それでは、今回は土屋太鳳が主演を務める『アイの歌声を聴かせて』のレビュー記事となります!
この秋話題のアニメ映画じゃな
カエルくん(以下カエル)
「どうも、お久しぶりです。
久々のブログ更新となります」
亀爺(以下亀)
「11月以降はもう少し頻度を戻していければいいの」
カエル「そんな私信はおいておいて、今回は吉浦監督の最新作をレビューします!
では、早速行っていみましょう!」
感想
それでは、Twitterの短評からスタートです!
#アイの歌声を聴かせて
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2021年10月29日
超良い!とチョー惜しい!が交互に押し寄せてくる映画体験
メチャメチャ良いんだけどあと一歩上がりきらない不思議を感じつつも全体としては傑作寄りの良作か
吉浦康裕印がところどころにあり新しいタイプの近未来SF描写とミュージカル描写は◎
応援したくなるタイプの作品かな pic.twitter.com/lXfUo3HR75
絶賛評の多さも納得の作品であったな
カエル「今回は『イブの時間』などの吉浦康裕監督の最新作ということもあって、アニメファンからは注目度の高い作品です!
作品としては、映像的な快楽性は抜群!
そして音楽性も最高で、そこいらへんは文句が全くなかった作品だね!」
亀「一方で、わしとしては不思議な作品での……とても言いながらも、あと一歩どこか伸びきらない印象があった。その一伸びがあれば、おそらく年間ベスト上位も間違いなかったであろうな。
とはいっても、今でも年間ベスト入りの可能性は十分ある作品であるのじゃがな」
それでも、2回観に行っているから結構なお気に入りだよね?
2回目はさらに印象が変わったの
カエル「2回目は音響の特に良い映画館で観に行きましたが、やはりその効果は絶大だったのか、評価は上昇修正になります!」
アイの歌声2回目、少し評価上昇
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2021年10月30日
やっぱ音響って大事
亀「2回目は1回目に感じた違和感はかなり少なくなっているように感じた。わしの中で物語が整理できたのもあるかもしれん。
その代わり、やはり突き抜けるような快感はわしの中では少なかったが、全体として綺麗にまとめられており、グラフで表すとしたら高水準で一定になる作品ではないかの。
今作は音楽・ミュージカル映画でもあるから、特に音響の良い映画館に向かうのは必須じゃぞ!」
そして、今作で間違いなく言えるのは”応援したくなる作品”です!
カエル「もちろん、どんな作品でも売れてくれれば次に繋がって嬉しいものです。
吉浦監督をビックな男に……それこそ細田・新海監督のような監督の名前で観客を呼べるような存在にしたい! という思いもありますし、この映画がヒットしないとオリジナルアニメ映画がさらに苦境に立ってしまうというのもあります。
だけれど、それ以上に単純にもっともっと売れて欲しい!
知名度が上がってほしいと心から思える作品でもあります!」
亀「その意味では、老若男女に愛されるであろう作品であるんじゃな。
わしが観に行った劇場では土曜日の夕方という時間もあるのじゃろうが、お客さんのほとんどがおじさんであった。もちろん、おじさんが悪いわけではないが……おそらく吉浦監督を知る熱心なSFアニメファンであると推測するが、できれば学生やカップルなどのもっと多くの人に広まってほしい作品じゃな。
それだけ間口も広く、精一杯応援したくなる作品でもあるぞ!」
吉浦監督のSF作品
なんといっても吉浦作品のSFがここに登場って形だよね!
どうしても寡作に見えてしまう吉浦監督が、ようやく作り上げたSF作品じゃからの
カエル「吉浦康裕監督は代表作『イブの時間』を2008年の時点でネット配信するなど、先見性のある監督でもあります。今ではネット配信はさして珍しくないけれど、この当時はニコニコ動画が流行り始めたくらいで、YouTuberなんてほとんどいなかった頃。その頃から、ネットの可能性に着目していました。
その後も『アニメ(〜ター)見本市』などで新作を発表するも……正直、近年その作品数の少なさはちょっと物足りないと思ってしまったり」
亀「今でも40代前半であり、『イブの時間』の頃は20代じゃからの。
わしはそれこそ、今の新海誠監督のような形でもっともっと注目を集めるアニメクリエイターになると思っておった。まあ、そう簡単には行かないのじゃろうが……今回の新作はその分、大変心待ちにしておったの。
その意味では今作は吉浦作品らしく『新しくてありうる形のSF』として機能しているのではないかの」
なんとなくだけれど、吉浦監督のSFって未来的なものを信じるって方向性があるよね
ロボットやAIとの交流をテーマにしているものもあるからの
カエル「それこそ、今作なんかは藤子・F・不二雄的な……『ドラえもん』とか『キテレツ大百科』などのような、奇妙な存在がやってきた! って話だもんね。
種族や機械と人間という壁を超えて、普通に存在して交流していく姿をコミカルに描くというね。
しかも、今回はSF感が結構身近で、多分5年後にはこういう家庭も登場しているのかもしれない! って思わせるような、リアリティのあるSF設定がとても良かったね!」
亀「この辺りのSFやロボットの描き方は日本らしいのかもしれんな。
それこそ、日本の漫画・アニメはロボットやSFを好意的に描いてきたものが多い。それこそ『鉄腕アトム』の時代からして、未来の技術は人を幸せにするものだ、という意識が前提にあるからの。
今作もそれと同じく、時にはAIの危険性なども示唆しながらも、それでも新しい技術は人間の生活を豊かにするということを描いている。
そんな難しいことを考えずとも、登場人物たちやヒロインのシオンの存在などが、愛らしくなってくること間違いない作品となっておるの」
声優について
では、語りやすいところでキャストについて語っていきましょう
今回はなかなか良かったのではないじゃろうか
カエル「うちでは本職声優と芸能人声優が混在する作品はバランスが難しいと、いつも語っているんだけれど……今作はその意味でも最高だったのではないでしょうか!
特にシオン役を務めた土屋太鳳の演技は、まさに圧巻!
年間ベストキャラクターというか、主演女優賞にノミネートは間違いなしってくらい、ピシッとハマっていたね!」
亀「今作の場合はかなりアニメっぽい作品となっておる。
それは絵柄もそうであるし、設定や物語全体を含めてもそうじゃな。現実のリアルな人間像を追求するというよりは、アニメの力を信じたものとなっている。そうなると、声優の声もかなりアニメっぽいものが要求されてしまうわけじゃ。
その時に芸能人声優の場合は、本職声優のようなアニメ演技には慣れておらん。ましてや、この映画のアフレコ時期は知らんが今は新型コロナ対策で共演者もブースに入らないことも多く、絵も完成しておらんじゃろうからの。
しかし、土屋太鳳は見事にAIっぽいシオンの声質を出しておった。
また歌唱力もミュージカル女優らしく、圧巻の出来。
演技・歌唱・キャラクターボイス、その全てにおいて文句なしの出来じゃったのではないじゃろうか」
それでいうと、福原遥は声優経験豊富だから全く問題なかったよね
少し苦労したように感じたのは工藤阿須加かもしれんな
カエル「悪くはないけれど、やっぱりこのアニメ声のキャストの中に囲まれると、声をあまり作っていないからこそ、少しの違和感になってしまったのかなぁ。
それこそ、さっき語った”アニメっぽいアニメ演技”をいきなりやれってのは、かなりの無茶振りだし」
亀「その点は土屋太鳳とは真逆じゃな。
土屋太鳳のシオンはAIだからトリッキーな演技が求められる。一方で工藤阿須加はあそこまでやってしまうと、キャラが浮いてしまうかもしれない。まあ、自然な声質だからこそ、生きたキャラかもしれんがの。
もちろん、悪くはなかった。
だが、本職声優に囲まれてしまうと、もう一つ声を作った方が絵などによりマッチしたかもしれん。この辺りはバランスの難しさじゃな。特にインタビューでは他の人よりも先に、最初に1人でアフレコしたと語っているから、その分の難しさも出ているかもしれんの」
カエル「その他のキャラクターに関しては?」
亀「全体的に統一されておって、良かったのではないか。
誰かが目立つわけでもなく、誰かが潰れるわけでもない。ベテランも若手も自分の得意武器を発揮していたような印象じゃな」
以下ネタバレあり
作品考察
とても良かった部分
それでは、ここからはネタバレありで語っていきましょう!
まずは、とても良かった部分について語っていこうかの
カエル「この辺りはかなりざっくりとした意見になるけれど……もう『気になったところ以外全部好き!』という感じになるんじゃないかな?
キャラクターデザイン、動きの演技、声の演技、音楽、SFの使い方……そのほか多くの部分がとても良かったんだよね」
亀「まず、この映画が誰のものかと問われたら間違いなく吉浦監督の作品じゃろう。脚本、絵コンテ、演出、さらには撮影にも一部クレジットされておるし、様々な部分で行き届いている。
その吉浦印を支えたスタッフも見事。世界観から何から、とても優れておった。
例えば細かいところで言えば、シオン以外のロボット・AIの描き方も丸みを帯びていて可愛らしく、とっつきやすい。こういったメカデザインもまた、この物語を盛り上げるのにとても重要なわけじゃな」
ちょっと田舎町なんだけれど、そこがAIの実験都市だから発展したという設定もいいよね
郊外に暮らす少し田舎ちっくなところが、素直な高校生らしさを演出しており、でも高校生らしい生意気さというか、青さもちゃんとあったの
亀「キャラクターデザインも紀伊カンナの絵をいかしておるし、ロングスカートだけれど芋臭くない絶妙なラインとなっておるの。サトミの胸元にリボンもネクタイもないのが、その飾り気のなさを描いているようで、ここがリボンをしているアヤとの対比となっておった」
カエル「あとは……地味に好きなシーンとしては柔道場でドレスを着たサトミが座るときに、スカートがブワッと広がるところなんだよね。こういった細かい描写がまた、フェチ心をくすぐられるというか!
特に柔道場でのジャズテンポの楽曲も含めて、あそこは必見だよね!」
亀「細かい演出としては母親が実験の話をしているときに、サトミ側は明るいのに母親側は部屋が暗くて、その後の転落を示しているようでもあるしの。
ドキドキワクワクさせる要素がかなりてんこ盛りになった、面白い映像体験がずっと続いていたように感じるの」
気になったポイント
①テーマ性の薄さ
では、ここからが長くなりますが、気になったポイントとしては……?
簡単にまとめると、以下の3点かの
- 世界観や哲学性の深みの欠如
- 終盤の盛り上がりの欠け方
- 作為的な物語と悪役
カエル「じゃあ、まずは①の『世界観や哲学性の深みの欠如』について語っていきますか……」
亀「これはわしの問題かもしれんが、AIとアイを掛け合わせたテーマ性、またその描き出し方もとても良かった。
ただし、その世界そのものに深みを感じなかったというか……あれだけ発展したAIの是非を問うなどの哲学性などを感じなかったわけじゃな」
カエル「でも、そこはあえて描かなかったんじゃないかな?
パンフレットでも『シオンはネガティブな感情を出さないことでAIの不気味性を表現しながらも、コミカルに描いている』みたいなことを書いてあったけれど、亀爺のいうような要素を全面にしてしまうと、物語の軽さがなくなってしまうわけで」
亀「結局はまとめて3番に繋がるのじゃが、新しい技術がある喜びは描き出したのものの、社会を描き出すことを、今回はしなかったという印象じゃな。
やはりこれはわしの問題かもしれんが、この映画は優等生すぎるように感じたのかもしれん。つまり……見ていて『面白い映画』ではあったものの、『私・自分の映画』にはなっていないように感じたわけじゃな。
客観視して面白いというか、自分に引き寄せて考えるようなものがない……それはキャラクター描写が表面的であったり……まあ、それは108分nの尺で高校生だけで5人、さらに大人も含めるのでたくさんのキャラクターが出るので仕方ないが『人間や社会を描く』ということは薄めにしたことにあるのかもしれん。
この辺りは『イブの時間』において、社会や人間性、AIと人間のあり方を描いた吉浦監督作品だからこその不満点かもしれんの」
この尺で収めるには5人プラス大人は多かった?
②終盤の物語の盛り上げ方・物語の構成
次に、物語構成に対する疑問点です
まずは今作の物語構成をざっくりと考えていくかの
亀「とてもざっくりと語ると、今作の物語構成は……わしは『イブの時間』に近い、短編を掛け合わせた6作をつなぎ合わせた構成だと考えておる。
つまり、1話15分ほどとして、
- サトミとこの社会の日常とシオンの登場
- ゴッちゃんとアヤの恋愛問題
- サンダーの柔道問題
- サトミの家と近所でのミュージカル
- 大きな起点・シオンの誕生の真実
- クライマックス
まあ、こういったところかの」
カエル「各パート、歌が入るところで物語が切り替わっているという印象だね。
こうでもしないと、5人の高校生の物語を見せることができないもんね……」
亀「4までが子供パート、それ以降は大人パートと言い換えることもできる。
ここで子供描写が素直すぎる印象もあるわけじゃな。まあ、特に男子勢は裏表が感じにくく、ドラマが弱くなってしまっているように思った」
カエル「ゴッちゃんの『なんでも80点だからこその悩み』というのも良かったけれど、結局あれだけで終わっちゃったとか、そういうことが深みを感じにくい原因なのかなぁ」
亀「そして物語としては4で1つの物語が……サトミが幸せになるという物語は終わってしまっているわけじゃな。その後はシオンを救い出す物語になる。それ自体が間違いだとは思わないが、その後のクライマックスが少し弱いように感じてしまった。
これは他のパートのミュージカル描写がとても良く、わしもノリノリになったが、クライマックスは歌がないのも関係しているかもしれん。
それと……やはり、最後の問題にこれも直結するわけじゃな」
③作為的な物語と悪役
疑問点の多くがここに集約されてしまうという意見ですが……
これは趣味も大いにあるかもしれんとは、先に言っておくがの
カエル「えっと……物語が作為的なの?」
亀「まあ、確かに物語というのは作為的なものではある。そこに異論はない。
しかし、本作は……あるいはこれも巧さであるのかもしれんが、説明的なセリフや次のステージに進むためのステップとなる展開があまりにも多すぎて、それがノイズになってしまったような印象じゃな。
例えば……良かった説明的な部分で言えば、冒頭じゃ」
カエル「最初にネットの世界を見せて観客を惹き込み、サトミの日常でAIが普通にある社会である種のユートピアとして表現し、バス内の広告で世界観や重要な企業を紹介する、という手法だよね。
最初の10分くらいで主要登場人物を簡単に説明している手腕も良い。
また、母親のパスワードが『satomi1231』で娘の誕生日というのも、後の展開に大きく役立ち、上手いポイントでもあるんじゃないかな」
説明的な部分が多いと言いつつ、それが悪いだけではないんじゃないの?
ただ、それが真っ直ぐすぎるというかの……とても単純化されているように感じてしまった
亀「それが多く出たのがクライマックスで……物語を盛り上げるために色々と起きてしまった印象が強い。
例えば、なんであんな夜遅くに会長のヘリが来るのか。それは主人公たちをより苦境に立たせるため以外のなんの理由がある?
なぜAIパレードの後、あんなに近くにいた追手から逃げ出せたのか。AIが助けたとしても、AIには強制停止装置があるはずじゃろう。
そういった点が、物語の都合として機能してしまった。
今あげたのは物語の粗の部分であるが、物語を先に進めるためのセリフや展開がたくさんあったのが、大変気になってしまったかの」
この辺りが気になるってことは、のめり込んでいないのかもねぇ
そしてわしが1番気になったのは、悪役の存在じゃな
カエル「うちは基本的に『悪役なりの正義』を重要視している部分があるから、余計にそう感じたのかも……」
亀「西城の意見は掘り下げれば、とても良いものになる。
まあ、この辺りは『イブの時間』ですでにやったものでもあるが……AIやロボットを重視することに反対意見もあるじゃろう。作中では夫婦喧嘩の時に『子供に機械ばかり』という話があったじゃろうが、その手の意見だってある。
AIは友達になる、という意見ばかりではない。
じゃが、結局は西城たちはただの嫉妬心からの悪役に成り下がる。だからこそ、物語にAIに対する社会批評性が薄くなってしまった印象じゃ」
カエル「う〜ん……でも、そこを描くとこの作品が重くなるし、さらに長くなりそうだけれどねぇ」
亀「だからこそ、難しい選択であり、わしの趣味かもしれんがの。
AIは友達、という考え方は、むしろオタクだからこそわしもわかる。しかし、それに反対する意見も必ずあるわけで、どちらの意見もそれぞれの正義のもとに行っているわけじゃな。
なんならば、最後にサトミとトウマが意見を対立させたり、あるいはサトミに選択をさせるべきだったのではないじゃろうか。
その敵との対立を単なる嫉妬心という小さなものに矮小化してしまう……それがシオン以外のキャラクターのネガティブな面をあまり描かないというものになってしまい、キャラクター性が薄くなり、そして社会批評性も薄くなってしまったという印象があるかの」
最後に
というわけで、今回の記事はここまでになります!
色々と語ったが、応援したい良作であることは間違いないの
カエル「興行的には苦戦している模様ですが……確かにアニメの大作が被ってしまっていますが、ぜひ映画館で見てほしい作品です!」
亀「映像・音楽的にも映画館が最も合う作品であるのは間違い無いからの」
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