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物語る亀

ネタバレありの物語批評

映画『ヒトラーの忘れもの』感想と批評 英題に込められた思いとは? 後半ネタバレあり

映画 洋画

亀爺(以下亀)

「新年1発目にわしが出るというのは、なかなか縁起がいいものじゃが……それにしても、のぉ……」

 

ブログ主(以下主)

「なんだよ? 何か文句あるのかよ?」

 

亀「このブログが選出した2016年の映画ランキングでも11位にランクインするなど、高評価の作品だし、中々の良作であることは認めるぞ? しかしの……新年明けて1発目の記事が、こういう……きつい戦争映画というのものぉ」

主「じゃあどういう映画ならいいんだよ?」

亀「若者の青春を描いた映画とか、喜劇などが正月にぴったりなのではないかの?

主「ケッ!

 亀爺、正月だからって浮かれすぎじゃない? 一休さんだって正月にしゃれこうべを手に持って『死を忘れるべからず! メメントモリ!』って布教して回ったわけだよ?

 こういう時だからこそ、見るべき映画なんじゃない?」

 

亀「……それっぽいことを言っておるが、ツッコミどころ満載じゃな。

 ちなみに一休宗純が大人になった時のエピソードじゃからな。アニメは一切関係ないから、そこは勘違いしてはいかんぞ」

主「正月らしい豆知識だよねぇ」

亀「……結構有名な逸話な気もするが、まあいいじゃろう」

 

 

 

 

 

ポスター/スチール 写真 アクリルフォトスタンド入り A4 パターン1 ヒトラーの忘れもの 光沢プリント

 

 

 

 


映画 ヒトラーの忘れもの 予告 2016年12月17日 公開

 

 

1 緊張感に胸がつぶれそうになる

 

亀「それでは感想記事に入るが……この映画はナチスドイツによる5年間の占領が終わり、デンマークに埋められた地雷を除去するドイツ少年兵の苦難の日々を描いた、実話を基にした映画な」

主「あらすじを読んで分かるように、地雷除去のお話なんだけどさ、一瞬たりとも油断できないんだよ。

 地雷原は砂浜なんだけど、どこに地雷が転がっているかわからない。しかもそれを除去するわけだから……少しでも手元が狂うと爆発する可能性があるわけだ。

 その緊張感がずっと続くんだよね……すごい作品だよ、本当に

 

亀「少年兵たちも極限の状況の中、家に帰るために必死になって頑張っておったの。そこで彼らに感情移入すればするほど、その作業にあたる危険性などを考慮してしまって……見ていられなくなっていく。

 さらに鬼軍曹と少年たちの心の交流などもあるから、王道といえば王道の軍隊モノでもある。ただ、普通はこの手の『鬼軍曹と戦争』の映画は『愛と青春の旅だち』のような、戦場に向かう少年兵……というよりも、新兵のために訓練をするという映画も多い中で、この作品はそうなっておらんの」

 

主「結局のところ、鬼軍曹が新兵を厳しく接するという行為は、軍隊という最も厳しい縦社会を体で覚え込ませるという意味と、それだけやっていかないと軍隊や戦場では死を迎えかねない、という見方を変えれば親心がある場合も多い。もちろん、ただの趣味とか、嗜虐心とかがあると思われる作品もあるけれど……

 でも、この映画は元々から違うわけだよ。なぜならば、その相手が『戦場に送り出すための少年兵』ではないから」

 

 

『ヒトラーの忘れもの』

 

亀「この題名がいいか悪いかは置いておくとしても……ある意味ではこのタイトルにこの映画の哀れな部分が多く集約されているとも言えるの

主「結局のところ、こんな事態に至ったのは誰のせいかって問題なんだよね。それはさ、当然のことながら……ナチスが地雷を海岸に埋めたことに端を発するわけだ。理由は当然のように、連合国が海から攻めてくることを防ぐためでさ、その意図はわかるけれど……

 そのために大量の地雷が……映画の中では220万個も埋められていると発表されているわけ」

 

亀「本来であれば……攻めてくる敵を吹き飛ばすための兵器が、自国の少年たちを吹き飛ばすことになっているという……もうどうしようもない話になっておるの」

主「もうさ、ここがあまりにも哀れで……戦争の中でも地雷って未だに問題になるじゃない? 銃やミサイルは戦争が終わったら、撃たなければ平和は続くわけだ。だけど、地雷は戦争が終わってもそのまま残り、しかもそれがどこにあるのかわからない。

 終戦後も悲劇は続くわけだ

 

亀「その点、日本は島国ということもあってまだ幸運と言えるかもしれん。もちろん探せば地雷がいまだに埋まっている旧日本領もあるのじゃろうが、基本的に日本本土に関しては『一億総玉砕』と言いながらも、地雷を埋めるということはなかった……」

主「日本は防衛戦だけど結局本土で戦争になることは沖縄を除いてあまりなかったし、上陸されたらその時点でおしまいだったからなぁ……

 結局のところ、どんな形でも戦争の傷跡は残るし、だからこそ『戦争はやってはいけない』ということにつながるんだろうな……」

 

 

以下ネタバレあり

 

 

 

 

2 軍曹と子供達

 

亀「この映画で特徴的なのは、軍曹が最初からドイツに関していい印象を持っていないという点じゃな。

 それは当たり前でもあるが……」

主「デンマークとドイツの関係が一目でわかるようになっているよね。あの軍曹の行動は決して褒められるものではないけれど、その感情としてはよくわかる。

 自分も同じ状況になったとしたら、同じような行動を起こすかもしれないし、もっと酷いことをするかもしれない」

 

亀「映画としてもうまいスタートじゃったな」

主「この映画のナチスドイツの兵士と、デンマーク兵の関係性を台詞をほとんど使うことなく説明してみせる。そこには当然のように感情的にいざこざもあるという説明でもある。

 そして、そこで軍曹の行動を映すことにって、軍曹の性格もわかるし……そういうショッキングなシーンを入れることで観客を映画の中の世界へと誘うわけだ」

 

亀「そのあとは少年兵の描写に入るの」

主「ここが日本人には顔の違いとか分かりづらいけれど……地雷除去を受ける訓練をしている時に、色々と説明されるわけだよね。ここでの将校はそこまでひどい人ではなくて、あくまでもシステマチックに、淡々とこなしていく。

 そして地雷除去の訓練をするわけだけど……ここから緊張感がずっと終わりまで続くわけだ」

 

 

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序盤のうまさ

 

亀「ここはさらに序盤のうまさも加わっておるの。

 訓練で使う地雷は『これは本物だ』と言われて解体するわけだけど、本当に本物なのかは観客にはわからない。緊張感を持たせるための嘘かもしれんしの」

主「それから『この訓練には裏があるんじゃないか?』とか、色々な考察を巡らせるわけだ。彼らが緊張して手が震えながら解体していくように、こちらも固唾を飲んでその様子を見つめる……

 そこで映画の世界に集中するように出来ているんだよね」

 

亀「台詞で説明することなく、演出で説明するということの大切さがわかる映画じゃな」

主「そして一気に引き込まれた時、あの鬼軍曹との出会いがあるわけ。

 そこで整列させた上に名前を呼ばせるという、この采配がうまかった。あの訓練場にいた子供達の名前を全て覚えさせる必要はないけれど、少年兵の名前は覚えて欲しい。そうなると、名前を如何にして名乗るか、ということが大事になってくるわけで……ある意味では説明描写なんだけど、これを必要以上に説明することなく展開していく。

 序盤だけ見てもこの映画が傑作だとわかるよ

 

亀「強いて欠点をいうならば……子供達の見分けがつきにくいくらいかの?」

主「そこはしょうがないよねぇ……個性を見た目でつけることは難しいし」

 

 

 

 

3 見事な緩急

 

亀「この映画を全体で見ても緩急のバランスが素晴らしいの。

 あるシーンでは緊張感をもたせて、そしてその緊張感が緩和されたところで、また緊張感を煽るという」

主「観客は疲れる映画だよね……褒めているよ?

 戦争映画に見慣れている人たちからすると、こういう映画において『ゆるい描写』つまり日常描写だとか、笑いのある描写というのはその後により辛いことが起こるからだ、って予想ができると思う。

 その最たる例は『帰ったあとの話をしていけない』とかね」

 

亀「それがあるからこそ、緩い描写でもこの先の展開がなんとなく予想できてしまうから緊張感が保たれる、というのもあるのかもしれんな。

 その緊張と緩和の理論を効果的に扱った映画と言うと、やはり『この世界の片隅に』が挙げられるかの?」

主「やっていること自体は大きく変わらないと思う。向こうも笑いと緊張感の融合で緩急のついたドラマになったけれど、それはこちらも似たよな効果を生んだんじゃないかな? ただ、こちらは緩和の状況もそこまで緩くないけれど……」

 

亀「なかなか過酷な状況じゃな。

 本来ならば『家に帰って何をするか』とか『将来の夢は何か』というのはあの時代の少年たちであれば、普通の会話じゃ。青春映画でもそういう映画はたくさんある」

主「彼らはそういった夢を語ることも許されないような子供達なんだよね……それは戦争映画という、ある種のメタ的な視点ゆえの意見かもしれないけれどさ……そんな会話をするたびに『やめろ! フラグを立てるな!』って叫び出したかった」

 

 

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4 詰め込まれた思い

 

亀「さて、この項目では何を説明するんじゃ?」

主「終盤においてネズミが出てくるでしょ? ネズミを飼っていた少年がある行動に出て、それにみんなが驚くという。

 あれって何で達成できたと思う?」

亀「……普通に考えればただの偶然としてか思えんがの」

 

主「いや、ちゃんと理由があってさ。

 ネズミって結構嫌われ者でもあるようだけど、今ではカンボジアとか、世界各地で地雷除去で役に立っている。大型のものでもそこまで重いわけでもないから、ネズミが乗っても地雷が爆発しにくいし、火薬の匂いを嗅ぎ分けてくれる。そういう理由もあって、地雷除去の象徴のような動物でもあるわけだ

亀「なるほどの。ということは、あの子がネズミを飼うというのは、映画として成功のロジックでもあったわけじゃな

 

主「もちろん、あの極限の環境下で精神的にやられちゃったということもあると思うけれど、それでも無事だったということは、その隠喩があるんだろうね」

 

 

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タイトルから見えてくる『思い』

 

亀「タイトル? この映画の?」

主「邦題の『ヒトラーの忘れもの』というタイトルは正直、失敗だと思う。あまり上手いこといっていない。

 原題は『Under sandet』だけど、これをさらに英語にしたのが『LAND OF MINE』なわけだ。

 この英題が上手い! 映画の本質を一言で表している」

 

亀「ほう? それはどういうことじゃ?」

主「もちろん、直訳すると『地雷の土地』っていう意味だ。それはもう説明しなくても、この映画を言い表している。

 そして『MINE』という単語には『私のもの』という意味もある。だから占領されたポーランド側からすると、この土地は『私の土地だ』という意味になる。ダブルミーニングだよね」

 

亀「ほうほう、確かにそうなるな」

主「さらにいうと、この英題によって『私の土地=地雷の土地』という意味にもなる。この言葉から、戦争の悲しみだったり、苦しみだったり……辛い思いがはっきりと伝わってくる。

 そしてそれだけじゃない。この言葉はドイツの少年兵すらも内包している」

亀「みんな帰りたくて頑張っているわけじゃからな」

 

主「そう。帰るべき故郷、懐かしの故郷という意味も、この単語からは感じられるんだよね……

 だからさ、この英題には『地雷の土地』という場所と『私の土地』というデンマーク人の思い、そして『帰りたい故郷』というドイツの少年兵の思いも詰まった、トリプルミーニングの素晴らしい英題なわけだ」

 

 

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中立的なバランス

 

亀「そしてこの映画はデンマークとドイツの共同制作じゃが、それが功を奏したのか、上手いバランスで成り立っておるの」

主「いつもいうのが、戦争映画で最悪なのが『プロパガンダになること』なんだよね。戦争映画って撮ろうと思えば『敵は非道なり! それを駆逐する我らは正義である!』ということがいくらでもできるわけ。

 でもさ、実際の戦争ってそんなわけないじゃない? 本当に正義と悪で2分できるならこんなに楽なことはないけれどさ」

 

亀「個人の趣味嗜好で意見が分かれるところでもあるかもしれんが、特にナチスドイツを扱う映画はそのバランス感覚が優れておるの」

主「どうやってもナチスを正義に書くことは許されないからね。だけど、その下にいた一般の兵士にも責任はあるのかというと……それは難しい議論になるけれど、でもあの少年たちにまでそれを背負わさせるのはさすがにねぇ……

 この映画は敵のドイツも少年兵であるということ、そして捕虜の少年兵を倫理的に問題のある作業に従事させているといこともあって……中立的な見方になっている

 

亀「どちらが正義か、などという話なんてしていないからの。そしてどちらの心情も理解出来る」

主「こういうバランス感覚がすごく大事だと思うけれどねぇ」

 

 

 

最後に

 

亀「さて、では2017年の最初の映画感想記事を書き終えたわけじゃが」

主「それにふさわしい1作だったよ。この映画は素晴らしい。

 もちろん、2016年の映画ランキング11位に選んだのは、選ぶ直前に見たからだということもあるけれど、この映画の力も相当に高いと思う。

 アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされているけれど、この映画も昨年の『サウルの息子』に続いて受賞してほしいね」

 

亀「2年連続でナチスものが受賞する可能性がどれだけあるかわからんが、そうなってくれるとこのブログとしても嬉しいの」

主「公開規模が小さいことが欠点だよなぁ……日本はこういう良質の映画をもっと普及させた方がいいと思うよ。

 その啓蒙の一環として、このブログが役に立てたら嬉しいね」

亀「その意味でも1年のスタートとして意義がある作品じゃったの」

 

主「どうしても大規模公開映画ばかりが注目を集めるけれど、小規模でもいい作品は世の中にたくさんあるから。そういう作品に目を向けたいし、これから記事も書いていきたいね」

 

 

ナチスドイツものでオススメ作品を貼っておきます