カエルくん(以下カエル)
「もうすぐアニメの2期も放送間近、今年かなりの注目を集める漫画の代表である3月のライオンの最新刊の感想を書いていきます」
ブログ主(以下主)
「いきなりだけれど、羽海野チカって『魂』の作家だと思うんだよね」
カエル「……え? いきなり本題?」
主「よくさ、『心を込めて』とか『登場人物の気持ちになって』とかいうじゃない? 確かに表現者の基本であり、核心の部分ではある。だけれど、簡単にできることじゃないんだよ。
自分もブログを書いているけれど、じゃあ心の籠った本気の記事ってなん記事ありますか? と問われたら……多分1割もない。『シンゴジラ』や『聲の形』などの、本当に年間トップクラスに絶賛した映画作品の記事ぐらいだと思う。もちろん、自分はアマチュアでプロでないからかもしれないけれど、少なくとも自分が見た限りではプロでもそれは難しい。
簡単にできないからこそ技術論があって、色々と……漫画で言ったらコマ割りとか視線誘導などの技術を駆使して作品を作り上げる」
カエル「もちろん、羽海野チカもその技術もしっかりした漫画家なのは当然のことだけどね」
主「だけど、羽海野チカの作品って『魂』が見えるのよ。それについては詳しくこれから述べていくけれど……また、わかりづらい例えをするけれどさ、野球に例えると岸とか和田毅のような綺麗なスピンのかかったようなストレートを放るのね。
160キロに迫る豪速球ではないかもしれないけれど、惚れ惚れするようなストレートでバッターから三振を奪っていく……そんな作家」
カエル「……どれだけの人にその例えが伝わっているの?」
主「ストレートは投球の基本と言われているけれど、速いだけが能ではない。綺麗なパックスピンやコントロール、投げ方を工夫すれば遅い球でも打ち取れる。もちろん、変化球などとの組み合わせも重要だけれど。
で、それは物語作家も同じなんだよね。基本は『魂』ともいうべき、メッセージ性などが籠ったストレートで、羽海野チカはそれがすごく綺麗」
カエル「……読み終わった衝撃でちょっと浮かれているのかぁ……わかりづらい話でスタートしたけれど、一応、これでも真面目な感想記事のつもりですのでご容赦ください」
1 映画と漫画
カエル「えっと……まずは映画版について話すんだ?」
主「この映画版に触れておくことが、ライオンの13巻を語る上では1番大切なことなんだよね。
興行的にはそこまで奮わなくてちょいコケになってしまった映画版だけれど、個人的にはライオンファンということもあって大満足な一作で……はっきりと言ってしまうけれど、今年の大規模邦画の中ではトップの満足度だった」
主「一応映画がメインのブログだけれど、今年の大規模邦画って本当に不作というか興行的にも苦しい年で……9月に入って化け物級の大物監督が次々と新作を発表して盛り返して感はあるけれど、そこまでは洋画とアニメに完全に負けていたのね。もちろん、いい作品はあるけれど、話題にならなかったりして……
で、ライオンも話題にはならなかったけれど、自分は大規模邦画の中では上半期ベストの作品だった。
前後篇で計4時間以上あってかなり長い上に、地味なヒューマンストーリーだから評価がされにくいのもわかるけれど……特に後編は2時間ずっとクライマックスという高揚感のまま突き進んだ1作だった」
カエル「羽海野チカも大絶賛していて、Twitterなどで映画の宣伝を頑張っていたもんね」
主「3月のライオンという物語を大友啓史監督が解釈して、そしてその味を見事に発揮して作品であって、自分は漫画原作映画の中でもトップクラスの幸せなマリアージュを迎えた作品であったと思う。
なので、ぜひとも鑑賞してしてくだい。
DVDも10月13日レンタル開始だし、家ならばまだ見やすいでしょうし。そしてこのブログの3月のライオンの記事を読んでいただければ嬉しいです。多分、ネットで転がっている無料の記事の中ではかなり熱く、厚い記事を書いたという自負はあります。
で、ここからが本題。映画を見るとおそらく13巻の味が大いに変わります」
羽海野チカが示した結末の先へ
カエル「何で映画の話をここまでするのかというと、実はラストの展開などが本来ライオンをどのように終えるのか? という初期構想の通りに作られているんだよね」
主「直接のネタバレはしないけれど、桐山零、幸田家、川本家という3つの家族の物語がある決着を迎える。それがあまりにも素晴らしくて、そして『魂』を感じることができたことが映画版を絶賛する理由の1つなんだけれど……
この13巻は……というか、11巻以降は、その初期構想のさらに『先』を描いているんだよね」
カエル「先? というと」
主「3月のライオンという物語は将棋の話であるけれど、それ以上に家族の物語である。全てを失い、家族を失った桐山零が幸田家という家族を……結果的に滅茶苦茶にしてしまい孤独になり、そして川本家に助けられていくという物語だ。でも、その川本家にも大きな闇があり、それが牙をむいて襲いかかってくる。
一言で表すとしたら『家族の再生』を描いているんだよ」
カエル「零ちゃんが家族と踏ん切りをつけたり、幸田家の人たちが自分たちの家族と向き合ったり、川本家が父親と向き合って……という物語だったね」
主「この段階でも本当に素晴らしいけれど、本作はさらにその『先』を描いている。
それは何かというと家族を作るということだ。
だから12巻の感想の時に述べたけれど、本作で初めて破滅しそうでも破滅しない、強い家族像を持つ藤本九段の話が出てきた。そこまで、本当の意味で幸せな家族像って描いていなかったんだよね。
そしてこの13巻ではまず、あかりの結婚話が浮上するわけだ」
林田と島田
カエル「ここでの結婚相手の候補が林田先生と島田さんというのが、ちょっと意外といえば意外だったんだよね。年齢はあかりさんのずっと上のはずだし、それこそスミスとか二海堂もいたわけじゃない? じゃあ、何でこの2人だったんだろう? って思って……」
主「おそらくこの2人って零のありえるかもしれない未来の姿なんだよね。
将棋をやめて一般人になって林田のように生きる未来もあるかもしれないし、島田のように棋士仲間と研究をしながら将棋に明け暮れるかもしれない。林田先生はちょっと遠いように見えるかもしれないけれど、転職雑誌を読んでいた零のことだから絶対にありえない未来とは言いがたいわけだ」
カエル「まあ、そう言われると二海堂やスミスなどは『ライバル』ではあるけれど、そういう未来がどうのこうの……という姿ではないよね」
主「あかりとくっついて幸せにすることができるかもしれない存在……零と同じように家族を持たない2人だからこそ、両親の不和を見て恋愛に対して恐れを抱くようになったあかりの雪解けを迎えることができるのかもしれない。
私生活を導いてきた林田と、将棋の世界で導いてきた島田……この2人だからこそ零を孤独の闇から救い上げたあかりとバランスが取れるということなんだろうな。
だから、多分この三角関係って『恋愛』にはならないと思うんだよ。もっと実感のあるような、それこそ『家族』をどう生み出していくのか? という話になるような気がしている」
2 二海堂と滑川
カエル「そして棋士の側である二海堂と滑川の話だけれど……」
主「先に前後しちゃうけれど滑川の話をさせてもらうと、ここでこの描写を入れてきたのが素晴らしかった。結構あかり関係や二海堂でキラキラとした美しい話が多い中で死にまつわる話を入れてきて話をきっちりと落ち着かせている。
ここまで述べてきた通り、本作は『家族の再生』を初期構想に描きながら、ここ最近は『家族の創設』について描いている。だけれど、それと同時に滑川を描くことによって『家族の喪失』をも描こうとしている。
ある意味では誕生と喪失の物語……この2つをセットで語ろうとしているわけだ」
カエル「そう考えるとすごい話だよね。全く違う2つの物語を、同時進行で描こうとしているわけだから……」
主「家族を創設しました、新しく家族ができました、でハッピーエンドでもいいんだよ。もちろん、そんな話はいくらでもあるし、普通はそういう話になる。
生について語る人間は死について語る必要がある。
夢について語る人間は現実について語る必要がある。
だけれど、普通は語らない。生と夢について語っておしまいにする。だけれど羽海野チカはその先をも描こうとしているんだよ。
これが素晴らしい! 大絶賛です!
相当な苦難の道であるけれど、それでも歩み続けよう、考え続けようと意思を感じるし、そこが『魂』の作家であると述べる理由の1つです」
二海堂の挑戦
カエル「そして本巻では二海堂の挑戦も描かれているけれど……」
主「今回の相手がまず櫻井七段だ。作中でも語られているように、この2人は正反対の人間でもある。いくらでも山を登って歩き回れる無尽蔵の体力を持つ櫻井七段と、体力に制限のあり病を抱える二海堂。
だけれど将棋の上では対等に戦うことができる。これも将棋の味の1つだよね」
カエル「そしていよいよあの人との対戦なわけだけれど……」
主「正直、ここ最近二海堂って格が落ちてきたところがあったじゃない? というか、零が圧倒的に成長しているし、その対局相手もタイトル戦の経験者などの棋界屈指の実力者ばかりだった上に、その天才性を示す描写も多かった。
二海堂の立ち位置が若干揺らいでいた時にこの描写を入れたのはナイス! だね。
これによって零の将棋のライバルは島田でも後藤でも宗谷でもなく、二海堂であるという初期の構想に立ち戻ることができた」
カエル「でもさ、なんで急に二海堂の話を入れてきたんだろうね? もちろん、この先の伏線である可能性もあるけれど……」
主「う〜ん……やっぱりアニメの影響があるのかな? と云う思いもあるんだよ。もちろん羽海野チカはアニメ版も絶賛しているけれど、そこで自分が描いたものと違う形で物語を見たときに、色々と思うこともあったんじゃないかな?
この巻を見て思うのはさ、原作者ではあるけれどかなりアニメや映画から影響を受けている。それがわかるのは……あのラストなんだよね」
本作のラストから見えてくる映画の影響
カエル「あのラストの後藤と香子の場面だね」
主「自分が1番好きなキャラクターは香子であるというのは、ずっと一貫して言ってきたけれど……この巻で1番しびれたのもここ。『あ、やっぱり天才だわ』と思い知らされた。
それは香子が『居ないのね バカ』のコマだけれど、この空虚な表情から感じられる情報があまりにも多すぎて……」
カエル「特にその前の会話も、後藤に対してただ憧れているストーカー気質の女ではないということを示しているよね」
主「これってうまくいうことができないんだけれど……このラストの香子の描き方は相当映画版に寄せていっているような気がする。ここまで弱々しいところを見せたことは……確かなかったはずなんだよ。
羽海野チカって嘘をつけないタイプの作家だから、映画をあれだけ絶賛していたのは嘘だと疑ったこともないけれど、この描写で『本当に強い影響を受けているんだなぁ』と伝わってきた」
カエル「この2人の関係って本当に特殊で……兄弟でもないし、家族でもないし、だけれど恋人でもないけれど、あのラストは別れてしまった恋人への想いにも近くて……愛がないわけでもないけれど、でも近づくと啀み合ってしまう、そんな関係性なんだよね」
主「なんだろうねぇ、この共依存関係……デタラメなはずなのに、美しいというね。
本当に出会い方さえ違っていれば丸く収まっていたんだろうに……」
最後に
カエル「今作では解説が全くなかったね」
主「多分、相当羽海野チカも悩んでいるんじゃないかな? 病気などの影響もあるのかもしれないけれど、減ページが多かったし……そりゃそうだよ、これだけの密度のある作品を書き上げているんだkら、そうならなかったら却っておかしいくらいだ」
カエル「遊び心もたくさんあったよね。新房八段とか最初に見た時笑っちゃった!」
主「よっぽどアニメも好きなんだろうな。確かにシャフトらしい作品で演出や絵作りも尖っていて、でも丁寧に作り上げていて面白い作品だけれどね」
カエル「アニメ版もこれから始まるので楽しみにしようか」
主「……秋は見たい作品が多すぎて大変だよなぁ……どれだけ見ることができるんだろう?」
カエル「ライオンは2期もしっかりと追いかけていこう!」
主「……途中で脱落しないように頑張ろう」
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