カエルくん(以下カエル)
「こっちの記事では3月のライオンの1巻〜11巻までの内容を書いていくのね」
ブログ主(以下主)
「本当はこの記事を公開日である10月2日は12巻の発売後だけど、1巻から11巻の内容の感想も書いておきたかったから、この記事を書くよ」
カエル「結構ざっくりとした内容になるだろうけれどね」
主「大まかな感想になるだろうけれど、これほどの作品の感想、考察記事を書かないのはねぇ。現在連載中の作品の中ではトップクラスに好きな作品なんだよね」
カエル「それじゃ、1巻から11巻までのざっくりとした感想記事を始めようか」
1 一話の衝撃
カエル「まず、この一話の衝撃ってのも大きかったよねぇ」
主「『ヒカルの碁』が大ヒットしたこともあって囲碁や将棋マンガが結構盛り上がっていた時期だったじゃない?
それこそ『ハチワンダイバー』がすごく注目を集めていた時期だった……ような記憶があるし『しおんの王』もあったから、将棋マンガブームが来そうだなぁって時期だったように記憶しているわけよ。
そこに挑戦したのが『ハチミツとクローバー』で一躍大人気漫画家になった羽海野チカでしょ?」
カエル「しかも少女マンガから、ヤングアニマルという少女要素0の青年マンガにいったわけだからね」
主「ヤングアニマルの看板って『ベルセルク』とか『ふたりエッチ』じゃない。ハチクロとイメージ真逆でしょ? これは大冒険だよね、よくそこに行ったと思う」
カエル「だけど、結果的には大成功だったよね。アニメ化と実写映画化というビックタイアップをハチクロに続いて達成、さらにマンガ大賞受賞作品だし、疑いようのない成功だよ!」
主「そして1話の衝撃だけど……やっぱり上手いなぁと感心した。漫画にかかわらず、1話って非常に大事だけど、難しいよね。説明をしないといけないし、だけど説明ばかりだと単なる設定の開示だからさ、面白さや空気感を出しながら、どのように演出するかということが求められるわけだ。
その点において、この3月のライオンの1話はなかなか素晴らしいよ」
1話の素晴らしさ
カエル「じゃあ、1話の衝撃について話していこうか」
主「まず、この作品のテーマって『将棋』だけではないでしょ? それも大切な要素ではあるけれど、将棋よりも……家族の形とか、桐山零という人間の生き方をやり直すということがとても大切なわけじゃない?
そのテーマの描き方と、将棋の描き方がすごくいいよね」
カエル「1話の描き方というと……まずは零くんの静かな場面だよね」
主「そこで零がどれだけ孤独な生活かということがわかるわけだよね。本来はさ、限られたページ数の中で、説明をしたいと思うから、結構詰め込むと思うんだよ。だけど、この1話は……スタートこそ言葉があるけれど、7ページも生活音以外の音をだすこともなく、説明することもなくその生活を描いているわけだ。
これが、如何に桐島零という人間が何も持たないのかという、何よりも強い説得力になっているよ」
カエル「そして……育ての父との対局だよね」
主「ここではまだこのおじさんが何者なのか、全くわからないけれど、過去との対比において薄々と感づいてくるわけだ。このおじさんは悪い人ではないのだろうけれど、零との溝は相当に深いことがわかるよね。
もう一方で……急に騒がしい文字がたくさん並んで、ひなたからのメールが来るわけだ。ここで一気に文字量が増える。
この演出で当然川島家の騒がしさというか、暖かい家庭というものを説明している。
そして、そこでさっきのおじさんが義理の父親であることが明かされるなどの説明もしているけれど、それよりも大事なのは、このメリハリだよね」
カエル「この前半と後半でこれだけセリフの差がある漫画ってあまりないように思うね」
主「このメリハリによって、前半の桐山の寒さだったり、孤独が強調されているし、逆の後半の川島家の暖かみをうまく協調しているね」
2 香子の存在
カエル「そこからは2巻の後半まではあまり話が進まないかな?」
主「そうね。登場人物の紹介をしながら、ゆっくりと物語を深堀していくわけだよ。そこでは零の寂しさや孤独、そして川本家の……暖かみはあるけれど、問題を抱えるような描写が少しずつ明かされる。
特に二階堂とかさ、棋士の説明も入ってここも話はあまり展開しないけれど、後々に繋がる大切な部分だ」
カエル「こういうのは実績のある漫画家ならではかもしれないね。これだけでも十分に面白いというのもあるかもしれないけれど」
主「そして、その停滞していた物語が一気に動き出すのが、香子の存在なわけだ。
……実はこの作品の中で1番好きな女性キャラクターなんだけどね」
カエル「……え? 香子が?」
主「この手の作品で突然の来訪者、しかも主人公と因縁浅からぬ相手というのは、物語を動かす上ではすごくやりやすい存在だよね。だから、嵐の前触れというか、雷が落ちた描写と共に現れた香子が来て、一気に話が動くというのはわかる。
……なんていうのかな? 香子ってさ、すごく『危うい女』だから、どうしようもなく惹かれていくんだよねぇ……」
カエル「先中でも語られているもんね。あれは毒婦になるって」
主「零との関係もすごく難しくてさ、姉と弟になりきれていないけれど、ここまで描写がほとんどない弟のように他人にもなれていない。そしてこの2人の関係って……すごく『共依存』に近いと思うんだよ。1歩間違えるとお互い泥沼にはまる、その少し前。
これを恋愛描写とか、香子も零も惹かれあっているというとすごく軽くなるけれど、そんなレベルじゃない、もっと根源的な繋がりというか、危うさを感じるね」
悪人が書けない漫画家
カエル「その香子とセットで語られるのが後藤だよね」
主「……これは漫画が成長してくるとあることだけど、後藤は最初の印象と大きく変わっているよね。もっと荒々しい悪人かと思ったら、そうじゃなくて……すごく奥さんを愛していて、しかも将棋にもストイックで……と云う魅力的なキャラクターになっている。
零を叩いた理由はわからないけれど、今となってはあの設定はなかったことになっているんじゃないの? って思うほど、いい人」
カエル「実際、香子が一方的に入れ込んでいるけれど、描写を見る限りでは手を出していないようだしね」
主「それは奥さんへの思いというのと、幸田父への義理立てもあると思うけれど……すごくしっかりとした大人だよね。
それは香子も同じでさ、毒婦で悪女のように描いているけれど、すごく寂しくて愛らしい存在になっている。多分、羽海野チカって悪人が書けないタイプの漫画家なんだろうね。キャラクターに感情移入しすぎて、すごく悩んでしまうタイプ」
カエル「それは後々でも生きるよね。いじめ問題とか、川本父の問題とかさ」
主「そうね。いじめ問題も、いじめられた側で描くならいじめた人間を悪として徹底的に描くこともできるけれど……そうじゃなくてさ、いじめた人間をどう教育するのか? いじめを止めるのか? そもそもいじめに対してどう立ち向かうべきなのかというところを考えている。
悪人を断罪したら一番簡単なんだよ? だけど、そうじゃないから、この人は大変な漫画家だなぁって思う。そりゃ、ネガティヴにもなるわ」
カエル「川本父も……断罪というよりも、拒否という描き方だったもんね」
主「どこか寂しさを感じるし、その痛みはこちらにも伝わってきたよ。そりゃ、そこまでの川本家を見ているからこその辛さでもあるけれど、これって作者の……羽海野チカの痛みでもあるんだろうね」
3 孤独な棋士
カエル「そしてもう一つの軸である、棋士の話にいくけれど……孤独な棋士というのはどういう意味?」
主「零って、将棋が好きで始めたわけじゃないんだよね。それこそ生きる為、生活の為に将棋を指しているタイプでさ、そもそもの心意気が一般人とは違うわけ。
だけど、上に行けばいくほど同じようなタイプの棋士が増えていってさ……この作品において、幸せな家族を持つ棋士ってほとんどいない。もちろん描写が薄いだけでそういう棋士もいるのかもしれないけれど、多くが独身だったり、家族がいても親兄弟くらいで、幸せな家族はいないんだよね」
カエル「幸田家もそうだし、後藤も奥さんは入院中、島田、宗谷などは独身だしね。若い二階堂とかは別にしても、12巻にてようやく雷堂に家族がいるという描写が出てきたくらいかな?」
主「これはすごく恣意的でさ、漫画家もそうだし、小説家や個人作業で物事を仕上げるタイプの作家や職業ってみんなそうだと思うけれど、究極的には1人なんだよね。1人で自分を鼓舞して、励まして、さらにやり続けられるタイプの人じゃないとやっていけない。
他人にボロカス言われたり、実力がないと判定されたり……それこそ将棋だったら敗北という現実があるわけだから、かなりキツイものがあると思う。
だけど、そこを自分で乗り越える以外に道はない」
カエル「だからトップの棋士は孤独なのかな?」
主「もちろん現実の棋士は幸せな家族を持つ人もたくさんいるけれど、羽海野チカの場合はそうなのかもね。
そう考えると現役トップの名人、宗谷の音のない孤独な世界の描写が、強さの秘密というのもわかるよね。そして同じように孤独を抱える零がこれほど注目を集める、強い存在というのもわかる」
成長する零
カエル「でも零ちゃんは少しずつ自分の殻を壊しているよね?」
主「そうなんだよ。それは、モノローグの量でもわかる。
前半はすごくモノローグが多くて、何かあるとモノローグ、さらにモノローグと隙あらばというくらいに詰め込んできた。詩的な世界観でもあったんだよね。
これは『君の名は。』が大ヒットしている新海誠もそうだけど、モノローグを積み重ねると孤独感ってすごく大きくなる。だからその寂しさが一層強調されるわけだ。
だけど、後半になるとモノローグはほとんどなくなってきているからさ」
カエル「純粋に零ちゃんが喋る相手が沢山登場しているというのもあると思うけれど……」
主「そうね。だけど、それってやっぱり零が人と関わりあっていこう、成長しようという現れなんじゃないかな?
最初のうちはむしろ避けていた川本家を、さらにその家のゴタゴタに他人なのに首を突っ込んで、いろいろな人を巻き込んでしまう。それは初期の零にはなかったことだよね。
それが零の成長だよ」
4 ハチクロと3月のライオン
カエル「最後に、羽海野チカの前作のハチミツとクローバーとセットで語るんだ?」
主「そう。ハチクロのラストって……言葉が難しいけれど、少し賛否が分かれたじゃない? この終わり方なんだっていうさ。
全く違うジャンルの作品だし、掲載紙も違ければ少女漫画雑誌と青年漫画雑誌という違いもあるけれど、でも共通するテーマは同じだと思う」
カエル「同じなの?」
主「ハチクロは主人公を普通の男の子にして、その周辺に色々な形で天才や沢山のキャラクターを配置することで成り立っていたんだよね。
だけど、天才たち……特にハグちゃんにはあまり関与することができなかった。ハグちゃんの描き方ってすごく難しかったと思う。
1巻において『自分が今考えなければいけないこと』って羽海野チカも語っていたけれど、それはハグちゃんが……『孤独を抱える天才』が如何にして変化するのかっていう物語と解釈する」
カエル「……ハチクロ理論で言うと森田に該当するのが二階堂なわけだ」
主「そうね。性別は同性になったけれど、歳の差だったり、破天荒さという意味では似たようなものだし。
これは完全に自分の妄想だけど、ハチクロを始める前の羽海野チカって、自分を普通の人だと思っていたんじゃないかな? いや、今でも普通の人だと思っているかもしれないけれど……アニメ化2回の漫画家が普通であるわけがないと思うけれどさ、それはいいとして、竹本を主人公にしたというのはその思いの表れじゃないかな?」
カエル「あれだけキャラクターに思い入れの強い作家だったら竹本を主人公にした意味もありそうだね」
主「だけど、ハチクロがああいう形で終わりを迎えた時に……やっぱり胸の奥で一番引っかかっていたのはハグちゃんなんじゃない? だから今回は先生を抜きにして、ハグちゃんみたいな子を主人公として描き始めたんだと思う。
そして芸術から将棋に話は変わるけれど、でもさ、孤独な個人作業という意味では同じだから。
その意味では、自分はハチクロと3月のライオンは姉妹編と言ってもいいかもしれないかなって思いもある」
カエル「同じ作者だと、そういうこともあるかもね」
最後に
カエル「さて、じゃあ大雑把に1巻から11巻まで振り返ってみて、どうだった?」
主「やっぱり一気読みするとまた違う発見や感動があるよね。自分は1巻からずっと追っているけれど、その時に気がつかなかった
『あ、ここってこう言う伏線だったんだ』
『この描写が変化したなぁ』
って発見が多くて、しかも発見するたびに面白くなっていくからさ、すごい漫画だよ」
カエル「そうね。さすがは羽海野チカだよね」
主「長期連載作品って簡単に破綻しそうだけど、致命的な破綻はないしね。インフレとかがあるようなものではないといえ、これだけの世界観を緻密に描いているのはすごくうまいね」
カエル「それにアニメも実写映画も楽しみだね」
主「アニメはもうすぐ、実写は半年後か? 映画も公開したらすぐに感想記事をあげるよ。絶賛したいけれど、さてどうなるかな? 原作のレベルが高いから、越えなければいけないハードルも高くて大変だぞ?」
カエル「でもちはやふるも良かったし、ここ最近の邦画のレベルがすごく高いから期待できるね!」
主「大ヒットメーカー神木隆之介主演だしな!
……これだけ言っていれば、試写会とかの案内状とかくるかな?」
カエル「無理じゃない? たかがブロガーなんて呼ばないでしょ」
主「う〜ん……映画代も漫画代も馬鹿にならないからなぁ……そうだ、この下のアマゾンアフィリエイトで商品を紹介するから、それを購入してもらえば……」
カエル「主!!! 少しは零ちゃんの純粋さを見習いなさい!!
大体、主はキャラクターに対する思い入れが羽海野チカの100万分の1もないのに……以下略」
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