長中の絵師・天才の卵
カエル「……オォ、分かりやすいほどの天才ばかりの物語だね」
- 安芸倫也→消費者側のオタク・凡人寄り?
- 加藤恵→特化する特技はなし・凡人寄り
主「ただし、倫也が本当に凡人かどうかは考え方によるとも思っている。人気ブログを立ち上げて、コネや裏事情があったとはいえ人気作家のインタビュアーに呼ばれるレベルの人を果たして凡人と言えるのだろうか? という思いはある。
自分がそうだというつもりはないけれど、レビューブログで一定の人気を得るのはそれも才能なんだよね。
作品を適正に評価し、ポイントを抜き出して文章を構成・説明し、それを量産する能力が必要だから、あのレベルで影響がある人間を凡人扱いしていいのか? という疑問はある」
それはそれとしておいておくとして、基本的には天才と凡人の対立の物語なんだね
だけれど、天才が必ずしも優れているとは限らない
主「特にかわいそうなのは英梨々だ。
彼女は自分の才能・そして時間の多くを倫也のために磨いてきた。それだけのことをやっても倫也のことは手に入らない。
結局、倫也が欲しかったのは英梨々の才能なんだよ。
彼女の想いを無視しているわけではないけれど……」
カエル「それだけの天才でも手に入らないものがあるんだね……」
主「どれだけ才能を磨いても、どれだけアプローチしても最も欲しいものが手に入らない。
そしてその才能を発揮するためには、倫也の存在は必要不可欠なものでもあった。
これってなんと残酷な話だろうか?
誰もが羨むような才能や容姿があっても……不幸になってしまうかもしれないんだからね」
冴えカノの見方②〜”最低”の男子、倫也
また過激な言葉を選んだね……
前項目と同時に考えると倫也って最低の男子なんですよ
カエル「えっと……それって”主人公として”最低なの? それとも”男として”最低なの?」
主「主人公としては王道のハーレムものの主人公であり、オタクの妄想をそのまま描いているだけとも言える。
だけれど……男子として、そしてディレクター・プロデューサーとして最低だと思うわけですよ」
カエル「……それってどういうこと?」
主「まず、男として最低なのは”自分のことを好きな女の子に対する扱い”ですよ。
倫也はスタッフとなる女性陣が自分に好意があることを当然知っているわけだ。そして手を出そうと思えばいつでも手を出せるけれど、それを行わない。それはなぜか? って話ですよ」
カエル「メタ的に語ると、そのような描写を入れるとラノベやオタク向けアニメとしておかしな癖がつくということがあるよね」
自分に言わせてもらえば”女として興味がない”んですよ。
主「倫也が興味あるのは彼女たちの才能だけ。
自分の作りたいゲームのためにスタッフとしてしか見ていない。だからこそ、自分への好意を無視していているかのように振る舞い、生殺しみたいな真似をすることができる。
これが文章、絵、音楽などの特殊能力だから気にならないかもしれないけれど、例えば……すごく俗っぽいけれどお金だったらどう思う?」
カエル「自分のことを好きだと知っている女の子の持っているお金を、夢ややりたいことを叶えるために使い込む男ってこと? それは……最低だよね」
主「ラノベのハーレムものだから当然の流れのように感じられるけれど、男としてはあまりにも酷い動きをしている。
ずっと振ることもしないで、生殺しで、しかも他の女をヒロインにするという無神経さ、これを最低と言わずになんという?
しかもディレクター・プロデューサーとしても最低。
2期の冬コミを落とした理由は人間としては当然のように思うかもしれない。
でも、作品を制作するために倒れるまで力を尽くした相手を前に全力を尽くさない言い訳ができることに苛立ちすらある」
えっと……この作品ではライバル役の伊織と倫也は対比になっているよね
自分は伊織の方が信用できると思うよ
カエル「倒れたスタッフを放っておいてゲームを仕上げることが正解だと?」
主「伊織は同人ゴロなどと悪いことを言われているけれど、倫也もやっていることは同じなんだよ。
ただ、そのスタイルが違う。
倫也が人情などで人を動かすならば、伊織は冷静に……冷酷なまでに計算して作品作りをまとめていく。
でも、伊織ってクリエイターの能力を信じている。
だから必ず作品は仕上がると思っているし、その道を選択すべきと話す。
それができないから倫也は主人公ではあったとしても、プロデューサーとしては最低なんだよ。そりゃ大事なクリエイターが離れるに決まっているんじゃん。
それで大正解ですよ、クリエイターは。
では、
そんな男がどのような選択をして成長するのか? ってことところも注目のポイントになる」
冴えカノの見方③〜ゲームを作ることのメタ的な理由〜
そして3つ目に語るのが”ゲームを作ることのメタ的な理由”ですが……これは?
なぜ倫也はゲームを作るのか? という話ですよ
カエル「え〜っと……それはゲームが好きだからとか、総合芸術だからとか、そういうことじゃなくて? メタ的に語るならば作者がゲームクリエイターだから、というものになるだろうけれど……」
主「もちろんそれだって正解だろうし、きっと原作にはもっと深い理由が書かれているのかもしれない。
でも自分の解釈は……この作品で作るべきはラノベやアニメ・漫画ではダメで、ゲームでないと成り立たないのではないか? という思いがある」
カエル「……? どういうこと」
主「冴えカノっていうのは恋愛シュミレーションゲームの宿命に挑戦した作品なわけだよ。
属性盛り盛りの幼馴染み金髪ツインテールや、先輩黒髪ロング、いとこのエッチな音楽お姉さんではなくて、モブキャラのように陰の薄い恵をメインヒロインに選ぶ物語。
恵は普通のギャルゲーであれば友人Aだったり、あるいはゲームがすごく売れて発売された追加パックでちょっと入れられたヒロインみたいな存在なわけだ」
カエル「言い方は酷いかもしれないけれど、立ち位置としてはそんなものなのかなぁ」
主「そして先にも語った”残酷”な物語が待ち構えている……」
では、ここで問題。倫也が作る恋愛シュミレーションゲームとアニメやラノベとの違いは?
え〜……色々あるだろうけれど……なんだろう?
自分の答えは『マルチエンディングの有無』だ
カエル「そういえば作中でもルートがどうのとか言っていたよね。恋愛シュミレーションゲームはマルチエンディングシステムを採用しているのが多いし、別に変な意味には思わなかったけれど……」
主「ここで思うのは”ゲームの場合はヒロインを選べる”ということだ。別のルートに言って、何度もやり直したり、あるいはハーレムや誰もと付き合わないバットエンドもあるだろう。
でも、ラノベやアニメは……もちろん例外的な作品はあると思うけれど、基本的には1ルートだ」
カエル「ヒロインが気に入らないからって、別のヒロインを選び直すってことを読者はできないわけだね……」
主「メタ的な意味になるけれど、ラノベやアニメで表現されている倫也はあらかじめ1つのルートを選ぶことを強いられている。
そのルートは別に恵である必要はないし、なんならばハーレムも誰も選ばないのもアリかもしれない。でも、もう既に恵ルートに入った場合には変更することができないんだ」
カエル「まあ、それはそうだよね」
主「つまり、彼らは作中においてルートがたくさんあるようなゲームを制作するけれど、実際はルートは1つしかない。
それは散々メインヒロインと呼称されている恵ルートだろう。
だから、この作品は”恋愛シュミレーションゲームの宿命に挑戦”している上に”ラノベ(アニメ)で表現することで恋愛シュミレーションゲームにおけるルート選択・やり直しを不可能なものと制限している”とも言えるわけだ」
カエル「物語の時は巻き戻せないって言えば、当たり前なのかな?」
主「上記の①②③を合わせて考えるとギャグやお色気描写の裏にある、とても残酷な物語について気がつくでしょ?
これが自分が冴えカノにハマった理由。
他のギャルゲやラノベ原作の作品とは一線を画していると思うね」
まとめ
では、ここで一度まとめに入ります!
- ”妄想にまみれた現実”を描き出した大傑作!
- 恋愛だけでなくクリエイター論としても見どころの多い作品!
- テレビアニメからして残酷な物語……
- 恋愛シュミレーションゲームの宿命に挑戦するからこその物語へ
ほぼテレビアニメ版の話だけで終わったな……
カエル「思った以上にテレビアニメ版の感想だけで長くなってしまったので、ネタバレありの語りはまた別記事になります!
今度は日曜日中にあげるように頑張ろう!」
主「今作も語りたいことが山盛りだからなぁ……
そっちもかなり長い記事になるかもしれないので、少しだけお待ちください」