カエルくん(以下カエル)
「今回はちょっと前に公開した韓国映画2作品について語っていくよ!
公開規模こそ小さめだったけれど、注目度は公開規模を考えれば格段に高かったよね。ソフトや配信などでやっと鑑賞ができた! って人も多かったんじゃないかな?」
亀爺(以下亀)
「この2作とも注目作ばかりの韓国映画の中でもそれなりに話題になった作品じゃからの。
『哭声 コクソン』『お嬢さん』『新感染 ファイナル・エクスプレス』もあるが、2017年を代表するアジア映画となっておるのではないか?」
カエル「今回は2本のレビューを上げた後に、ちょっと韓国映画に対して思うことを挙げていくとするよ!」
亀「みんな大好き韓国映画じゃから、より慎重な言説が求められるの」
カエル「もう毎年のことかもしれないけれど、やっぱり注目作が多くて……実は韓国映画を見始めたのがここ最近の話なんだけれど、なるほど、これはヒットするな、というのもうなづける内容でさ。
ただ色々なインタビューなどを読むと韓国映画の内情などもうっすらとわかってきたけれど、向こうは向こうで大変みたいだね」
亀「実は韓国映画の盛り上がりとは裏腹に、日本では配給会社が撤退したり、小規模公開となってしまう現実がある。特にアジア映画はその傾向があるの」
カエル「ファンの思いとは裏腹に……ってことなのかな? 一時期の韓流ブームもすっかり終わって、今は政治的状況もあって嫌韓ムードもあるしねぇ」
亀「映画と政治は別問題じゃがの。では、感想記事を始めるかの」
アシュラ
作品紹介
キム・ソンス監督作品。アンナム市という架空の都市を舞台にした汚職をする市長と、それに追従する刑事、師匠の汚職事件を追う検察をを描いたクライムサスペンス。
ありとあらゆる手段を用いて犯罪にも躊躇なく手を染め私服を肥やす市長のパク・ソンベに検察による汚職事件捜査が行われる。しかし、刑事のハン・ドギョンは重要参考人を拘束、その後にフィリピンに出国させるなどの手を使い妨害を重ね、捜査は難航していた。
しかし検察側はドギョンがソンベの息がかかっていることを看破し、その弱みを握ることに成功する。市長と検察、2つの巨大勢力によって板挟みになってしまったドギョンは、絶体絶命の危機の中をどのように立ち回るのか……
感想
カエル「というわけで、まずはアシュラの感想から始めるけれど、ボクが韓国映画に対するイメージってこういう作品かなぁ……
かなりグロテスクで、血がたくさん飛び交って、そして暴力的……心休まる瞬間は全くないという徹底ぶりで、主人公をとことん追い詰めていく、ある意味ではヤクザ映画に近いものが……というか、この作品はヤクザ映画か」
亀「暴力だけを売りにするような作品とは違うがの。
この映画の絶望感であったり、追い詰められていく感覚というのは相当に迫力があって見ごたえもある」
カエル「あとはやっぱり顔が日本人とも近いから、市長役のファン・ジョンミンがどこから見ても松重豊にしか見えないという……なんだか、最近毎回韓国映画に登場する人が誰に似ているとか言っている気がするなぁ」
亀「似ている人が多いから仕方ないところがあるの。しかも松重豊は暴力的な役を演じることも多いから、余計に似たように見えたのかもしれん。
本作のグロテスク具合は本当にすごくて、見ていて気分を悪くする人もいるかもしれん。特に終盤はさらに過激になっており……わしも苦手なところがあったというのが正直な所じゃの」
カエル「あれ? でも悪党の物語って結構好きなんじゃなかったっけ?」
亀「例えばヤクザ映画でも今作のように全員悪人で血みどろになって戦うタイプの映画もあれば、暴力を描きながらもその悲哀であったり、悪党の矜持を描く作品もある。北野武の映画であれば『アウトレイジ』が前者だとすれば、わしが好きなのは『ソネチネ』などの路線じゃ。どちらもヤクザの抗争の物語ではあるが、その味がまったく違うものじゃな。
それからあのようなラストにするのもわしが好きな作品と少し違うかの」
圧倒的な某力描写が響く映画
韓国の政治不信
カエル「でも、韓国でこれが大ヒットしたというのがやっぱりすごいよねぇ」
亀「根底には韓国の政治不信がここまで来ているということもあるのかもしれん。ご存知の通り韓国では大統領が何代にもわたって逮捕されてしまうという現実がある。さすがにここまでの悪逆非道なことはしておらんのじゃろうが、どこかで『もしかしたら……』という思いもあるのかもしれん。
エンタメでありながらも、本作は直喩としてこのような政治劇を描くことによって、政治家のみならず警察、検察に対する不信感も見事に現れているということじゃろうな」
カエル「日本でも政治不信ってやっぱりあるけれど、ちょっと質が違うような気がして……政治を揶揄した邦画だと今年ならば『帝一の國』を思い出すけれど、あっちはコメディ寄りだし、日本ではさすがにこのレベルの事態ってありえないと思うんだよ。ここまで悪い人はいないという、性善説のようなところがあるじゃない?
だけれど、韓国はそうじゃないのかな?」
亀「韓国国民の実態はわからんが、日本と違って韓国はデモなどによって国民の力で政治を動かそうという意識が非常に強い。ある意味では最も民主主義らしい国と言えるのかもしれんの。
もちろん、本作はエンタメじゃ。しかし、このような映画が人気を博すという事実があり、そしてそれが予算も沢山割かれて制作されているという事実がある以上、やはり国民感情に深く根付いた映画ということができるのかもしれん」
カエル「ヒット作には多くの国民を惹きつけるだけの理由がある、ということならば、この作品もそうなるのかもしれないね」
トンネル 闇に鎖された男
作品紹介
崩壊したトンネルに1人残された男の救出劇を描き、韓国で700万人以上が鑑賞したヒット作。ジョンス役には『お嬢さん』などのハ・ジョンウ、『空気人形』などにも出演したぺ・ドゥナが妻を演じる。
自動車販売員のジョンスはガソリンスタンドに寄ったところ、間違えて満タンにガソリンを入れられてしまい、そのお詫びに水を2本もらう。そして妻と娘の待つ家へと向かう道中、通りかかったトンネル事故に巻き込まれてしまう。
最初はすぐに救出されるであろうと楽観視していたが、救助隊が見た現場はあまりにも過酷なものであった。ジョンスに残されたのは水が2本と娘の誕生日用のケーキ、そして携帯電話と車だけだった。
今、かつてない救出劇の幕が上がる……
感想
カエル「次もまた小規模公開ながら、多くの映画ファンに賞賛された『トンネル』のお話だけれど、こちらもとてもうまい作品だったね」
亀「伏線も効いておったし、一瞬先の展開もわからないものになっておった。そして皮肉に満ちた展開といい、確かにエンタメ性が抜群の映画じゃったの」
カエル「極限の状況下でどう生きるのか? という作品なんだけれど、この映画は緊張感がずっと続いてダレナイように見事に構成されていて……しかも救出する側のドラマもあって、これが日本だったらどのようなものになるんだろう? と想像しちゃうよね」
亀「途中、非常に絶望的な状況に陥るわけであるが、確かにその状況を考えたら仕方ない、と思うところもあるかもしれん。わしがこの事件を見守る一般人であったら、同じように救出劇に対してチャチャを入れていたかもしれん。
それだけ絶望的な状況が訪れるわけじゃが、それをどのように切り抜けるのか? というのが面白いところじゃの」
カエル「結末はわかりきっているわけじゃない? 救出劇の物語だから、多分生き埋めになってそのまま……ということはないんだろうなぁ、とか予想しながら見始めるけれど、最後まで手に汗握るハラハラした展開になって!
特にグロテスクな表現もなく、面白い映画だなぁ、と感心したよ」
亀「ただ、わしとしてはちょっと疑問もある。
もう少し限界サバイバルでどのように生き残ったのか? という描写が欲しかったし、後半はそこを映さないことでより緊迫感を煽ったのもわかるのじゃが、ちょっとご都合主義に見えてしまったところもあった。
長い間、水と食料がほぼないに等しい中で、どうして生きることができたのか? という説得力には欠けておったような気もするの。犬も含めて、もっとその納得できる描写があればよかったかの」
ここまでしっかりと『汚れる』というのも邦画とは違うところ
(C)2016 SHOWBOX, ANOTHER SUNDAY, HISTORY E&M AND B.A. ENTERTAINMENT ALL RIGHTS RESERVED.
社会問題の風刺
カエル「本作も社会問題を風刺しているところがあるよね」
亀「トンネルの手抜き工事がこの事故の発端なのであるが、韓国では聖水大橋の崩落事故であったり、記憶に新しいところでは三豊百貨店の崩落事故が問題になっておる。他にも海外で韓国が請け負った建築物が崩落しているなどといった事例も報告されておる。
やはり建築物の崩落はとても関心のある事故であるということじゃの」
カエル「そして何よりも近年発生した中で衝撃的だったセウォル号沈没事故なんかもあったりして……」
亀「先ほどのように『ヒット作には理由がある』という理論をここでも使うと、この映画が韓国で大きな動員を果たしたのは、やはり社会問題をダイレクトに扱い、そしてそれをエンタメとして描き切る一方でスッキリとするようなラストを描いたということじゃろう。
大事故が多く続き、韓国では建築産業に対する不信感が多かった。そして悲惨な事故によって助かってほしい命が亡くなってしまったという現実……それを直視した時に、助かってほしいという願いがこの映画には込められておる」
カエル「それでいうと日本では『シンゴジラ』とか『君の名は。』に近いのかもしれないね。
これらの作品が震災以降の文脈にある映画であることは間違いないけれど、その根底には『助かってほしい命の救済』があったし……」
亀「日本の場合は天災じゃから、ゴジラなどのような描き方になる。しかし、韓国の場合は人災じゃからの。そのために悪役となるのが人間なのじゃろう。政治不信やマスコミ不信、急速な経済成長のためになおざりにされてしまう安全や、人命など……そのような風刺が韓国国民に響いたのじゃな」
韓国映画に思うこと
カエル「今、韓国映画は世界中でとても人気があって、日本でも大好き! っていう映画好きがすごく多いじゃない?
それも納得できるくらいうまい映画が多くあって、エンタメとしては文句のつけようがないんじゃないの?」
亀「まあ、そうじゃろうな。ただ、主は若干の疑問があるようじゃが」
カエル「……疑問?」
亀「このブログでは毎月映画ランキングをつけておる。これは主がどの映画を評価したのか、読者の方に発表して鑑賞してもらいたいという思いと、そして何よりも見た映画を忘れないためにつけておるところもあるのじゃが……
韓国映画は大体TOP5には入ってくる。
しかし、その月の1番になることはないんじゃな」
カエル「それは個人の趣味だと思うけれど……アニメが上位に行きやすいし」
亀「もちろんそうじゃが……韓国映画の『エンタメ性』というところに違和感があるのかもしれん。
何というか、こういうと反発があるかもしれんが『よくできた携帯小説』であったり、もしくは『大人のお子様ランチ』のような感覚といえばいいのかの?」
カエル「……それって罵倒なの?」
亀「いや、褒めておる。
携帯小説の読者を惹きつけるためのジェットコースターのような急な展開で魅せる方法であったり、お子様ランチのように好きなものをモリモリと盛り込むというのはエンタメとしては間違っていない。
君の名は。の新海誠も語っておったが『じゃあ、やってみればいいじゃないですか?』と言われても簡単にできるものではないんじゃよ。
伏線も効いておるし、大人が好きなものをたくさん詰め込んでおって、社会的なテーマもあって、暗喩もある。読み取り方も自由自在。このような映画は作ろうと思っても中々できないし、そのような作品が支持を集める韓国映画というのは実は特殊な状況なのかもしれん」
カエル「えー? じゃあ、何が不満なの?」
亀「ふむ……『うますぎる』ことと『刺激が強すぎる』ことかもしれんの」
『トンネル』のMVPはこの犬だという人も多いのでは?
(C)2016 SHOWBOX, ANOTHER SUNDAY, HISTORY E&M AND B.A. ENTERTAINMENT ALL RIGHTS RESERVED.
強い刺激に思うところ
カエル「どういうこと?」
亀「韓国映画はうますぎるし、刺激が強すぎる。例えば強烈なグロテスク描写やエロティック描写、そして一瞬先もわからないような展開によって支えられておる。
それはすごくわかりやすい面白さなのじゃよ。しかし、一歩間違えると単なる反射になってしまう恐怖もある」
カエル「反射に、ねぇ」
亀「ホラーで大きな音がなってびっくり! というのは反射じゃ。より過激に、より面白いものを……という動きがあるのはいいのじゃが、これ以上行くとどうなるのだろうか? という思いがある。
わしが思うに、韓国の映画ファンはその刺激に慣れすぎているのではないか? という思いがある。より過激であったり、面白くないと満足できないように耐性ができておるのではないか? ということじゃな」
カエル「それだけ聞くと全く悪いことではないと思うけれど……」
亀「日本でいうとアニメ業界も近いものがあると思っておる。
わしは日本のアニメはなんだかんだ言っても世界一のクオリティを誇ると思っておるし、平均してクオリティが高く、毎年のように傑作が出てきておる。しかし、その作画クオリティに慣れすぎていて、少し刺激が弱い作品だと物足りないようになってきておるのではないか?
そして韓国映画のような方向性……例えばエロティックやグロテスクで魅せる要素も多い作品の場合、その路線で突き進むと、単なるエログロの映画になってしまうのでは? という懸念もあるんじゃろうな」
カエル「う〜ん……杞憂なんじゃないかなぁ? という思いもあるけれど……」
亀「邦画においては人気の俳優を起用し、誰にでも分かりやすくすることでヒットさせるという方程式がある。今年の映画を見ても、ヒット作はわかりやすい映画が多い印象じゃな。興行収入ランキングを見てもキャラクターものであったり、シリーズもの、元々知名度のある作品が並んでおる」
カエル「割といつも批判していることだよね。『観客を馬鹿にしているようなわかりやすさ』って……」
亀「映画ファンからしたらそれが邦画にとって良いことと言えるかというと、そうではないかもしれんが、映画をあまり観ない層に受け入れてもらうためには重要なことじゃろう。
そして韓国の場合も同じなんじゃろうな。
ただ、ヒットの方程式である『わかりやすさ』の意味が違う。
わかりやすい刺激が沢山ある映画が素晴らしいという構図になっておらんか? と言うことじゃ」
かなり過激な暴力表現もある『アシュラ』
うますぎる韓国映画
カエル「えー? エンタメ作品なのにわかりやすい刺激ってダメなの?」
亀「ダメというよりも、わかりやすいというのが違和感の正体かもしれんの。
例えば『ディズニー/ピクサー作品』がそうじゃ。圧倒的な技術力と確かな話作りに支えられて、万人ウケするように作られておるがの、そのせいで今後の展開が読み取れるようになっている。このブログでは近年のディズニー作品は圧倒的なクオリティがあるものの、技術に頼りすぎていて先がわかってしまうのではないか? という懸念がある。
韓国映画も同じじゃ。その圧倒的で刺激的なエンタメ性ゆえに、どのような展開になるのか、なんとなく先読みできてしまう作品も多い」
カエル「う〜ん……でも画面構成とかもすごい作品が多いし、かなり刺激が強いし……」
亀「じゃから『大人のお子様ランチ』なんじゃな。あれもこれもと色々な素材や派手な調理法を1つの皿で表現して、色々な味を楽しませる。それは料理の方向性としては正しいし、確かにそれで破綻させないのは料理人の腕もあるじゃろう。
しかし、これだけ沢山美味しいものをつぎ込んだら、そりゃ美味いに決まっているよね? という思いもある」
カエル「深みがないってこと?」
亀「そうではないが……強いて言えば『あざとい』というのが1番近い言葉になるのかもしれんの」
最後に
カエル「今回はあまり賛同されにくそうな記事になったね……まあ、個人の趣味ですって話になるんだろうけれどさ」
亀「『あの日、兄貴が灯した光』よりも同時期に公開で同じ視覚障害をテーマにした河瀬直美監督の『光』 を評価する人間の話じゃからな。万人ウケするのは『あの日、兄貴が灯した光』の方じゃろうが……
それから、最後に話すがハングルが韓国映画に独特の味をもたらせておる」
カエル「ハングルが?」
亀「韓国映画を見て思うのが、ハングルの強さじゃ。普通に話していてもかなり感情的に聞こえてくる。言語によっても言葉の強さというのは異なるものでの、例えば関西弁や広島弁は少し怖いように当たりが強く聞こえたり、逆に東北弁は優しげに聞こえる。
ハングルは日本語に比べて感情表現がより強い。それが韓国映画のような刺激の強い映画と組み合わさることで、さらに過激に見えるというのもあるのじゃろう。
そして派手な芝居もハングルや韓国人ということで、それほど違和感を覚えることもない。おそらく同じ演出、同じ脚本で日本人が演じても、どこかお芝居感が出るじゃろう」
カエル「そこまで感情を表に出さないのが日本の美徳みたいなところがあるしねぇ」
亀「韓国映画のクオリティを支えておる要因の1つがハングルじゃな。だからわしは邦画が同じようなことをやっても、実はあまり意味がないと考えておるが……誰かやってくれんかの?」
カエル「……このブログでは酷評する作品になりそうだね」
亀「もしかしたらそれもあって日本ではアニメが流行るのかもしれんの」