ホラー映画、苦手なんだよなぁ
面白ければ面白いほど、夜に支障が出るからの
カエルくん(以下カエル)
「できれば避けたいジャンルでもあるけれど、でも実はとても暗喩が込められた考察むきにはたまらない作品でもあって……」
亀爺(以下亀)
「某大ヒット低予算映画には『考え過ぎはよくないよ』と否定されたが、わしはホラー映画は深読みしてなんぼじゃと思っておるからの!」
カエル「まあ、楽しめればなんでもいいんじゃない?」
亀「さぁ、かかってこい! わしがいくらでも相手してやるぞ!」
カエル「えー、感想記事のスタートです」
作品紹介・あらすじ
全米で『IT それが見えたら終わり』を超える大ヒットを記録するホラー映画。声を出したら襲ってくる謎の存在から逃げ回る家族を描く。
監督のジョン・クラシンスキーは脚本と一家の父親役を演じており、プライベートでも結婚しているメミリー・ブラントが一家を支える母親役を演じている。
また、聴覚障害をもつ娘の役には、実際に同じ障害を持つミリセント・シモンズを起用していることでも話題に。
ある日、そいつらは唐突に訪れた……
音に反応して襲ってくる『何か』によって人類は滅亡の危機を迎えていた。手話を使いコミュニケーションをとる家族は、音を立てないように細心の注意を払いながらも生活していた。
しかし、そんな彼らの生活のすぐ隣にもあいつらが潜んでいて……
音を立てたら、即死。何かがやって来る/映画『クワイエット・プレイス』日本版特報
感想
では、Twitterの短評からです!
#クワイエットプレイス
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2018年9月28日
うーむ…残念、ギリギリなとこだけど無し!
設定はとてもいいがそれが活かしきれているとは思えない
またどうしても退屈なシーンが…ちょいちょいツッコミどころが入って没入できず、さらに怖さもなぁ…
なんでアメリカで大ヒットしたのか、疑問になってしまった… pic.twitter.com/NXM1Bv4YtX
残念じゃが、後一歩工夫が欲しかった印象かの
カエル「悪くはないといえばないんだけれど……多分、宣伝も悪いのかなぁ?
アメリカであの『it』を越えると聞くと、それなりのホラー映画を期待すると思うんだよね。だけれど、実は本作はホラーはホラーでも、itなどのようなタイプのホラーとはまたちょっと違うという……
そっちを期待して見に行ったところもあるから、少し肩透かしなところもあるかなぁ」
亀「これは個人的な好みが入るので難しいところじゃが、うちは怪獣映画は大好きじゃが、クリーチャー映画はそうでもない、というのが悪い方向に働いたかもしれん。
まあ、大きくくくれば同じようなものなのかものしれんが……そこも色々とノイズになってしまったかもしれんの」
カエル「ただ、ボロクソいうほど悪くもないし、この映画が好き! という人の気持ちもわかるといえばわかるんだけれど……
なんていうか『全米No1 世界でも大ヒット中のホラー映画!』というめちゃくちゃ高いハードルはダメなんじゃないかなぁ……」
亀「近年のホラー映画では『ドント・ブリーズ』がヒットし、内容も素晴らしい作品じゃったからの。どうしても比べてしまうところはあるじゃろう。
そこまでの期待をしてしまうと、ちょっと残念な思いをするかもしれん」
設定がとてもいい!
とは言いつつも、この設定は面白いよね
ただし、もっとちゃんと活かして欲しかったという思いはあるかの
カエル「声を上げたら即死! というのは、設定として面白いところがあるけれど……」
亀「う〜む……しかし、同じ設定であれば『ドント・ブリーズ』の方が……とかはあんまり言わない方がいいのかもしれんが、残念ながらスタートがいいというところで終わってしまった感もある。
基本的に怖がりな人間であり、ホラー映画なんて基本的には見たくない! といっておるのに鑑賞するのは、その奥にある優れた寓意を発見するためでもある」
カエル「えっと、例えば『ドントブリーズ』はキリスト教に関して言及していると思われる描写が非常に多かったり、あとはうちで書いた記事だと『コクソン』なんて、キリスト教の知識がないと本当の意味で楽しめないのではないか? と思わせる作品だったり……」
亀「ホラーをただの怖がらせるためのものではなく、何を寓話として語るのか? という楽しみ方もあるんじゃが……残念ながら、今作ではその意図はあまり感じなかった。
まあ、それはそれでいい。全ての映画でそうあるべきとは言わん。
じゃが、わしが期待したものはなく、しかも怖がりの人間が途中から全く怖がらなくなってしまったという点でも減点かの」
カエル「相性が悪いのかなぁ……とも思ったけれど、どう考えてもツッコミどころ満載なんだよねぇ」
以下ネタバレあり
ここが変だよ、クワイエット・プレイス
スタートはとても良い!
では、早くもここからはネタバレありで語って行きます!
序盤は決して悪くないんじゃがな
カエル「何が起きたのかもわからないけれど、荒廃した街中のスーパーで、子供達に静かにするように告げるシーンなどは、一気に引き込まれていったよね。
何が起きるかわからないけれど、自然に静かにしてしまうような緊張感に包まれていて……
まあ、自分が観た劇場ではポップコーンを食べる音が響いていたんですが!」
亀「本作ほどに音に対する気遣いが必要な作品はそうそうないかもしれんの……と言いつつ、邦画では音に対してこだわりがある作品が多いような気もする。
それこそ、同日公開の『散り椿』や『リズと青い鳥』なども、なるべく無音の劇場で楽しんで欲しい作品じゃからな。
劇場収入も大事なので、ポップコーンはぜひとも劇場で買って、家で食べて欲しい……というワガママな話じゃな」
カエル「それはそれとして……
何かの行動を起こすのではなく、静かな形にして引き込み、そして少女が見せた優しさが大きな問題に繋がるというのも、面白いスタートで、確かに一気に引き込まれたね!」
亀「ある種のロードムービーみたいな部分もあり、わしなどは緊張感などはだいぶ違うが、家族が危機に際して旅に出るという意味では邦画の『サバイバルファミリー』なども連想したかの。
では、その勢いそのままにうまくいったのか? と問われると……うーむ、それは難しい部分もあるかの」
劇場ではお静かにお願いします!
山ほどある疑問
では、まず疑問1だけれど……え、なんで米軍負けてるの?
そこまであのクリーチャーが強いとは思えなかったがの
カエル「それこそ銃を打ちまくればどうにかなるだろうけれどね……もうそんなことも不可能なくらい増えすぎたって解釈でいいのかな?」
亀「確かに音が出てしまう兵器=銃や爆弾では危険はあるかもしれんが、音に反応するということはいくらでも退治する方法はあると思うがの。
それこそ、花火があるのだから爆弾だってあるじゃろうに……」
カエル「それをやるとたくさん周辺から寄ってきてしまうんだよ、きっと」
亀「それに、防音装置でどうにかなるというのであれば、それこそシェルターなどでも生き残れるのではないか?
日本ではあまり普及しておらんが、アメリカにはもう少し色々とあるのでは?」
カエル「……きっと全部壊された後か、あの家族は入ることができなかったんだよ」
亀「さらに言えば、滝の音で寄って来ないというならば、あの滝の近くに暮らせばいいではないか。それこそテントでも張っての。なんであの状況であの家にこだわるのかもよくわからん」
カエル「ほら、やっぱり家が色々揃っていて安心じゃない?」
亀「電気や水、食料はどこから調達しておる?
1年もの長期間となると、流石にそれらも尽きるように思うし、そもそもインフラが生きておるならば、まだ社会はそこまで崩壊していないのではないか?」
カエル「……う〜ん、電気は太陽光とかだとしても、ツッコミどころは豊富だよねぇ。
基本的に怖がらせ方もワンパターンに見えてきて、途中から全く怖くなくなったし……」
実は優れた宗教映画でもあります!
あいつの造形
これは趣味の問題ですが、大きな不満はここです
あいつの造形が気に食わんの
カエル「気に食わんと言われても……それは趣味じゃん、と言われたらそれでおしまいですが……」
亀「なんか、もっとワクワクするようなクリーチャーが見たかったの。
エイリアンの出来損ないのようであり、まあ、エイリアンをモチーフの1つにしているのじゃろうが、どうにもドキドキしないのはわしだけかの?」
カエル「うちは怪獣ファンではあっても、クリーチャーのファンじゃないからね」
亀「可愛げもなく、強そうにも見えず、魅力があまり伝わって来なかったのが残念じゃ。
まあ、それはそれでいいが……そういった疑問が澱のように積み重なった結果、どうにもイマイチな映画に見えてしまったの」
カエル「……なんでアメリカで流行ったんだろうね?
不思議でしょうがないけれど……」
亀「いや、この記事の最中に何と無く答えが見えてきたぞ」
作品考察
本作が高い評価を受けた理由
なんでこの作品ってこれだけの穴が散見されるのに、高い評価を受けたのかなぁ?
これはあくまでもわしの憶測じゃが……まあ、アメリカの抱える大きな問題があるかもしれん
カエル「大きな問題?」
亀「本作で重要な立ち位置にいる女の子、リーガンを演じているのはミリセント・シモンズちゃんであるが、彼女は本当に耳に障害を抱えておる。補聴器は実際に活用しているようじゃな。
また、本作で重要なのは”子供を妊娠している”という点であり、家族の物語だということじゃが……もしかしたら、これが大きな意味を持つのかもしれん」
カエル「……それが?」
亀「本作が描いたことと全く同じことを描いた(と思われる)映画を紹介するかの。
小規模上映映画じゃが、最近公開したばかりじゃから、映画ファンならご存知の方も多いのではないかの?」
カエル「……えっと『タリーと私の秘密の時間』だね。
簡単に説明すると、シャーリーズ・セロンが18キロも増量して育児中の母親役に挑んだ作品で、育児にあまり協力的ではない旦那さんとの軋轢もあって、あまりにも負担が大きすぎるから、夜間だけのベビーシッターを雇うという物語です。
そのベビーシッターとの交流などが、思わぬ方向性に向かうという、とても面白い作品に仕上がっています。
あ、本当にオススメな作品なので、ぜひ鑑賞してくださいね!」
亀「あまりタリーのネタバレにならないように語るが、序盤で母親のタリーは育児の文句を、見知らぬ人に言われるシーンがあるわけじゃな。
『母親というものは〜』というお決まりの文句じゃ。そして、多くの声に悩まされる描写がある。
この2作は全く同じことを描いており、わしが思うに、本作の怪物とは”世間の声”だというわけじゃな」
うちの看板記事の1つ
こちらもオススメのホラー? 映画です!
怪物の正体
……世間の声?
乱暴に言えば『ガキがうるせえんだよ!』みたいな話じゃな
カエル「あ〜……公共の交通機関で小さな子が泣いてしまったりして、それに対しておこる人がいるという問題だね。社会がどれだけ協力して育児を受け入れることができるのか? ということは、日本でも大きな問題だよね」
亀「本作が示した2つの大きな問題……つまり”障害”と”育児”に関しては、非常に大きな世間の声がある。例えば『0歳からの保育園はかわいそう』というものじゃったりの。
それに対して『ウルセェんだよ! バカヤロー!』と大きな声をあげたのが本作であるわけじゃ」
カエル「……はぁ?」
亀「本作で大きな鍵を握るのが、聴覚障害を抱えるからこそ手に入った補聴器の存在である。それが突破口になることがあるわけじゃが……。
そういううるさい世間の声に対して、聴覚障害を持つ人たちの声……つまりノイズを与えることによって、あのクリーチャーは混乱する。
少し目立つとワラワラと寄ってくる世間の文句の声に対して、さあ反撃開始! という映画なわけであり、それまで静かにすることを余儀無くされてしまった障害を抱える人や、幼い子を抱える母親が、自分たちの天下にするために戦うという映画だと捉える。
そう考えると、中盤に出てくる老人の正体がわかるの。あれはLGBTであり、彼らはゲイのカップルなわけじゃ。そして、結局世間の声に食われてしまう。
ふむ……確かに批評家票が高い理由が理解できるの」
日本人には理解しずらい!
でもさ、なんでそれが鑑賞中はわからなかったの?
……日本人には理解が難しい作品じゃからな
カエル「え? そんな難しい描写ってあった?
おかしな描写はいくつかあったけれど……」
亀「なぜあの家族が生き残ったのか? という問題でもあるが、それは聴覚障害を抱える娘がおり、声を介さないコミュニケーション=手話を日常的に行っていたからだと思われる。
あの状況で、声を出さないで家族間でのコミュニケーションができるのは、手話だけじゃからな」
カエル「ふむふむ……でも、それがなんで日本人には理解しずらいの?」
亀「単純な話、アメリカ人はハリウッド映画を何でみるか?
当然、そのまんま言語でみるじゃろう?
日本で邦画を見るのと全く同じじゃからの。その意識が根強い国で、いざ見に行ったら字幕がたくさん出てくる映画というのは、結構な衝撃ではないか?」
カエル「あ、確かに……日本人だったら、字幕で見るのも当たり前な感覚だしね……」
亀「終盤で大きなピンチを迎える時、お父さんがある行動にでる。
それは補聴器が鍵だと知っているわしら観客からしたら『早く! その補聴器を早く!』と言いたくなってしまう。しかし、娘ちゃんはそれを切ってしまうわけじゃな。
それは外界の音を一切遮断した状態であり、本来の音や声を基本としたコミュニケーションでは、交流することができない。
しかし、お父さんは手話ができる。
だから音を切った状態でも会話をし、本当の気持ちを娘に伝えることができた。手話というコミュニケーションに特化した作品だからこできる、素晴らしく感動的なシーンじゃな」
カエル「……家族間の確執の解消だけでなく、コミュニケーションの重要性とその特異なようでいて、だからこそできる手段を描いているんだね……」
亀「残念ながら、日本人は普通の字幕として見ているためにそこまで感慨はないかもしれん。
それが残念なところでもあるが、そう考えるとしっかりとこの設定を活かした、ヒットもうなづける作品じゃったわけじゃな」
まとめ
では、この記事のまとめです
- アメリカでメガヒットも、日本では厳しいかも?
- ツッコミどころは満載で、そこがノレルのか!?
- しかし、社会問題を反映した点などは見事!
日本人には難しい映画じゃな
カエル「結果としては悪い映画ではないのかな?」
亀「Twitterの短評を書いていたときは全く飲み込めなかったが、こうして考えるとよくできた映画にも思えてくる。
結果的には……ギリギリあり、という評価になるかの」
カエル「まあ、娯楽作だしね。もっとゲラゲラと肩の力を抜いて楽しめばいいんじゃないかな?」
亀「ホラー映画なのに全く怖くない作品じゃったの……まあ、面白くて怖ければ怖いほどわしらは困ってしまうから、これぐらいがちょうどいいが!」
カエル「……怖がりな映画好きってワガママな存在だよね」