物語る亀

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物語愛好者の雑文

物語と戦争〜映画はどのように戦争を語るのか?〜

カエルくん(以下カエル)

「8月15日……今年も終戦記念日が来たね」

 

亀爺(以下亀)

「様々な思いを抱く人も多いじゃろうな。特に今年は日本周辺が非常にきな臭いことになっておる。

 大国も近くにいる日本はなかなか難しい立ち位置にいることは間違いないの」

 

カエル「実は昨年も戦争について語っているけれど……」

 

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亀「基本的な思いは変わっておらん。

 誰もが戦争は嫌いじゃ。じゃが、時にはそれが必要な時もある。人を殺すのは悪じゃが、ではISの残党が攻めてきたら……もっと身近なこととして考えると、通り魔が襲ってきたら、家族に凶刃がむいたら我々はどう対処するのか。それは永遠の課題じゃろうな」

カエル「今年は『戦争と物語』を主軸のテーマとして語っていこうとしようか。

 まあ、色々と難しい問題だから……一つの記事だけでは語ることはできないだろうけれど」

亀「では、記事の始まりじゃ」

 

 

 

 

 

1 戦争は起こり得るのか?

 

カエル「まずさ、認識の問題だけれど……今後日本が戦争をする可能性ってあるのかな?

亀「あるといえばあるし、ないといえばない

カエル「……そんな誰にでも言えるような言葉じゃなくてさ!」

亀「まず、戦争というものはいつだって起こり得るじゃろう。それは武装をしているからとか、逆に平和を訴えているからというのは関係ない。誰かが日本に攻撃を加える可能性はいつだってそこに存在している。

 しかしの、では問題じゃが……では『誰』が攻撃するというのか?」

 

カエル「え? 今の日本の世界情勢だと……やはり北朝鮮?」

亀「本来の北朝鮮の敵は韓国じゃろう。そしてその後ろにいるアメリカじゃ。ここで日本に攻撃してくる可能性も0ではないが、その前に韓国との関係がよほどのことがない限りは、戦う相手は韓国じゃろう」

カエル「楽観はできないけれど日本と戦う可能性はそこまで高いわけではないということね……

 じゃあ、ロシアや中国は?」

亀「日本とロシア、中国クラスの大国同士が戦争をしたら、その時点で第三次世界大戦じゃ。その時点でもはや日本どうのこうのという事態ではないじゃろうし、今の中国、ロシアはそこまで愚かだとも思わん。

 もちろん東南アジアや、遥か彼方のオーストラリアなども日本と戦争する可能性は無いと断言してもいいじゃろう。そう考えると、日本の国土で戦争を行う、巻き込まれる可能性は考えにくいというのがわしの私見じゃな

 

カエル「じゃあ、安心してもいいんだね?」

亀「じゃがな、わしは日本は戦争をする下地は形成されておると思っておる。

 いや、むしろ日本の国民性を考えれば、それはいつ暴走してもおかしく無い

 

 

 

日本人の国民性

 

カエル「それは何? 安倍政権がどうのとかいう話?」

亀「そうでは無い。そう考える人もおるじゃろうが、わしは政権どうのこうのを語るつもりは無い。

 前回の記事でも書いたがの……日本人は『危機に対して団結する』という意識が非常に強い。それは東日本大震災の時に嫌という程わかった」

カエル「前回の記事でも『絆やがんばろう日本の名の下に、一致団結ムードを作り出した』とか『それは1億玉砕、欲しがりません勝つまではの精神に似ている』と述べていたもんね……」

 

亀「もちろん、あの状況下においてそれが間違いだとはわしも全く思わん。むしろ、それが正解であり、被災地や被災者のことを思えば水や電力を我慢することは当然のことじゃとも思う。

 しかしの、わしが思うに、あの戦争もまた『当然のこと』という意識が国民を支配してしまったのではないか?

カエル「……当然のこと?」

亀「前線で戦う兵隊さんのことを思えば食事は我慢だ』

『1億玉砕の精神で特攻するのが当たり前』

 そういった精神があの戦争のムードを作り上げた。そして民主主義はその民意に逆らうことができない。なぜならば『戦争賛成』こそが民意だとしたら、それを実行するのが民主主義じゃろうからな。

 誰が明確に作ったものではない……そういった『空気感』こそが、日本が戦争に至った原因じゃとわしは考えておる

 

カエル「個々の考え方はいろいろとあると思いますが、あくまでも亀爺の見解です」

亀「そしてその意見は『正しい』のじゃよ。

 不祥事を起こした芸能人や政治家を叩くのは『正しい』こと。

 嘘をついた音楽家や科学者を晒し者にするのは『正しい』こと。

 私は正しい、これは当然のこと……そういった意識こそが、ムードを作り上げる。

 そしてそのムードの元で一億玉砕精神であったり、集団リンチの断罪意識というものは形成されていくものじゃ」

 

 

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『敵』を知るということ

 

カエル「じゃあ、その正しさが問題だとしてどうすればいいのさ?」

亀「簡単に言えば相手のことを知り、敵のことを知ることじゃよ。

 先の大戦では日本はアメリカに対してあまりにも無知じゃった。例えば今年公開した『ハクソー・リッジ』を見て欲しい。日本人が一億玉砕だと言っている中で、アメリカ本土ではパーティに繰り出す余裕があった。

『マダム・フローレンス』は時代設定が戦時中じゃがな、それでもオペラを鑑賞したりする余裕があったわけじゃ。

 そんな国に芋を食べて我慢をして働いた国が勝てるはずがないじゃろう」

 

カエル「愕然とするような差があるよね……」

亀「そしてそれもこれも相手に対する無知から始まったことじゃ。

 だからまずは相手を知らなければいけない。そのためには自分と同じ思想や、心地いい言葉を吐く者だけを相手にしてはいけないじゃろう。

 右派であれば朝日新聞や毎日新聞を読み、左派であれば産経新聞や読売新聞を読む。自分の思想と真逆の相手の意見を聞くことで、知見は少しでも広がるじゃろう

カエル「でもさ、それって簡単に言うけれど、実はすごく難しいことだよね?」

 

亀「そうじゃな。嫌いな相手のことを考えろ、というのはストレスがたまることじゃ。しかしの、そうしないと何も物事は解決しない。

『敵を知り、己を知れば百戦危うからず』

 誰もが知る言葉じゃろうが、それを実行するのはすごく難しいからの」

 

 

 

2 世界各国の『映画』と『戦争』

 

アメリカの場合

 

カエル「では、ここからは世界中の戦争と映画の関係性について考えていこうか」

亀「まずはアメリカからスタートじゃが、これから先『ダンケルク』なども控えておる。戦争映画はやはり人気の一大ジャンルであるが、その内容が……一昔前とは違っておるように思うの

カエル「やっぱりアメリカというと『アメリカ最強だぜ!』って映画を量産している印象もあるけれど、最近は『アメリカンスナイパー』だとか、それから『ハクソーリッジ』などもそうだけれど、決して単純な戦争の英雄という一面だけではない映画を次々と公開しているよね」

 

亀「その中でも注目したいのが『ヒーロー映画』じゃな」

カエル「……あれ? ヒーロー映画が苦手で、そんなに見ていないはずなのにヒーロー映画について語るの?」

亀「おほん!

 近年のヒーロー映画の特徴としてあげられるのが『正義の在り処』について語っておる作品が多いということじゃ。例えば『シビルウォー』などは正義VS正義の戦いじゃし、それから『ローガン』はヒーローがその力を失い、燃え尽きそうな時に何を残すのか、ということを問うた映画ということもできる。

 他にも『スパイダーマン ホームカミング』などは、スパイダーマンシリーズがそうなのじゃろうが、周辺地域を救う等身大のヒーローという位置付けじゃな」

 

カエル「こうやって考えてみると、アメコミヒーローに対する印象とは少し違う映画が多いかなぁ……イメージの中のアメコミヒーローって『ガハハ!!』と笑って、圧倒的な力で悪に勝つ、ある意味では脳筋のイメージだったけれど……」

亀「それは現状、ソ連という敵を失ってしまったアメリカの正義に対する迷いというものが見て取れるの。

 誰もが共通認識としての正義を見出すことができなかったからこそ、社会を写す鏡でもある映画に深みと戸惑いを与えておるのじゃろう」

 

カエル「……これから先のヒーロー映画ってどうなっていくのかな?」

亀「その1つの答えが『ワンダーウーマン』にあるとわしは睨んでおる。

 これは公開して鑑賞してから語ろうと思うが……ワンダーウーマンは海外評では傑作らしいからの。その理由もなんとなく想像つくが……それは映画を鑑賞してからじゃな」

カエル「……忘れてないといいね」

 

 

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ドイツの場合

 

カエル「そして敗戦国として非常に重い枷を持つ、日本と似たような立場のどいつだけれど……このブログでもナチスドイツの映画はいくつか語っているよね」

亀「近年、ヒトラーの書いた『我が闘争』が再販されたこともあってナチスドイツを見直そうという動きがドイツにあるように思う。現に、昨年から今年にかけて世界中でナチスドイツを扱った名画が登場しておる」

カエル「重〜いユダヤ人殺戮を描いた『サウルの息子』であったり、ナチスドイツの罪を暴いた『顔のないヒトラーたち』や、現代のドイツにおけるナチスの立ち位置を明らかにした『帰ってきたヒトラー』だったり、そして今年のアカデミー賞外国語映画賞にもノミネートされた『ヒトラーの忘れもの』などだね」

 

亀「この全てがドイツ制作の映画というわけではないが、やはり見直そうという動きが出ておる。

 もちろん、近年以外でも『WAVE』などの是非とも鑑賞してほしいナチスドイツを扱った映画もある。

 その中でわしがナチスドイツを映画が好きな理由は『葛藤』があるからじゃな

カエル「一方的な悪としてのナチスを描くだけではなく、自分たちの過去としても描いているという話だね」

亀「ドイツにとってナチスというのは消したくても消せない罪じゃ。ドイツは公式にナチスの罪を認めており、悪いのはドイツではなくナチスであるということに歴史的決着をつけたという話もある。

 これは日本が天皇の戦争責任を問えないこともあって、若干うやむやで曖昧に片つけている印象もある中で、ある意味ではだいぶ分かりやすい解決法を見つけたとも言える」

 

カエル「どちらが良い、悪いという話ではないよ」

亀「当然じゃの。

 その中でドイツは『ナチスとどう向き合うか』ということをテーマにした映画が多く作られておる。

 自らの過去とどう向き合い、そして折り合いをつけていくのか……それは近年の移民受け入れ体制も含めた、今でも続くドイツの葛藤が映画に見事に現れておる

 

 

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日本の場合

 

カエル「そして日本の場合だけれど……やはり『この世界の片隅に』の印象がすごく強いよね。あとは戦後の日本について語った『シンゴジラ』とかさ」

亀「今月のキネマ旬報を読んでおったら、興味深い記事があったの。

 

『こういった美少女アニメに偏見を持つ向きはあるだろうが、実はそういった作品こそ現代を突く内容や、作り手の勢いなどが保持されている。この傾向は往年の日活ロマンポルノに近く、要は何かを訴えるためにエロを表にするか美少女を表にするか?』

 (キネマ旬報8月下旬号 P66)

 

 もちろん、このブログがアニメ映画により力を入れておることもあるかもしれんが……わしも現代のアニメには、実写邦画にはあまり見られないテーマ性や力強さを感じる作品が多いと思っておる

カエル「このブログで絶賛した『聲の形』も障害とコミュニケーションについてすごく深く掘り下げた映画だったよね」

 

亀「これはわしの私見であるが、どうしても日本の戦争映画は結論ありきなところが見受けられる。つまり『戦争反対』じゃな。もちろん、それはそれで『正しい』ことじゃ。

 しかし、それが却って物語としての幅や葛藤を奪ってしまう映画もあるように思う

カエル「どうしても戦争反対を訴えかけたいのはわかるけれど、それってプロパガンダになりがちだしねぇ」

亀「もちろん、全ての映画がそうだとは言わんが……大作になればなるほど、どうにも予定調和な印象を与えるのが近年の実写邦画じゃな。これは戦争映画に限らんがの。

 その中で登場したのが『この世界の片隅に』じゃ」

 

カエル「『この世界の片隅に』について改めて考えると、何がそんなにすごかったの?」

亀「簡単に言えば『1945年前後の広島を現代に蘇らせた』ところにある。この作品について語ることは、つまり『現実の広島』について語ることとほぼ同じわけじゃ。じゃからこそ、わしや主のように『物語について語る』人間はそこまで語る言葉を持ち合わせておらん」

カエル「実際にすずさんが生きているような感覚になったもんねぇ……」

亀「あの圧倒的な現実と同一視する動きこそが、この映画の最も重要なインパクトじゃろう

 

 

最後に〜戦争について考えたい映画を紹介〜

 

カエル「じゃあ、最後に戦争について扱った映画の中でオススメ作品を少しだけ紹介するよ!」

亀「まずは一部で大いに盛り上がっておる『ゆきゆきて、神軍』じゃな。

 この映画は戦争犯罪を追っかけるドキュメンタリーであるが……衝撃度はトンデモナイ。伝説のドキュメンタリーと呼ばれるのも納得じゃ」

カエル「この夏、アップリンク渋谷で特別上映をしているけれどチケットが瞬殺だもんね……」

 

亀「なかなか見る機会の少ない映画じゃがオススメじゃな。

 次にオススメするのが『まぼろしの市街戦』

 こちらも古い映画であるが、まともな人間とはどういう人間のことだろうと考えさせられる戦争映画じゃ。

 それからナチスドイツについては先述の映画に加えて『手紙は憶えている』も必見じゃの」

カエル「もちろん、エンタメとして面白い映画もたくさんあるけれど、それだけじゃない戦争映画を色々と見て、考えていくのもこの夏、いいかもしれないね」

 

亀「……実は今一番重要な作品は、わしは漫画の『ヴィンランド・サガ』ではないかと考えておるがな」

カエル「暴力の連鎖を如何に断ち切るか、というお話だもんね……」