今月でも特に注目を集める邦画時代劇の感想です!
時代劇、また脚光を浴びて欲しいから応援するよ!
カエルくん(以下カエル)
「どうしてもおじいちゃん向けな印象が強いからね。
平日の昼間ということもあるだろうけれど、劇場は年寄ばかりでした……」
主
「まあ、ジャニーズや西島秀俊を起用しているから若い女性もメインターゲットに入っているとはいえ、どうしてもね」
カエル「でも、歴女ブームもあったし、今作次第ではまた時代劇に脚光を浴びるかも!」
主「だからこそしっかりと、骨太な時代劇であることを望みたいなぁ。
では記事のスタートです」
作品紹介・あらすじ
黒澤明ともともに仕事をした名カメラマンの木村大作の、映画監督作品第3作。今回は初めて時代劇に挑戦し『雨あがる』などの監督や多くの時代劇の脚本を担当した小泉堯史を脚本に迎える。
原作は直木賞作家であり、2017年に亡くなった時代小説家、葉室麟の同名作品。
主演の岡田准一も殺陣の考案に加わるなど、こだわり抜かれた映像美と動きの魅力が味わえる作品。
また、西島秀俊、黒木華、池松壮亮、麻生久美子、奥田瑛二などが脇を固める。
享保15年、自らの懐ばかり暖め続ける家老の不正に手を伸ばしたことにより、藩を追放された瓜生新兵衛(西島秀俊)は、妻の篠(麻生久美子)と暮らしていた。しかし、篠は病に倒れてしまう。
その最期の願いを聞いた新兵衛は再び藩に戻るのだが、そこで待つのはかつての友であり、今では藩の要職を務める榊原采女(西島秀俊)だった……
感想
ではTwitterの短評からスタートです!
#散り椿
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2018年9月28日
美しい…!
さすがは名カメラマンが監督とあって美的感覚が見事!
1つ1つのカットに意味があふれていてまさに映画と観客の真剣勝負を味わった
岡田准一はまたひとつ高いレベルに上がったなぁ
本作を見事に締めて見所の多い作品に仕上げていた
時代劇ファン以外も必見です! pic.twitter.com/xiDyGFT8n1
美しい! 以外の言葉がなかなか出てこない映画だね
カエル「今作の監督、木村大作は名カメラマンとして知られており、その魅力がとても出ている作品になっているね」
主「もちろん、美しい画面も魅力の1つ。
だけれど、ただ美しいだけじゃない。
自分はカメラマンには全く詳しくないけれど、映画を見ていると役者を美しく撮る監督や作品はいくつもある。でも、ただ美しいというだけの作品もある。
だけれど、本作はそれに留まらず”映画”として成立している」
カエル「ちょっと地味な印象もあるし、音楽も似たようなものが続く印象もあるのだけれど、しっかりと魅了してくれるというね!」
主「もしかしたら退屈になる観客もいるかもしれない……特に時代劇に見慣れていない人や、岡田准一のファンだからという理由だけで劇場へいく、若い人には伝わらない可能性はある。
だけれど、この静かな物語の中には、無限の情報が込められているんだ!」
映像の情報量の豊富さ
え〜、ちょっとめんどくさいオタク語りです
映画ってただ役者や背景を美しく撮ればいいというわけじゃない。
主「映像にどんなメッセージを込めて、何を伝えるのか、観客を引き込むものは何かという”情報量の操作”が求められるんだ。
本作はその意味でも一級品!
1カット、場面が変わるごとに意味があり、それは語らざる物語として強く機能している。
だからこそ、これほど素晴らしい作品に仕上がっているんだ」
カエル「ふむふむ……それはどんなところに出ているの?」
主「和室の使い方や人物の動きだよ。
現代の時代劇はどうしても……昔ながらの作品のような時代劇ができない。殺陣もCGなどを使って派手にしているけれど、本来はそんなことをしなくてもしっかりと観客を魅了するものが作れるんだ。
それはアクションシーンだけではなく、日常描写の動きもそうで、なぜこの登場人物はその位置にいるのか、なぜいま移動したのか、なぜ立ち上がったのか、実は全てに意味がある」
カエル「結構コアな見方だよね……」
主「それこそ、白黒時代の映画の世界かもしれないね。
自分は本作は”古典純文学のような作品”だと捉えている。現代の映画作法ではなく、昔ながらの映画作法で作ろうという意思を強く感じたし、それは成功していると言えるんじゃないかな?
今はそういう時代劇は減ってしまったね……その代わり『超高速! 参勤交代』などのようなコメディ時代劇が増えているから、それはそれで面白いけれどね」
カエル「詳しくはネタバレありのパートで語ります!」
岡田准一について
今作は何と言っても岡田准一に尽きるのではないでしょうか!
ジャニーズの中でも別格の存在じゃないかな?
カエル「まあ、誰が好きか? という話は荒れるので言葉を濁すけれど、でも現代を代表する名優であることは間違いないよね」
主「岡田准一は和服やアクションの所作がとても美しい。
ただ座るだけでも、今作では浪人の立場だからあぐらを書いたりして、あまり褒められたような座り方はしないんだよね。
だけれど、それが美しい。重心がしっかりしているというのかな。
今作を見て……昔ながらの映画ファンには怒られるかもしれないけれど、三船敏郎を連想したほど!」
カエル「昭和の名優で大スターの三船敏郎は毀誉褒貶も激しい役者ですが、時代劇などの主人公をやらせると抜群にうまく、あれだけの人気も理解できる名実ともに兼ね備えた大スターです」
主「そうだなぁ…『隠し砦の三悪人』あたりを見たらわかるよ。馬に乗って疾走するシーンなどの身体性も見事だし、黒澤一流の演出術もあるけれど、それを最大限支えているのは間違いなく三船敏郎だった。
その三船の演技を参考にしているであろうことは、すごく伝わってきた。
あぐらをかいたとき、顎に手を当てる仕草とかね……
もちろん、三船敏郎に並んだとは恐れ多くて言えません。だけれど、その後を追える役者にはなっているんじゃないかな?
もう大絶賛です!」
カエル「今年の日本アカデミー賞主演男優賞は大変だね。
『孤狼の血』の役所広司に、『検察側の罪人』のキムタクとニノがいて、さらに岡田准一までいいんだから……」
主「もともといい役者だと思っていたけれど、この演技で30代の主役を主に張る役者では、トップクラスであることを証明したんじゃないかな?」
他の役者について
岡田くん以外も良かったんじゃない?
それぞれの持ち味が出ていたでしょう!
カエル「ちょっと賛否割れそうなのが池松壮亮かなぁ、という思いはあるけれど、あれはあれで良かったんじゃないかな?」
主「あんまり感情を出さないような、棒読みにも聞こえかねない演技だったけれど、これが坂下藤吾と合っていた。兄の死に深く関係し、さらに姉の旦那さんという微妙な立ち位置にいる新兵衛への感情は複雑だろうけれど、それがよく伝わってきたね」
カエル「あとは黒木華も落ち着いていて……なんか、この役が似合うんだよなぁ」
主「和服が似合うよね。あまり派手な役ではないけれど、それが彼女の魅力を引き出していてし、ばたつかない演技に好感ですよ」
カエル「西島秀俊をはじめとした他の役者もしっかりと見所を作り、石橋蓮司と奥田瑛二のベテラン組は、しっかりと悪党を演じていて……」
主「石橋蓮司は『孤狼の血』に続いて、またこの役回りかぁ、と笑ってしまうところもあるけれど、さすがはベテランのいい味が出ていました。
本作の役者陣に一切文句なし。
近年の時代劇映画でも、ここまで満足度が高い作品はそうそうないんじゃないかな?」
以下ネタバレあり
作品考察
計算された映像演出
それではここからはネタバレありで語って行きます!
本作が圧倒的にうまいという理由を説明するよ
カエル「えっと……映像演出ってどういうこと?」
主「まずさ、和室を用いることのメリットってどこにあると思う?」
カエル「え? メリット?」
主「和室って基本的に畳なんだよ。
そして、畳には必ず縁がある。
つまり、パーソナルスペースを可視化することができる。境界線が非常に多いんだ。
本作の岡田准一をはじめとした役者はしっかりとそこを意識していて、歩く場面でも畳の縁は踏まなかった。これは和室の作法を知る人からしたら当然かもしれないけれど、現代の人には意識しないと少し難しい芝居かもしれない」
カエル「そう言えば、話し合っているシーンでもきっちりと畳を使って、ここはこの人のスペース、というのを表現していたね。
偉い人……家老の石田は中央の列の畳に座り、その横の列の畳に部下が座るという形とか……」
主「そういうポイントを見せようとわざと畳を見せているシーンもあったし、隠そうとしなかったのは好感度高いよね。
そして、その演出は色々な場面で大きな意味を持つ」
スタートの演出のうまさ
スタートというと、あの雪のシーンの斬り合いのこと?
そこも引き込むには最高にうまいけれど、もう少し先が語りたい
カエル「新兵衛と奥さんの篠が仲睦まじく会話をするシーンだね」
主「ここは伏線貼りとしても、物語としても非常に上手い。
映画のお手本と言ってもいいんじゃないかな?
このシーンで外(縁側)に出ているのは篠であり、新兵衛は家の中にいる。
実はここで多くの境界線が引かれている。
それは柱であったり、部屋のしきりであったり……その他多くの境界線によって、この2人の運命を暗示している。
そしてそれを乗り越えて抱きしめるわけだ。
だけれど、篠は死の運命を迎えてしまう」
カエル「ふむふむ……」
主「上手いのはその後でね、新兵衛が縁側で酒を飲んだり、色々と話をするシーンが多く描かれている。その時、必ず話題は篠に関するものなんだ。
つまり、最序盤で縁側で会話をしていることによって、新兵衛が縁側で外を見ながら話をしているときは、篠を強く意識していることを観客にそれとなくわかるような映像演出をしているんだ」
カエル「へえ! そんなことが……」
主「本作はそんな演出がたくさんある。他にも上手いなぁ、と思ったのはタイトルの部分にある」
OPの映像が語る本作
えっと、美しい自然がたくさん流れたけれど、それだけじゃないの?
大事なのは川を渡るシーンだ
主「もちろん、この川というのは三途の川も兼ねている。
富山の美しい自然をとるのと同時に、新兵衛が死の世界から帰還する……あるいは死んでもいいという覚悟を持って再び藩に帰ってくるという覚悟を表明しているんだ」
カエル「へえ! 色々な意味があるんだね」
主「他にも色々な意味があって、序盤で黒木華演じる里美と藤吾が家の中で会話をするシーンがあるけれど、里美の周辺には家事の道具がたくさんあった。確か、裁縫道具だったけな?
一方で藤吾の周りには囲炉裡しかなく、寂しいものだった。
これは男と女の世界、つまりパーソナルエリアの違いを表していて、その家を支えているのは女である里美であるという描写にも受け取れる。
他にも采女(西島秀俊)と新兵衛が初めて会話をするシーンでは、この2人の間に明確に境界線があり、藩を支える武士と浪人の差がはっきりと出ていた。
だけれど、この境界をこえる演出が後半に出てくることで、この映画のカタルシスは大きくなるんだよ」
散り椿のシーン
あの散り椿のシーンは美しかったよねぇ
しっかりとした殺陣を見せてくれて、本当に嬉しかった!
カエル「特に最近は時代劇でもCGアクションの作品が多くて、それはそれでいいけれど、あの昔の時代劇のような殺陣は現代では不可能なのか……と、ある程度わかってはいたけれど、寂しくなっていたから余計だよね」
主「椿の花は一説にはポトリと落ちるから武士には嫌われていた、なんて話もあるけれど、実際はその様子が潔いと好かれたというのが真実のようだ。
実際、この花を前にして刀を交わす2人の様子はまさしく武士そのものであり、今作の敵とは真逆。
覚悟を持って、不正を正そうとしていることがよく伝わってくる」
カエル「采女なんかは、潔すぎるくらいだよね……この映画に出てくる四天王は全員、武士として美しすぎる……」
主「だからこそ、篠はこの花を愛したんじゃないかな?
椿の花言葉は”誇り”であり、その誇りの前の戦いということもできるけれど……多分、そっちは考えていないだろう。
あの散り椿のシーンは篠の前での戦いであり、潔い2人だからこそ、あのような結末を辿ったんだ」
カエル「2人とも『この相手になら斬られてもいい』と思ったから、決着はつかなかったんだね……」
主「真剣で戦い合う男たちの悲しく美しい姿だよね。
本作は、結局は昔の女を忘れられない女々しい男の物語だと思うかもしれない。でも、だからこそ美しい部分も宿る。
これだけレベルの高い時代劇はそうそう出てこないのではないか? と思わせる作品だよ」
まとめ
では今作のまとめです!
- 岡田准一をはじめとした役者陣の演技は絶品!
- 演出の1つ1つに大きな意味がある!
- 美しく、儚い男たちの物語に心が震える……
今年の邦画大豊作だわぁ
カエル「今年は邦画年間MVPクラスの作品が毎月出ているんじゃないかな? と思うほどだね。
小規模、大規模問わずにここまで出てくるのは、本当に素晴らしい!」
主「特に近年の時代劇映画の中でも、飛び抜けた魅力がある作品だと思います。
普段この手の映画は苦手な人でも、ぜひ劇場で鑑賞して欲しいね」