亀爺(以下亀)
「今回は2016年を代表する映画をまとめて批評するんじゃな」
ブログ主(以下主)
「やっぱりさ、今年の邦画大豊作の中でも『聲の形』も含めて、この4作品は異常だと思うんだよ。
語り方は色々あるけれど……今回は『シン・ゴジラ』と『君の名は。』と、そして『この世界の片隅に』の3作品に注目して語っていきたいと思う」
亀「やはりこの時期にこのような作品が出てくるというのは、結構大きい変化かもしれんの」
主「もう何度目かわからないけれど……やっぱり今年、話題になった作品は邦画界を変える力があると思うんだよね。
それはTwitterを中心としたSNSの爆発力を利用した宣伝方法だったり、監督名などに頼らない話題性だったり……まあ、シンゴジラに関してはゴジラというビックネームと庵野秀明、樋口真嗣というアニメ、特撮界の有名人だから、少し違うかもしれないけれど……でも、その宣伝方法や予告編の作り方、作品だったりというものも特徴的だったよね」
亀「それでは感想記事を始めようかの」
1 新たなる表現
亀「まあ、まず思いつくのはここかもしれんの」
主「特にシンゴジラが代表的だけど、それまで描かれてきたゴジラ像であったり、核をモチーフとしたキャラクター像から離れた、まったく新しいゴジラを作ることに成功しているんだよね。
詳しくは評論記事で書いているけれど……簡単に言うと、ゴジラだったり怪獣が存在しない世界で作る、第1作が存在しない世界を作る、ということだけでなく、それまでの……原爆の象徴としてのゴジラだけでなく、使い方によって無限の福音にもなるという、原子力の平和利用の象徴としてのゴジラを扱うことにも成功しているわけだ」
亀「確かに作中では色々と東京の街が壊滅的になっておったが、ゴジラの通常では考えられない進化に研究者達が色めきだつシーンも多々あったからの」
主「そう。もちろん、過去の……特に初代と1984年のゴジラを踏襲したと思われるシーンもたくさんあってさ、音楽などが象徴的だけど……もう色々と詰め込みすぎなくらい詰め込んでいて、昔ながらもファンも感動させる一方で、全く新いゴジラ像を生み出した。
これもまた、面白いことだよね」
亀「そして、この世界の片隅にの話になると……」
主「こっちもわかりやすいよ。まあ、このブログでは何度も語ってきたけれど、それまでの戦争映画って『火垂るの墓』や『はだしのゲン』のような悲劇的な作品が多かったじゃない?
だけど、本作はそういう戦争映画にありがちなお涙頂戴とか、悲惨な現実だけではなくて……もちろん、そう言ったある種の現実というのも見事に描かれているんだけど、それだけではない。笑いもあり、現実もあり、そして日常もあるという見事なバランスで描かれているわけだ」
過去のイメージの踏襲と進化
亀「そうじゃの。しかし、どちらも面白いのは、そういった従来のイメージであったり、過去作を否定するのではなく、それを踏まえた上で全く新しい作品を作り上げたというところにあるの」
主「そうなんだよ。つまりさ、シンゴジラは明らかに過去のゴジラのオマージュがあるし、それがあるからこそ盛り上がるようなところもあるわけだ。過去作を知っていると、音楽などでさらに高ぶるというね。
そしてこの世界の片隅に、でもそれは同じで……この映画で絶妙なのは『誰が亡くなり、誰が生き残るかわからない世界』ということだと思うんだよね」
亀「途中である登場人物が亡くなりそうで、実は図太く生きていたり、突然に亡くなったり……そしてある登場人物は亡くなったことすらも信じられず『あいつがそう簡単に死ぬかね』なんて言われたりしているの」
主「そう。戦争状態では死というのは当たり前にあるんだよ。だからさ、一寸先は闇というわけで……どちらに転んでもおかしくない。
だから助かった時には観客も安心できるし、亡くなった時には絶望感を味わう。それは、おそらく過去の戦争映画で何度も体験しているからこそ味わうものでもあると思うんだよね」
亀「……そういうと分かりづらいかもしれんが『戦争映画だからここで誰が死んでもおかしくない』という意識が働いているからこそ、余計に登場人物に感情移入をするということかの?」
主「まあ、そんな感じ。
だから戦争映画のイメージというものも逆手にとって、効果的に作られた作品だなぁ……と感じたわけ」
2 震災以降の作品として
亀「これは過去にも語っているの。
シンゴジラと君の名は。と、そして知名度は低いじゃろうがパペットアニメーションの人形が動くアニメ『ちえりとチェリー』を重ねて語っていたの」
主「そうそう。そこでは以下のような位置付けの論評をした。
震災後の日本という、大きな枠組みのシン・ゴジラ
町という少し小さい、自治体クラスの災害を扱った君の名は。
そしてここに、『戦争』下における日常を描いたこの世界の片隅にが加わるわけだ」
亀「直接震災を描いたわけではないが、あの第二次世界大戦と匹敵するくらい大きな衝撃があの東日本大震災だったのではないか、とする論調も多くあるの」
主「単純に比べられないけれど、日本人のメンタリティに大きく影響を与えるには十分な大きな出来事だったわけだ。
そして、この世界の片隅にについて考えていくと、そこで表現されているのは、個人の力ではどうしようもない現実に対して、それでも必死に生きて行く『個人の奮闘』を描いているわけだよね」
亀「そうじゃの。シンゴジラにしろ、君の名は。にしろ、人の命を脅かすほどの天災に対して立ち向かい、人を救う部分も多々ある。
しかし、すずは違う。戦争を止めるためにどうにかするわけでもなく、原爆を止めるために行動するわけでもない。そんなこと、不可能じゃからな。その巨大な運命に翻弄される人間をじっくりと描いているわけじゃの」
主「そういう意味では非常にミニマムな話でもあるんだよね。あくまでも、あの戦時中における広島、そして呉という街が9割舞台だし、すず達一家以外の話はそこまで多くない。
すごく家族単位という、非常に小さい話であるということが……より大きな感動をわかりやすく伝えているのね」
亀「ここで一つ言っておきたいのは、決してミニマム=悪い、という論理ではないということじゃな。表現したいこと、表現することが違うという意味じゃ」
震災や戦争というどうしようもない現実
亀「本来はこの、震災や戦争というものは個人の力では抗うことも難しいような、どうしようもないことではあるの」
主「そうだよね。先に挙げた記事でも書いたけれど、なぜシンゴジラ、君の名は。がここまで受けたかというと、それはおそらく……震災以降に味わったある種の『後悔』であったり『願い』が詰まった作品だからだと思うわけだ。
つまり、救えるものなら救いたいし、どうしようもない、誰も恨めない現実というものに人間はただ打ちのめされるしかないということを、嫌でも味わってしまった。そこをある種……スカッとする形で、希望の形で昇華したというところに、この2作品の突出した素晴らしさはあるんじゃないか? という論調だ」
亀「そこにこの世界の片隅に、が入るとどうなるのかの?」
主「基本的には同じだと思うんだよ。もちろん、戦争と震災というのは基本的には違うし、原作が書かれた時には東日本大震災は発生していなかった。
だけど、この映画の中にあるリアルな現実……つまり、戦争におけるアメリカの空襲というものは、どうしようもない恐怖として伝わってきた。この映画で褒められている部分に、空襲描写のリアリティもあるんだよね。
あんまり兵器に興味がないからよくわからないけれど……でも空中で迎撃された機関銃の流れ弾や落ちてくる弾の恐ろしさなども、確かにしっかりと描かれていた。戦争は敵が打つ弾だけでなく、味方の弾も恐ろしいという、ある種の当たり前なことが描かれていたわけだ」
亀「そうじゃの。そう言ったリアルな描写こそが『どうしようもない現実』としてリアリティを獲得しておったの」
恐怖のリアリティ
主「シンゴジラに関してもそれは同じで、圧倒的なリアリティがあるからこそ、ゴジラという非現実的なものがより恐ろしさを増したわけだ。それに太刀打ちできない人類の無力さに絶望し、そしてそれに立ち向かう姿に勇気をもらう。
君の名は。はリアリティに関しては少しペケがつくかもしれないけれど、それまでの滝くんとかの頑張りも見ているからさ、すっかり感情移入して、なんとかして現実から多くの人を救おうと奮闘する姿に胸を熱くする。
そしてそれは、この世界の片隅にでも同じなんじゃないか? ということ」
亀「圧倒的な破壊のリアリティがあり、しかもそれが70年前の現実に起こったことという意識があるからこそ、あの負けないすずの姿に涙を流すわけじゃな」
主「そうそう。そしてその無力感っていうのは、どうしても戦争から70年過ぎていると忘れてしまうものだと思う。今の若い人に戦争の恐ろしさをいくら伝えても、実感としてはわかりづらい。
だけど、今の日本人は特に東日本大震災を経験しているからさ。現実に対して太刀打ちできないという無力感を、あの2011年に嫌というほど体験しているはずなんだよね。日本がどうなるかわからないという恐怖感も混じってさ」
亀「それを刺激したのがこの3作品ということか」
主「そう。もちろん、この3作のクオリティが飛び抜けていいものだということもあるけれど……やっぱりこの時期に出てきたということは、偶然じゃないだろうね。
震災から5年。あの時の衝撃を形にして、発表できるようになるには、やはりそれだけの年月が必要だったんだろうね」
最後に
亀「さて、最後にであるが……この3作品に共通している思いとは何じゃと思う?」
主「う〜ん……やっぱりさ、前回も語ったけれど、物語って基本的には『願い』だと思うんだよ。特に、この3作品のようなどうしようもない現実を扱った物語の根幹にあるものというのは」
亀「シンゴジラはゴジラという巨大災害に人類総出で立ち向かい、それを乗り越えて欲しいという『願い』
君の名は。は若干世界系かもしれんが、個人の願いや思いが奇跡を起こし、現実を乗り越えて結ばれて欲しいという『願い』
そしてこの世界の片隅には、戦争という現実は二度と起きてほしくないという『願い』に加えて、どんな状況でも必死に、確かに生き抜くという人間の強さの『願い』を描いておるの」
主「うん。だからさ、この3作品がこの時代に『願い』を持って登場したといのは、決して偶然ではないと思う。
直接震災は関係なかったから除いたけれど『聲の形』に関してもそれは同じだと思うんだよ。障害とか、過去とか、過ちとか……そういうことを乗り越えて、誰もがわかりあえる世界を望むという『願い』
これは自分がそういう物語を欲しているからなのかもしれないけれど……やっぱり、物語のあるべき姿であり、現代に最も必要なのは、こういったある種の綺麗事かもしれない願いの籠った作品なのかもしれないね」
亀「しかも、リアリティを持った圧倒的な現実に立ち向かう『願い』じゃな」
主「そう。ただ単に綺麗事だけじゃダメなんだよ。苦しんで、もがいて、それでも生き抜く、それでも願うという姿に感動したり、胸を熱くするわけだから。だから、本当に血を流したと思える4作品なんだろうね」
亀「さて、これで終わりじゃが……今回は過去の批評から引用した記事になったの」
主「まあ、仕方ないかな? この世界の片隅にを見た後も、そこの印象はまるで変わらなかったんだよね。それだけ、強く『願い』というものが込められていると感じたし、多分自分の思いでもあるのかもね。
願いであってくれ、というさ」
亀「……ブレないのがいいのか悪いのか、まるでわからんがの」
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