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物語る亀

ネタバレありの物語批評

映画『お嬢さん』感想 韓国映画の鬼才の本領発揮の美しい映画! 

映画 アジア映画

亀爺(以下亀)

「このブログもそこそこ長く続いており、映画記事も200を超えてきているが、実は韓国映画はこれが初となるの」

 

ブログ主(以下主)

「意外といえば意外な話かもね。

 近年の韓国映画ってアジア映画の中でも確固たる地位を確立しているし、世界的に見てもすごく意義のある映画が多い印象がある。

 賛否はあれども韓国の文化を売り物にしていこうという運動は、やはり物語文化を愛する者としては尊敬に値するよ」

 

亀「そこまで言いながらここまで扱わなかったのは、やはり政治的偏見かの?」

主「別にそこまで言わないけれど……個人的には少し苦手な作品が多い印象なんだよね。

 ほら、韓国ってなんでも表現が大げさじゃない? 罪を犯した人を囲んでテレビやラジオの前で晒し者にしたり、それこそ政治的な問題でも過激なパフォーマンスをしたり、泣くときは激しく泣くし……

 それって韓国映画やドラマでも散見されるじゃない? その……派手な演技とでもいうのかな? それがあんまり好きになれなかったんだよね」

 

亀「オーバーリアクションじゃからな。

 日本人の感覚だと『こんなやついるか?』というような演技になっている場合もあるの」

主「演劇系の演技ってオーバーリアクションだったり、派手にするのが当たり前みたいなところがあるけれど、韓国の作品はそれがあまりにも過剰な印象があるんだよね。

 だけど、それが他の作品にはない味になっていて……

 インド映画におけるダンスとか、そういう扱いなのかな? なんて思ったりもしたわけよ」

亀「さて、そんな人間が見た韓国映画がどのような評価になったのか……

 感想記事のスタートじゃな」

主「ちなみに最初は映画の感想と少し離れて日本と韓国の映画文化について語っているので、興味がない人は2から読み始めてください」

 

 

 

 

 

 

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(C)2016 CJ E&M CORPORATION, MOHO FILM, YONG FILM ALL RIGHTS RESERVED

 

1 少しだけ感想と離れて

 

亀「本作はR18に指定されていたりと、少し過激な表現が多いという話ではあるが……ここ最近『日活ロマンポルノ・リブートプロジェクト』にも興味があったという主はどのような感想を持った?」

主「結局記事にしたのは『牝猫たち』だけ『アンチポルノ』も記事にできていないし、『ホワイトリリー』も観れなかったなぁ……なんて話は置いておいて!

 こういう評価は違うのかもしれないけれど、ポルノ映画に期待してものがすべて詰まっていると感じたね! もちろん、官能的でエロいんだよ、だけど、それだけではないテーマ性にもあふれていて、もちろん物語性も抜群、脚本も二転三転してくるし……

 なんというか格の違いすらも感じた。邦画ではこのレベルの衝撃となると『ヒメアノ〜ル』クラスだったね!」

 

 

blog.monogatarukame.net

 

亀「ふむ……昨年この手のタイプの映画が邦画界では非常に話題を集め、シンゴジラや君の名は。とはまた別の邦画の力を見せつけた映画じゃったの」

主「こういう物言いは適切ではないけれど、この作品を総制作費12億円かけて作ろうという韓国の意地というか、気概というのがまず素晴らしいよね。

 もちろん、パク・チャヌク監督の実績もあるだろうし、これで韓国の文化の海外展開を後押しするという政治的なものも少しだけ垣間見えたりもするけれど、日本と全然違う。物語文化の面白さも……まあ、アニメも含めてだけど、そういうレベルでいうと日本は負けていないと思うけれど、海外展開という意味では完全に負けている

 

亀「本来は『ヒメアノ〜ル』や『この世界の片隅に』『聲の形』などももっと海外展開していくべきじゃからの。せっかくの日本独自の視点を持った映像作品が生まれているのに、それを海外にアピールする意思が弱いのが気になるの

主「なんかこう、日本にいると見えてこないよね。昨年『君の名は。』があれだけ売れました! というニュースが流れたけれど、それを喜ぶんじゃなくてどう持続させるか、売り出していくかということを考えなければいけないよね」

 

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虐殺器官の実写化も発表されているパク監督。期待しています!

 

 

日本の映画市場規模

 

亀「日本映画界の市場規模は2000億円前後と言われておるな。

 2015年の世界規模では4兆2600億円じゃが、アメリカが111億ドル(約1兆2000億円)ついで中国が7600億円、3位は英国の19億ドル(約2100億円)日本18億ドル(約2000億円)、インド16億ドル(約1800億円)、韓国15億ドル(約1700億円)となっておる。

 人口別で考えてみてもアメリカ、中国は圧倒的じゃが……インドはともかくとして日本はもっと大きくてもいいし、韓国は逆にここまで大きいのが凄いことじゃの

 

主「世界規模で韓国映画や文化を育てていこうという意識が感じられるよね。日本は何でもそうだけど、ガラパゴス化しちゃうところがあるから……

 近年で世界を見据えていると感じたのは『劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-(SAO)』くらいだよ。海外でも舞台挨拶しているし。

 何で『お嬢さん』の記事でこういう話をしているかというと、日本でR18に指定されるような作品が10億円を超えるスケールで制作しているという事実をもっと直視するべきだということ

 

亀「こういった挑戦する姿勢が韓国映画界を牽引しているわけじゃな」

主「そう! それがよく見えてきた作品でもあった。

 お金が回ればいい作品にお金を使える、いい作品を撮るとお金が回るということだからね」

 

 

 

 

2 ネタバレなしの感想

 

亀「それではネタバレなしで感想を書くとするかの。

 まず、Twitterでの短評は以下の通りじゃ。

 

 

 まあ、大筋では褒めていると言っていいのじゃろうな」

 

主「この作品で非難するポイントってほとんどないんじゃないかな? 美術も美しく、映画としても独特の美学に溢れている。

 それでいてテーマも深いし、何よりもこの手の作品……つまり、ある種のLGBT作品でもあるわけだけど、それでいながらこのように攻めてきた作品は……どうだろう、記憶には全くないないね」

カエル「新しいアプローチでもあったからの。

『そこまでするか!?』 という女優陣の体当たり演技もあったし、ほぼ半分くらい日本語の映画というのも凄いことじゃの」

 

主「若干癖はあるけれど、外国人の発音ということを考えると『お上手ですね』と言えるレベルの発音だよね。

 聞きづらいところがあって、字幕があるともっと楽だなぁ……と思う部分もあるけれど、おそらくネイティブの日本人以外には気にならないレベルだと思う。そこが少し現実に引き戻す要素になってしまっているのは減点だけど……ここは仕方ないよね」

カエル「吹き替え版であれば全く違和感がないじゃろうが、それだとこの作品の味が1つ削がれてしまうことになってしまうからの」

 

主「その意味でも、日韓併合という評価の分かれる歴史もある時代だと考えると、このような発音って独特のリアリティがあるよね。しかも韓国で撮られた映画が政治的にもそこまで言及している要素もないし……

 映画の出来などに関してはケチのつけようがない作品だと思うよ」

亀「万人受けはしないじゃろうが、大人な映画が見たいという人にはオススメかもしれんの。デートなどには向かんが、1人でじっくりと見たい映画じゃと言えるかもしれん」

 

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衣装や内装まで凝っている

(C)2016 CJ E&M CORPORATION, MOHO FILM, YONG FILM ALL RIGHTS RESERVED 

 

個人的な思いとして

 

亀「さて、では短評でも書いたが欠点について語っていこうかの?」

主「本作は結構自制心を持って、美学の範疇で撮られている作品ではあるけれど……ここ最近の邦画や映画界に思うことでもある。

 なんというか、エログロに頼りすぎてない? ということ」

亀「ポルノのようなそれがメインのものは別としても、一般映画においてそれが多用されるとちょっと……というのが主の持論でもあるの」

 

主「エログロや暴力描写って反射の域だと思うんだよね。表現として感心する、ではなくて、そんなものを撮られたらそりゃ反応しちゃうよ、というやつ。

 例えるならば……若くて美しい女性が裸になれば、誰でも反応しちゃうでしょ? だけど、色気ってそういうものではなくて、肌を一切晒さなくても漂う魅力、それこそが色気なわけじゃない?

 その色気とか、あるいは暴力の悲哀などを描くのが表現じゃないの? ということだ」

 

亀「ポルノや暴力を描くのであれば、それを描かなければいけない理由を示すべきである、という考えじゃの」

主「その点、本作はきっちりそれをやっているよ!

 この映画にポルノ描写は絶対必要だし、残虐……というほどでもないけれど、痛い描写も必要。だけど、それはこの映画がポルノと暴力を手法として選択したことが素晴らしいわけであって、ポルノと暴力が目的になっていないからだよね。

 そこはちょっと考えたいなぁ……という思いがある」

 

亀「まあ、個人の趣味じゃの。主はグロテスク満点の映画は苦手ということもあるじゃろうし」

主「でもさ、残虐描写を見せて『怖いでしょ? ドキドキしたでしょ?』っていうなら、それはもうISとかと同じじゃない?」

 

以下ネタバレあり

 

 

 

 

3 少しだけ解説

 

亀「では、本作における解説を少しだけするかの」

主「自分がノレなかった部分が少しだけあるとしたら、上記のエログロ描写が気になったのと、会話のたどたどしさ、そしてこの作品の重要なキーアイテムである春画の扱いについてなんだよね

亀「少し前は春画展が大盛況を迎えるなど、ちょっとした春画ブームも到来していたの」

 

主「春画コレクターが変態的に描かれていて、確かに海外の人やあまり知らない人からすれば、そう見えるかもしれないけれど日本の春画って芸術的価値が非常に高い。

 当時は原稿料も高めだから生活のため……なんてイメージもあるかもしれないけれど、でも非常に凝っていて技術としてもとんでもないものがある。

 20色以上の色を使ったり、金銀もふんだんに使用し、細かい毛の1本にまでこだわったり……それからシュチュエーションや使うアイテムに関しても気を使っていたりね。

 現代では再現不能とも言われる芸術なわけだ

亀「現代においても裸婦画が必ずしもエロティシズムの目的で描かれるものではなく、『女性の(男性の)究極の美』を描き出そうという意図があるのと似た様なものじゃの」

 

主「例えばすごく有名な本作でも象徴的に出てきた葛飾北斎の『蛸と海女』だけど、この発想がとにかく素晴らしいよね」

 

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春画の代表作でもある蛸と海女

 

主「あと、自分が好きなのが歌川豊国が描いた『絵本開中鏡』の中にある作品なんだけど……」

 

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このなんとも言えない風情を感じさせる1作

 

 

主「この作品は『性と死』について真正面から描かれているよね。一見狂気すらも漂いながらも、実はその奥には死んでしまった女に対する情がすごく深く感じられて、この1枚だけでとんでもないドラマ性を感じさせる。

 春画って単なるエロ画の世界ではないんだよね」

 

 

 

春画の扱いについて

 

亀「じゃが、春画を男女間の常識的な考えや、上流階級の風習の象徴としてそれを全て廃棄するわけじゃな。

『こんなもののために!』というのはすごく重要な場面じゃ」

主「もちろん、それは重々承知しているし、そういう展開になるのはよく分かる。

 だけど、本作もまた『圧倒的な技術に基づいたエロチックの中に宿る美』を描いた映画でしょ?

 春画って同じことをやっているんだよ! だからこそあの描写はどうにも好きになれなかった」

 

亀「間違っても『日本の文化を馬鹿にするな!』という意図ではないということはここで明言しておこうかの」

主「この春画を捨ててしまったことによって、この作品は視点を変えると監督自身の映画も否定しているように見えてくるんだよね。

 エロチックな絵の中に宿る美を捨てさせたわけだから。

 よく知られたことだけど、明治以前の日本は性的に奔放で、しかも同性愛も割と普通の行為だった。それこそ小姓なんてそういう役割も担っていたわけだしね。数はそこまで多くないにしろ、女性同士のレズビアン描写を描かれた春画もある。

 そういった作品をあのように否定することは、本作のやろうとしたことの否定にも繋がると自分は思うけれどね

 

亀「あとは単純に本を捨てるという行為に違和感があったのかもしれんの」

主「一応本が好きな人間だからねぇ……まあ、この辺りは個人の価値観でもあるけれど」

 

 

 

 

4 本作が描き出したテーマ

 

亀「じゃが、色々と否定するような意見を述べてきたが、基本的には賞賛しているのは変わらんのじゃろ?」

主「絶賛だよ! この作品が描き出したものというのは非常に尊く、そして価値があるものだと思う。

 本作って言ってしまえば『女性の解放』『同性愛』をテーマにしているわけじゃない? こういった作品って女性を縛る存在としての男性だったり、同性愛に否定的な人間が出てくるわけだ。

 だけど、本作は明らかなそういう人間が出てこない

 

亀「あの父親も詐欺師の男も色々と悪どいこともしておるし、主人公たちを縛り付けておるが、それは『女性は家にいるもの』という古風な考え方や『同性愛の否定』というものではないの」

主「そう。結局は性欲と金銭欲なんだけど、そこに旧来の価値観とかそういうものは一切ないんだよ。

 つまり、大上段に構えたLGBT作品ではないわけ」

 

亀「この手の作品にありがちな男性を貶めて女性を持ち上げたり、また偏見に打ち勝つ様なども一切なかったの」

主「これはすごいよね! LGBT作品なのに、その意識が全くないんじゃないかと思わせるほどの自然な脚本! これがこの映画の本当の素晴らしさだと思う。

 これがアメリカや日本だったら、大々的にそこを打ち出すために強調するパターンもあると思うし、男性陣を偏見の塊に描くはず。特に日本なら不自然なセリフで長々なとメッセージを直接的に役者に話させる、親切なんだから馬鹿にしてんだかわからないような設計にしちゃいそうだけど、本作はそうなっていない。

 こういう形で描いた映画って……というか、映画に限らず物語ってちょっと自分の記憶にはない」

 

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美しい2人の関係性!

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エンタメ性に満ちた脚本

 

亀「それでいながらそのメッセージを伝えるためだけの演出や脚本だけでなく、あくまでも映画は娯楽であると思わせるかのような、二転三転するような脚本構成や美術などに支えられた家や家具などもよかったの」

主「間違った日本感もそんなになくて、すごくよかったよね。なんというか、日本家屋も現在の日本では中々見られないものだから、ファンタジーとして成立していたような気がする。

 しかも結構無茶な設定だけど日本家屋と洋館の2つを用意してしまうことで、どちらでも絵が作れるというトンデモナイ発想だよ。

 ここでお金がすごくかかったろうなぁ……」

 

亀「脚本も原作である『荊の城』を全く知らんかったが、うまく日本と韓国の話に置き換えておる。

  脚色のうまさも本作の大きな魅力じゃな」

主「映画としてはケチのつけようがないよね。

 どのようなお話になっているかは、是非とも映画を見て確認してほしい! 度肝を抜かれること間違いないし、楽しめるから!」

 

 

 

 

最後に

 

亀「やはり話題になるだけのことはあるの、韓国映画」

主「素晴らしいよ。

 直接な行動や物言いが多いお国柄もこの作風に一役買っているのかな? 少し過剰に見えるんだけど、それが作品世界観にちょうどよく没入できるようにできている。

 現実をいかに忘れ去れるか、作品世界に没入させるかというのも物語においてすごく大事なことなんだけど、それがうまくできている」

亀「今回は趣味から少し作品に酔えない部分もあったが、そのような個人的なことを除けばケチのつけようがない作品に仕上がっているのではないか?

 

主「自分は韓国映画ってそんなに見たことなかったけれど、これは注目しなければいけないのも理解できるわ。やっぱり流行のものは乗っておいたほうがいいなぁ……」

亀「ほう……では、これからはドラマなども扱っていくのか?」

主「……ドラマは……うん、苦手なんだよねぇ……」

亀「そのような偏見が一番良くないと言ったばかりではないか!」

 

 

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