今回は京都アニメーションが制作した『小林さんちのメイドラゴンS』の感想記事になります!
久々の京アニのテレビシリーズじゃな
カエルくん(以下カエル)
「夏の番組も終わったタイミングですが、ちょっと語っておきたいことがたくさんあるので……」
亀爺(以下亀)
「いささかサボりすぎたようじゃし、少しくらい語っておかないとの」
カエル「ちなみに、超どうでもいいことだけれど、この作品のタイトルを聞くと毎回『吉永さんちのガーゴイル』を連想するんだよね……
どこかで言い間違えそうって毎回思うよ」
亀「……もう15年近く前のタイトルで、どれだけの人が知っているかもわからんの。
そんな馬鹿話はここまでとして、それでは記事を始めるとするかの」
感想
それでは、Twitterの短評からスタートです!
#小林さんちのメイドラゴン
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2021年9月22日
#maidragon
文句なし、全体としての完成度がめちゃ高だった
異文化交流と多様性というテーマが一貫しながらも重くなくコメディ混じりで観れるバランス感覚も見事
京アニのテレビシリーズの中でもこの安定感は過去屈指の出来ではないだろうか pic.twitter.com/ww0vYddAvB
2021年のテレビアニメの中でも、屈指の作品ではないじゃろうか
カエル「結論から言えば、文句のつけようがない作品でしたね!
2018年の『ツルネ -風舞高校弓道部-』から3年暗いと、久々のテレビアニメでしたがその完成度の高さは過去の京アニ作品と比べても、安定感という意味では飛び抜けたものがあったのではないでしょうか。
今回は特にテレビアニメとしてもレベルが高いものになったのではないでしょうか」
亀「1話から12話までの巧さが光った形じゃな。
この辺りは感覚的なものになるが……物語には完成してはいないが1点特化型の粗々しい部分も魅力の作品と、完成された全てにおいて万能な作品がある。そして今作に関しては後者じゃろう。
- キャラクターの魅力
- テーマ性
- 音楽の使い方
- 作画
- 物語の話運び
こういった様々な点から物語は評価できるであろうが、その全てで80点以上を獲得するであろう、素晴らしく完成された作品であった。
おそらく、この完成度の高さは2021年のテレビアニメシリーズでも、屈指のものになるのではないじゃろうか」
制作体制の安定感
それから、少し作品内容の評価とは離れるようですが作品制作体制の安定性にも注目したいポイントです
今作は理想的なテレビアニメ制作体制の元に作られておるの
カエル「ここ最近のアニメ作品は、本当にスタッフがたくさん絡み過ぎなほどで……原画さんが何十人、2原は当たり前、作画監督複数人から二桁、ひどいのでは総作画監督が二桁にもなる作品もあって……テレビアニメで作画監督が何人もいることでも違和感が若干あるのに、総作画監督が二桁クラスってどんな制作体制なんだろう? と疑問にも思うね」
亀「これは独特の日本アニメの制作スタイルがあるのじゃろうが、ここはさすがは京アニ。安定しておったの。
作画監督は基本的に1人、絵コンテ・演出も1人か2人、原画も10人前後で2原もなし。
この安定した制作スケジュールで駆け抜けたこと、もちろん作品のクオリティも安定していたことは、それだけで賞賛に値する」
カエル「もちろん、色々なことがあってそれが整うまでの時間などもあったという仮定も成り立つから、他のスタジオとは全く条件が異なるという前提の元ではあるけれどね
でも、始まったばかりの10月からの新番組でも怪しい作品が早くも出ている中で、この安定感と制作体制というのはもっともっと高く評価されるべきではないでしょうか」
全体的なテーマと見どころ
ではでは、もっと詳しい総評について語っていきましょうか
テーマがはっきりと出ておりながらも、京アニという会社がどのようなメッセージを発するのか、はっきりとわかるものであったな
カエル「近年は制作者……監督や脚本家のみならず、制作会社ごとの個性もまた注目されている印象があります。
その中でも京アニは、うちも含めて高い注目を集めているけれど、ここまで作品制作のメッセージ性を強めている制作会社もそうそうないかもしれないね」
亀「映像に個性がある会社というのは、確かにたくさんあるじゃろう。
しかし売れる作品であったり、人気原作を中心に映像化する会社……例えば一定以上の評価を受けている奈須きのこ作品や、自身で国民的人気作品に押し上げるきっかけを作ってはいるもののジャンプ作品の『鬼滅の刃』など手がけるユーフォーテーブル。
あるいはMAPPAなどもそうかもしれんの。
そういったスタジオと比べると、京アニ作品というのは元々原作がとても人気であり……変な言葉であるが”売れることが確定している作品”を制作している印象はない」
カエル「原作人気に頼らず、自分たちで人気にしていこうって姿勢が感じられるよね。
それは声優さんにあまり色がついていない若手を起用する風潮でも感じられるかな」
亀「一方で、だからこそ作品内容は深く選んでいる印象がある。
もちろんメイドラゴンは2期であるが、京アニ作品として並べていった時にも、そのメッセージ性というのは一貫しているように感じられるのではないかの」
そのメッセージっていうのは”他者との共存”だよね
今、世界中で流行りの多様性の問題と言えるじゃろうな
カエル「日本のアニメってともすると、そういった社会的メッセージが蔑ろにされているように論評されることもあるし、一部では遅れていると言われることもあって……まあ、それが全て間違いとまでは言わないけれど、でも全てが正しいわけでもないってところかな。
特に京アニのメイドラゴンに関しては、僕は世界でもトップクラスに先進的な物語とメッセージを発揮していると感じます」
亀「まあ、ルックスだけ見たら巨乳でロリな可愛い女の子がメイドになっているという話であるからの。
しかし近年では『BEASTARS ビースターズ』などのように、動物の物語であったり……あとは面白い切り口だったのは『異世界レビュアーズ』だったかの。種族の壁を超えていく、つまり多様な価値観を考える作品が非常に増えているわけじゃな。
今作はその中でも、少なくともテレビアニメに関しては最上級かもしれん。
これが日本アニメの……海外映画のようにその理念を掲げて戦うのではないやり方じゃな。
実は重い話を明るく、コミカルに、誰でも見やすく、京アニのお家芸である日常的コメディとして昇華した。だからこそ、手放しに絶賛できるわけじゃな」
各話解説
完璧な”2期の1話”となった1話
それでは、ここからは各話解説を行いながらも、どのような点が優れていたのかを含めて話して行きましょう!
完璧な2期の1話であったの
カエル「まるでお手本のようだったというけれど、どのような点がそうだったの?」
亀「まず、2期の1話の難しさについて話していこうかの。
1期の1話も難しいのであるが……2期の1話というのは
- 原作を含めた作品ファン
- 1期のみを観ているファン
- 2期から見始めた一見さん
この3者を満足させる必要がある。
つまり、”1期で描いた内容をおさらいする”という必要性がありながらも、”物語がすすむ種をマキ、同じ話を繰り返さない”という難しさがあるわけじゃな。
回想シーンの羅列になったりでもしたら、新作を期待したファンは幻滅する可能性もあるからの」
カエル「特にメイドラゴンは明確なストーリーがある作品ではないから、前回の続きからやるというわけにはいかないよね……」
亀「それでいうと、この1話は完璧であった。
- 主人公が小林とトールであること
- 小林は普通の人間、トールはドラゴンであること
- トールがメイドであること
これらの基本設定であり、作品の根幹部分を説明しながらもコミカルさ、作品の内容を簡単に説明する。しかも、ここでの作画技術も折り紙付きじゃ。
この手腕というのは、特に素晴らしいものであった」
ふむふむ……
その後の物語もまた、良くできているの
カエル「序盤はコミカルに笑いを交えながら、カンナちゃんの動きとかでコミカルさの中にも日常的な動きの魅力を描き出し、しかも主要キャラクターが全員出番があるじゃない?
その辺りもうまいよね。
後半はイルルが登場してシリアスな展開になっていくね」
亀「ここでドラゴンにも派閥があることを語られている。もちろん、中盤のバトル描写の作画・演出もまた見事で話題になっていることも付け加えなければいけない。
そこでイルルの登場によって、様々な問題があることが語られる。
- ドラゴンの圧倒的な戦闘能力(種別としての差)
- 派閥の存在(考え方の差)
などが説明されるわけじゃな。
それでいながらもこの作品最大のテーマである”異文化コミュニケーション”、つまり『育ってきた環境が違うから好き嫌いはイナメナイ』って、ところも描き出しておる」
カエル「……なぜ『セロリ』?
それを乗り越えていくストーリーと、次回を気になる引き、そこで小林が……キャラクターデザインとしては男性にも見えるけれど、実は女性という部分も強調しているというね」
亀「わしはこの設定もとても上手いと感じていて、”女性が男性に奉仕する”というメイドの一般的なイメージから、”女性が女性に奉仕する”という見せ方となっている。本作は恋愛がほとんど描かれておらんが、そこもまた多様な価値観を反映するものではないじゃろうか。
あとは……あまりこれは1話とは関係ないが『ファフニールがゲーム好き』というのも、いいアイディアではないじゃろうか。
つまり圧倒的なポテンシャルの違いも、ゲームならば対等になれる。その上で仲間と協力する必要性を描くという意味でも、いい設定じゃと思うぞ」
10、11、12話について
ここで一気に話が飛びますが、後半3話について語りたいです!
わしは特にこの後半3話の出来が素晴らしいと感じておる
カエル「全体的な構成ってどんな感じなの?」
亀「そうじゃなぁ……
- 1〜3話……カンナ編
- 4〜9話……それ以外のキャラクターの深堀
- 10〜12話……物語の終着点
といったところかの。
4〜9話は明確に誰にピックアップしたというのは、各話ごとに変わる。
しかしエルマを中心に様々な確執や思い設定も開示されながらも、日常的なコメディの面白さを提示していく、といったところではないかの」
カエル「ふむふむ……」
亀「で、10、11、12話についてじゃが……わしはそれぞれを神回、あるいはそれに近い回だと考えておる。まあ、メイドラゴンに関してはどこの回もクオリティが高いのではあるがの。
その中でもこの3話に関しては、特にレベルが高いように感じられる」
カエル「じゃあ、まずは10話ですが……カンナちゃんが家出して、アメリカに行くという話ですね。基本的にはカンナちゃん回となっていますが……」
亀「カンナというキャラクターは”次世代(可能性)の象徴”である。
人間との確執を抱えたドラゴン達と違い、これから様々な価値観を学んでいく。その中で新しい価値観を学ぶであろう存在であるの。
特に10話は”帰るべき場所・家”について語られている。本来はカンナは別世界に帰るべき家があると考えるべきかもしれんが、いつの間にかそれが小林の家になっていた……それがこの話じゃな。
見どころとしては、わしは後半をあげたい。
夏休みの日常を扱っているが、寝ている最中に暑がるカンナが可愛いというのもあるが、小林との何気ない日常の尊さ、そしてアリやてんとう虫に代表されるように、それぞれの帰るべき場所に向けて飛び立っていくという点などもよく、静かな話しながらも神回と呼びたいの」
11話、12話に関してはどうなの?
11話は子供トールがかわいいの
カエル「親の立場もあって育っているけれど、それに疑念を持つ親と娘という構図だったよね」
亀「特に11話はこの物語の最終的な結論と言えるかもしれん。
ドラゴン肉を食べず、マッサージ機のようなドラゴンの尻尾で十分な小林とトールの関係性というのは、お互いにとってのちょうどいい距離感を表しておる。
そして後半ではトールの過去や思いを汲み取りながら、物語は進行していく。最後の夜の中で話し合い、『私はメイドになりたかったんです』のやりとりなどは、その雰囲気も含めてとても良いものであった。
”何がやりたいのかわからない”というのは、むしろ現代の若者の方が届くのかもしれんの」
カエル「そして12話に続きます。
12話はちょっとしたエピローグってところなのかな?」
亀「そうじゃな、その中でもそれぞれが平和に争いあうという部分も見受けられる。
全体的にはほのぼのとしていながらも、カンナの才川への『長生きしてね』とかもそうじゃが、種族間の違いなども描き出しておるの。
少しビターな部分も残しつつ、最後は……コメディ作品ではお決まりといっていいのかもしれんが、走り回りながら物語は終えていくわけじゃな」
改めて総評
ここまで各話を簡単に振り返って、改めて総評といきますか
京アニらしさというのが全開じゃったのではないじゃろうか
カエル「それこそ、ここ最近は『映画 聲の形』や『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』などもそうだったけれど、多様性を訴えるような社会的なメッセージも抱える作品も制作しているよね」
亀「うむ……おそらく、スタジオとしてその意思疎通がしっかりと行き届いているのじゃろう。
時々、わしは京アニというスタジオが怖くなることもあるのじゃが……いや、普通のアニメスタジオは、先ほどあげたように”有名な原作”であったり、あるいは”売れる作品”というのを優先する傾向にある。商売じゃ、それは当たり前じゃろう。
しかし京アニはむしろ、商売の以前に理念が先行しているように感じる。
……時には、それが先行しすぎているようにも、な」
カエル「それは表現者としては紛れもなく正解なんじゃないの?」
亀「正解じゃよ。
正解だからこそ、怖い。
わしはヒカキンも苦手なのじゃが……それは人間性がどうとか、動画の内容がということではない。むしろの、その”正しさ”とでもいうかの、道徳的に何も間違えずに模範であり続けようという姿勢、それが怖く感じることもある。
人間には欲がある。むしろ脱税するくらいの方が、人間的にはわかりやすい。
しかも個人の、監督などの色としての理念ではなく、会社としての理念に感じられる。それが正しく、強固であるからこそ、その”正しさ”が素晴らしいと感じつつも、どこか怖いと思えるかの」
難しい、変な話だね
怖い、というよりは畏れ、といった方が正しいかもしれん
亀「その強固な理念を元に、物語を制作しておる。
そしてそれは、少なくとも『メイドラゴンS』では、わしは文句なしに完璧な作品を作り上げたと感じている。六角形のグラフがあれば、全てが高い綺麗な六角形のグラフになるじゃろうな。
欲、で言ったら京アニは間違いなく表現欲が先行している。集団としてそう感じさせるというのは、それはそれでとてつもないことじゃな。
久々のテレビシリーズでいきなり正解を導き出し、何1つ変化することなく、完璧な作品を作り上げた……そこに畏怖の念を感じている、といったところじゃろうな」
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