カエルくん(以下カエル)
「新年1発目の新作映画レビューであり、映画館初めと参りましょう!
その作品はもちろん、うちでは京アニ作品です!」
亀爺(以下亀)
「なぜキングスマンなどを回避したのか、と問われたら、その理由はこの映画を新年1発目に決めていたからであるからの」
カエル「映画初めが京アニでできる機会なんてそうそうないからね!
この作品のために年始も1度も映画館に行かず、じっとしていたぐらいなんだから! かける意気込みが違うよね!」
亀「……それは単に寝正月を過ごしておっただけだがの」
カエル「さて、新年1発めの新作映画レビューだよ! 張り切って行っちゃうよ〜!!」
亀「ちなみに、中二病でも恋がしたい! は1期は鑑賞したがほとんど忘れており、ついこの間総集編を見直した程度であり、2期は全く見ておらん」
カエル「本当は前日のニコニコ動画の一挙放送でも見て予習しようかなぁ、と思っていたけれど……デビルマンが配信開始てそちらを見ていた関係上、すっかり忘れていたというね」
亀「なので若干的外れなことを言い出すかもしれんが、それはそれでご愛嬌で。
では、感想記事を始めるとするぞ」
作品紹介・あらすじ
2012年に第1期、2014年に2期が放映されて、総集編映画も制作された人気テレビアニメシリーズ『中二病でも恋がしたい!』の完全オリジナル劇場版作品。中学2年生の時に抱く誇大妄想気味な痛い少年少女たち、つまり中二病に患者であるこ小鳥遊六花と、そんな過去を持つ冨樫勇太の恋愛を描くシリーズ作品。
監督は京都アニメーションの大黒柱ともいうべきベテランの石原立也。また脚本も『響け! ユーフォニアム』など京アニ作品も担当する花田十輝、総作画監督には池田和美のテレビシリーズと変わらないスタッフが担当、またキャストも継続して福山潤、内田真礼などの人気声優が名を連ねている。
痛い発言を繰り返す中二病患者の小鳥遊六花と冨樫勇太恋愛は順調に進み、3年生に上がる前の春休みを迎えていた。卒業や進路について考える時期になっている六花であったが、相変わらず試験の結果はボロボロの様子。そこに姉である十花がイタリアから日本にやってきて、家族でイタリアに移住するから来るように言い出す。
ここまで順調に進んでいたのにも関わらず、引き剥がされることを危惧した2人は『駆け落ち』をすることになるのだが……
「映画 中二病でも恋がしたい! -Take On Me-」本予告
1 感想
カエル「では、いつものようにTwitterの感想からスタートです!」
#chu2koi
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2018年1月6日
キャラクターの可愛らしさ抜群!
ロードムービーとしても楽しめるし、京アニ作品を追いかけてきた人は嬉しいプレゼントもたくさん!
ちょっと気になったのは石原監督、何かかんがえているのかな?
いくら中二病の終わりだからといっても、色々な思いを詰め込んでいるようで気になる
カエル「もうすっかりと同じみとなった、京アニ作品恒例のフォトセッションもあったりと、ファンに対するサービスが満載だよね。
魅力的なキャラクターも多いから、この先はどうするんだろう? あの4人だけで回していくのか、それともサブキャラクターを出していくのか……そこも注目だね」
亀「では、作品の感想を述べると、1期しかみていない人間が言うのもなんじゃが中二病らしい作品だったということじゃな。
もちろんキャラクターの愛らしさも健在であり、細かい動きの1つ1つがとても可愛らしいものであった。それぞれのキャラクターの個性も発揮されており、よくよく考えると謎なこともあったのじゃが、それでも楽しめる作品となっておるの」
カエル「ころころと衣装が変わるから一種のコスプレ大会みたいなところもあるよね。
森サマーのいつものチアガールの格好から(なんであの格好で街をうろついたのかは謎だけれど)くみん先輩の寝っ転がる姿、凸森の冬の衣装などが特にお気に入りかなぁ。そこまで拘るんだ……とも思いつつ、衣装を変えるというのは結構な労力だけれど、限られたキャラクター数だからこそそれをやってしまうのが京アニの強みの1つだよね」
六花をはじめとした多くのキャラクターの魅力が満載!
あと猫も可愛い!
ロードムービー
カエル「そして本作は何と言っても駆け落ち物語ということで、ロードムービー風の描写も多かったかな」
亀「今回出てくる場所の多くが過去の京アニ作品に由来しておる。京都はもちろん京アニ本社がある場所であり、『たまこまーけっと』や『響け! ユーフォニアム』でも重要な役割を果たしておる。
他にも『AIR』の舞台である和歌山県三浜町『涼宮ハルヒの憂鬱』の兵庫県や、今は無くなったと聞くレストラン、『CLANNAD』の舞台である東京周辺や青森に、『KANON』に舞台である札幌なども歴訪しておる。
そして京アニの過去作のキャラクターなども一部登場していることからも、本作が多くの京アニファンに対するご褒美のような作品であることもうかがえるの」
カエル「結構労力がかかっているよね。作品自体はそれなりに古いから改めて現場検証などもしたと思うし……」
亀「京アニの魅力の1つが緻密な背景じゃからの。
その中でも、特に過去作場所を舞台にすることで色々な整理をしたかったのかもしれん。
……実は、わしとしてはここに引っかかる部分もあるのじゃが……それはまた後ほど語るとしよう」
カエル「? なんだろう?」
このキャラクターたちにまた会えるだけでも嬉しいファンは多いでしょう
ちなみに自分は森サマーとくみん先輩が好きです。
でも1番は十花さん
中二病でも恋がしたい! という作品が描いてきたもの
カエル「この作品が描いてきたものって、恋愛以外に何になるの?」
亀「わしはこの作品を見るたびにBUMPの『分別奮闘記』という曲を思い出す。簡単にいうと自分の過去の夢などをゴミに捨てようと仕分けをするのじゃが、それはまだ燃えるごみだろう、粗大ごみじゃない、全然小さいぞ! と鼓舞するような歌じゃな。
この作品における中二病というものを、例えば将来の夢などと考えればもっと一般的な物語になる」
カエル「夢をいつまで追い続けるのか、という物語かぁ」
亀「六花はまだ高校生じゃから、基本的には何でもなれる。
あれだけ可愛いからアイドルになりたい! と言ってもまだ可能な年齢かもしれん。それでは物語として成立しないから、オタク的成分+夢など非現実のメタファーとして中二病が与えられておる。
しかし、いつまでも夢を追って現実に直視しないでいいのか? ということが主題の物語じゃの」
カエル「ここで夢などをテーマにしてしまうと『夢を追いかけることが正しいんだ!』になりがちだけれど、中二病にすることで『いつかは卒業しなければいけない幻想』になっているんだね」
亀「本作における勇太は過去の中二病である黒歴史を捨てている。それは誰が考えても正解である。可愛らしい少年の自分を捨てることが成長だと考えておるわけじゃな。
しかし、それで本当にいいのかの?
これはちょっと話がずれるかもしれんが、クリエイターに成るならば厨二的な発想、ある種の誇大妄想は非常に重要である。古典的名作でも厨二的な作品はいくらでもある。
たとえ無駄だとしても、かつて抱いた思いを捨てることは本当に正しいのだろうか? ということを描いておる。
だから1期においても最後に卒業しかけた中二病を再び発症させたわけじゃな。成長=中二病からの卒業、ではないということが主題と言えるじゃろう」
カエル「本作においては十花が言っていることは間違いなく正解なんだけれどね……正解、不正解で割り切れないのも人生ってことだね」
亀「……それぽくまとめるとそういうことじゃな」
勇太の男性像
以下作中に言及あり
2 本作の意義とは?
カエル「では、ここからはある意味ネタバレありで語っていくけれど……というかさ、ネタバレと言ってもこの映画のラストって誰もが分かっていると思うんだよね。
だってさ、中二病でも恋がしたいという物語において、六花と勇太が別れるということはありえないと思うんだよね……」
亀「まあ、それを本当にやってネタバレしたらわしでも『嘘乙』というかもしれん。何が起こるのかわからんものではあるが、この物語の帰結する先は明らかに恋愛成就である。
その意味では本作は明らかに書かねばならないものを放棄しており、ファンタジーであるとも言える」
カエル「中二病描写などはファンタジーだけれど、そういうことではないんだよね?」
亀「まあ、一言で表すとセックスじゃな。
同棲までしている高校生カップルがキスすらほとんどしないというのは、まああり得ない話であろう。
そんな存在がいたら、誰だって簡単に手を出す。しかも2人は付き合っており、両想いであることは確定している。なのに、そういった性的なことには全く描かれていない」
カエル「……なんかさ、その手の意見って他の作品でも時々見るけれど、正直京アニ作品でそれは見たくないっていうのもあるんだよね。子供を産むクラナドすら誤魔化したんだから……それが観たかったら昼ドラなり実写の恋愛作品を見るか、アニメなら……『君が望む永遠』辺りでも見ていればいいんじゃないの?」
亀「また懐かしいタイトルが……あれはあれで好きじゃがな。
ここで言いたいのは、本作が描くのは『ファンタジーな恋愛』ということじゃ。かなりプラトニックな、純粋な恋愛じゃの。それすらも中二病らしいといえばらしいのじゃが……」
本作で強く印象に残ったシーンの1つ
演出面では十花と背中合わせの勇太のシーンと、車中で進行方向に背を向ける演出が光ったかなぁ……
あの作品と対になる存在?
カエル「ここで出てくるあの作品って『たまこラブストーリー』のことでしょう?
作品を観ている時に強く感じたのが、このたまこの存在で……もちろん京都でお餅を食べたり、キャラクターのぬいぐるみが登場したりして、正月明け公開だからというのもあるだろうけれど……」
亀「たまこは山田尚子という女性監督が、女性の視点に立って描いた作品である。もちろん進路の葛藤であったり、成長という部分もあるし、もち蔵の勇気ある行動などにも光が当てられておるが、重要なのはたまこという女性主人公が自分の人生と、その恋愛に対してどのように決着をつけるのか? という物語であった。
そしてこちらはその逆であり……石原立也や花田十輝という男性が考えた学生の恋愛ストーリーとなっておる」
カエル「ふむふむ……」
亀「本作において覚悟を決めるのは立花だけではなくて、勇太もまた同じである。かわいい女の子に囲まれて、その中でなぜ立花を選ぶのか? そして彼女に対してどう向かうのか?
本作はたまこに比べると、勇太の……男性役の葛藤がさらに大きくなっておる。
男性側がどのように結論をつけて、彼女に対して向き合うのか? ということについて考えている作品じゃな」
カエル「オタクや中二病でも恋がしたい! という、恋愛初心者の初々しい恋愛劇だからね」
亀「ただし、残念ながらあそこまでのカタルシスや緻密さは獲得できなかったかもしれん。
ロードムービー要素やそれぞれのキャラクターの可愛らしさ、そしてコメディ要素なども詰め込んだ結果、肝心の2人の恋愛に関する描写がかなりおざなりになってしまった感もある。つまり、たまこがそれなりに『リアルな恋愛』を描いたのに対して、本作は『ファンタジーな恋愛』になってしまっておるのが、ちょっとしたノイズになってしまったのかもしれん。
あくまでもキャラクター描写などは添え物であり、メインは2人の恋愛であるようにもっとみせればまた違ったものになったかもしれんが……まあ、多くの人に楽しんでもらう娯楽としては正解じゃが、残念ながら恋愛映画としての要素は薄くなってしまった印象じゃな」
本作はやはり石原監督版たまこラブストーリーのような気がします
本作から見えてくる決意
カエル「でさ、この作品から感じる石原監督の思いってなんなの?」
亀「……これはあくまでもわしの個人的な感想であり、誇大妄想かもしれんがの、石原監督は次のステージに行くのかもしれんな」
カエル「……次?」
亀「例えば、昨年公開したポケモンの劇場版作品は、それまでの作風とガラリと変えてまるで先祖返りするような作品を20周年記念で作ってきた。それはおそらく湯山邦彦監督が20周年を気にポケモンからは手を引き、副監督でありこれからのポケモンを支えるであろう矢嶋監督へとバトンを渡しておる。
過去の自分の手がけた作品やキャラクターを多く出す時、つまり過去を振り返る時は、何らかの意図がある時が多い」
カエル「ある意味では新海誠監督の『君の名は。』もかつての自分の集大成であり、この句読点(。)に込められた思いがすごく多いという話と似ているよね」
亀「わしが知る限りでは石原監督の次の作品は『響け! ユーフォニアム』の新作映画じゃ。そして、おそらくその作品でユーフォは終わるのではないか? と考えておる。もちろん、続けてもらえば非常にありがたいが……
もしかしたら、それが石原監督のある1つの集大成になるのかもしれん。
その前に自分のそれまでのフィルモグラフィーの中でも重要な意味合いのある作品を多く出し、このようなロードムービーの仕上げたのではないか? というのがわしの想像である」
カエル「まあ、単なる妄言ですので!
それこそ厨二的な発想かもしれないので!」
亀「ただ、ユーフォニアムの『届けたいメロディ』も石原総監督であり、監督自体は小川太一が勤めておる。どうにも着々と静かに色々進んでいるような気もしているがの」
カエル「力があるスタジオだけに、色々な人を起用したい! ってことかもしれないけれどね。ただ、石原監督はまだ50代になったばかりで、若いとは言い難いけれどキャリアでは一線級に働ける年齢だから、考えすぎかもしれないけれど!」
亀「まだ50代だからこそ、という可能性もある」
最後に
カエル「全体としては2期を見ていないこともあって個人的には大爆発した作品ではなけれど、でも一定の面白さはある作品だったね!」
亀「いろいろな要素が絡み合っておったからの。とてもバランスのとれた面白い作品であったし、何よりもファンが満足しておればそれが1番じゃ。
わしが鑑賞した劇場では上映終了後に拍手が起こっておった。普通の興行で安易に拍手する文化はどうかと思うこともあるが、それだけ琴線に触れたということなんじゃろうな」
カエル「また4年弱ぶりの物語だもんね!
ファンは特に思うところが多かったんじゃないかな?」
亀「京アニらしさも光る手堅い物語でもあったの」