カエルくん(以下カエル)
「えー、映画ブログとしてアニメを中心に洋画、邦画、アジア映画を問わず、色々な作品を扱うことをモットーとしている本ブログではありますが、もちろんのこと例外としてほぼ扱わないジャンルの作品もあります。
それがホラー映画なのですが……その理由は……」
ブログ主(以下主)
「……怖いからに決まっているだろうが!」
カエル「まあ、ホラー映画は傑作と言われれば言われるほどに、トラウマになりかねないほどの恐怖心が芽生えるジャンルでもあるからねぇ。
中にはゲラゲラ笑って楽しむ人もいるだろうけれど、ガチで怖がる人もいるし……」
主「昔からさ、ホラーはダメなんだよ。
一応いくつかの作品は見たけれど、すべて明るい部屋で真昼間にみているからね! 怖くないように!」
カエル「……バイオハザードとかのホラーゲームは?」
主「無理無理!
バイオ2を友達がプレイしているところを見て、裏クレア編かな? マンホールに署長が引っ張り込まれるところがトラウマになっているくらいで……もう2度とやりたくないね!」
カエル「バイオなんてアクションゲームの要素も強いけれど、それでダメならしょうがないよね……
でも今作は一応見に行くんだ」
主「キング原作だし、アメリカでも話題だから……」
カエル「一応チェックはしておきたいよねぇ。
では、その結果がどうなったのか……R15とグロ描写も色々と凝っているという話もありますが、感想へと行ってみましょう!」
作品紹介・あらすじ
『ミスト』『ショーシャンクの空に』など映画原作となる小説を多く執筆してきた巨匠、スティーブン・キングの代表作の1つであり、過去に映像化されたこともある『IT』を再び映画化した作品。アメリカではホラー映画のオープニング記録No1に輝くなど、数々の記録を打ち出している。
監督は本作が2作目となるアンドレス・ムシェッティが務め、脚本家には現在公開中の『アナベル』などのホラー作品を手がけるゲイリー・ドーベルマンなどが担当、また音楽には『ブレードランナー2049』などにも起用されているベンジャミン・ウォルフィッシュなどが担当している。
静かな田舎町にて自動失踪事件が発生している最中、ビルの弟であるジョージが雨の中に外に遊びに出かけると、ピエロのような格好をしたペニー・ワイズと遭遇し、行方不明になってしまう。
自分を責めるビルであったが、やがて友人たちの間にもペニー・ワイズと遭遇する者たちが現れ始めてしまい……
1 感想
カエル「では、まずはいつものようにTwitterの短評からスタート!」
#itイット
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2017年11月2日
ホラーとしてどうのと言うよりも、映画作品としてよく出来ているなぁ……中盤は涙が出そうになった
もちろんあのピエロは怖いし、ホラーらしい作品に仕上がっているけれど、それ以上にメッセージ性に素直に感動した
確かに流行るのわかるわ
主「まず、キング原作のホラー作品は上記のようにホラーが苦手なこともあってそこまで見ているわけではない。
一部の作品、ミザリーなどは鑑賞済みなんだけれど……ホラーとしてどれだけ上手いのか? というのはちょっと言及できません。
というのも、怖いのは確かに怖いけれども……それ以上に本作の『うまさ』が際立っていた」
カエル「少年少女たちの物語として、そしてペニー・ワイズといかに逃げるのか、あるいは立ち向かうのかというテーマがしっかりしているね」
主「本作は確かにドギツイ描写もあって、R15に指定されるのも理解できる。アメリカでどのようなレーティングなのかはわからないけれど、子供向けに作られてはいないだろう。
だけれど、自分は子供が見ても楽しめる作品であるとも思っていて……もちろんある程度以上の年齢になっていて、しかもホラーが大丈夫な子供に限定するけれど、R15なのは重々承知しているけれど、でも中学生以上であれば見てもいいんじゃないかなぁ? という思いはある」
カエル「本作のテーマなどを考えたら、むしろその年代の子供達が見られないというのもおかしな話なような気がしてくるね」
主「このあたりはレーティングの問題だし、大人のお話だけれど……でも決して残虐な、恐ろしいだけのホラー映画では全くないということはここで言っておきたい。自分は何度もうなづいていて、うまくできているなぁと感心して怖がらなかったので……
強いて欠点をいうなら、若干長い気がしたことかなぁ……
間延びしてしまった印象がある。2時間以内に収められたら、評価ももっと高くなっただろうね」
これは恐ろしい……造形が見事
クラウンとピエロ
カエル「最近はピエロというと、サーカスのコメディアン的な立ち位置というよりも恐怖の象徴として描かれているよね……海外では素人のドッキリ動画として真夜中に斧を持ったピエロが立っているという映像があったけれど、それもドキドキしちゃうくらい怖くて……」
主「本作のペニー・ワイズのモデルになったのがアメリカを震撼させた連続殺人鬼のジョン・ゲイシーである。少年を中心に33人もの子供たちに強制わいせつの後に同性愛者であることを隠すために次々と殺害していったという、有名なシリアルキラーでもある。
ジョン・ゲイシーは資産家でもあり、慈善活動にも積極的だったからこそのギャップなどもあって、センセーショナルに取り上げられた。そのパーティーなどでよく仮装していたのが、ピエロだったんだよね。
やはりそのような事件の印象は強いだろう」
カエル「今だとピエロが恐怖の対象になってきたから、クラウンと呼ぶことも多いよね」
主「ピエロはクラウンの1種でもあるんだよ。サーカスなどでの戯ける役であり司会進行役として存在するのがクラウンである。クラウンの役割は日本でも多岐にわかっていて、例えば病院などを尋ねて子供たちを楽しませるホスピタル・クラウンというのもいる。
恐怖だけの存在ではないんだけれど……でも、やっぱり恐ろしさが目立つ存在だよなぁ」
カエル「やっぱりあの白塗りの顔だったり、特殊なメイクや衣装が『不気味の谷』現象を引き起こしているような気もするんだよねぇ。あそこまで白い人なんて普通はいないしさ……」
主「元々は知らない人についていかないようとか、子供たちに教育するための悪役……日本でいうとなまはげみたいな存在だったのが、恐怖心だけ一人歩きしたのもあるかもしれない。
特に子供の頃は闇の中に幽霊を見たり……自分は特にそうだったけれど、テーマパークのマスコットキャラクターの着ぐるみが怖かったりするじゃない?
多分、似たような現象が起きているのだろうな」
トラウマになった人も多いであろう、昔のIT
自分は当然のように見ていません!
ホラー映画の意味
カエル「ホラー映画の意味というと?」
主「これはいつも語るけれど、たとえばゾンビ映画ならばなぜゾンビなのか? という理由付けが大事なわけだ。
ロメロが『ナイト・オブ・ザ・リビングデット』や『ゾンビ』にて行ったメタファーは一般大衆であったりという象徴であり、社会批判を含んだものであった。他にも『エクソシスト』は少女の成長期の変化を……反抗期などの変化を悪魔憑きに見立てて、ホラー風味にしたものである。
このようにホラーを描く上では何らかのメタファーがないと、B級ホラーのような単なる残虐であったり、怪物が暴れ回る作品になってしまう」
カエル「それはそれでファンも多いだろうけれどね」
主「そのメタファー論として、本作のペニー・ワイズは機能しているし、この映画で語られた様々な現象に対して説明ができるように成立している。
それはもちろんネタバレになるから後々明かしていくけれど、この映画はそのメタファー論の上に成り立つものであり、単なる恐ろしいホラーというわけではないということは強く主張しておきたい」
カエル「ふむふむ……」
主「ただし、自分の知識不足もあるかもしれないけれど……ホラーらしく不可解な現象もあるよ。そのバランスもまた見事でさ、すべてを解明してしまうとミステリーなどになってしまう。
そうさせないためにホラー映画として成立する絶妙なバランスにある作品である。
ではここからはネタバレ込みで語っていこう」
以下ネタバレあり
2 本作と似ている作品
カエル「まずは鑑賞前のこのTweetをみてください」
これから今日公開で1番駄作であることを祈るITを観に行きます
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2017年11月2日
理由? 面白ければトイレに行けなくなるからだよ!
怖いなぁ……楽しみだなぁ……
キング原作だしスタンドバイミーみたいな作品だと良いなぁ(絶対違う)
カエル「これは鑑賞前ということもあって、ドキドキしながら待機している時のTweetだけれど……
まさか、本当に『スタンド・バイ・ミー』が出てくるとは思わなかったねぇ」
主「今更説明する必要もないかもしれないかもしれないけれど、軽くお話ししておくとキング原作の映画作品は名作ぞろいだけれど、その中でも特に名作とされる作品であり、ロブ・ライナー監督を一躍人気者にした作品だ。
自分も大好きな作品で、間違いなくオールタイムベスト10にランクインしてくる作品だね。
『スタンド・バイ・ミー』を評価しないで何を評価するのかというくらい好き」
カエル「もちろん原作者が同じということもあるけれど、それ以上にテイストがすごく似ていて……少年たちの物語であるけえど、男の子4人組がいて、1人だけ背が高かったり、メガネだったり……そして途中から入ってくる子供がぽっちゃりだったり、上級生らしき兄貴分? みたいな生徒にいじめられているのも一緒というね」
主「そして弟のジョージを探しに行くというのも、やはり死体を探しに行くスタンド・バイ・ミーと同じであって……ホラー要素はさすがに『IT』の方が強いけれど、でも基本的なテイストはまんまだよ」
カエル「中盤のシーンなどでノリノリのロックサウンドが流れたりして、青春のキラキラ感を演出したよね。あの川の中で遊ぶ子供達とか、いいなぁ……懐かしいなぁ……と思いながら鑑賞していたし!」
主「子供達の成長映画として本当にうまくできていて、それが自分には感動した。この手のジャンル、大好きなんだ。
そしてそれが後々の恐怖を煽る描写に対して、いい箸休めというか……波になっている。だから、自分はもう途中からホラー映画ではなくて青春映画として観賞していたくらいだね」
少年少女たちの成長譚
ちょっと人数は多すぎる印象も……
共通するポイント
カエル「他にも共通するポイントというと、何があるの?」
主「根本的なテーマが同じ。
スタンド・バイ・ミーというのは家庭の事情も何もかもが違う4人の少年たちが、新聞に載るために死体を探し回るというお話しで……これだけ聞いても意味がわからないけれどさ、その道中の彼らの旅路が重要なわけだ。
子供達には過酷な運命が待っている。親だってテレビに出てくるような立派な人達ばかりじゃない。中には飲んだくれで、子供にすぐに暴力を働くような親父だって出てくる。
そんな大人や親から離れて、自分の人生を見つめて成長していく……そういう物語なわけ」
カエル「そしてそれは本作と全く同じであるということだね」
主「本作における恐怖の描写も色々あるけれど、共通するのはトラウマを抱えている子供たちだということ。ペニー・ワイズはもちろん恐ろしい存在として描かれているが、それはあくまでも子供たちにしか見えないものなんだ。
なぜならば、ペニー・ワイズというのは単なる恐怖の象徴でしかないから。実際に存在する怪物ではないんだよ。それがジェイソンなどとは違うところ」
カエル「ペニー・ワイズを倒して進むというのは、トラウマを克服して進んでいくということでもあるんだね……」
主「自分がこの作品が懐かしいなぁ、と思ったのは上記のように子供達の物語であることも1つの理由だけれど、子供の頃ってなんでもない暗闇にお化けを見るんだよ。少なくとも自分はそうで、トイレの中とかにお化けがいるような気配があった。
柳の木の下には……みたいな話だよね。
本作は確かにホラーではある。だけれど、その多くの現象には説明できることもある……
それをこれから解明していくことにしよう」
3 それぞれの現象の正体
カエル「では、ここからは現象の正体について語っていくけれど……まずはスタートのジョージは何が起きたの?」
主「多分、すごく単純な話でさ、ジョージはあの排水溝の中に落ちてしまったんだよ。兄に作ってもらった船が流されてしまって、それを取ろうと手を伸ばした。大人であればなんてことのない排水溝でも、あの大雨の中でたくさんの水が流れていて滑りやすくなっていた。
だから体が滑って下水道に落っこちてしまったんだろう」
カエル「でも腕が……」
主「あれは恐怖を煽る演出かもしれないけれど、落ちていく過程でどこかに引っかかって折ったのか、それとも切断してしまったのか……どちらにしろ遺体は見つかっていないわけだからね。結局は流されてしまったのだろう。
日本でもよく『川には河童がいる』なんて言うけれど、河童が相撲が強いなどの力強い設定の理由は水の勢いや流れの強さを言い表しているからなんだよ。
本作の冒頭は暗い軒下で怖い思いをしたジョージが、それを連想する暗い排水溝に落ちてしまった……それだけの話をホラー的な表現をするとこうなる。」
カエル「あの中学生みたいな男の子はどう説明するの? なんかゾンビみたいのに襲われていたけれど……」
主「おそらく、あの下水道で火を使ったから酸欠になってしまったんだよ。
排気口らしきものはあったけれど、空気より重い気体が下に溜まっていたのだろう。下水道事故ではよくあるものだ。
だから誰も助けに来ることなく行方不明のまま亡くなってしまった……あそこに入ったことは誰も知らないだからね」
カエル「なるほどねぇ……あの女の子は何もほとんど情報がなかったからわからないけれど……」
主「大方、駆け落ちとか家出とかじゃないのかな?
足が取れたなどは幻想だろうし……それ以外の2件は事故と見るのが筋だろう」
このシーンなどは小さな子供の頃に見たらトラウマかもしれない……
それぞれのトラウマ
カエル「う〜ん……でもさ、あの女の子のベバリーのシーンはどう説明するの?」
主「ここがこの作品のうまいところだけれど、ベバリーの家は父子家庭なんだよね。そして子供から大人に成長するところ……思春期になっている。彼女は生理用品を買おうとしているけれど、それに対して躊躇しているところがある。
普通の家庭であれば母親や周囲の女性に相談するなりすればいいのに、それができる環境にない。
そしておそらく……父親から性的な虐待を受けている」
カエル「あの父親も気持ち悪かったよねぇ……」
主「あの年頃の女の子が父親を嫌うこと自体は正常な反応なんだけれどね。
でもね、ペバリー自身は女性であることを認めたくないし、恐怖心を抱いている。だから排水溝に髪の毛を切って捨てている……つまり『女性であることを否定する』行為なんだよ」
カエル「そこから血が噴き出してくるわけで……」
主「あれって初潮のことなんだよ。
男の子の成長は血はあまり関係しないけれど、女の子は血が出てしまう。ペバリーにとってはその衝撃はあの映像なほどだったわけ。そりゃ、トラウマになるよね」
カエル「それは子供達にだけは見えるんだね」
主「そこはホラー的な表現だよね。子供達が向き合うトラウマは、子供達にしか見えない。大人はトラウマを持たない……この話では向き合わないから見えない。
他の子供達にしてもそうで……
ビル=ジョージの亡霊
マイク=両親の最期の象徴である炎
エディ=ゾンビ(病人、病気持ちの象徴)
などとなっている。中にはなぜこのトラウマが? と思う人もいるけれど、それは多分大人編に続くのだろうな」
負け組たちの物語
カエル「本作では『ルーザーズ』というチーム名が結構気になったよね。自分たちを負け組であるなんて言うなんて……」
主「でもね、それが本作の最大の味なんだ。それこそ『スタンド・バイ・ミー』だって過酷な環境にいる子供達が、自分たちの家族や過去、未来と向き合うことで成長していく。
本作も自分たちの恐れるもの、トラウマと向き合うことで成長してく作品であって……それを克服できなかった人物が3人いる」
カエル「3人?」
主「ペバリーの父親、エディの母親、そしてあのいじめっ子の主犯格だ。
この3人が本来向かい合うべきだったものというのは、自分の中にある恐れなんだよ。ペパリーの父は娘が自分の元を離れていくかもしれない、もしくは他の女性と向き合う勇気がなかったりしたのかもしれない。
エディの母親なんてまさしく子離れができていないタイプ。
そしてあのいじめっ子は自分の中にある弱さに立ち向かうべきだった。だけれど、その立ち向かう相手が自分のことを叱り付ける父親になってしまったこと……それが最大の問題なわけだ」
カエル「恐れや弱さを抱えた者たちが『ルーザーズ( Losers)』だったけれど……でも、あの包帯が『LOVERS』に変わっていたじゃない? たった1文字違うだけなのに、これだけの変化をするなんて……英語の面白さだよね」
主「その時点で彼らは負け犬ではなく、愛を知る者……もしくは愛し合う仲間たちになっている。
見事な成長を見せているんだ。
そして彼らが自らのトラウマに立ち向かった姿、誰も見捨てることなく全員で戦う姿……それだけで物語は完成している。
もちろん、非現実的な描写はある。でも本作はホラーだから……それでいんじゃないかな?」
最後に
カエル「原作は子供と大人の2部作構成になっていて、大ヒットもあって2部目を鋭意制作中問いう話だけれど、これは見に行かないといけない作品になっているんじゃないの?」
主「正直、子供達も数が多かったりしてそこまで描写されなかった子もいて、ごちゃごちゃしていた印象があるんだよね。でもそれが2部作目だと回収されるのかな?
ぜひ楽しみにしていたい」
カエル「……で、結局トイレには1人で行けた?」
主「全然へっちゃらだよ! トイレくらい、1人で行けるさ!」
カエル「……じゃあ深夜に真っ暗闇の中で……」
主「馬鹿野郎! 真っ暗闇の中でトイレするやつがどこにいるんだ! 当然電気はガンガンつけるよ! 自動で消灯!? ふざけんな! 本が読めなくなるだろう!」
カエル「……なんちゅう強がりなんだ。
うん、待てよ? 89年の27年後というと……」
主「それ以上は何も言うな!」
- 作者: スティーヴンキング,Stephen King,小尾芙佐
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