物語る亀

ネタバレありの物語批評

テレビアニメ『氷菓』感想 京アニの作画の裏にある、高校生には過酷な選択……

カエルくん(以下カエル)

「ちょっと前の作品になるけれど、『氷菓』についてはいつか触れなければいけないなぁ、と思っていた作品で……」

 

ブログ主(以下主)

「ニコニコ動画で一挙放送されて、実写版も公開されるタイミングで記事にするのは正解なんじゃないかな?

 まあ、アニメ版と実写版を比べるのは、筋違いでもあるんだけれどな

 

カエル「原作の実写化であって、アニメ版の実写化ではないからね。京アニ製作ということもあって、知名度も高いからそう考えるのはわからなくはないけれど……『ピンポン』『僕だけがいない街』のアニメ版と映画版を比べるのようなものだからねぇ」

主「語るべきは原作と、ということになるんだろうけれどさ……でも、残念ながら自分も多分アニメ版と比べてしまうと思う。

 それだけのクオリティを誇る作品だから。

 最初に言ってしまうと、自分も数ある京アニ作品の中でも、テレビアニメだけに限定したら1番好きな作品かもしれない」

 

カエル「知名度の高さや人気度だけなら、そこまで上位の作品じゃないような気もするけれど……」

主「それこそ『涼宮ハルヒの憂鬱』『らき☆すた』『けいおん』『CLANNAD』は今でも根強い人気があるだろうし、女性ならば『Free!』とかに票はいくだろう。近年だと映画も公開されるし、自分も大好きな『響け!ユーフォニアム』もある。

 その中では大ヒットしたとまでは言いがたくて、ちょっとだけ地味な印象もあるけれど、個人的にはユーフォか氷菓が京アニではずば抜けている。

 この2作が表現したことっていうのも自分には結構近いものがあると思っていて、それも記事の中で語っていくよ

カエル「では、感想記事を始めましょう!」

 

 

 

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1 圧倒的な作画の良さ

 

カエル「もう京アニクオリティだからこれは語る必要がないのかもしれないけれど、作画の力が圧倒的にずば抜けているよね

主「自分が注目する作画のポイントの1つに『桜の美しさ』がある。これはかなり限定されてしまう部分かもしれないけれど、でも桜が出てくる作品において、その美しさというのは日本人には重要な描写である場合が多い。

 それこそ『散りゆくものの象徴』であったりね」

カエル「他の花とは違う、特別な意味合いを持ちやすい花だもんね」

 

主「自分が感銘を受けたのは、やっぱり『秒速5センチメートル』で文句なしの1位。作られてからそれなりの年月が過ぎるのに、この映画以上に桜が美しい作品はまだ出てきていないんじゃないかな? 思い出補正があるのも否定しないけれど……

 そして2位が『氷菓』と『放浪息子』が争っているところで、この3作品とも繊細な心理描写や、青春期のきらめきと絶望感を見事に切り取って名作たちだ

カエル「特に氷菓は最終回の桜が息をのむほどの美しさで……秒速はまだ映画だし、約1時間と上映時間が短いことや、制作スケジュールなどを考えたら有利なのはわかるけれど、毎週放送の、しかも2クールあるテレビアニメの最終話でこのクオリティを持ってくるというのが素晴らしいよね」

 

主「その繊細さは当然のようにキャラクター描写で発揮されていて、ヒロインの千反田えるが主人公の折木奉太郎に対して『私、気になります!』という表情の可愛らしさであったり、そのバリエーション、髪の毛1本にまでこだわる作画の力というのは、はっきり言えば異常なレベルだよ。

 本作はミステリー作品だけれど、派手な爆発などがあるタイプのミステリーではない。

 そういう快感原理の大きいシーンをド派手にするわけではなく、むしろ日常的なシーンを丁寧に作画して、世界や関係性を作り上げていくという京アニの意地と制作の方向性がいかんなく発揮されている作品でもある」

 

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圧倒的な桜の美しさが問答無用の説得力を持つ

 

欠点もちょっと

 

カエル「序盤に語っておくけれど、欠点もあるの?」

主「先ほど語ったように本作は『日常系ミステリー』なわけだ。派手な殺人事件も爆発もない。これは作劇としては本来はそれなりに不利なんだけれど、持ち前のキャラクター描写や演出能力でカバーするどころか、それを却って味にしている。

 だけれどさ、たった1つだけ自分には評価できない欠点があって……

カエル「欠点? これだけべた褒めなのに?」

主「……正直、ミステリーとしては退屈だよねぇ

 

カエル「……それは人にもよるだろうし、話にもよるだろうけれど」

主「まず1話を見たときに意味がわからなかったんだよ。え? これがミステリーになるの? っていうさ。

 そのあとの『氷菓』をめぐるミステリーが種明かしされても、正直『ふ〜ん』という気持ちが大きかった。裏切られるような大ドン返しというものはなかったね。それが本作の長所でもあり、短所でもあるところなんだろうけれどさ」

カエル「その爆発とかがないのが良かったんじゃないの?」

主「氷菓のミステリーってジワリジワリと効いてくるタイプであって、鑑賞直後、読後直後ではそこまで派手な余韻を残すようなものではないんだよね。米澤穂信の小説全体に言えることかもしれないけれど、ミステリーとしての味を望むとちょっと期待はずれなところがある。

 だけれど、物語としては中々いい。

 本作はトリックとか犯人は誰か? という典型的なミステリーを期待するよりも、その奥にある登場人物たちの葛藤や思い、悩みに注目していかないと、面白みはわかりづらいんじゃないかな?」

 

カエル「……結構世間評価も高い作品だけれどね。実写はそこのあたりどうすんだろう? 正直、『これはミステリーですよ、大どんでん返しですよ』と宣伝したらちょっと非難もありそうだけれど……」

主「そこも含めて注目だね。まあ、奉太郎とえるがイチャイチャしている描写は増えるんだろうけれどさ、アニメ版も相当イチャイチャしているから、そこは目くじら立てるところではないんじゃないかな?」

 

 

 

2 アニメ版氷菓が描いたもの

 

カエル「では、氷菓という物語って一体どういうお話だと思うの?

 先の説明では『響け! ユーフォニアム』に似ているという話だったけれど……」

主「やっていることは似ていると思うんだよね。

 ユーフォって、特に1期は『才能を持つ者と持たざる者の対決』というのがメインだった。みんな全力で物事に取り組んでいるけれど、それが必ずしも結果に結びつくわけではないという現実を描いている。

 そしてそれは氷菓も同じなんだよ

カエル「才能のお話かぁ」

 

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主「自分が1番好きなのが『クドリャフカの順番』に収録されている、十文字事件でアニメならば2期目のメインのお話だけれどさ、これは奉太郎がそこまで積極的に動かず、里志が積極的に動き回るわけだ。

 そしてもう一方で必死に部誌の『氷菓』を売るえると、漫研をめぐる摩耶花の奮闘がある。このお話の根本にあるのが『才能の明確な差』であるわけ」

カエル「結局里志は名探偵にはなれず『データベースは結論を出せない』と言って、色々と誤魔化してしまうわけだもんね」

主「摩耶花なんて、知らなかったとはいえかなり残酷なことをしてしまう。ナコルル先輩が言う『面白いか面白くないかは人による』というのは確かに真理だけれど、残念なことにその『人による』を超えてしまう作品は……確かにあると思う

 

カエル「ある派なんだ」

主「そういうものを描ける人が『本物』であり『天才』なんだろう。自分はそっち側の人間じゃないから、余計に痛感するよ。あの十文字事件を解決したときの奉太郎を見つめる里志や、摩耶花の気持ちが痛いほどに伝わってきた」

  

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個性と可愛らしさを両立させたキャラクター達

 

奉太郎の苦悩

 

カエル「だけれど、奉太郎だって何でも持っている天才ではないよね?」

主「十文字事件で奉太郎の出番が減ったのは、それ以前にたくさん描かれているというもあると思う。というのも、一見すると優秀な人間であると思いがちな奉太郎だけれど……いや、それはそれで間違っていないんだけれど、それでも利用される側の人間でもあるんだよね。

 姉の手のひらでコロコロと遊ばれてしまい、そして女帝にはいいように使われてしまう。その圧倒的な『才能の差』に苦悩している様が何度も描かれていた。

 だから、探偵役で主人公ではあっても、決して知性が誰よりも優れているというシャーロック・ホームズやコナン君タイプの名探偵ではない。むしろ、同じ探偵であっても彼らに出し抜かれてしまうそこそこ優秀な人間……そのような立ち位置にいるのが奉太郎だ」

 

カエル「その意味では劣等感があるんだね」

主「姉や女帝のようなタイプへの苦手意識ははっきりと描かれていたからね。

 だけれど、実はそういうタイプのことがそこまで嫌いではないんだろうね。それはえるに対する態度でわかる」

カエル「えるに?」

主「人を使う側の人間という意味では、えるは女帝などと同じなんだよ。だけれど、彼女はそこに余計な策などを弄することなく、純粋な感情をぶつけることで人を動かす。

 なんだかんだ言っても人に焚付けられると動くのが奉太郎なんだよね

 

カエル「まあ、奉太郎1人だけじゃ何も起きないし……」

主「キャラクター論としては、やる気のない主人公に対するエンジン役がえるであって、これは同じ京アニならばハルヒとキョンの関係性に近い。そうじゃないと物語が進展しないからで……例えば『アイドルマスター』の天海春香などもそういうタイプだよね。

 キョンや奉太郎のようなタイプは何かがないと自発的には動き出さないから、それをカバーするための人物像だね」

 

カエル「物語を動かす賑やかしみたいなタイプで、ちょっとトリッキーだったり、向こう見ずなところがあるけれど、そのパワフルな言動で周囲を動かしていくタイプだね」

主「振り回される側の人間というのは、別に振り回されることを嫌がっているようだけれど、心底嫌がっているわけではないんだよ。むしろ、振り回されているうちにそれを望むように変化していく。

 では、奉太郎はどのように変化していくのだろうか?」

 

 

 

3 青春は、優しいだけじゃない。痛い、だけでもない。

 

カエル「これは……氷菓のキャッチコピーだよね」

主「氷菓という作品は思春期を扱ったこの年代でなければ成立しないところがある。つまり、自分に何ができるのか、何ができないのかをはっきりと見きわめることがまだできない年代であるわけだ。

 『無限の可能性が有る』とか『人生は白紙だ』という青春期を表す希望に満ちた言葉はいくらでもある。だけれど、それは裏を返せば一歩間違えると悲惨な人生が待っているかもしれないということでもある」

カエル「う〜ん……まあ、そうだけれど……」

 

主「奉太郎だけじゃない、えるも、里志も摩耶花も自分にできることとできないことを、じっくりと見極めていく。その間で自分がやりたかった道を諦めるかもしれない。結局、自分は普通の人間であり、特別な人間にはなれないんだと痛感するかもしれない。

 里志の場合は21話のバレンタインのお話で決着がある程度つく。つまり、勝ちたいと思って必死になっていたけれど、それでも絶対に勝てない相手がいることを学んだからこそ、楽しんで生きることに気持ちをシフトさせた。でも、そのことに対する迷いがあって、それが摩耶花に対する思いに応えられない気持ちになっている」

カエル「一方で奉太郎の方は22話でこちらもある程度の決着を迎えるね」

 

主「ここでえるはそれまでのドタバタや、日常を歩む中で自分の果たすべき責任とその責任の果たし方について考えるわけだ。そして自分ができる方法を見つけて、その道を歩く決断をする。

 そして奉太郎もまた、自分にできることを見つけて、それまで無気力で省エネ主義であったはずなのに、そうとは思えない選択肢を示した。この変化がとても大きい。

 それはまだえるには伝えられていないけれど……さ」

 

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えると好対照である『使う側』の人間の女帝・入須先輩

 

才能と取捨選択と

 

カエル「結局は取捨選択の物語ということなの?」

主「氷菓という物語を紐解いていくと、この『選択』というものが結構重要なワードになっていると思う。

 例えば『氷菓』に関しては、えるの叔父さんの本当の気持ちが明らかになって、それは当時の選択を今でも後悔しているかのような、英雄的行為でもなんでもなかったということだ。

 そしてそれは『出来ることとできないことを見誤った者の末路』とも言える。

 『愚者のエンドロール』は脚本家の本郷の書いた脚本を考えようという物語だけれど、そのミステリーが解かれた時に見つかった答えはやっぱり『才能と感性の差』ということだった。

 そして『クドリャフカの順番』は……もう語る必要もないよね」

 

カエル「……こうやってみると人は死なないけれど、結構残酷なことをしている物語でもあるんだね」

主「未来あふれる、夢を追う若者に『お前の才能なんてこんなもんだ』と突きつけるという意味では、非常に残酷なことかもしれない。突きつけられて幸せなのか、不幸せなのか……それはわからない。いつまでも夢を追い続けてしまう人もいるし、選択を誤ってしまった叔父さんのような人もいるし。

 そういった色々な人たちを見て、そして下した選択……これが如何に重くて尊いものか

 

カエル「……夢を追いながらも責任を果たし、そしてベストな道を選び取る勇気かぁ」

主「それはすごく難しいよ。ましてや15歳、16歳くらいの高校生にその選択は無茶振りでもある。だけれど、それはやらなければいけないんだよ。

『信じれば夢は叶う』なんて、残念ながらそんながらそんな言葉は嘘だ。

3月のライオン』でもあるけれど『人より努力して頑張れば、ある程度の願いが叶う』という方がまだ親切である。

 それすらも嘘かもしれない。

 自分が持って生まれたもの、持っていない才能……それと如何に向き合って未来を選び取るか。

 それが氷菓という物語が持つ、本質なんじゃないか」

 

 

 

最後に

 

カエル「じゃあ、最後になるけれど……キャラクターでいうと誰が好き? 自分はえるになるのかなぁ」

主「……お姉ちゃんか入須先輩

カエル「……入須先輩はともかく、珍しいところを選んだね

主「いや、やっぱりゆかなの声には逆らえないよねぇ。あれが別の人だったら、場合によっては『なんだよ、このクソ女よ!』って反感を抱くかもしれないけれど、ゆかなの声だったら『なんでもいいです! 全力でやります!』って気持ちになるし。

 それからゆきのさつきでもそれは同じだよねぇ。今作は声優と役が見事に一致していて、そこも評価が高いね」

 

カエル「……あれ? あれだけ色々と語っておいて、最後はそういうキャラクターの萌えで終わっていいの?」

主「いやー、やっぱりキャラクター描写って大事よ? 本作では奉太郎とえるのイチャコラも見どころの1つであるのは間違いないしさ」

カエル「……一般層に置き換えたら実写映画で人気役者が恋愛する作品の方向性は、やはり正解だということかもしれないね。

 萌えって大事だわぁ」

 

 

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