亀爺(以下亀)
「この作品の公開は2016年じゃから、約1月してようやく見ることができた、ということになるかの」
ブログ主(以下主)
「念願叶っての鑑賞だよ」
亀「まあ、もっと前から見ようと思えば、いくらでも見に行く機会はあったはずじゃがな。毎週観る映画の数が多すぎて、見たい映画を観れていないのではないか?」
主「……パッと見、すごい矛盾をがある言葉だよね。見る映画の数が多すぎて見たい映画を観れていないってすごい話だわ……
でも実際その通りで、知れば知るほど見たい映画が新作だけで週に5本は公開されていたりもして……さらにその監督の過去作とか、旧作の名作も見たいなぁって思ったら、本当に時間が全然足りない」
亀「長年に渡る映画史が紡いできた傑作たちばかりじゃからの。全部見るなどというのは、不可能なほどじゃ」
主「本当にねぇ……映画が好きな人って年間300本とか500本とか見るっていうけれど、それでも追いつかないほどの数が新作として公開されているからね。そう考えるとなかなかすごい話だよ。
その中でも小規模公開の良作、名作も上げていくことも映画などを取り扱うブロガーの大事な責務だと思うので、今回はこの作品を取り上げました」
亀「それでは感想に入るかの」
この宣伝ポスターって遠目から見ると大佐(写真上部の人)が中世の人にも見えるのは自分だけ?
あらすじ
一昔前は兵士が戦場に出向き、銃を撃って戦っていた戦争の形も今は全く違うものになった。空から無人ロボット、ドローンを飛ばし、カメラで撮影を行ったり、ミサイルを発射するのだ。
イギリス軍のキャサリン・パウエル大佐(ヘレン・ミレン)は、ケニア、ソマリア付近で活動中のテロリストの追跡に6年費やし、ようやくその姿を捉えることに成功する。イギリス出身のテロリストである女の逮捕に尽力するが、その場にはアメリカ出身者など危険人物リストの上位を占める者たちが複数人存在していた。
イギリス、アメリカ、ケニアの3者が合同でその脅威を取り除こうとするのだが……
1 描かれる現代の戦争
亀「それではまずはネタバレなしの感想から行くが……」
主「名作だよねぇ。
年末公開の戦争映画というと『ヒトラーの忘れもの』も素晴らしかったけれど、それと並ぶくらいの名作だよ。
2016年のランキングで11位にランクインした作品と同じくらい、ということは、昨年公開した映画の中でTOP10に入るくらいの名作ってことだ。なんで小規模公開なのか、理解に苦しむくらいだよ」
亀「エンタメとしても面白いし、緊張感もあるしの」
主「手に汗握る展開だし、3つの軍が合同となって指揮するだけだって、少しばかり登場人物も多いけれど、序盤だけだからそこで覚えてしまったら、あとは大丈夫。開始10分くらいで多く大体の人は出そうから。
その中でも、主人公役の女性の大佐、パウエル大佐と、イギリス軍の中将、アメリカ軍のドローンパイロット、そしてケニア軍の現地に潜入した兵士の4人を覚えておいてほしい。
あと少女がいるんだけど……彼女は何も意識しなくても覚えると思うので、大丈夫かな」
亀「大体お話はその4人を中心に展開されていくの。
そこに映し出されるのは現代の戦争の姿じゃな」
主「ちょっと前に日本でもドローンが問題になって、今では都内を中心に規制がされているけれど、元々は軍事兵器だったんだよね。ラジコンみたいな感覚で飛行機型などのドローンを飛ばして索敵させたり、それからミサイルを撃ったりしている。
これならば兵士の犠牲は最小限に抑えられるし、確かに効果的な方法だ。今作は戦争映画なんだけど、戦場に突入してっていうのとは違う姿を見せてくれる」
様々な障害
亀「この映画では現代の戦争が抱える多くの問題点というのも浮き彫りにしたの」
主「そうだね。まずは、何と言っても法律の問題がある。
軍も好き放題に暴れまわっていい時代ではないから、法律に則って行動をしなければいけない。つい最近、日本も集団的自衛権などの交戦規定の話があって議論を呼んだけれど……この映画を見るとその手の法律整備がどれだけ大切か、よくわかるよ」
亀「法律の担当官がいて、その人がこの作戦は合法か否かアドバイスしていたの。そのアドバイスに則って行動をするけれど、当然のように法律が必ずしも正しいとは限らないが、しかし法がある以上はそれに従わねばならぬというジレンマを抱えておる」
主「さらには合法であっても、今回のようにイギリス人やアメリカ人などの他国の国民が絡む場合は政治的な問題も絡みあう。そう言った意味で状況は1秒単位でガラリと変化するんだよ」
亀「そして合法であり、さらに政治的な問題がクリアされたとしても……最後には倫理の問題が付きまとってくるというの」
主「これはすごく考えさせられたよね。
何が正しいのか? 何が正義なのか?
日本人だからさ、すぐに『戦争は悪だ、戦争は良くない』って言いがちだけど、みんな好きで戦争しているわけではない。そのまま放置するとより大きな犠牲者を生むのが現代の『テロとの戦争』であり、その対処には逮捕なんてことは言ってられない場合もある」
亀「武装組織が多く占拠する地域に潜入していたりするわけじゃからな……当然のようにその場所に強制的に突入すると、多くの死傷者が出る。現代では兵士1人のコストが非常に高いこともあって、犠牲者は最小限にとどめなければいけない。これは当然のように0が理想であり、0にするべき事態じゃ。
犠牲を覚悟の上、というのは当然じゃが、犠牲を伴った作戦というのは中々承認できないジレンマがあるの」
主「さらには民間人に犠牲者が出るようだとマスコミの攻撃や野党の攻撃のも合うし……すごく難しい話だよね」
2 シン・ゴジラと共通するもの
亀「……シンゴジラ? 今回はそれと絡めて語るのか?」
主「結構似ているところはあると思うよ。シンゴジラの場合は排除すべき脅威がゴジラという怪獣だった。そうすることによって、核攻撃や天災、東日本大震災などの多くの脅威の象徴になっていた。
だけど、この作品においてはその脅威をテロリストに限定することによって、よりリアルな戦場の姿にフォーカスを当てたわけだ」
亀「どちらも会議が中心の話ではあるの」
主「その中で『現状の法律の中で最善を尽くす』ということが多く語られている。シンゴジラの場合は突発的な脅威であり、その準備ができていなかった、という状況の違いがあるけれど……それはあらかじめ何年もかけて計画されて、法整備も整った戦場であっても法律などとの兼ね合いで色々と決めるというのは非常にシビアで難しいということが描かれている」
亀「そうかもしれんの。シンゴジラはその法整備の甘さであったり、諸外国との政治的な交渉もお話の多くが割かれておった。
アン・イン・ザ・スカイもその意味では同じではあるかの」
主「そして……決定的に同じなのは『軍事行動を阻害する要因』だよね。シンゴジラも自衛隊の攻撃を阻害する理由があり、こちらも軍事行動を躊躇わせる要因があった。それは実は全く同じものなんだよ。
そしてそれはシンゴジラの場合だと、脅威がより大きいために……つまり怪獣という明らかなフィクションが対象なために、いいから攻撃してしまえよ! という気持ちにもなり兼ねないけれど、本作の場合はより一層のリアル感を持っているが故に、軍事行動を起こせるのか、起こせないのか、という問が実感を持ってこちらに伝わって来る」
それぞれの正義
亀「この映画では色々な正義を映し出すことに成功しておったの。
この映画と関連する著名な本を紹介するか」
主「……ある意味では、この映画で1つの価値観を変えられたかもしれない。
自分は今まで戦争映画において声高に正義を叫ぶ作品というのは、そこまで高く評価できなかった。だって、戦争に正義があるわけではないよね? 勝った方が作り出すのが正義であり、敵にだって正当な正義があったはずなんだから」
亀「盗人にも三分の理、とはいうが、テロリストにも少しくらいは同情する余地はあるからの。結局は大国の思惑に踊らされる哀れな存在でもあるし、さらにそれを利用してのし上がってきたのを良しとしたのも大国であったりする」
主「だからさ、一方的な正義を叫ぶということはナンセンスだと思っていた。
だけど……この作品を見て、少しだけ考えが変わった」
亀「ほお……どのように?」
主「この映画ってある意味ではみんなの想像通りの映画なんだよ。軍事的に作戦を実行させたい軍人と、世間や世論の反発だったり、様々なことを考慮して躊躇する政治家や文官の対立などもあるんだけど……見方によっては、軍人のイケイケぶりが非常に気になる映画でもある。
だけど、軍人のいうこともある意味では正しくて、主人公格の大佐は自信満々に『正義の執行』を進言するわけだ」
亀「この対立がどちらも正しいだけに、わしらには判断の難しいものでもあったの」
主「だけどさ、それだけの正義を振り飾す存在のパウエル大佐だけど……もしかしたら『正義を振りかざさなければ、やっていけない』という心理状態もあるんだろうね」
亀「……こういうと批判もありそうじゃが、どれほど綺麗事を並べようとも軍人とは人を殺すための訓練を積み重ねた存在じゃからな」
主「それが大衆を救うことになると信じていても、相手は紛れもない人間なわけだ。そんな相手を攻撃するのだから、その精神的プレッシャーというのは途轍もないことになる。その大佐ならば発言1つ、現場の人間なら指先1つで、確実に誰かを傷つける結果になる。
だけど、それが嫌だからといって断っていくと、さらに多くの一般人が亡くなってしまうというジレンマも抱えている。だからこそ『私達は正しいのだ!』ということを自分に言い聞かせるために、そしてそれを隊員たちにわからせて、鼓舞するためにも必要なことだったんじゃないかな? って」
3 映画としてのうまさ
亀「そんな色々なテーマを含んだ映画であることはもちろんじゃが、映画としても非常にうまいと感じさせられた1作であったの」
主「そうだね。
この映画の場合、スタートからうまくてさ……ケニアを走る車を空撮しているけれど、それを標準を合わせたようにロックオンされるわけだ。それが2つに分かれて『EYE』の文字になる、というのは非常にうまいスタートだと思う。ここで一気に惹かれてしまったよ」
亀「他にも重要なことが色々と細かく描かれておったの」
主「この映画の1つの重要な存在で少女が出てくるんだけど、その少女をどのように扱うかによって、行動が全く違ってくる。
だけど、さらに面白いことに、その指導者役のイギリス軍の中将も明らかに女の子向けのおもちゃを買ってくるんだよね。この対比が素晴らしくうまい。
別に、何かを多く語りかけてくるわけでもないし、この2つの描写というのは開始10分以内には出てくるんだけど、ここだけですでに色々と演出で考え込ませるものに仕上がっている」
亀「他にも戦争ものらしく、ドキドキさせるものも多くあって、終始緊張感が続いていたの」
主「本当にさ……みんな助かってほしいし、テロリストは捕まえてほしいし、だけど無傷ではいかないし……というジレンマがうまく描かれておって、エンタメとしても楽しめる1作になっていたよ。
本当になんでこれが小規模公開なの!? これがせめて100館クラスの公開規模になっても、何の不思議もないのに!?」
亀「いろいろな思惑があるんじゃろうな」
最後に
亀「途中で紹介した本にもあるが『多数の犠牲者を防ぐために、少数の被害者を容認することができるか』という問題もあるの」
主「さらに言えば悲しみの連鎖を断ち切ろう、というのは理想論としてわかるけれど、じゃあ今ある脅威に対してはどうするんだ? という問題も抱えている。
もう、どうしようもないんだよ……このラストを見終わった後に、じゃあ自分ならどのような選択をしたのか、そしてあの現地にいたらどう思うか、その後どう行動するのか……そうことも考えさせられた。
ちょっと前に『新機動戦記ガンダムW』の敵が『戦場は人が戦うべきだ。機械が戦うべきじゃない』って語っていてさ、その当時は意味わからないなぁって思ったけれど、今ならよく分かるよ。本当に、実感を持って伝わってくる」
亀「わしなどは少しイーストウッドの『アメリカン・スナイパー』などに近いものを感じたかの」
主「そうだね……あれも命を奪うことの兵士の苦悩を描いた映画だけど、これも近いところがあったと思う。
とにかく、猛プッシュしてオススメしたい作品だよ! 見たい映画がない! って人には本当にオススメだから!」