カエルくん(以下カエル)
「今回は奥田民生が重要な作品でもあるけれど、正直奥田民生ってよく知らないんだよ……80年代くらいに出てきたユニコーンで大人気だったことは知っているし『さすらい』
とか、最近ならば『カーズ クロスロード』のEDを歌っていたことはわかるけれど、そこまで積極的に聴いてはいないんだよねぇ。」
ブログ主(以下主)
「まあ、今の若い子に人気のアーティストってタイプでもないしな。音楽好きならば誰もが一度は通るだろうけれど」
カエル「80年代音楽大好きな大根仁監督らしい選択だけれど、主はどれだけ好きなの?」
主「どちらかというと盟友の井上陽水の方がずっと聞いていたかなぁ……
作中でさ『奥田民生が好きって言いづらい……』みたいなシーンがあるんだけれど、バカを言うなや! って言いたくなったね。民生はまだ今でもカッコイイ大人像の1つじゃない?
こっちは学生時代に、さだまさしやかぐや姫を聞いていたんだよ! こっちの方がハードル高いわ!」
カエル「……まあ、当時でもさだまさしを聴いている人なんて同級生に全くいなかったからね。話が合わないだころか、奇人変人の仲間入り間違いないけれど……」
主「民生は当時でも、ちょっと背伸びしているちょっとサブカルが入っていそうな学生にとっては『カッコイイ大人』の1つだったんだよ。わかる人にはわかる良さがあるというかね。だから奥田民生に憧れるっていうのは、普通のことだと思うんだよね、自分には」
カエル「……ちなみに主が思うかっこいい憧れる大人像って何?」
主「男性ならば泉谷しげるとか、山下達郎とか?」
カエル「……やっぱりその年代になるんだね。
じゃあ、映画の感想記事を始めるよ」
作品紹介
『SCOOP!』や『バクマン。』『モテキ』などを監督している大根仁の最新作。主演の奥田民生に憧れる雑誌編集者を妻夫木聡が、その相手役を水原希子が務め、松尾スズキ、新井浩文、リリーフランキー、天海祐希らが脇を固める。
若い頃に見たミュージックステーションに出演していた奥田民生を見て以降、奥田民生みたいなかっこいい大人になりたいと憧れる雑誌編集者のコーロキ(妻夫木聡)はライフスタイル雑誌へと転勤になる。そのタイアップ先で出会った美女、天海あかりに一目惚れしてしまう。なんとかお近づきになりたくて、必死に背伸びアピールを重ねるコーロキだが、あかりは出会った男を狂わせるガールだった……
『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』予告編
1 感想
カエル「というわけで、まずはネタバレなしの感想に入ります。まずTwitterの短評はこのようになっています」
#奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2017年9月16日
やっぱり好きです、大根仁!
今作は圧倒的に水原希子劇場! 初登場からはっきりわかる最低のピッチクソ女を見事に熱演! だけど色気もあって、狂うのもわかる!(全て褒めてます!)
いやー、最高に胸糞だけどいい映画でした!
主「いやー、やっぱり大根仁が大好きだわ!
『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』の脚本を務めて、それがちょっと否定されてしまうところもあるんだけれど、こうやって実写映画になるとやっぱり大根仁の味が十分に発揮されている。
ちょっとクドイようなキャラクターだったりとか、それからアニメ的な演出や、下ネタのギャグだったりという要素がかなり生きてくる。これが本当にアニメになるとクドイんだけれど、実写だといい感じになるんだよね。
そして、この作品はただのラブコメディではなくて、それまで大根仁が表現してきたことも関係していると思う。それは後々話すとしようか」
カエル「でも、ちょっと賛否は出そうな作品だよね。結構くどいところが多いというか……」
主「まず水原希子演じる天海のキャラクター性がかなり独特……というか、典型的な嫌な女なんだよ。そういう風な役作りだし、それを水原希子が見事に演じているんだけれど、それがダメな人はかなりいると思う。
あとはギャグ描写が合わないって人もいるだろうし、それが何度も続くんだよね。合わない人は徹底的に合わないだろうし、それから奥田民生の音楽も全部で18曲かな? と大量に流れる。
さすがに民生が嫌いな人がこの映画を見に行くことはないと思うけれど、そういう人にとっては地獄ような時間になるんじゃないかな?」
カエル「単純に1人のアーティストの曲を18曲も流すということってかなり珍しいよね。そういう題材の映画なのはわかるけれど……」
主「正直、多すぎるって思いもあったよ。その意味では奥田民生のMVと言われるかもしれないけれど、MVにしても曲数が多すぎる。
でも映像や物語に力があるから、あくまでも主は映画であり、物語であって、副として奥田民生があるという印象を抱いたかな」
こんな女性に迫られたら男性は誰でも落ちてしまうのか?
俳優について
カエル「今作の俳優について語るとすると……まずは何と言っても水原希子じゃない!?」
主「いやー、今回の水原希子って本当に嫌な女で……自分は一番大ッッッッッッッッ嫌いなタイプの女性像なんだよ。天然ボケを装っていて、実はかなり計算高く、色々な男に色目を使いながら、その査定を繰り返して簡単に乗り換えて行くビッチ女子。
そしてそれが水原希子が演じることによって、何一つ文句のつけようのない、最低最悪のクソビッチに仕上がるという!
あ、もちろんこれは超誉めてます!」
カエル「……若干私感を感じるけれど」
主「まあ、個人的に水原希子がそこまで好きじゃないってのはあるんだけれど、それでも見事な演じっぷりでさ。これが他の女優だったら、ここまで嫌いになれていないかもしれない。体のラインもエロくて、下着姿を惜しげもなく晒していて、大絶賛ですよ。今年NO,1の最低の役を見事に演じきった女優だよ!」
カエル「いや、これは本当に褒めているんですよ? これでちょっと弱さであったり、あざとさの裏にあるかわいらしさなどを見せてしまったら、それはそれでこの映画の味が根幹から変わってしまうわけで……」
主「それから妻夫木聡も良かったね。近年は『愚行録』や『怒り』などでシリアスな一面を多く見せて、かなり役者イメージも変えてきている印象だったけれど、本作は優しげな女性関係にそこまで豊富でない役を熱演している。
水原希子との濡れ場もあって、そこもクドイといえばくどいんだけれどね」
カエル「あとは『SCOOP』に続いてリリー・フランキーの出演などもあったね」
主「リリーのシーンは笑ったなぁ……今作ではそこまで活躍がないんだけれど、リリー・フランキーと奥田民生って似たところがあると思うんだよね。どちらも飾らないカッコイイ大人像で、だけれどそこまでモテそうなタイプではないというか。
あと自由人のイメージがあるし」
カエル「今作はそれ以外の役者も含めて、演者に対する文句は一切ないかなぁ?」
主「アニメ的な演出とそのキャラクター像が相まって、演者の粗が見えにくいようになっているんじゃないかな?」
以下ネタバレあり
2 序盤から伝わってくる大根節
カエル「ではここからは作中に言及しながら語っていくけれど、まずスタートからアニメで始まるじゃない? あれが『大根仁の映画だなぁ』という印象があるんだよね。
『バクマン。』もプロダクション・マッピングを多用していて、それが印象的な作品だったけれど、今じゃ一般的になったけれどドローン撮影を取り入れていたりして、結構独特な映像が多い印象で」
主「その映像美もまたいいんだけれど、そこにフォークギターの音色が加わることによって、独特の味が生まれているんだよ。
自分はこのスタートがすごく好きで……フォークギターが好きというのもあるんだけれど、この映画で大事な『奥田民生が好き』って感情が一気に伝わってきたかな。その気持ちに対しては嘘がない映画だと思う」
カエル「かなり過剰に楽曲を入れていたけれど、それがごまかしなどではなくて『好きなんだ!』って気持ちが溢れているという表現になっていたよね」
主「ただ、個人的に疑問に思ったのがスタートの描写で、移動してきたコーロキのために歓迎会を開く。確かにそこはかなりオシャレな空間ではあるけれど……あの人達だったら奥田民生に対して、拒否感を示さないんじゃないか? って思いがあった。
自分の認識では奥田民生とあの雑誌ってそこまで親和性は高くないにしろ、拒否感はないはずなんだよね」
カエル「実際『ああ、奥田民生は昔好きだったねぇ』と言ってもらえているし」
主「少なくともアニソンが好きです、というよりはハードルが低いし、奥田民生に憧れている男って、あの年代には少ないかもしれないけれど、でもやっぱり男性全体で言ったらそれなりに多いしさ。ちょっと変わった人、みたいな描かれ方をしているけれど、そんな描き方をする必要があるのかなぁ? という思いはあった」
新井浩文、妻夫木聡もいい演技を見せる!
年齢設定と恋愛に対しての違和感
カエル「違和感で言ったらこちらの方が大きいかもしれないね」
主「本作ってコーロキが編集歴10年以上と語っているから、多分32歳前後の年齢設定だと思うんだよ。もちろん、短大とかバイトでやっていたという可能性もあるけれど、多分30歳は超えている。
コーロキを見ていると、そこまでモテないタイプではないだろうし、しかも女性に対してそれなりに積極的である。恋愛経験が豊富ではない、というのはわかるんだけれど、だけれどあそこまで翻弄されるほどに恋愛経験がないことはないだろうな、という思いもある」
カエル「それだけすでに狂わされているということでもあるんじゃないの?」
主「そういう表現かもしれないけれど、だったら編集歴を3年とか5年に減らしてもよかったんじゃないかな? 原作コミックがそうなっているのかもしれないけれど、あそこまで初々しい反応を示すタイプではないでしょう」
カエル「『モテキ』などもあったから、余計にそう思うのかもね。コーロギってサブカル寄りではあるけれど、オタクではないのも違和感を助長させているのかも……」
主「話は変わるけれど、本作で感心したのは細かいネタがちゃんと作りこまれているところなんだよね。例えば、クライアントが村上春樹や又吉にコラムをお願いしたいと言ってきたけれど、この人選が『それっぽい人が好みそうだな』と思ったんだよ。有名どころだしね。
そのあとでリストに書いてあった名前が、ちらっとしか映っていなかったけれど山内まりことか、本谷有希子とかの名前があって……ああ、確かにそれっぽいわぁって。
あとは天海が高い野菜を買うところとかね。ああ、クソみたいな意識高い系だな! って言ってやりたいかった! だってあの女、中身がほとんど無いすっからかんなんだもん。憎いよね、こういう描写がさ。
こういう細かいところに説得力があるっていうのは大事だよね」
3 現代のかっこいい大人の男
カエル「作中で一番語られたのが奥田民生だけれど、他にも色々な人の名前が挙がっていたじゃない?」
主「例えばリリーフランキーが『俺は志村けんを再評価している』と語るじゃない。これってなんで志村けんなんだろう? というとさ、確かにギャグ描写をやりたかったんだろうなって思いもあるんだけれど、現代のかっこいい大人像の1つに志村けんが入ってきているんじゃないかな? という思いもあるわけ。
で、大根仁が近年撮っていた映画のテーマでもあるのが、この『男の世界』なんだよ」
カエル「例えば『バクマン。』は漫画家を目指す少年たちが精一杯仕事をやって、ジャンプでライバルたちと切磋琢磨して成長していく様を描いていて、原作にある恋愛要素がかなり少なめになっているんだよね。
あとは『SCOOP!』でいうと、この映画は古き良き男の世界、つまり無頼派のようなちょっと暴力的にも見える男の、その姿を描いた作品ということもできるわけだ」
主「現代において『かっこいい大人像』が……男性が目指すべき理想の大人像というのは、実はないんじゃないか?
確かに男が憧れる男性有名人はたくさんいるけれど、共通して憧れる存在を見出すのが難しい世の中になった。ちょっと前はそういう存在がいたんだよ、高倉健とか小林旭とか。
男がどのように生きればいいのか、まるでわからなくなっているのが今の社会だと思う」
カエル「作中でもコーロキが一旦仕事に熱中して、そちらに向かうのかなぁ……と思いきや、やはり天野にお熱だからか仕事を早く終わらせたいと怒るんだよね」
主「これが一昔前の男性像であれば、女なんて後回しにして仕事に打ち込むのが男らしい姿だと言われたかもしれない。だけれど、現代の現実はそうじゃないんだよね。
仕事という男の世界だったものが崩壊してしまった今、男がどのように生きればいいのか? というのを、滑稽なように描いているんじゃないかな?」
現代のかっこいい大人の男の1人であろうリリーさんも好演
天海と奥田民生
カエル「え? 天海と奥田民生を比べるの?」
主「なんていうかさ、『最近観た映画』の影響もあって、この描写がすごく意味深に見えてきたんだよね。
天海は作中で『コーロキさんの観ている私が本当の私だし、知っている私が本当の私だよ』と語るわけだ。この意味を考えてみると、実はこれって『器だ』ということなんじゃないか?」
カエル「……器?」
主「言葉を変えるとファムファタルになるのかもしれないけれど、この映画の男性陣は天海のことを実は見ていないんだよ。
そこにある、天海という存在を通してみた、自分の理想の女を見ているわけ。天野という存在は実はその器でしかなくて、そういう理想の女を演じている。
そしてそれは、実は理想の男であった『奥田民生』についてもそうなんじゃないか?」
カエル「天海と奥田民生がつながるの?」
主「コーロキが愛した奥田民生というのは、実際に存在する奥田民生ではない。当たり前だけれど、テレビや雑誌、もちろん音楽も含まれるけれど、そう言ったメディアを通して知った奥田民生の姿なんだよ。
つまり、そこには理想の奥田民生の姿はいても、現実の奥田民生の姿はいない。だってコーロキは民生と話したこともないんだから」
カエル「芸能人と話せる数少ない職業の1つであるライターだけれど、接点はなさそうだしねぇ」
主「話そうと思えば話せるかもしれない。村上春樹への伝はあるかもと語っていたし、編集長だって話したことがあるんだよ。だけれど、コーロギはそのために動かないわけだ。
現実に目の前に現れた『理想の女性像=天海』という存在は、そのまま『理想の男性像=奥田民生』につながっているのかもしれない。だからこそ、あのラストにつながっていくんじゃいかな?」
おお、こんな便乗商品もあるんだ……
コーロキの変化
カエル「いろいろな事件があって、コーロキが大きな変化を迎えるわけだね」
主「この物語にとって天海との恋ってなんだったんだろう? と考えたんだよね。結局あのような結末になってしまうならば、天海という存在と向き合うことは無意味だったんじゃないか? という思いも自分にはどこかにある。
だけれど、実は無意味じゃない。
手痛い失恋を知って大人になるとか、そういう甘い教訓を教えてくれる物語では……多分ないと思う」
カエル「というと?」
主「おそらく、コーロキは理想の女性像から解放されることが重要だったんだよね。無理をすることなく、背伸びをすることなく、目の前にいるとてもいい人と向き合う。
コーロキって多分、あの人と付き合っているじゃない? それを匂わせるセリフがあるけれど、それはかつての、天海を追いかけていたコーロキだったらありえない選択なんだよ。でもさ、映画の中では明らかにコーロキよりも、あの人の方が好意的に描かれている。
天海に振り回されていたことのコーロキって、全然奥田民生に近づけてない。全く自然体じゃない。だけれど、手酷い失恋を知って、理想の女性像から離れたことで初めて自然体の自分になれたわけだ」
カエル「コーロキの本質って立ち食いそばを食べる方であって、おしゃれなレストランや有機栽培の野菜を食べることじゃないもんね……」
主「だから、最後の方に松本まりかが出てくるじゃない? 自分は松本まりかが訳あって大好きだけれど、彼女がどことなくぶりっ子風で天海を連想させる。でも、それに振り回されていた頃のコーロキはもういない訳だ。
過去の自分の否定となると、BADENDのようでもあるけれど、もちろんそんなことはない」
カエル「それが最後の対面なんだ……」
主「あの頃の……奥田民生を追っかけていて、そして天海を追っかけていた頃の自分も含めての自分であり、それを含めてのコーロキの自然体なんだよ。
かっこいい、理想の男を追っかけているうちは自然体の自分になんかなれないけれど、かといって過去の自分を否定しても自然体ではない。その両者を肯定して、自分の中で向き合ってこそ、自然体のかっこいい男になれる。
だから……最後はコーロキは理想の自分になれたんだと思うよ」
最後に
カエル「では最後になるけれど、もう水原希子への罵詈雑言が飛び交うような映画だよね。もちろん、それが多ければ多いほど、それは賞賛でもあって……本人微妙な気持ちかもしれないけれど、プロレスでいうところのヒールレスラーへのブーイングのようなものでさ」
主「ああいう女も男もいるもんなぁ……
自分は全く魅力を感じないし、なんであんなのに騙されるんだろうね? もう、ああいう思わせぶりな態度をとる時点で友人としても付き合いたくないなぁ、って思いがあるよ」
カエル「……でもさ、松本まりかに誘惑されたらどうなの?」
主「ついていくよ? 当たり前じゃん!
今作は馬鹿な男を描いているようにも見えるけれど、女によって人生を滅茶苦茶にされるというのも男の矜持の1つでもあるんだよ!
そこをちゃんと理解しないと……」
カエル「言っていること滅茶苦茶だけれど、大丈夫かなぁ……」
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