カエルくん(以下カエル)
「今週の注目作! あのエウレカセブンが帰ってきたよ!」
ブログ主(以下主)
「エウレカかぁ……う〜ん、正直このリブート企画ははじめに聞いた時は微妙だなぁと言う印象だったんだよね」
カエル「え? ちょっと否定的なの?」
主「エウレカってさ、ちょっとバランスが難しい作品で、実は色々と破綻していると思う部分も多いんだよ。専門用語は多いし、かなり独特な作品だしさ。だけれど、それが奇跡的なバランスによって成立している作品で、世間的には名作と呼ばれている。
そのバランスが難しいからこそ、続編などを出すとかなり失敗する確率が高いと思うんだよね」
カエル「奇跡的なバランスねぇ」
主「名作と呼ばれる作品の中にはそういうものもあって、例えばエヴァなんてそうじゃない?
エヴァってかなりデタラメな演出や設定がたくさんあるし、庵野秀明以外が下手に手を出したら間違いなく破綻すると思う。だけれど、奇跡的なバランスと演出能力によって、むしろそれが味になっている名作なわけだ。このような作品は迂闊に続編などに手を出すことができない。
エウレカもその中の1つだと思っていて、詳しくは記事の中で語るけれど、続編などが失敗しているのは当然のような気がしている」
カエル「その中でリブート企画だから、思うところはあるのかな?
じゃあ、それがどのような形になったのか……これから語っていきましょう!」
作品紹介
2005年から2006年に朝アニメとして放送されていた『交響詩篇エウレカセブン』の物語を再構成し直し、新規カットを追加して劇場化した。セリフも再構成の上、新録したものになっているが、一部キャストが変更になっている。
10年前、世界壊滅の危機であった『サマー・オブ・ラブ』をひき起こしたアドロック・サーストンは世界を救った英雄となっていた。その息子、レントンはチャールズとレイのビームズ夫妻の元へと預けられていたが、家出をして辺境の街ベルフォレストで生活を送っていた。
そこに現れた謎のLFOニルヴァーシュと少女、エウレカ。この出会いが世界にどのような変化をもたらすのであろうか……
映画『交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション1』予告編
1 感想
カエル「では、まずは感想だけれど、今作は説明が難しいけれど、テレビシリーズレベルのネタバレはしていきますので予めてご了承下さい。
Twitterの短評はこちら
#交響詩篇エウレカセブン
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2017年9月16日
確かにこれは賛否割れるかも
構成にも難があるし、かなり物語をいじってきているし、初見には全くオススメしない
欠点を挙げればたくさんあるよ
でもね、自分はこの映画を否定できない
おかえり、レントン、エウレカ
主「正直、映画としての完成度が高いとは全く思っていない。かなり独特の映画であるし、総集編とも新作とも違う形態だから戸惑いもあると思う」
カエル「今作は序盤は完全新規の物語だけれど、途中から過去にテレビ上映された物語を台詞などの変えて、新しい物語に再構成しているんだよね。
形式としては『ゼーガペインADP』と同じで……こちらもエウレカと同じくらいの時代に放送されていたロボットアニメだけれど、密かな人気が有る作品で、それが昨年公開されたけれど、テレビシリーズに新規カット、新キャラを織り交ぜて新しい物語に作り直しているんだよ。これはゼーガペインという物語が他のロボット作品と根本的に違うからできることだったんだけれど……」
主「どちらも根強いファン層を抱えるし、音楽のスタイリッシュさも売りの1つだったという意味では似たようなものかもしれないな。
エウレカに話を戻すと、本作はかなりの改変が加えられている。そのせいで色々とおかしくなってしまっているところがある。そして説明のために字幕がたくさん流れるけれど、読み切るには早すぎるし、無視するには多すぎる。単純に情報量が多すぎて単なるノイズになっている。
それから時系列もすぐにシャッフルしてしまうから、今がどういう状況なのかわかりづらい。
そんな難はすごくたくさんある。
初見さんにはまったくオススメしないし、ファン向け映画であることはもう間違い無いんだよ」
カエル「じゃあ、あまり面白く無いの?」
主「……でもさ。自分はこの映画を否定することができないんだよ。
もう10年以上も前に、土曜深夜のアニメを見て寝る時間が遅かったのに、休日の朝7時に目を覚まして、眠気まなこでボケーっとエウレカセブンを見ていた人間からしたら……しかも第2クールのレントンの逃避行が大好きで、そこだけ何度も繰り返してみた人間からしたら、この映画を否定することができない。
この作品は間違いなくエウレカセブンだし、今の時代に見事に合致したリブート企画に仕上がっている」
レントン・サーストンという『ガキ』がどう成長するのか……
序盤の映像が圧巻!
カエル「ネタバレになれない範囲で新規カットについて話していくけれど、もう開始10分も観たらトンデモナイ映像クオリティにクラクラしちゃうよね!」
主「エウレカセブンの1つの売りが戦闘の作画であって、ロボットもので空を飛ぶというのは王道の快感の1つだけれど、今作の場合はサーフィンをしているように空を飛ぶんわけだ。
その時の動きがいわゆる『板野サーカス』と呼ばれるミサイルやKLFの複雑な動きなんだけれど、これがふんだんに使われている。この作品は初見向きではない、と語ったけれどさ、この序盤の映像クオリティの高さはアニメファンなら1度は見ておいてほしいと思うよ。
それこそ、板野サーカスの代表格である『マクロスプラス』などにも匹敵する出来だから!」
今作は結構マクロスを連想されるところが多いような……
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カエル「これは京田総監督のインタビューでも話しているけれど、最近のロボットアニメはCG作画ばかりだもんね。それはそれで『ファフナー』とか『マジェスティックプリンス』のようにグリグリと視点も動かして、まさしくロボットアニメにおける神回! と思わせるシーンがすごく多くていいんだけれど、手書きはまた別の味があって」
主「今では『機動戦士ガンダム』シリーズくらいしか手書きのロボットアニメはないという話で……まあ、あってもTRIGGERなどのスーパーロボットタイプの作画になってくるし、一時期よりは明らかに減ったでしょう。確かにスピード感のある作画をするならばCGの方がコスト的にも向いていることもあるかもしれない。
多分、手書きのロボットアニメの作画としたら……近年最高峰なんじゃないかな? あれだけのクオリティのものを劇場で見る機会はほとんどないから、是非とも鑑賞してほしいね」
以下ネタバレあり(テレビ版を含む)
2 設定変更に伴う違和感
カエル「ここからは作中に言及しながら語っていきます! ちなみに、テレビアニメ版ももう放送10年以上過ぎているので、がんがんネタバレしていくので悪しからず!
まずはどうしても考えてしまうのがこの違和感だよね。
テレビシリーズ2クール目に登場するチャールズ・レイのビームス夫妻がいるけれど、テレビでは月光号を飛び出したレントンと出会って引き取るというストーリーだった。この映画では元々養父として引き取っていたのを、レントンが家出をしたという設定になっていて……」
主「う〜ん……この設定変更ってよくわからないんだよねぇ
テレビアニメ版だとアクセル・サーストンというレントンのお爺さんが育てているけれど、今作では色々な事情があってアクセルが出られなくなってしまった。その影響でこの設定に変更したんだろうけれど、その割にはレントンがよそよそしいし、いつ出て行ったのかもわからない。何年間ビームス夫妻と暮らし、どれくらい家出をしたのか全くわからなくなっている。家出中は1人暮らしだったみだいし」
カエル「家出しているのに退屈な日常と呼ぶ町に暮らして、学校にまで通う必要はないもんね。
これは青野武さんが亡くなったことによってアクセル・サーストンを出せなくなって……出したくなかったという事情があるようだけれど……」
主「これは仕方ない事だけれど、自分はこの判断を断固支持する。自分も青野さん以外のアクセル・サーストンは考えられない。自分は青野さんのファンだから、やっぱりBTTFのドクも青野さんのままでいいと思っているし。
声優変更に対しては……これは森川智之は全く悪くないし、むしろ新たなホランド像を作り上げて評価は高いけれど、でもやっぱり藤原啓治じゃないとホランドじゃない! という思いもどこかにある。
だけど事情もわかるからさ……悪く言うことができないんだよねぇ」
個人的にはエウレカセブンで1番好きなキャラクター、ビームス夫妻
だからこそこの後が辛くなる……
ビームス夫妻とレントン
カエル「この設定変更で見えてきた違いってどんなところ?」
主「エウレカセブンって『家族と継承の物語』でもあるんだよ。例えばアクセル→アドロック→レントンという系図があって、アドロックが英雄と呼ばれ、その息子であることを否定している。アクセルは普通に生きて欲しいという思いを抱えながらも、どこかでレントンが外の世界に飛び出していこうとする思いを……その背中を押してあげたいという気持ちもある。
そしてレントンは町を出て、色々な人に会って、エウレカという好きな女の子に翻弄されていきながらも、大きな成長を遂げていく」
カエル「今作ではなかったけれど、一応エウレカって『ママ』なんだよね。もちろん、実の子供じゃないけれど……」
主「ビームス夫妻の元で擬似的なものであっても家族を知り、父と母と子供の関係になる。そしてそこからさらに飛び出してエウレカの元に行き、ある瞬間に自分の心を縛っていたアドロックや姉と出会い、和解して……そしてエウレカ達と5人の『家族』になる。
エウレカセブンという物語はレントン・サーストンという、厳格な祖父しか知らない子供が父や母を知り、本当の自分の家族と向き合い、そして家族を形成していくまでの物語でもある。
そういう『家族と継承』の物語なんだよ。
そしてその鍵がアドロックが守ったエウレカであり、そのエウレカを再び守るのが息子であるレントンであるわけだ」
カエル「そう考えるともう1人の主人公格であるホランドもそうだよね。タルホとの間に子供を作って、兄との決着をつけて過去の因縁にケリをつけて……」
主「そしてアネモネは父親(代理)からの脱却と自立だ。好きな男のために父親との決別を選び、本当の意味で自分で選んだ道を歩み始める。
エウレカセブンってレントンとホランド、エウレカとアネモネという2つの軸が家族関係も含めて複雑に交錯している物語なんだよね」
『英雄』アドロック……彼が最期に臨んだ願いは……
3 本作が新たに描き出した物語
カエル「基本的にはテレビシリーズを踏襲しているけれど、本作が新しく描き出した物語というと、どういうことなの?」
主「う〜ん……まず、レントンの子供らしさ、未熟さがはっきりと出ていた。
レントンはかなりのガキでさ、正直むかつくところもたくさんあるわけ。勝手に行動するし、そのせいで大きな犠牲が付きまとう。理屈よりも感情で動き回る、まさしくガキなんだよ。
だけれど、レントンが『ガキ』であることも、この序盤では大事なんだよね」
カエル「ガキであることが?」
主「1クール目で憧れの月光号に乗ってクルーの一員にはなったけれど、現実を知ったレントンは月光号を飛び出していく。そしてその先でビームス夫妻と出会い、様々な経験をして、それでもエウレカのところに帰りたいと願って飛び出していく。
『スタンド・バイ・ミー』とか、最近見た映画では『キングス・オブ・サマー』などもそうだけれど、少年の成長過程にはこの安寧の地である家(実家)を飛び出して家出をするというものがあるんだよ」
カエル「本作は2回ビームス夫妻の元から家出をしちゃうわけだけれどね」
主「それはちょっと多いかなぁと思うところもあるけれど……描かれていないところでは月光号も飛び出して、計3回飛び出している。これは多いといえば多いけれど、その描写をあまり見せていないから気にはならないかな?
でも最後の家出はそれまでの家出とは全く違う。帰るところを残したフラフラとした家出ではなくて、決意を持って外に飛び出しているわけで……その意味ではもう家出とは言えないかもしれないね。
そしてその外を飛び出したということ、それがレントンの最後の決意につながる」
カエル「若者よ、走れ! というのは青春映画の王道でもあるしね」
主「1作の映画の構成としては正直、失敗していると思うよ。
肝心の相方であるエウレカの描写も少ないし、同じ場面を何度も見せるし、走り出した意味だった初見ではわからない。そこからの神回と評判の『モーニング・グローリー』までいって、初めてオチができてカタルシスが生まれるから、そこを描かないのは構成が上手くいっているとは思えない。
だけどさ! テレビシリーズを見てきたファンとしては、レントンが最後に月光号に向かって……エウレカに向かって走り出す、そのガキが成長した姿だけで十分というのもその通りなんだよ!
だからこの映画は否定できない。
自分はとても好きだし、紛れもなく『1人のガキが成長していく物語』であったエウレカセブンのリブート企画として高く評価する」
もちろんKLF(メカ)もとてもカッコイイ!
その他のことについて
カエル「そもそもさ、なんでエウレカの長い話数の中で2クール目が一番好きなの?」
主「エウレカセブンってバランスが悪い物語で、名作や神回もあるけれど、意味のわからない回もあるんだよ。例えばよく言われるのがサッカー回で、初見時は『……これは伏線なのかな?』と思ったら、別になんでもなかった。
2クール目というのはレントンが本当の意味で色々な世界を知る物語だと思うんだよね。その象徴がボダラクの女の子の物語で……」
カエル「あの当時でも思うところがあったけれど、今の方が時代とも合致しているかもね。テロリストと同じ宗教を信仰する女の子を、果たして救うことができるのか?
もちろん、女の子とは関係ない。だけれど、感情としてはそう簡単に割り切れない……」
主「あの時のレントンが正しいか間違っているかの2択ならば、やっぱり正しいよ。
だけれど、正しいことが正解じゃない。だから世界は難しい。
両親が怒ってくれたらまだ楽だったかもしれない。ホランドたちのように怒鳴り散らかしてくれれば、まだ反抗できた。自分の正しさを主張できた。でも、誰もレントンを責めないからこそ、自分のやったことを直視することになる。そしてその時にレントンはエウレカについて直視して考えるわけだ。
この2クール目ってガキが少し世界を知って大人になる物語だから好きなんだ……もちろん、ビームス夫妻が大好きというのもある。元々『ガンダム』で言ったらランバ・ラルや『SEED』だったらバルトフェルドのような、主人公を導くかっこいい味方のような、でもやっぱり敵のような大人って大好きなのもあるけれどね」
カエル「それから2クール目というと25話『ワールズ・エンド・ガーデン』もなかなか衝撃だったよね……」
主「単なる設定開示の回のようで不思議な世界観なんだけれど……自分はエウレカ屈指の神回では? と思っている。
絶望病にかかってしまった奥さんを看病しているけれど、彼自身は絶望していない。だから、これは絶望病ではない、という視点の変換を示唆していた。エウレカというのは人間じゃない。人型コーラリアンだから、意思の疎通は図れるけれどやっぱり苦難の道だし、苦しいことも差別もあるかもしれない。
だけれど、それでもレントンが拒絶しなければ問題ない。
例え彼女の姿がどれほど変わっても、レントンが思い続ければそれで問題ない。
そういうそれまでの視点を大きく変える1話だったと思うし、ここを挟んでからの26話だったからこそ、より『モーニング・グローリー』が輝くんだろうね」
最後に
カエル「じゃあ、最後になるけれど何か言い残したことはある?」
主「あと音楽が最高です!
特に誰もが語るだろうけれど、尾崎裕哉のEDがすごくいい! 尾崎豊を父に持って、父親のモノマネのような曲を歌っていたりもして、正直かわいそうだな、と思ったこともあった。
だけれど今回の『Glory Days』において尾崎豊と全く違う音楽性を紡ぎ出している。音楽という同じ道を歩むけれど、だけど父とは違う道を行く……これこそレントンじゃん!
そして『モーニング・グローリー』を連想させる曲名といい、文句なし! エウレカの作品にも合致しているし、歌詞も含めて完璧なアニソンでしょう!」
カエル「予告でも色々と衝撃があって、この先の楽しみな作品だよね」
主「いやー、アネモネ好きとしては楽しみにしたいね!
2018年かぁ……ちょっとかかっちゃうけれど、すっごく楽しみにしています!」
カエル「じゃあ、みなさんご一緒に!」
『続く!!』
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