物語る亀

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物語愛好者の雑文

映画『SCOOP!』感想と考察 今年の邦画大豊作で、さらにこれが出るか……

カエルくん(以下カエル)

「今年は邦画大豊作の年と言われているけれど、まさかこのレベルがまた公開されるとはね……」

 

ブログ主(以下主)

「それこそ7月の『シン・ゴジラ』8月の『君の名は。』9月の『聲の形』と年間チャンピオンクラスどころか、数年はトップを張り続けそうな作品が並んだけれど、10月は今作がそうなりそうだな」

 

カエル「これだけ続くと、実は主が邦画を知らないだけなんじゃないかって疑念が湧いてくるよね」

主「今年話題になった映画で、洋画ってあまりない印象があるな。確かに『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』が大ヒットしたけれど、公開されたのは昨年ということは置いておくとしても、特別評価が良いわけではないようだし。スターウォーズブランドだよな。

 ヒーロー物も安定の収入は上げているけれど、特別大ヒットしたというわけでもないし」

 

カエル「ここ数ヶ月も話題になる映画は邦画ばかりだしね

主「今年は大手、単館系問わずに良い作品が続いているよな気がするな。本当に邦画界に波がきているのかもしれん」

カエル「じゃあ、ここいらで感想と考察の記事を始めようか」

主「今回もそれなりに長くなりそうだな……」

 

 

 1 ネタバレなしの感想

 

カエル「じゃあ、まずはネタバレなしの感想記事から始めるとしようか」

主「そうね。まず、全体のざっくりとした感想を述べるとすると……これほどまでの完成度だったり、満足度がある映画ってあまりないように思うんだよな

カエル「『シンゴジラ』とかってすごく高く評価したけれど、それと同じくらい?」

主「どうだろうなぁ、冒頭で挙げた作品ってどれも名作だけど、特撮だったりアニメだったりと実写映画とはまた違うわけじゃない?

 この作品は純粋な実写映画だけど、それこそ……今年見たCGなどがない実写の邦画の中では1番かもしれない

 

カエル「それはどういう意味で?」

主「衝撃も大きかったし、脚本や構成、音楽などもしっかりと考えられていたよ。詳しくはネタバレ込みの項目で話すけれど、一つ一つがうまくてさ、結構見ながら感心していた部分が多いのね。

 さらに言えばメッセージ性だったり、社会性もあって、これだけの作品はそうそうお目にかかれないレベルだと思うね

 

俳優陣について

 

カエル「じゃあ、ざっくりと俳優陣について語ろうか」

主「今回は結構……なんというか、派手な演技なんだよ。リアルな演技と、芝居のようなオーバーリアクションの演技があると思うけれど、邦画でダメな作品は中途半端になる作品が多いんだよね。

 例えばさ、演出や脚本はリアルな作品を目指しているのに、役者の演技がオーバーリアクションだと、せっかくのリアルな作りが台無しになってしまう。そういう作品って実は結構多いんだよね」

 

カエル「いつも欠点にあげているもんね、役者の演技って」

主「そう。画面から浮いちゃうことが多いんだよ。だけど、本作は……そのリアリティという点に関しては、あまり無いんだよ。ある種の裏社会……ジャーナリズムの中でもパパラッチという、あまり知らない世界をテーマにしているけれど、そこの知られざる生活を暴くとかいう話ではない。

 だから、福山雅治もさ、こんなカメラマンいるわけねえよってキャラクターなんだけど、それがよく作品にマッチしていた

 

カエル「意外とハマリ役だったよね。あの荒々しい感じとか、エロいことが大好きとか、福山らしさがふんだんにあるし」

主「個人的には、福山雅治って何を演じても福山雅治になるタイプの俳優だと思うんだよ。これはさ、その人物の個性が強烈すぎて、地味な配役とかができないタイプ。三船敏郎とか、主役が多い俳優にありがちかな?

 それだけ強い個性があるから使いどころが難しいけれど、今作はその個性も含めて見事にマッチしていた。

 今作のMVPを選べと言われたら、福山雅治とリリーフランキー、あとは滝藤賢一かな。この3人はずば抜けてよかったと思う」

 

カエル「ヒロインの二階堂ふみは?」

主「個人的には、二階堂ふみって使いどころが少し難しい女優だと思うんだよ。絶対的にうまい女優だとは思っていない。だけど、若手の売れっ子女優には珍しく、濡れ場というか、肌をさらす演技も躊躇がないじゃない? その意味ではあっていたと思うよ。彼女だからこそ、ここまでハッキリと描けたシーンもあった」

 

 

以下ネタバレあり

 

 

2 ネタバレありの感想

 

カエル「じゃあ、ここからネタバレありの感想を書いていくけれど……」

主「まずは序盤だね。ここでも、この作品のうまさがすごく出ていたよ。それをまず解説する」

カエル「そう? じゃあ、よろしくね」

 

スタートの見事な作り

 

主「まず、スタートは福山雅治演じる都城がカーセックスをしている場面から始まるわけだ。ここで、この作品の方向性っていうのが決まるわけだよね。つまりさ、そんなに綺麗な話じゃないよ、カーセックスもあれば、人間の汚いところも暴いていく映画だよということがわかる。

 ここで注目してほしいのは音楽の使い方なんだよね」

カエル「音楽?」

 

主「そう。音がさ、ドクンと鼓動のようになっていたと思うけれど、テクノ調とでもいうのかな? その音楽を効果的に使うことによって、こちらにもパパラッチの緊張感を煽っているんだよね。ここで観客は都城や二階堂ふみ演じる野火と心理を同じくしていく効果があるわけだ。

 野火の登場やそのパパラッチシーンもそうなんだけど、そんなにリアリティはないよ。あんな格好で働く若手女性記者や、エロカメラマンがいるとは思えないし……実際にいたとしても、それは珍しい部類だと思う。

 そのパパラッチの方法も結構ハチャメチャで『これがよく成功したなぁ』と思わせるものなんだけど……この部分において、この作品は外連味を優先し、リアリティはある程度犠牲にしたということがわかるんだよ

 

カエル「ああ、だから冒頭で福山雅治の演技がどうこうって言ったのね」

主「そうそう。福山雅治も、二階堂ふみもかなり演技はオーバーリアクションなんだけれど、演出や音楽や脚本が結構オーバーなものだから、殆ど気にならない。作品全体のバランスがしっかりと取れているんだよね。

 それから、うまいのは都城が働く理由だけど、ここはわかりやすく借金の存在が挙げられる。なんでこんな危ない仕事を、危ない橋を渡るのか、その理由としては正直陳腐だけど、だからこそわかりやすく観客に伝わるんだよね」

カエル「そうね。借金返済のために危険な橋を渡りますって、結構多い話だしね」

 

 

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過度な演出と脚本

 

主「そして話は進むけれど……やっぱりやっていることは盗撮とかだからさ、あの野火の『最低な仕事』って反応は正しいと思うんだよ。多分、この時点では観客もそう思っている。

 だけど、この仕事にかける情熱や誇りを共有してもらうためにどうするかというと……この仕事の面白さを過剰に演出するんだよね」

カエル「あのパパラッチの手口のシーンだ」

 

主「そう。あんな手法で本当に記事を書くカメラマンはいないと思うけれど、それが馬鹿馬鹿しいからこそ、この作品の面白み、外連味に繋がっていくわけだ。

 突っ込みどころは満載だよ? あんなところで花火を上げてお咎めなしとはいかないだろうし、しまいにはあのカーチェイスは人を轢き殺してもおかしくない。トンネル内の攻防なんて、確実に警察が動くじゃない? いくら政府のお偉いさんがらみの案件でも、隠し通せるものではない。

 だけど、それでいいの。それでこの作品の外連味と面白さが一気に観客に伝わったからさ。あそこが……カーチェイスが派手な演出でいうとピークかもしれないけれど、ここで爆発とかを持ってきたのは英断だよ

 

カエル「それで結局は野火も『この仕事、最高ですね』って心変わりをするわけだもんね」

主「その時点で観客もそう心変わりをするんだよ。『この仕事、面白いなぁ』って。パパラッチって道徳的にはNGだけど、そういう報道が後を絶たないのは、それを買う層がいるってのも事実で、実は大好きな人が多いものでもあるんだよね。

 野火と吊り橋効果でキスするけれど、ここの吊り橋効果は観客も共有していることになる。

 それをエロと爆発を混ぜる演出と、馬鹿馬鹿しいパパラッチの方法という脚本、そして音楽と俳優の演技によって、ド派手に演出したというところで一気に観客を引き込むと同時に、都城という人間の魅力を紹介したんだから、素晴らしい出だしだよ

 

 

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3 テンポの良さとメリハリ

 

カエル「野火がやる気になって二人は記事を順調に書いていくわけだけど……」

主「正確な時間はわからないけれど、多分野火の改心まででおよそ30分くらいかな? 使ってさ、そこで出だしの引き込みは終わり。そこから先はリリーフランキー演じるチャラ源とか、吉田羊の定子の魅力を描いていくわけだ。

 このきちっとした場面転換によって、メリハリのある作品となっている。これはDVD化した時に確認したいけれど、おそらく4分割の構成になっていてさ。

 

 出だしの派手な演出の1幕

 重要人物の深堀が続く2幕

 殺人事件の犯人を追う3幕

 衝撃の4幕

 

 とうまく構成されている。その構成によって、作品のテイストがガラリと変わるんだよね

 

カエル「テイストが変わるというと?」

主「1幕のような派手な演出や、外連味に溢れる馬鹿馬鹿しいやり方というのは少し減って、2幕以降はリアリティを少しづつ獲得していく。キャラクターの深堀をしていく中で、そのキャラクターが実際に存在するかのような思考をするわけだ。

 その最たるものが編集会議で、あの編集会議中に過去の大きな事件を取材した自分たちの武勇伝を話すシーンがあったけれど、多分あれって実話なんだよね。実際に起きた大きな事件を追った記者たちの実際の体験をセリフとして語ることによって、リアリティを少しづつ獲得していると思った。

 あとは、定子と馬場の言い争いも大事でさ、あれは雑誌社が……スクープを売りにする雑誌社の抱える根源的な問題だから、そこは絶対に描く必要があるわけだよ

 

リアリティと外連味の融合

 

カエル「でもさ、全部が全部リアリティがあるわけじゃないよね?」

主「そう。この作品は最初に語ったとおり、リアリティと外連味を天秤に乗せた場合、外連味を優先させているわけだよ。そうなると絵や話としては、抜群に面白くなるけれど、深みがなくなるんだよね。

 そこを途中からリアリティ混じりで作り出すことで、この作品の持つ問題提起とメッセージ性が浮かび上がってくるわけだ。

 この2つが融合した先に……あのラストの衝撃が待ち構えている」

 

カエル「そして連続殺人犯の写真を撮りに行くということになるわけだけど……」

主「そこもさ、かなり外連味を優先させているよね。その前の作戦会議もそうだし、実際の作戦もそう。

 あんなところにあんな目立つ形でカメラを構えていても、すぐにバレるに決まっているじゃない? 警察もさ、都城を止めたければ、まずは腕を掴んでカメラを下させるべきだし、ラクビーをやっていたとはいえ15年も前に引退したおじさんが、現役の警察官に勝てるわけないじゃない?

 でも、それでいいの。ここは外連味たっぷりに演出することが大事だから

  

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セクシーな福山雅治

 

カエル「そして事件は一息ついて、都城と野火のセクシーカットになるわけだ」

主「……正直、あのシーンを見た時は『このシーンはない方がいいんじゃないかなぁ』と思ったよ? あの二人の凸凹コンビのバディ作品にすれば、この作品はもっと続編を描けると思うし、その度にやきもきさせることができる。

 松永事件のパパラッチも、ドラマのラストとしては弱いけれど、これで続編を作ることもできるし、十分娯楽として面白かったし、これはこれで満足だなぁと思っていたわけ

カエル「続編を作るならあの二人はくっつかない方がいいよね。その付かず離れずの関係の方がドラマも作りやすいし、ある種の『お約束』になるし」

 

主「そうそう。『踊る大捜査線』もそうだよね。主人公とヒロインはくっつけないものなんだよ。

 ここは勿体ないなぁと思いつつ、福山雅治と二階堂ふみのセクシーショットを黙って見ていたら……ここからが本番だったというオチね」

 

さらにネタバレ注意!!

 ここから先は未鑑賞の方は引き返すことをオススメします!! 絶対に見ないほうが楽しめる!

 

 

4 事件の撮影

 

カエル「……そして、あの事件が起こるわけだよね」

主「この件に関しては、あまりネタバレをしたくないから濁すような書き方をするけれど、すごく衝撃的な事件が起こるわけだ。

 ここで本作品はセックス&バイオレンスという、ここ最近の日本映画では中々優れた作品を生み出している方法を用いている

カエル「ここは……本当に衝撃だったもんね。少し早いかなぁ? と思いつつ、終わったと思ったらあれだから」

 

主「そこも最近の邦画が……セックス&バイオレンスな作品がヒットしている理由だけど、性描写があると、人は油断するんだよね。画面に引き込まれて、集中しちゃうというか。

 ホラー映画でシャワーシーンやカップルの性描写の後は必ず殺されるってお約束があるでしょ? あれは、もともとは性描写によって油断したところに、一気にバイオレンスでおそいかかられてビックリ! というのと理屈は同じ

カエル「特に今作は『これで終わりかなぁ?』って思っていたから、余計にビックリするよね」

 

主「そして衝撃のラストが発生するわけだけど……これもさ、そこまでが外連味たっぷりに描かれているからこそ、この事件が実はどうにかなるんじゃないか? という希望もあるように思えちゃうわけ。

 ある種のご都合で進んできた部分もあるけれど、この事件に関してはご都合がない……いや、ないこともないけれどさ、弾が何発入っているんだよ? とか、そういうのもあるけれど、基本的にはご都合はなく……あっても都城に都合が悪い方に話は進んで行くわけだ

 

カエル「そしてあの展開になるわけだけど……」

主「あの最期において、この作品のすべてに意味がある。つまりさ、あのセクシーなラブシーンもなければ写真の感動というのは繋がらないというのもあるけれど……

 この作品のジャンルって何かというと、それは『ピカレスク・ロマン』だと思うのね。悪漢物というか、マフィアとかヤクザものと同じような構造。

 もちろん、都城は誰も殺したりしないけれど、盗撮などの犯罪には簡単に手を染めるわけじゃない。その割には義理堅い面もあって、女にモテて……とか考えると、まんまマフィアものと同じピカレスク・ロマンだと思う

 

カエル「犯罪で稼ぐという面では同じだしねぇ」

主「そしてピカレスク・ロマンの王道というのは、ラストにおいて主人公が……この作品と同じような状態になるということでさ。そこまで魅力的に、好き放題してきたからこそ……因果応報でもあるけれど、その魅力に感情移入しているからこそ、このラストに感動するんだよね。

 この急な展開だけど、しっかりと伏線というか、演出等のメリハリの果てにこれがあるから、この作品を自分は絶賛するよ」

カエル「外連味が強ければ強いほど、都城の魅力が引き立ってあの衝撃のラストのカタルシスに繋がるわけだ……

 

主「いつもいうのが、映画の醍醐味は『一瞬の変化』だと思うのね。ある瞬間を持ってそれまでのストーリーの意味合いが一気に変わるというカタルシス。この作品はまさしくそうだよね。

 さらに言えば……監督の美意識が出ているよ。都城って監督の憧憬する姿らしいけれど、ピカレスク・ロマンの形にすると大体監督の理想の役は……あのようなラストになる。

 北野武とかもそうでしょ? それが美意識であり、滅びの美学なのかもね」

 

 

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最後に

 

カエル「もともと主はピカレスク・ロマン、大好きだもんね」

主「そうそう。だから、この映画は大好物。しかもこれだけの伏線を貼って、うまく回収した挙句に素晴らしいカタルシスを残すんだからさ、大満足だよ。

 しかもエログロもあるけれど、過剰じゃないから結構見やすいし、引くレベルではない。うまいよね、この作品」

 

カエル「音楽との調和も良かったしね」

主「大根監督は音楽のセンスが高い人だよなぁ……やっぱり映画における音楽の使い方ってすごく大事だと思わせてくれる1作でもある」

カエル「このクラスの邦画が、何本も出てきたのがすごいよね」

主「……本当に今年はどうしたんだろうな? 邦画ってこんなに面白いのかと、今びっくりしているよ……と、いけない! もうすぐ映画の時間だから行かないと!」

カエル「……いくらファーストデーだからって、映画のハシゴはやりすぎじゃない? まあ、ここはこれで締めるから、早く行きなよ」

主「ええい!! 時間よ、止まってくれ!!」

カエル「……さすがにそれはリアリティが無さすぎると思うよ……」

 

 

 

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