カエルくん(以下カエル)
「今回はなかなか重そうなタイトルだね」
ブログ主(以下主)
「そうね。タイトルだけだとすごく重いことを語ろうとしているように思えるけれど、結局はある種の物語論だからそんなに重いものにはならないと思うよ」
カエル「そういえば、もう1作もセットで語りたいって言っていたけれど、それは諦めたの?」
主「いや? 『シン・ゴジラ』と『君の名は。』とさらに『ちえりとチェリー』もセットで語ろうと思うよ。ただ、この2作に比べてちえりとチェリーの知名度が低いのと、タイトルが長くなりすぎるような気がしたから、今回はタイトルから除外させてもらった」
カエル「この評論はその3作を見ていないと理解できない?」
主「そんなようにはしないつもり。多少のネタバレもあるかもしれなけれど、この3作を見ていなくても理解できるようにはしたい……まあ、どこまでできるかはわからないけれど」
カエル「それじゃ、始めようか」
ちえりとチェリーの予告編を貼っておきます。
映画『ちえりとチェリー』『チェブラーシカ 動物園へ行く』予告編
1 三作品の簡単な説明
カエル「まずは、この3作品を見ていない人のために簡単に、ネタバレ控えめで説明しようか」
主「じゃあ、まずはシン・ゴジラからスタートしよう」
シン・ゴジラについて
主「もうこれはほとんど説明不要な大名作だよね。おそらく2016年でもNo1の売り上げを誇る映画になることは間違いないし、社会現象と言ってもいいんじゃなかな?」
カエル「あの邦画史上屈指の名作、『ゴジラ』を庵野秀明が撮ったということでも話題の1作だね」
主「もう、いろいろなところで語られていると思うけれど、簡単に言うと過去のゴジラが明確な『核の象徴』であり、反核映画だったことに対して、今回のゴジラはそれだけではなくて、『原子力の象徴』や『震災(天災)の象徴』でもあるわけだ。だから、2011年以降の日本を切り取った震災映画として、見事な出来になっている。
個人的にも大満足な1作だし、日本という大きなものを切り取った映画ではこれほどの作品は他にないんじゃないかな?」
カエル「下の記事はそのシン・ゴジラについて語った記事だけど、致命的ネタバレについて触れているから注意してね!」
『君の名は。』について
カエル「これは公開が始まったばかりだから、あまりネタバレがないようにいうのが難しいね」
主「そうねぇ……簡単に言うと、『ある瞬間に一気に物語の意味合いが変わるよ』ということしかできないかなぁ?
でも、明確に震災以降の日本を切り取った作品でもあり、その視点で見ても感動できる物語になっているんだよね」
カエル「そうね。規模としては『シン・ゴジラ』ほどの大きさは持たないけれど、それなりに大きなスケールの災害だしね」
主「その災害を乗り越えて、2人がどうなるのか……そこも必見だよね」
カエル「以下の記事はネタバレなしの感想記事」
こちらの記事はネタバレありなので気をつけてね
ちえりとチェリーについて
カエル「さて、間違いなく一番知名度も低い作品だから、どう紹介するか難しいね」
主「簡単にいえば、『父親を失った女の子が自立するまでを描いた作品』だな。他の2作に比べると子供向けだし、初めから作品のテイストもそういうものだと開示されているから、驚きはないかな?
パペットアニメーションという、人形を使ったアニメとCGの融合としても面白い作品だな」
カエル「震災映画としては、すごくミニマムなところを描いているよね。ある種の震災がなくても起こりうる『幼児期における親との死別』を描いているけれど、この時期に公開されると、やはり震災によって親を亡くした『震災遺児』という側面も考えてしまうよね」
主「その意味では震災映画という括りは少し違うのかもしれないけれど、シンゴジラが描けなかった、『市井の人物の死とその向き合い方』だったり、その後が描くことができているから、今回一緒に語ってみた」
2 三作品の立ち位置
カエル「じゃあ、この3作品の立ち位置を考えるとどういう立ち位置になるの?」
主「簡単にいうと、以下のようにまとめることができる。
震災後の日本という、大きな枠組みのシン・ゴジラ
町という少し小さい、自治体クラスの災害を扱った君の名は。
個人に関するミニマムな『死』とその後の立ち直りを描いたちえりとチェリー
かな」
カエル「シン・ゴジラを批判する意見として多かったのが、『一般市民を描くことができていない』というものだったね」
主「それはもうイチャモンのレベルだと思うが……そこを描いたら10時間くらい必要になるし、あれでも3時間分の脚本を2時間に詰めたって話題になったわけだからね……そのミニマムな関係性を入れなかったことに、評価の声もあるわけだし」
カエル「それぞれが描こうとしていた、震災の姿というのも違うわけだしね」
主「シン・ゴジラは明確に日本の危機だったけれども、君の名は。はその被害は町単位だから、天災としての規模もまったくちがければ、それが主題であるわけでもないしな」
後半の『ファンタジー』という虚構性
カエル「この小タイトルの意味は何?」
主「簡単に言うとさ、映画だから当たり前かもしれないけれど、後半になるに従ってファンタジー度(虚構性)を増していくんだよね。例えば、シン・ゴジラの場合は途中まではゴジラという災害によって苦しむ人々と、そのもがきを描いている。
だけど、あの反撃シーンから先は明らかに『ファンタジー性』を増しているんだよね。
それは君の名は。も同じでさ。全体的にファンタジー要素の強い作品ではあるけれど、三葉との入れ替わりの真相を知って、山の上に行って酒を飲んだ後は一気にファンタジー色がさらに強くなるんだよね」
カエル「じゃあ、ちえりとチェリーは?」
主「あれはまた別かなぁ。むしろ、現実からの逃避で空想する女の子の話だからね。ずっとファンタジーで、最後に現実に帰ってくるという印象。その構成にも意味はあると思うけれどね」
カエル「じゃあ、シンゴジラと君の名は。に話を絞るけれどさ、それはまあ、そんな話だからしょうがないんじゃない? そこを入れないと反撃シーンというか、クライマックスに続かないし」
主「それもそうなんだけどさ、それ以上の意味があるような気がしている」
後半部分が示すものとは?
カエル「意味ねぇ……まあ、確かに普通の勧善懲悪というか、ラストに圧倒的な悪が倒されるとか、恋人同士が……って話なら、それこそゴマンとあるわけだしね」
主「そう。これらの作品って、ある意味では王道の、ご都合主義の他の作品群と大まかなストーリーは変わらないわけじゃない? じゃあ、なんでこの2作品はこれだけ感動するのかって話でさ」
カエル「それは、そこまでの作りが丁寧だからじゃないの? あとはさ、僕たちが311という、絶望的な災害を知って、ある日急に日本中が、この生活が一変すると実感してしまったからだとか……」
主「そうなんだよね。だからさ、この後半のファンタジー要素って、あえて言葉を当てはめるならば『願い』なんだよね」
カエル「……願い?」
主「そう。我々はこの世界に人間がどうあがいても抗えないものがあると知ってしまった。それが昔の人ならば『戦争』だったのだろうけれど、良くも悪くも70年前のことだから実感として受け止めるのは難しい。
だけど、たった5年前の311に関しては我々は実感をこもって知っているわけだ。
だからさ、この2つの映画のラストって『日本人がこうあってほしいという願い』だったと思う」
カエル「……願いねぇ」
主「祈りと言い換えてもいいけれどね。もちろん現実は日本中が一致団結してゴジラを(天災を)止めるようなことはないし、入れ替わって全員を避難させることなんてできない。役所が避難指示を出しても、避難しなかった人もいるくらいだからさ、ほかにやりようはなかったかもしれない。
だけど、その報われない思いを、どうしようもない後悔を救ってくれたものが、このシンゴジラであり、君の名は。だったんじゃないのかな?」
3 圧倒的リアリティに裏打ちされた『ファンタジー』
カエル「でもさ、この2作品だけがそういう『願い』が籠ったファンタジーではなかったわけじゃない? 具体的に何が、とは言えないけれど、そういう作品はたくさんあったけれど、なんでこの2作品がここまで受け入れたのさ?」
主「……ファンタジーってさ、バランスにもよるけれど嘘の要素が強いんだよね。例えばさ、ハリーポッターの世界観で、魔法で人々を救いました、だったらここまでの感動はなかっただろうね。
それはやっぱり、観客が『嘘』の物語だと思っちゃうから。これはすべての物語に共通することかもしれないけれど、その物語が実感を持つためには、その嘘を『私たちの生活の延長線にあるもの』として受け入れてもらう必要がある」
カエル「……? あ、あれか。いつも主が言うところの『共感性』ってことね!」
主「そうそう。この映画で描かれていることは現実的ですよ、映画だけどこれはある種のリアリティを持って我々に起こりうるものかもしれないですよ、という『信憑性』が必要なわけだ。
そしてこの2作品はそのリアリティがすごいんだよ」
カエル「それはよく言われることだよね。シンゴジラはリアルな災害シュミレート作品だ! とかさ、君の名は。に関してはやっぱり作画とか空の色とかで新海誠独特の新宿や田舎のリアリティがあるよね」
主「そのリアリティが重要なんだよ。それがあって、初めてファンタジーという嘘が、本当のように聞こえる。
誤解を恐れずに言えば、創作者って詐欺師と同じなんだよ。リアリティのある話に嘘を交えて、相手を信じ込ませてお金をもらうという行為のは変わりがない。ただ違いがあるとすれば、
初めから嘘だと思わせて騙すか
本当だと思わせて騙すか
の違いでさ。そこが決定的に違う」
カエル「……リアリティがあれば確かに人は騙されやすいよね」
4 物語が果たす役割
カエル「それじゃ、主はこの2つの映画と、ちえりと絡めて何が語りたいの?」
主「結局さ、シンゴジラと君の名は。がここまで大きく受け入れられたのって、やっぱり『こうなってほしい』という願いが、物語に投影されて昇華されたからだと思うのね。
これは映画に限らず、物語が本来果たすべき役割って実はこういうことなのかな? って思うのよ」
カエル「……う〜ん、わかるようなわからないような」
主「ここで絡んでくるのがちえりとチェリーなんだけどさ、この話の主人公のちえりって空想少女なんだよね。熊のぬいぐるみを友達と言って、想像の世界でいつも旅をしている。
だけど親とか『現実の世界の人々』からすると、すごく気味が悪くていつもトラブルを引き起こしちゃうんだよね。
でも、それって物語が果たすべき役割を、個人が行っているに過ぎないんだよ」
カエル「……もっとわかりやすく言って!」
主「結局は物語って現実逃避でしかないよ。例えば、恋愛が成就する作品を鑑賞したからといって、恋人がいなかったり、別れてしまった現実は変わらない。悪を倒す話を、犯罪者を裁く話を鑑賞しても、現実の巨悪は変わらずにそこにいるわけだ。
だけどさ、その行為によって日頃の鬱憤だとか、悲しい思いは一時的にも紛れるんだよね。それを載せて浄化してくれる。
で、シンゴジラと君の名は。の2作品は、『震災以降の日本』が抱えていたものをある程度浄化することに成功したんじゃないかなぁって思いがある。それが成功したのは、他の作品を圧倒するリアリティがあったからなのかなぁってこと。
これが言いたかった」
カエル「……言葉にすると簡単なものだね」
主「だけど、これを獲得するまでに5年かかったからね」
なぜ『特撮』と『アニメ』なのか?
主「この2作品が……個人的にはちえりも入れて3作品としたいんだけど、これらが特撮とアニメというジャンルから生まれたのかと考えると、これもまた感慨深いものがあってね」
カエル「確かに、普通の実写じゃ難しい作品かもね」
主「多分、普通の実写だとリアルが強すぎて嘘になりにくいんじゃないかな?
例えばさ、熱線を出すシーンとか、彗星が落ちてくるシーンって人が大量に死ぬという衝撃的な場面であるのにも関わらず、すごく……美しさがあるんだよね」
カエル「そこは個人の感想にもよるけれどね」
主「だけど、普通の実写作品だとその『恐怖』や『天災』の象徴となる存在をそのように描くのは難しいと思う。
ここで重要なのは、その象徴となるものが圧倒的な嘘でありながらも、その嘘を信じ込ませるリアリティがあることなんだよね。だからゴジラとか、彗星とか、普通に考えるとありえないものをその象徴にしなければいけないし、それが違和感なく観客に届かなくちゃいけない。
多分、こういう映画は特撮やアニメでしか撮れなかったんじゃないかな?」
カエル「……う〜ん、難しいね」
主「そしてちえりに話を戻すけれども、この作品も人形のアニメという特殊な形式において、CGを使った綺麗なパペットアニメなんだけれどさ、これは震災とかそういう大きなものを相手にしていない。
だけど、よりミニマムだけど誰もが経験する可能性のある『幼少期の親の死』というものをテーマにして、そんな体験をした子供たちに『祈り』や『願い』を与えていると思うし、その試みは多分、ある程度成功していると思う。
そして、その物語である程度救われた後は、現実に戻らなくちゃいけないけれどさ。その現実に向かう『こころ』は多分、少し変わっていると思う。
それが『物語が果たすべき役割』だと思うし『物語を見る意味』だと思う。
シンゴジラと、君の名は。と、ちえりはさ、そういった震災後に抱えていたものを見事に浄化した作品なんだよ」
最後に
主「う〜ん……正直どうだろう? もう少しまとまりのある記事になるかなぁと思ったけれどなぁ」
カエル「ちょっと長くなったねぇ。やっぱり人気作の2つだけで語ればよかったんじゃない?」
主「だけどさ、確かに知名度も完成度も落ちるかもしれないけれど、ちえりがやったことって、この2作品と大きく離れているとは思えないんだよね。
こういった物語評論はある種のこじつけみたいなところがあるけれどさ、どうせならちえりも混ぜて語りたかったから、それは仕方ないよね」
カエル「何が仕方ないんだか……」
主「しかし、実写……というか普通の邦画で『震災映画』として素晴らしい作品は生まれるのかね? 結構テーマ性が強すぎて、虚構性が失われてしまう気がするけれど……」
カエル「次に人気が出そうな邦画といえば……『怒り』とか?」
主「ああ、予告編しか見ていないけれど、なんかこれも絡めて話をしそうな気もする……」
カエル「ただ、怒りって明らかに震災関係なさそうだしなぁ……まあ、無理ではないだろうけれど」
主「……とりあえずは様子見だな」
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